TPP参加は日本を変えるチャンスだ 関税撤廃までの10年に構造改革を


時代刺激人 Vol. 214

 TPP(環太平洋経済連携協定、正確には環太平洋パートナーシップ協定)への日本の交渉参加表明をめぐって、民主党政権は、参加ポーズをとりながらも、最終的になかなか踏み出せなかったが、政権交代後の自民党、公明党の連立政権が一転して、正式に参加表明が行った。国内の政治的な反発を押し切っての安倍首相の決断だけに、なかなかやるではないか、という感じだ。率直に言って、この政治決断を評価したい。

安倍首相の交渉参加表明は率直に評価、
世論調査でも反対より賛成が多数
 アベノミクスと言われる安倍政権のマクロ経済政策は、金融政策面で危うさを残しながらも、株式や為替の金融市場での期待先行の相場展開によって、経済が上向きに転じる兆しも見えてきている。そのためか、最近の主要な新聞社、通信社の世論調査では、安倍政権の支持率が70%台という高い数字を連続的に維持している。そればかりでない。今回のTPPへの参加表明に関しても、反対よりも賛成が上回っている。安倍政権の政策が国民から信任されたということだろう。

安倍首相には運が味方しているところもあるようだ。昨年12月総選挙は、民主党前政権への有権者の失望という敵失が幸いして、自民党と大勝なったが、その直後に安倍首相の打ち出したアベノミクスがプラスに働いた。しかも政治にスピード感が出てきた。そこで、安倍首相は、7月参院選を目前にして、TPPで賭けに出たのは間違いない。

政権支持率が高い今なら自民党内を二分せず押し切れる、
と安倍首相は判断?
政権が弱体であれば、TPPへの交渉参加表明は自民党内を二分しかねない政治マターだった。しかし、政権への支持率が高い今しかタイミングがない、押し切れると判断した安倍首相は、参院選勝利を目指して、「ピンチをチャンスに」「ラストチャンスだ」というキャッチフレーズで押し切った。さすがの農林族議員も政権に勢いがついており、抗しきれず、あとは今後の条件闘争で行くしかない、との判断に変わったと見ていい。民主党前政権であれば、政治的リスクをおかせないと、問題先送りにしたのだろう。

そこで、今回は、このTPP問題をぜひ取り上げたい。私は過去に、このコラムで何度かTPP問題を取り上げた際、「日本は、TPP交渉参加を表明し自由貿易経済圏づくりに向け日本の国のドアを大きく開けることが必要だ。その際、日本の戦略的強みと弱みをしっかりと見極め、技術革新力など強み部分の競争力をより強める一方で、弱みの部分の農業などに関しては、大胆に競争力強化策を打ち出すことによって、国際的に骨太の国に脱皮するチャンスにすべきだ」と述べてきた。

日本は自由貿易経済圏づくりに踏み出せ、
反対派も思考停止に陥らず議論を
さらに、こうも述べた。「アジア大洋州地域、とくに新興アジアで、日本の気がつかないうちに、大きな地殻変動が起きている。日本は、TPP参加表明によって、アジア・大洋州地域に踏み込み、大胆に、存在感のある経済連携の外交を展開すべきだ」と。

もう少し踏み込んで言えば、TPP反対論者の人たちも「絶対反対だ。聞く耳を持たない」といった形で思考停止に陥るのでなく、この際、日本を根底から変える、という前提に立ち、たとえば農業の競争力強化のために、どうすればいいか、議論して方向付けをすべきだと思っている。
TPPは関税の無条件撤廃が原則ながら、各国とも国内産業保護のために、例外品目をつくりたいケースが十分にありえる。そこで、今後の交渉過程で、日本も国益のために、たとえばコメや乳製品、砂糖の関税撤廃だけは例外品目扱いを主張するのか、大いに問題提起すればいいのだ。まさに、そこは交渉力だ。

TPP参加交渉でのカギは交渉力、
日本の戦略的な強み・弱みの見極めが必要
そのためには、今回のTPP交渉をきっかけに日本を変える、日本のシステムを変える、との立ち位置のもとで、まず、日本の戦略的な強み・弱みを見極めることが必要だ。そして弱みの部門のうち、何をギブアップし、逆に戦略的に絶対に残すものは何かを決めることだ。自由貿易経済圏に大きく踏み出す限りは、そういった戦略が必要だ。

このTPPに参加するアジア・大洋州地域の国々は、日本と同様、強みの戦略産業部門と弱みの産業部門を抱えて、新たにつくる自由貿易経済圏に臨む。だから、どの国も、競争力のある産業部門では強気の交渉力で、さまざまな主張をするだろうが、こと、弱みの産業部門に関しては、関税政策で産業保護を主張し、できれば関税撤廃の例外品目に持ち込もうと躍起になるだろう。それこそがTPPの正式発足までの参加各国の交渉に委ねられている。だから、日本はこのTPPをきっかけに、日本を変える、日本の産業システムや社会システムを変えるためにも戦略的思考で臨み、方向性が決まれば、あとは交渉力でぶつかるしかないのだ。しかしグローバル時代のもとで、自由貿易経済圏に加わるメリットは計り知れないものがあるので、戦略的な取り組みをすべきだと、重ねて言いたい。

米国にも弱み、日本の自動車だけでなく
豪州からの乳製品、砂糖の輸入にも抵抗
TPP参加を表明し、早くも交渉の場に出ている11か国、具体的には米国、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ベトナムのうち、建前は無条件の関税撤廃ながら、すでに述べてきたとおり、各国とも産業分野で強み、弱みがある。とくに、国内産業保護、それによって雇用の場の維持を図らねばならない弱みの部分を抱える国々にとっては、関税撤廃で自由化の嵐にさらされるリスクをとりたくない、と考え、例外品目扱いを求める動きが出ている。

たとえば自由貿易の旗を振っている米国で、日本がTPP交渉参加を表明した途端、あの自動車王国と言われた米国の自動車ビッグスリーの自動車メーカーから、日本の対米輸出車に対する関税率の維持によって自分たちの競争力確保を求める動きが高まっている。そればかりでない。米国内では、豪州が強みにする酪農製品、とくにチーズなど乳製品、それに砂糖に関しては、米国農業を保護のために、関係業界が関税撤廃に強い抵抗を示している。

無条件関税撤廃は10年後とし、
それまでは準備期間として現行関税容認が有力
 同じことは、すでに参加表明している11か国全部に言えることだ。このため、日本が加わった12か国交渉の場でも、当然ながら、無条件の関税撤廃が原則ながら、各国がそれぞれの利害得失を考えながら、どのように自国の国益を守るか、激しい議論が行われることは間違いない。どの国も完璧な産業体制を整えて、自由貿易経済圏のうまみだけを享受する、といったことは考えにくい。このため、TPP実現に向けてのさまざまな交渉を経て合意形成が行われる。
しかし、例外品目ばかりがずらりと残る結果になったら、TPPの自由貿易経済圏の原則ルールである関税の無条件撤廃から逸脱してしまう。そこで、例外品目を容認するにしても、経過措置として、関税撤廃の期限を10年間とし、それまでの間に、各国が競争力強化策をつける準備期間とする、という形になるのは間違いない。言ってみれば、TPPスタートから10年間は、参加各国の国内の産業事情、政治情勢などを勘案して、関税撤廃に向けての準備期間とするが、10年後には文字どおりの自由貿易経済圏として、フル稼働する、という形だ。

日本農業には潜在成長力が十分にある、
新興アジアへの輸出を武器に
そこで、TPPへの交渉参加表明をきっかけに日本国内を半ば二分するような議論になっている農業分野に関して、私の得意分野でもあり、今後の取り組み課題を含めて、少し述べてみよう。
結論から先に申し上げれば、日本の農業には産業としての成長力を潜在的に持っているうえ、新興アジアには中間所得層や富裕層を中心に、安全・安心、品質のよさ、おいしさなどに裏打ちされた日本の農産物、加工品に対する需要がきわめて高い。そこで、それらの地域をターゲットにした輸出戦略を講じると同時に、国内市場対応の面でも売れる農産物づくりのためにマーケットリサーチはじめ、市場流通だけに頼らない農業経営の枠組みづくりに取り組む。
それを踏まえて、TPP対応として、仮に関税が撤廃になって競争力の面で全く太刀打ちが出来ない分野ながら、食料安全保障の観点で政策的に保護あるいは維持すべき分野はどこか、あるいは逆に、生産農業者には申し訳ないことながら、需要先細りのもとで政策的に保護が限界で、ある程度、見限らざるを得ない分野はどこかを、この際、見極めることが必要だ。

乳製品や砂糖は競争力強化が必要だが、
コメは対策次第で自由化にも対応可能
その点で、食料安全保障、そのからみで食料の自給率維持のため、地域産業や雇用維持のために政策的にサポートが必要な分野となれば、コメ、乳製品、砂糖など限られた分野だろう。その点で、自民党が打ち出した5品目は1つの参考になる。
しかし、ここで重要なことは、10年後の関税撤廃は大きな原則のため、その10年間に徹底的に競争力強化策をみんなで考えるようにすることが必要だ。その点で、乳製品や砂糖に関しては、米国がオーストラリアに歯が立たず、苛立っていると同様、日本の酪農などの現場事情からすれば、10年後もどこまで競争力を維持できるかわからない、という問題が付きまとう。ここは、今後、どういった競争力強化策を講じるかだ。

与野党ともグローバル時代の農業のあり方で
もっと政策づくりの努力を
 私は、コメに関しては、乳製品や砂糖などと違って、やりようによっては十分に競争力を確保し、逆に、新興アジアを中心に輸出で十分に勝負ができる潜在的な力を持っていると思っている。そのために、中途半端な形の二種兼業農家対策を行うと同時に、それら二種兼業農家の農地を大規模経営農家に経営委託の形で貸与し、大規模経営農家主体のコメ生産体系に持っていくことが重要だ。

7月の参院選を前に、自民党のみならず、与野党とも政治家特有の票田としての農民、農協を意識した農業保護のための反対論が依然として見え隠れする。政治は本来ならば、与野党を含めて、グローバル時代に対応した農業の国際競争力強化をどうするか、国内農業の新成長モデルは何か、あるいは循環型農業を軸に自然環境を守る農業をどう構築するか、高齢化で担い手が減る農業をどうするかの議論をすべきが大事だ。
 

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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