どう考えても麻薬の政府紙幣、一度使えば慢性的依存症に 「戦後最大の経済危機」といえども歯止めなし発行リスクが消えず


時代刺激人 Vol. 25

トヨタ自動車、ソニーといった主要企業が軒並みケタ外れの損失見通しで、米国発金融危機が日本をボディーブローで直撃してきたなと思っていたら、10-12月期実質GDP(国内総生産)は輸出の大幅な落ち込みが響き、3四半期連続減少のうえ年率換算マイナス12.7%。与謝野経済財政担当相が言うように「戦後最大の経済危機」だ。日本経済は景気失速どころか再びデフレの深い闇に落ち込みかねない。
この事態に対応するため、麻生政権、そして与党自民党内部では2009年度予算案の成立メドもたっていない中で、早くも「20~30兆円規模の大型補正予算で追加経済対策が必要」(菅義偉自民党選挙対策副委員長)といった声が出ている。
昨年12月末時点で麻生政権は09年度経済運営方針に関して、経済成長率を実質0.0%と見て予算編成した。ところが現時点で、このままでは09年度の大幅マイナス成長が避けられず、なりふり構わず大胆に対応しようというものだ。今回は異常事態と言わざるを得ないが、それにしても、わずか2か月前に編成した予算案が根底から揺さぶられるというのでは、政府の見通し判断はいったい何だったのかが問われる。

高橋東洋大教授「100年に1度の大不況時に政府紙幣25兆円発行」主張
 それよりも今、問題なのは、自民党の菅氏らは、20~30兆円規模の予算の財源対策として、政府紙幣の発行、さらに相続税がかからない無利子非課税国債発行を本気で言い始めていることだ。このうち、政府紙幣の発行は、率直に言って麻薬のようなもので、一度使えば麻薬を吸った人たちが止められなくなるように、慢性的な依存症に陥り、節度のない放漫財政に陥りかねないリスクがある。
この政府紙幣発行を強く主張しているのが高橋洋一東洋大教授だ。自民党の菅氏らは共鳴し総選挙対策とからめてぶちあげているフシがあるが、高橋教授は2月13日付の産経新聞「単刀直言」欄で、次のようにアピールしている。少し引用させていただこう。
「10年や20年に1度の不況ならば、政府紙幣の発行は必要ないが、『100年に1度』の大不況となれば別だ。『100年に1度の対応』が当然必要となる」「そこで、私が提案しているのが、政府紙幣25兆円を発行し、日銀の量的緩和で25兆円を供給、さらに『埋蔵金』25兆円を活用し、計75兆円の資金を市中に供給するプランだ。2、3年で集中的に行い、さまざまな政策を組み合わせれば、多方面に効果が出るはずだ」

「大デフレ時のインフレは良薬」「インフレに歯止めというなら物価安定目標を」
 高橋教授はさらにこうも言う。「大デフレ時のインフレは良薬だ。デフレは例えて言えば氷風呂。政府紙幣は熱湯。普段のお湯ならやけどをするが、氷風呂なら熱湯を入れない方が凍え死ぬ。金融政策は本来、日銀の仕事だが、日銀が何もしないのならば、政府がやるしかないのでないか」「インフレ懸念の観点から歯止めが必要、というのならば、『インフレ率3%になれば発行を止める』など物価安定目標をさだめればよい。これは同時に財政規律の確保にもつながる」

霞が関改革めざす「脱藩官僚の会」の行動には共鳴するが、政府紙幣には反対
 この高橋教授は、ご存じの方も多いと思うが、もともとは財務省官僚。旧通産省OBで橋本龍太郎首相(故人)の政務担当秘書官も経験した江田憲司衆院議員らとともに「脱藩官僚の会」をつくり、官僚の前例踏襲主義、リスクをとらない政策対応、霞が関行政官庁の縦割り組織至上主義の弊害を問題視し霞が関改革を主張している。すごく志が高い。
とくに、特別会計のキャッシュフロー分析を行い資産負債差額にあたる余剰資金に関して「埋蔵金」と位置付け、各省庁所管の特別会計の洗い出しによって、財源ねん出に充てるべきことを主張した点でも、間違いなく異色の官僚だ。
私は、これら「脱藩官僚の会」の行動にはとても共鳴し、ジャーナリストの立場で応援もする。しかし、こと、今回の政府紙幣に関しては、はっきり言って、導入に反対だ。
結論から先に言えば、通貨の発行管理、マネーコントロールに関しては、日本銀行という政府から独立した中央銀行に対して金融政策を委ねているのだから、これまでどおり物価安定を軸に、日銀には通貨発行や管理を委ねるべきだ。
高橋教授は「金融政策は本来、日銀の仕事だが、日銀が何もしないのならば、政府がやるしかないのでないか」という。しかし政府が「日本銀行券」とは別に、政府紙幣を発行するということになった場合、通貨の一元管理が行えなくなり、結果として、歯止めなき発行が続いて、デフレ脱却どころかインフレに火をつけかねないこともある。

通貨管理は日銀の専管事項、日銀という歯止め的な存在が重要
 インフレ率、つまり消費者物価上昇率が3%になれば発行を止める、といった歯止めをかければいい、と高橋教授は反論されるかもしれない。しかし、過去に、この種の政策的な歯止め措置がその時々の政治のご都合主義などによって変更されたり、あいまいにされたことが多々ある。
例えばインフレ率が3%台に乗り始めた際に、経済実体が不況下の物価高、つまりスタグフレーションのような状況の時を想定してみよう。政治状況によっては、「確かに物価は政府紙幣発行の歯止めラインにあるが、経済が依然、不況色を脱しきれていない。こんな時には財政出動がもっと必要でないか。政府紙幣発行によって財政出動を優先させるべきだ」といった議論が起こりかねない。その時に、時の政権が毅然とした態度で、発行に歯止めという初志を貫徹できるだろうか、ということだ。
重ねて言うが、政府から独立した立場にある中央銀行の日銀に権限を委ね、財政とは一線を画す形で通貨管理を委ねることがスジだ。もともと通貨管理や金融政策運営は日銀の専管事項だ。財政サイドが政府紙幣発行で仮に放漫財政に陥った場合、金融政策はコントロール力を失ってしまう。日銀という歯止め的な存在を置いておくことは重要だ。

政府にとっては利子負担伴う国債と違って無利子・低コスト発行の誘惑
 ご存じだろうが、財政法では、日銀が政府の発行する国債引き受けを行うことを禁じている。この歯止めを設けることで、財政規律が維持されている。高橋教授が言う「10年や20年に1度の不況ならば、政府紙幣の発行は必要ないが、『100年に1度』の大不況となれば別だ」という理屈でもって、この節度を踏み外すと際限ない、財政および金融の政策混乱が起きると思う。それだけは、この異常事態下でも避けるべきだ。
それに、この政府紙幣は、もし発行された場合、いまわれわれが使っている紙幣の日銀券と等価交換ができることになる。買い物でも何でも政府紙幣と日銀券で自由にできるメリットがあるだろうが、半面で、マネーが市中にあふれかえり、次第に通貨価値が下落するリスクが出る。ある面で、日銀に金融政策面でツケが回りかねない。
そればかりでない。政府にとっては、国債ならば利子をつけて発行するため国債費という形で利子負担が伴うのに、この政府紙幣ならば、無利子で発行できる。コストと言えば紙幣の特殊な紙代、それに印刷代だけで、安くて済む。このため、限りなく発行の誘惑に駆られる。麻薬に似ているというのは、そういう意味からだ。

世界中にあふれかえる過剰流動性を制御できるかどうか、厄介な問題
 与謝野経済財政担当相が言う「戦後最大の経済危機」に対処するには、あらゆるチエを働かさねばならない。モノづくりや技術革新力など、日本の潜在的な強みを生かして、外需に大きく依存せず内需主導の経済構造に変えること、高成長を望まず身の丈に合った経済にしていくことなど、この際、発想の転換で、いろいろ考えていけばいい
ただ、マクロ政策的にはゼロ金利状態の金融の一段緩和は過去のデフレ時代の学習効果で限界があり、財政出動によって需要創出せざるを得ない。私もそう思う。しかし、だからと言って、政府紙幣発行に道を開いて、結果として歯止めがない通貨発行に陥るといったことだけは避けねばならない。
その点で、また、別な機会に申上げたいが、米国発金融危機に対応して、主要国の中央銀行が流動性対策から世界中にまき散らした過剰流動性をどう制御するのかという重大問題のことも考えておかねばならない。景気が好転しだした場合、その過剰流動性が災いして、インフレの火がつくきっかけになるかもしれない。しかし、インフレの火消しで中央銀行が資金回収に踏み出すタイミングを誤ると金利高をもたらし、せっかく回復しかけた景気に水を差すリスクもある。ことほど左様に、マネーはコントロールが難しいのだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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