1人3役の与謝野「経済総理」で戦後最大の危機克服は厳しい 事態招いた中川前財務・金融相の醜態の「罪」重い、日本の政治劣化はひどい


時代刺激人 Vol. 26

それにしても日本の政治はひどすぎる。とくに政治の劣化がひどい。政権の座をわずか1年で放り出す首相が2度続いたことにもあきれたが、今度はもっと醜態だ。世界の金融危機、デフレ危機への対応を協議する主要7カ国財務相・中央銀行総裁が集まる重要会議に参加した中川昭一前財務・金融担当相が会議直後の記者会見で、明らかに酒を飲みすぎたかのように、ろれつが回らず朦朧(もうろう)状態の醜態を見せ、世界中の主要メディアから冷笑されてしまった。
 引責辞任は当然だが、問題は、これを引き継ぐ羽目になった与謝野馨「経済総理」の荷が重すぎることだ。年率換算マイナス12.7%という非常事態のもと経済財政、金融、そして財務という3つの異なる分野を担当し、機動的な経済のカジ取り、事態乗り切りを図れるだろうか。与謝野氏自身が言う「今は戦後最大の経済危機」は深刻な事態だが、体力的な問題もあり、失礼ながら甚だ心もとない。不安がいっぱいだ。その意味でも中川前財務・金融担当相の「罪」は大きいし重い。
与謝野「経済総理」のマクロ経済運営の問題に入る前に、中川氏の足跡をたどりながら政治家としての生き様(いきざま)に関して述べておきたい。

中川前財務相はかねてから飲酒癖、致命的な重要国際会議に臨む自覚のなさ
 中川氏は1953年生まれで56歳。農林水産相2回のほか経済産業相、自民党政務調査会長、そして今回の財務・金融担当相と、政治家として重要なポストを歴任してきた。しかしその割には、どのポストでも、鋭い政治感覚で閉そく状況に陥る日本の新たな方向づけをした、といった話を聞いたことがない。むしろ飲酒癖などレベルの低い話が多い。 とくに飲酒癖に関しては、経済産業相を担当した時も、その飲み方が度を過ぎ経済産業省内部で顰蹙(ひんしゅく)を買ったほど。経済産業省の幹部や若手は異口同音に「大臣に政策案件のご進講していても酔っ払っていて、ちゃんと聞いていないことが多々あった。官僚の宮仕えの辛さもあるが、さすがに我慢がならなかった」と述べている。
 また、閣議に深酒の臭いをぷんぷんさせて現れ、他の閣僚からブーイングが出たことも有名。財務省記者クラブの担当記者によると、朝方の閣議後の記者会見でも酒の臭いがあり、辟易することがあった、というから、相当なもの。
だから今回の主要7カ国財務相・中央銀行総裁(G7)後の記者会見での朦朧状態での言動に関しても、中川氏は、風邪薬や腰痛止め薬を飲みすぎたと釈明していたが、テレビで映し出される姿は酒と薬の相乗効果による可能性が強い。そういった意味で、重要な会議に臨む日本の経済閣僚として自己管理能力のなさもさることながら、日本が果たさねばならない役割、責任の大きさに対する自覚がなかったことは、政治家として致命傷だ。

故中川一郎氏への恩義で重用との見方も、「麻立会」メンバーが強み?
 なぜ、こういった中川氏を重要ポストに充てるのだろうか。複数の友人政治ジャーナリストによると、小泉純一郎元首相を含め自民党政治家の間では中川氏の父親で政治家としても著名な故中川一郎氏への恩義から息子昭一氏を優遇するのだ、という。あるジャーナリストは「大物面(づら)する割に気が弱い。父親の死が自殺か他殺か真相不明なことがトラウマなのか、あるいは政治的なストレスに耐えかねるのか酒におぼれる」という。
 麻立(まりゅう)会という会をご存じだろうか。名門麻布学園のOB会で、卒業して政治家になった人たちを応援すると同時に、政治家同士も交流する会だ。中川氏はこの麻立会のメンバーで、何と福田康夫元首相、与謝野「経済総理」、平沼赳夫元経済産業相、丹羽雄哉元厚生相、谷垣禎一元財務相らがズラリ顔をそろえる。与謝野氏が今回、後輩の中川氏の尻拭いをさせられるのも奇妙な縁だが、この麻立会が中川氏の存在をバックアップしていることも事実なのだろう。
中川氏は将来の政治リーダーを意識したのか、昨年秋、著書「飛翔する日本」(講談社インターナショナル発行)を出し、その中でこう述べている。「国を衰退させ、国民に不利益をもたらした政治家が『これだけのことをやりました。一生懸命頑張った自分をほめてやりたい』と言っても国民は共感しない。出てくるのはため息だろう。政治に問われるのは『結果』だ」という。その中川氏自身が、そういう前に自滅していてはどうしようもない。

立利害対立する経済3ポストすべて兼務は無理、今は危機対応の機動性が重要
 さて、冒頭に申上げたが、与謝野「経済総理」には、ご苦労なことながら、この非常事態を乗り切れるのかどうか、ということが当面、最大の問題だ。「経済総理」という言葉の響きのよさとは裏腹に、財務省所管の財務担当、内閣府所管の経済財政審諮問会議などマクロ経済全般をカバーする経済財政担当、そして金融庁所管の金融担当の3つをカバーすること自体、政策面で利害がからむこともあり、無理があるのだ。
財政と金融の担当大臣を分離したのも、もともとは旧大蔵省が金融機関とのスキャンダルなどさまざまな問題を引き起こしたため、行政改革で財務省と金融庁に分けた。同様に財務省と経済財政諮問会議との間でも、かつて税制改革1つをめぐって財務省が省益をむき出しにして経済財政諮問会議の民間議員、あるいは内閣府と対立したことがある。そういった状況をすべて呑み込んで、この3つの重要な経済ポストを、今は非常事態だからと1人3役にするのは、どう考えてもおかしい。
 与謝野「経済総理」は最近、テレビのインタビュー番組で、中川氏辞任を受けての経済運営に関し「1人でやった方が決断は早いという場合もあるし、逆に独断でやって問題を引き起こすリスクもある」と率直に述べる一方で、「先発投手が倒れた後のリリーフ(救援)はきちんとやらねばならない」と決意を語った。
しかし与謝野氏自身は、もともと政治家特有の頑強さが見られず線が細いうえ、がん手術後、体力も万全でなく、発言には悲壮感を漂わせる。このため、09年度予算案をめぐる国会審議、さらにそのあとの経済非常事態に対処する09年度の大型補正予算案審議に対応できるのか、という不安が残る。国会の予算委員会などの審議は、大臣経験者によると長時間、座りっぱなしのうえに答弁ミスが許されないため、緊張度が続くという。

麻生首相は早く財務、そして金融担当の専任相を任命し非常事態乗り切りを
 そればかりでない。与謝野「経済総理」は対外的にも課題を多く抱えている。2月22日のASEAN(東南アジア諸国連合)+3(日本、中国、韓国)財務大臣会合には、国会審議を優先せざるを得ないため欠席し代役を当てた。しかし3月14日のロンドンでの開催されるG7拡大版の20カ国が集まるG20財務相会合、さらに4月2日のロンドンでの麻生首相とともに出席が必要な第2回金融サミットには代理派遣となれば、日本の責任が問われる。
率直に言おう。この際、麻生首相は、財政通のベテラン政治家を起用するのが重要だ。その際、中川氏に任せた財務・金融担当の2ポストを分離し、財政政策運営と、金融機関監督の金融担当は別々の大臣起用にするのが筋だ。麻生政権自体、内閣支持率の急速な低下で、いつまで持つかと言われているが、麻生首相自身が言うように、今は政局よりも危機対応、政策優先だというのならば、政権の保身にエネルギーを割くよりも、財政、そして金融担当の専任大臣起用を優先すべきだろう。
 政治の現状に対する株式や為替マーケットの反応も極めて厳しい。とくに東京株式市場では大きく売り込まれ、バブル崩壊後の最安値のレベルにまで株価の下落が来ている。東京証券取引所によると外国人投資家の今年初めからの売り越し額は、わずか2か月間で昨年1年間の3分の1にあたる1兆2000億円というけたたましい数字になっている、という。ロシアや東欧から外資が逃避し、それが政治や経済の混乱に拍車をかけているようだが、日本も他人事でない。株式の売り越し超過の現実を見る限り、外国人投資家は日本を見限っている、とも言える。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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