想定外リスクを常に想定する時代に 2016年は波乱含みで先が読めず


時代刺激人 Vol. 280

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「想定外を想定する」。一瞬、何のことかと思われるかもしれない。正確に申し上げれば、想定外のリスクを常に想定して行動せざるを得ない時代に入った、ということだ。言葉の遊びで申し上げているのではない。

「想定外を想定する」。一瞬、何のことかと思われるかもしれない。正確に申し上げれば、想定外のリスクを常に想定して行動せざるを得ない時代に入った、ということだ。言葉の遊びで申し上げているのではない。先行き不透明な時代状況の中で、予想もしなかった想定外のリスクが急速に増えてきており、先手対応が必要になってきているのだ。
過激派組織ISのテロ行為は際限なく拡大してリスク、
北朝鮮の軍事力誇示もリスク

現に、2016年は年明けからグローバルレベルで、さまざまな問題が噴出し、文字どおり波乱含みだ。たとえば今や最大の想定外リスクになりつつあるのが過激派組織「イスラム国」(IS)の動きだ。ISは、戦略を変えてイラクやシリアだけでなく欧州や米国でも行動しているが、1月12日にはトルコのイスタンブールで自爆テロ、その2日後の14日にはインドネシアの首都ジャカルタでも爆弾テロを行っている。各国のテロ行為との間にどういった関連性があるのか、狙いは何なのかが全く読めないし、つかめない。しかし、地政学的なリスクとなりつつあることだけは間違いない。

 

北朝鮮が予告なしに1月6日に行った核実験も同じく想定外だ。軍事力の誇示によって存在感をアピールしたつもりかもしれないが、放射能拡散リスクが少なかったのは不幸中の幸いだった。それにしても金王朝の若い独裁者は国内で恐怖政治、国外に対しては背伸びして軍事力を誇示しようとしている。朝鮮半島リスクは増幅するばかりだ。それどころか北朝鮮と相対峙する韓国では、これに対抗して急速に核武装論が台頭してきている。朝鮮半島の国々、それに中国を含めた北東アジアに緊張が高まるのは日本にとってリスクだ。

中国経済減速による先行き不透明が世界株安を誘発、
市場のリスク連鎖が懸念

グローバル経済も同じだ。年初に中国経済減速リスクを懸念したニューヨーク市場での株安が東京、上海などグローバル市場に連鎖波及し、主要国株価が大きく下落した。中でも渦中の上海市場で想定外の動きが起きた。昨年8月の株価急落時に、中国当局がマーケットとの対話なしに、強引に株価維持作戦(PKO)を展開した対策を継続するのかどうかの疑心暗鬼が株価下押し圧力となった。あわてた中国当局は株価急落に歯止めをかけるサーキット・ブレーカー(取引停止)措置を発動したため、中国個人投資家の狼狽売りが加速した。今や経済大国になりつつある中国の金融システムが未だに不安定なため、先進国市場の投資家は先行き不安を感じて同じく狼狽売りに走り、一気に世界株安を招いた。

 

問題はグローバルの時代、スピードの時代といった時代のもとでは、1つのマーケットの大きなリスクが次々と他の地域に連鎖し、グローバルに波及する可能性が極めて高くなっていることだ。インターネットの登場で情報伝播のスピードリスクが加わる。水際で防ぐ、といったことは、一昔前ならいざ知らず、今やそれはあり得ない。そこに、想定外のリスクが起きた場合、マーケットリスクはとてつもなくこわいものになる。

原油急落は石油消費国にプラスだが、
中東産油国が財政難対策で株売りのリスク

原油市場も同じだ。ピーク時に1バレル100ドル超だった原油価格は、今や30ドルを割り込むほどまで急落した。石油消費国経済にとってはプラス要因だが、ゴムマリに例えれば、そのプラスのふくらみは他の部分でへっこみとなってマイナスに働く。端的には原油価格急落が産油国の原油収入ダウンを引き起こしたため、財政悪化のやりくりでサウジアラビアなどは、欧米先進国市場に投資していた株式や不動産の売却に走り、それがグローバルベースでの株価急落を誘発する動きにつながった。これもまた想定外リスクだ。

 

原油価格急落の大きな原因は、大口原油需要国の中国の経済減速が需要減退を招いたことだが、米国利上げに伴い新興国にあった投資マネーが米国へ流出し、あおりで新興国経済が減速し原油需要ダウンにつながった。そればかりでない。サウジアラビアとイランという2大産油国は、宗派対立を背景に国交断絶したが、原油生産面で事態を複雑化させる。イランは最近の欧米の対イラン経済制裁解除に伴い、原油生産や輸出に攻勢を加える可能性が高いが、OPEC(石油輸出国機構)の盟主サウジアラビアとのシェア争いがからみ、原油安を招きかねない。米国は、両国と関係を保持しており仲裁役もあり得るが、シェールガス生産で両産油国とは利害が分かれるため、関係修復で役割を果たすことなど、到底望めない。また、原油安はISの財政基盤を揺るがし、テロ活動資金確保のために誘拐による身代金要求という行動に出ることもある。これらのリスクも想定外のリスクだ。

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