日本航空の法的整理、ハッキリ言って供給先行型企業成長時代の終えん 破たんに追い込んだ行政や運輸族政治も責任、日航は再生の新ビジネスモデルを


時代刺激人 Vol. 71

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「ナショナル・フラッグ・キャリア」の名前を冠して、日本を代表する形で世界中を飛び回っていた日本航空が、何と2兆3221億円にのぼるケタ外れの負債総額、さらにグループ企業連結ベースで8676億円の債務超過という厳しい現実を背負って会社更生法の適用申請を行い、経営破たんした。今後は官民出資の企業再生支援機構のもとで公的支援を得て再建に取り組むという。巨大企業破たんだけに、米ゼネラル・モーターズ(GM)と同じ事前調整型の法的整理となったが、取引先が国内のみならず海外に及び、かつグループ企業を含めて4万8000人という従業員の多さのため雇用不安のリスクがあることなどから、政府としても清算というわけにはいかなかったのだろう。まさに大きくてつぶせない(TOO BIG TO FAIL)典型例だが、ここに至るまでに、もっと早く自助努力で企業再生を図れなかったのか、と思いたくなる。。

供給先行型経営は路線拡大し航空機投入すれば利用者はついてくる、との発想
 その点で、冷酷な言い方かもしれないが、高度成長期に多かった供給先行型企業成長スタイルの企業の終えんと言っていい。しかも日本航空は、過去の成功体験にこだわり、時代の大きな変化、あるいは先行きを見据えて、大胆なビジネスモデル変革へのチャレンジをしなかったこと、問題先送りで来たことのツケがいま、回ってきたと言えないか。私が毎日新聞経済記者時代に旧運輸省に詰めて、旧国鉄や海運業界、それに日本航空を含めた航空業界をカバーしたころから日本航空は、冒頭のナショナル・フラッグ・キャリアを旗印に、国際線で拡大戦略をとり続けていたが、一方で、プライドの高さを背景にした供給先行型の経営スタイルだった。わかりやすく言えば、国際線を中心に路線拡大を図り、そこへ航空機を当てれば、お客は自然に乗ってくる、という発想に終始し、お客のニーズに対応してきめ細かくさまざまな需要創出策を考える、という発想がなかった。
 しかし、今回の事態に至ったことに関して、日本航空に対してだけ、経営責任を求めるのは酷なことだ。経営破たんをきっかけに、メディアが分析しているように、旧運輸省、現国土交通省の行政官僚、それに前自民政権時代の旧運輸族といわれる政治家が群がって日本航空を言いように利用し、結果的に日本航空の経営に責任を押し付けた官僚、政治家たちの罪も大きい。これは何としても指摘しておかねばならない問題だ。

国内不採算路線は日航が撤退図っても政治が関与、身動きとれず赤字背負い込む
 つい最近、私は和歌山県と青森県にそれぞれ農業問題の現地取材で出掛けた際、ともに日本航空便を利用した。いずれも羽田―南紀白浜、羽田―青森と方向は異なるが、飛行機が飛び立ってからの所要時間が1時間という便利さに魅せられての往復利用だったが、羽田―南紀白浜線の座席利用率は半分ぐらいで空席が目立った。羽田―青森も同じだった。あとでチェックしてみたら、このうち羽田―南紀白浜区間は常時、お客が少なく、羽田―山形線に次ぐワースト2の路線だった。明らかに不採算路線で、日本航空にすれば撤収を図りたい路線だった。ところが、旧自民党政権時代に前経済産業相、元運輸相、前自民党総務会長などを歴任した衆院和歌山3区選出の二階俊博衆院議員という実力者がいて、なかなか持ちだせないまま現在に至っている、という。
政権交代に伴う民主党政権のもとで、しかも会社更生法適用申請後の企業再建の延長線上の話だから、不採算の羽田―南紀白浜線の廃止は多分、早い時期に日程にのぼるだろう。前自民党政権時代には、これら運輸族といわれる族議員政治家が空港建設、さらには路線設定時に陰に陽に口出して日本航空の経営を赤字に追い込んだことは否定できない。

官僚の責任も重大、しっかりした需要予測なしに空港建設しツケを航空会社に
 そればかりでない。行政官僚サイドの責任も問われなくてはならない。いま地方空港は98という、47都道府県の倍以上の数の空港があるが、大半は、国土交通省が空港建設に際してはじき出した航空旅客需要予測を下回り、結果的に搭乗率が落ち込んでいるため、そのしわ寄せが日本航空や全日空など航空会社の赤字を加速させる結果になっている。これらの地方空港の建設は、空港整備特別会計などの資金で行われている。
ところが、この特別会計が問題をはらんでおり、航空会社が強制的に支払わねばならない空港の着陸料や航空機燃料税が当てられているのだ。言ってみれば、航空会社は高度成長期の需要が安定的に確保できる時には、就航路線ほしさに、これら割高な空港利用料に甘んじざるを得なかった。一転、低成長期に入って、不採算路線がわかっていても、公共交通機関の宿命と路線認可権を持つ行政官僚にたてつくことはリスクのため、応じざるを得ない。結果は事前予想どおりとなって航空会社に赤字経営を強いても、彼ら官僚には責任が及ばないのだ。それどころか日本航空などはかつて、旧運輸省航空局の幹部の天下りを受け入れざるを得ない弱い立場にあった。私が問題視する供給先行型の企業成長スタイルは、端に日本航空だけの問題でなく、官僚自身がその枠組みを作り出し、自分たちで結果責任もとらず、天下りと言う甘い汁だけを吸うというおかしな構造にあった。

霞ヶ関行政だけでなく地方自治体にも責任、静岡・茨城空港のケースは重大問題
 この地方空港建設にからむ話は、霞ヶ関の中央官庁だけの問題でなく、地方自治体、さらに地方選出の国会議員、地方議会議員らが群がっていることは言うまでもない。2009年6月に開港した静岡空港は、当初から旅客重要予測が甘く、航空会社側には不採算路線になるのが目に見えていた。日本航空は、静岡県側がもし搭乗率が一定比率を下回れば税金で補てんする「搭乗率保証」で面倒をみる、という要請に渋々応じ、就航を決めた。しかし、自らの経営悪化で一転、就航を見合わせることになったが、静岡県側は約束違反だとして日本航空との間で紛糾している。この話も経済原則を無視した話で、安易な発想で空港建設にこだわった行政責任を棚に上げて日本航空だけを責めるのもおかしな話だ。
とはいえ、今回、日本航空自体が巨額の負債総額、さらに債務超過を背負って経営破たんした責任は依然として残るのは言うまでもない。これほどの大企業で、負債総額が2兆3221億円に及び、さらにはグループ企業との連結もあるとはいえ、債務超過額が8676億円もあったというのは本当に驚きだ。要は、売上高に見合った利益を上げられなかったということもさることながら、慢性的な高コスト構造にあったからこそ、こういう経営数字になったのは間違いない。

慢性的な高コスト体質、8労組の存在など日本航空の改革すべき課題は山積
 私の友人で、日本航空OBで、いま航空評論家の秀島一生さんが自らのブログで、この日本航空が経営破たんに至った原因をさまざまな角度から取り上げている。ぜひ、グーグルかヤフーの検索ページで「秀島一生のブログ」とキーワード検索されれば、すぐにネット上に、そのページが出てきて、経営に何が問題、課題があったか克明に描かれているので、ご覧いただきたい。
その日本航空の経営問題に関連して、私も申し上げておきたいのは、パイロット組合から始まって労働組合が8つもある異常さだ。航空会社は、業務分野が多岐にわたっており、タテ割りの職能別組織にせざるを得ない、という一般論があるのはわかる。しかし、私が毎日新聞時代に、航空業界を担当したころからずっと続いている組織の枠組みであり、しかも歴代経営陣は労使紛争を避けるために賃上げはじめ労働条件の改善などをめぐって労組要求を認めていくうちに、一般の人たちからは信じられないような人件費などの面での高コスト構造を作り上げてしまっている。今回の再建に際して、労組を一本化するなどの抜本改革をしない限り、日本航空の再建は望めないだろう。

新旧分離して経営再建に取り組んだかつての毎日新聞も記者ら社員が結束
 私がかつて所属した毎日新聞も経営悪化で新旧分離し、再建に臨んだが、当時、私を含めて現場の仲間は、毎日新聞にいることを誇りにし、「この会社をつぶしてなるものか」と長い間、ボーナスなしといったことをはじめ厳しい労働条件を甘受した。日本航空の人たちが今後、労組を含めて、どういった再建対応するかは、それぞれの社員の問題だ。
 また、最初から民間企業として立ち上がった全日空と違って、日本航空は半官半民の特殊な経営形態であったことにも問題があるが、全日空がさまざまなサービス対応1つとっても、顧客本位で、私の申し上げる供給先行型の企業成長スタイルではなく、むしろ需要先行型のもので、この取り組みの差が今になって表れていると思う。それに対して、日本航空の場合、いろいろな専門家が指摘するように、「親方日の丸」の経営体質が最大の問題で、赤字懸念が出れば日本政策投資銀行などの政策金融に泣きついてやりくりし、何もなかったように振る舞う体質なども、その典型かもしれない。

「ナショナル・フラッグ・キャリア」の旗印は全日空に譲渡してゼロからスタート
 さて、「時代刺戟人」精神で、この日本航空問題に関して、申し上げるならば、日本航空は今や企業再生支援機構の手に経営再建を委ねているが、内部からも、自由闊達(かったつ)かつ大胆な企業再建につながるビジネスモデルの提案を行って、新しい日本航空をつくりあげるべきだ。今のままでいけば、日本航空のプライドのもとになっていた「ナショナル・フラッグ・キャリア」の旗印は全日空に譲り渡すことも必要だ。そして、ゼロからのスタートにすればいい。妙なプライドを捨てて、冒頭から申し上げる供給先行型の企業成長スタイルを止めて、顧客本位で、新たな需要創出を図れるような、しかも、し烈な国際競争に勝つにはどうしたらいいかを真剣に考えるべきだろう。
 秀島さんと同じく私の長い友人で、やはり日本航空OBでいま、ボストンコンサルティンググループ日本代表の御立尚資さんが面白い話をしている。世界の航空業界でいま、ユニクロ現象が起きている、という。要は、ユニクロのように高品質を売り物にしながら、その一方で低価格で競争に踏み出す航空会社経営が欧米、そしてアジアで起きており、これに日本航空のみならず全日空のような日本の航空会社がどう対応するか、という問題だ。極めて重要なテーマだ。
また、行政責任が問われている国土交通省、さらには政治がいま、真剣に考えねばならないのは、世界の成長センターのアジアの中で今や日本の空港のハブ化、つまりは拠点空港化をどうするか、アジアから人、モノ、カネを日本に引っ張り込む1つの手段として、航空会社経営とリンクした観光サービス、それに対応するさまざまなインフラをどうするか、といった課題への取り組みだ。韓国の仁川空港は日本の空港とは対照的に着陸料などが割安なうえ、世界の127都市の空港、そして路線リンクをしているそうだ。海外の航空会社によっては、空港整備のための特別会計がネックになって割高な空港着陸料などを求める日本の空港を敬遠して、韓国・仁川空港を経由するケースも多いという。日本に降りたたず韓国経由で他のアジアへ、というわけだが、行政が内向きの発想をしていると、海外の人たちはますます日本離れをするリスクがある。

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