ビジネスモデルがすご~い平田観光農園、広島県の中山間地域で経営成功 インターネット活用効果でマイカー客が大半、時代のニーズ見極めがうまい


時代刺激人 Vol. 83

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 最近、全国いくつか農業の現場を取材で訪れる機会があった中で、広島県の中山間地域で果樹主体の観光農園を経営し「利益あげる農業」の成功モデルとなっている平田克明さんのケースがとても刺激的で、たくましくがんばっておられるので、今回、ぜひ取り上げてご紹介したい。果樹園だけならば、全国いたるところにあるが、平田観光農園の場合、時代のニーズを鋭くつかんだビジネスモデルで、しかもリーダーの平田さんは70歳という年齢を感じさせないタフさと志の高さがあるのだ。そればかりでない。見識を買われて広島県教育委員長を務める活動の幅広さが魅力だ。

平田観光農園がある広島県三次市の中山間地域というのは、どんなところだろうか。中山間地域という呼び方があまり好きでないが、食料・農業・農村基本法という法律では「山間地域およびその周辺地域、その他の地勢などの地理的な条件が悪く、農業の生産条件が不利な地域」となっている。確かに、広島市内から高速バスで三次市中心部のバスセンターに行き、そこからタクシーに乗り換えて約40分、山間部の坂道をのぼり切ったところに平田さんの観光農園があった。

最初は「エッ、こんな立地条件の厳しい所で利益あげる農業?」と思うが、、、、
 「こんな立地条件の厳しい所でも、経営が成り立っているどころか『利益あげる農業』を実現している、という話だが、本当だろうか」と、現場をご覧になった人は誰もが思うだろう。経済ジャーナリストの好奇心で取材してみたいと思った私も、観光農園の入り口に立った時には同じ気持ちだった。ところが取材しているうちに、マイカーで、しかも若い人たちがどんどんやってくる。観光バスで北九州、さらには関西方面からも観光客が来るという話だったが、私が訪問した日は日曜日で、むしろマイカー客が多かった。日本の農業の現場は担い手の高齢化で耕作放棄された農地が目立つ、といった閉そく状況にあることも事実だが、平田観光農園を見ていると、経営者の取組みによっては厳しい立地条件をモノともせず、それどころか利益をしっかりと出すことが出来る、というのが実感だ。

政府系金融機関の日本政策金融公庫発行の月刊誌のうち、農林水産分野の問題を取り上げるAFCフォーラム誌5月号の「変革は人にあり」というインタビュー企画で、私が今回、ご紹介する平田さんを取り上げたので、ぜひご覧いただきたい。しかしこの「時代刺戟人」コラムでもアングルを変えて取り上げ、農業の現場での先進モデル事例としてご紹介し、日本の農業はチャレンジ次第、ビジネスモデル次第で、いくらでも面白い展開が出来る、ということを伝えてみたい。

週休2日制導入時に観光農園を構想、「自然満喫しながらふんだんに旬の果物を」
 ここまで申し上げると、どなたもが広島県の中山間地域の観光農園に、若い人たちがマイカーで遠くから駆けつける魅力って、いったい何なのだろう、と思われるだろう。結論から先に申し上げれば、平田さんの言葉に尽きる。「時代のニーズが何かを探って、それに見合ったビジネスモデルをつくればいいのです。日本農業も同じです。経営規模が小さくてもビジネスモデルがしっかりしていればお客が来てくれますよ」「同じことばかりやっている企業は、大企業といえども、必ずダメになります。私たちの農業だって同じ。大事なのはビジネスモデルであり、利益が上がるような経営の創意工夫です」という。

平田さんの名刺には「自然の語らいとともに、四季を通じてお客様への信頼の味をお届けし、夢のある新しい農業をめざします」とある。平田さんが軍人上がりの父親の取り組むりんごの果樹園の経営を引き継いだ時は25年前の45歳の時だったが、当時、週休2日制が導入されたばかりのころ。そこで、平田さんは週末の休日の過ごし方が定着していない人たちに自然をじっくり満喫してもらいながら、四季折々のもぎたてのリンゴやブドウなどさまざまな旬の果物をふんだんに1年中、食べてもらう観光農園にしたらどうかと考え、今の経営スタイルにしたのだ。ただ、当時としては時代を先取りした発想だっただろうが、今では日本人も週休2日の活用方法に関しては、趣味の領域を広げたりしてうまく過ごしているはず。今の時点での時代を先取りしたビジネスモデルに関心が及ぶ。

中山間地域農業が存在感示せるのはインターネットのおかげ、大自然情報を発信
 そこで、私が「食べ放題の果樹園ということだけならば、全国至る所にあります。よほどの魅力、惹きつける何かがなければ来てくれません。その吸引力は何だと言えばいいですか」と聞いたところ、平田さんから面白い答えがかえってきた。それはインターネットの活用だ、というのだ。平田さんによると、「中山間地域の観光農園が存在感を示せるのは、インターネットのおかげです。情報センスのある若い社員にネット管理はまかせていますが、ネットのホームページ上で『きょう、平田観光農園のリンゴの花が咲きました。かわいいですよ』と、写真添付でメッセージ発信します。思わず行ってみたくなる写真です。これは一例ですが、インターネットで不特定多数の人たちと交流しながら、大自然満喫の魅力をアピールするのが大事です」と。

そればかりでない。70歳という年齢を感じさせない経営者の機敏な判断を感じたのは次のような話からだ。平田さんは「観光農園を訪れた人たちへのアンケートで面白いことがわかったのです。お客さんのニーズを聞くと同時に、来園理由も聞きますと、何と回答者の60%が『友だちから聞いた。よさそうなので、来てみようと思った』という口コミだったのです。平田観光農園は面白い、と満足してくれ人たちが、われわれの最高のセールスマン、セールスウーマンになってくれる、ということがわかりました。それを見て、私は経営者として、すぐに答えを出しました」と。

ネットのホームページのアクセス数で週末の来園者数が読め、対応準備も可能に
 平田さんは、社員の人たちに経営者としての指示を出した、という。それは平田観光農園での四季折々の果物の味のよさを満足していただくように品質管理に磨きをかけること、いつも『いらっしゃいませ』と笑顔で、かつ明るく大きな声を出すこと、果樹園や民芸風のレストランからトイレに至るまで農園全体を清潔にすること、そして最も重要な指示が「お客様に農園の中で自然に触れてリラックスし楽しい時間を過ごしてもらうように、さらにアイディアを出し合って工夫すること」などだったという。

インターネットの効用はこれにとどまらない。平田さんによると、「ホームページのアクセス数、つまり平田観光農園のページを見てくれた人の数で、次の土曜日や日曜日の来園数が把握できるのです。観光客のうち、観光バスで来る人たちとは別に、個人でネットを見る人は最新情報を確認して、行くかどうかの判断をするようです。現に、そのアクセス数にほぼ見合う形で、来園者数が実際にあるので、われわれとしては流れが読めますし、対応準備も可能です。ネットはその面でも極めて重要です」という。

そして、平田さんは重ねて「中山間地域農業で、とくにわれわれのような観光農園形態の農業者にとっては、インターネットを活用するビジネスモデルは重要です」と述べた。確かに、今や市場流通に頼らずインターネットを活用した農産物流通も定着しつつある中で、平田さんのように、中山間地域という立地条件の厳しい地域の農業が自立するためにはどうすればいいか、その1つの手段としてインターネットを素早く経営の武器に活用するところはすごいことだ。時代のニーズを見極め、変化に鋭敏に対応する経営姿勢があれば、農業は十分に産業としての競争力を持つ、ということでもあるように思える。

市場流通に頼らず自ら主導的に経営する「6次産業モデル」がポイント
 しかし、平田観光農園のビジネスモデルは市場流通に頼らない、市場流通で生産物の価格が踏みにじられてしまうリスクから離れた独自の経営スタイルを確立したところがポイントだ。平田さんは「今、成功している全国の農業者は全部と言っていいほど自分で価格を決め、ビジネスモデルも自分でしっかりしたものを持っています」という。平田さんによると、平田観光農園の場合、観光客の人たちがわざわざ遠くから来てくれ、果樹園で果物を摘み取る入園料を支払ってもらい、レストランなどで食事して地産地消のジャムやジュースなどの加工品も買ってもらえる、あとはネット流通などで宅配サービス。平田観光園は農協出荷や市場流通に依存することもない「6次産業モデル」なのだ、という。
この6次産業モデルに関しては、過去のコラムでも取り上げたので、ご記憶の方も多いと思う。1次、2次、3次の産業の3つを足しても、掛けても6つだが、要は、1次産業の農業が主導的に生産物価格を決められるようなビジネスモデルをつくるということ。わかりやすく言えば1次産業段階では市場流通にほとんど頼らずに産地直送スタイルを貫く。生産物の出し手が価格決定を主導し、2次産業の加工段階でもカット野菜はじめ、自分で付加価値をつけられるような加工処理をする、そして3次産業の流通やサービス産業段階では自前の直売所やスーパー、さらにはレストランまで、すべてのレベルで1次産業の農業が法人組織の経営主体で積極的に動くやり方だ。

平田さんの目標は5つ。「ビジネスモデル確立し農業を21世紀最大の産業に」
 平田さんは小さい時から父親の背中を見て育ってきており、いずれは果樹園を引き継ぐというつもりだった。父親が学資を出してくれたおかげで卒業出来た鳥取大学農学部のあと登山の趣味と果樹技術研究で長野県の農業試験場に勤務、リンゴよりもブドウの研究に特化、その技術が評価され地元広島県の果樹試験場に転職した。23年間の公務員生活を経て博士論文を書き、専門研究者でと思った1984年3月、郷里のブドウ生産組合が経営苦で解散する、何とか応援してもらえないだろうか、という話をきっかけに、父親のアドバイスもあって今の観光果樹園経営にかかわることになった、というものだが、平田さんの志は高い。
今は経営の中心部分は息子さんに委ねて、平田さん自身は有限会社平田観光農園の会長という立場で、国の農業関係審議会などを通じて農政に関与したり、また広島県の県教育委員長として県庁に出向いたりする。しかし平田さんは「私の目標は5つ。農業で再生産可能な経営の企業をつくっていくこと、若者に魅力を感じさせる農業にすること、果物をふんだんに使ったテーマパークにしたいこと、担い手を育成し農業経営を引き継ぐこと、最後は地域社会に貢献する農業経営にすることです。農業は21世紀最大の産業にしたいですね。ビジネスモデルさえ、しっかりつくれば十分に競争力のある農業をつくれます」という。話をしていて、年齢を感じさせない発想の若さがあり、しかも行動力があって実践するところが素晴らしい。これほどわくわく感のある人も珍しい。

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