小沢氏の政治とカネ疑惑解明は当然必要、だが東京地検の捜査も異常 正義より組織論理が先行?リクルート事件の江副氏や「国策捜査」の佐藤氏が好例


時代刺激人 Vol. 70

日本の外ではさまざまな地殻変動が起きつつあるというのに、日本国内は相変わらず内向きになっていて、外に目が行く余裕がない状況だ。その最たるものが、今や日本の最高権力者とも言える小沢一郎民主党幹事長が、東京地検特捜部と全面対決する構えでいることだ。しかも、小沢氏自身の権力志向の強さ、周囲を怖気(おじけ)づかせるような有無を言わせない強引さ、開き直りが災いして、世の中を暗い気分に陥れてしまっている。政治リーダーたるものは、本来ならば、時代の先を見据えて、国民にわくわく感を抱かせる政治ビジョンを高らかに打ち上げるのが責務ではないのか。
 それにしても小沢氏は頑なだ。自身の政治資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる問題が政治資金規正法違反の形で東京地検の強制捜査の対象になったことに対し、小沢氏は1月16日の民主党大会で「到底容認できない。こんな捜査がまかり通れば日本の民主主義は暗たんたるものになる。断固として闘う」と対決姿勢を鮮明にした。しかも民主党が党内に「捜査情報漏えい問題対策チーム」を組織し小沢氏をバックアップする異常さだ。ただ、この問題をめぐる主要メディアの世論調査で、小沢氏辞任を求める世論が一気に高まり、その比率が全体の70%前後という高率に及んだこと、そして民主党政権の内閣支持率も落ち込んだことから、突き放す姿勢だった小沢氏も、7月の参院選への影響を急速に意識したのか、東京地検の事情聴取には応じる姿勢だけは見せている。

私は経済ジャーナリストなので、この「時代刺戟人」コラムの場で、政治や検察の問題に関して、論陣を張れるような材料を十分に持ち合わせていない。とはいえ、政治家と検察の全面対決の動向にはジャーナリスト特有の好奇心と関心があり、とくに政治とカネにまつわる不透明な、もっと言えば暗部(あんぶ)のような部分に関しては、疑惑があれば東京地検に徹底して解明してもらいたいと思っている。ただ、その期待とは別に、東京地検特捜部という、政治権力と相対峙(あいたいじ)する組織には、以前から、いくつか気になる側面があり、この機会に、私なりに、スポットを当ててみたい。

沖縄密約問題での政治混乱避けるため、東京地検が世論を別方向に誘導画策
 「おかしい。東京地検は、法の正義を全面に押し出して巨悪に迫る組織であることを標榜しているのに、実は体制保持のためには、なりふり構わず政治的に動くことが大いにあり得る組織なのだ。国策捜査によって法権力の行使も辞さずとする官僚組織であるというのは言語道断だ」と思わず感じたことがあるからだ。
それは、私がかつて在籍した毎日新聞で、1971年から72年にかけて、政治部記者の西山太吉氏(当時)が沖縄返還時の対米外交密約の存在をスクープ報道したことに対し東京地検特捜部捜査のえげつなさ、なりふり構わぬやり方を、ずっとあとになって知った時だ。この対米外交密約問題に関しては、第45回のコラムで取り上げており、ぜひ、ご覧いただきたいが、東京地検は当時、西山氏を国策捜査で逮捕、そして起訴に追い込むに際して、密約問題をあいまいにするため、西山氏の私的スキャンダル問題にすり替え、世論誘導する巧妙かつしたたかな国家の意思を働かせたのだ。
 具体的に申し上げよう。事件を当時担当した東京地検特捜部の佐藤道夫氏がその後、参院議員に転じてテレビ討論などの場で「外交密約の存在が問題になれば政治混乱が避けられないこと、『国民の知る権利』の封殺、記者逮捕は言論弾圧と騒いでいる知識層やメディアの論調をかわす必要がある、との判断から突如、世論を別方向に持っていくことを思いついた。それは、新聞記者が外務省高官秘書の女性と情を通じて最高機密の電信コピーを入手したのはけしからん、という形での世論誘導だ」と述べた。佐藤氏は昨年(2009年)亡くなったが、そのことを自慢げに話すのを聞くにつけ、当時を知る私などは、本当に悔しい思いをしたのを今でも憶えている。

検察は政治的に中立のはず、今回の小沢氏周辺の強制捜査タイミングに疑念も
 私に言わせれば、東京地検は政治的に中立であるべきだと思っている。ところが、この対米外交密約問題に関するメディアのスクープ報道に関しては、佐藤氏が自慢げに話したように、当時の東京地検は「外交密約の存在が問題になれば政治混乱が避けられないため、世論を別な方向に誘導する」という形で、まずは守るのは当時の政治体制だったのだ。
そのからみで、今回の強制捜査の問題を考えると、何とも奇妙なタイミングとも言える。民主党政権が予算案審議を行う予定の通常国会開会直前の1月15日にあえて強制捜査を行ったこと、しかもその翌日16日には民主党が党大会を開いて今年7月の参院選での党公認候補発表する政治的演出を予定していたことーーなどの出鼻をくじく結果になっている。強制捜査のタイミングからすれば、考えようによっては、東京地検には、ひょっとして旧自民党政権をよしとし、現政権にダメージを与えることに思いが至ったのだろうか、政治的に中立であるべき検察に何かあるのかと、思わず感じさせてしまう部分がある。
 その点で、話は地方政治レベルに移るが、興味深い話がある。元東京地検特捜部検事で、その後の弁護士時代に石橋産業手形詐欺事件に関与して実刑判決を受け弁護士資格をはく奪され収監中の田中森一氏が、ジャーナリストの田原総一朗氏との対談集「検察を支配する『悪魔』」(講談社刊)の中で、こう述べている。「(大阪地検にいた際)大阪府知事の金庫番だった出納長が隠し預金5000万円が岸知事に渡っている事実を内定で固め、汚職事件にしてやろうと意気込んでいました。検事冥利(みょうり)につきるものです。そこで、正式に捜査の許可を求めに上に行ったら、村上流光検事正から『ダメだ。たかだか5000万円で大阪をまた、共産党知事の天下に戻す気か。お前は、どこを向いて仕事しとんじゃ』と怒鳴るのです。大阪では保守系の岸昌知事が当選するまでは長らく共産党系の知事が続いていたため、検察の捜査で大阪府を共産党の政治に戻すのか、というわけです」と。これも政治的中立とは一線画する話で、まったくの驚きだった。

鈴木衆議院議員と外務省・佐藤氏逮捕で東京地検の「国策捜査」が一気に有名に
 国策捜査という点で極め付きは、鈴木宗男衆院議員と一緒に逮捕された元外務省主任分析官だった佐藤優氏の2002年5月の逮捕は、いまだに記憶に新しい。佐藤氏は記憶力抜群に加えて、メモ魔ともいうほど、収監されての取り調べにあたった検察官とのやりとりを克明にメモに残しており、それを後日、「国家の罠(わな)」(新潮社刊)で国策捜査という形で、問題を浮き彫りにしている。このあたりは、佐藤氏自身が著書で描いている東京地検捜査の実体を引用させていただくのがいいと思うので、少し活用させていただく。
 「検察は基本的に世論の目線で動く。小泉政権誕生後の世論はワイドショーと週刊誌で動くので、このレベルの『正義』を実現することが検察にとっては死活的に重要になる。鈴木氏と外務省の間にとてつもない巨悪が存在し、そのつなぎ役になっているのが、ラスプーチン=佐藤優らしいので、これを徹底的にやっつけて世論からの拍手喝さいを受けたいというのが標準的検察官僚の発想だろう」と、佐藤氏は著書で述べている。すごいのはそのあとだ。佐藤氏を取り調べた西村検事は「この事件は横領でも背任でもどっちでもできる。(中略)あんたはわかっていると思うが、これは鈴木宗男を狙った国策捜査だからな」というくだりだ。当時の小泉政権にとっては、田中真紀子外相(当時)と鈴木氏との確執が混乱を招き、鈴木氏周辺にあった対ロシア利権がらみでの問題で、佐藤氏を巻き込んでの国策捜査で政治的排除を図ろうとしたことに対して東京地検特捜部がコミットした、というのが一般的な見方として定着している。

リクルート事件での江副氏への東京地検の検事調書取りも問題多かった
 これ以外にも東京地検特捜部がらみで、これは問題だなと思ったのは、リクルート事件捜査だ。最近読んだ「リクルート事件・江副浩正の真実」(中央公論新社刊)で、江副氏自身が、さきほどの外務省の佐藤氏と同様、逮捕こう留中に検察官の取り調べのやりとりを暴露と言うと大げさだが、東京地検の実体を明らかにしている。
このリクルート事件は、朝日新聞の調査報道がきっかけで大きな政治を揺るがす大事件となった。企業が未公開株を株式上場前に日ごろから世話になった関係取引先に配るのは商慣習として許される、というのが証券会社関係者の一般的な受け止め方だったが、リクルートに関しては、グループ企業のうちで非上場企業の株式を政治家や霞ヶ関の高級官僚、さらには財界人に対して、買い付け資金も融資という形で譲渡し、上場後の株価の値上がり益を相手方の懐に、という点はわいろ性が高い、としたのが東京地検の捜査判断だった。
 その点で、江副氏はわきが甘いのか、お人よしだったのか、政治家を中心に、見返り利益なしに配ったことが政治、官僚、財界の政・官・財一体の「日本株式会社」を揺るがす事件となった。間違いなく未公開株を譲渡するのはおかしい。当時、東京地検の捜査は鋭いと評価していたが、最近、江副氏の「リクルート事件・江副浩正の真実」、それにリクルート事件元被告・弁護団の提言「取り調べの『全面可視化』をめざして」(同じく中央公論新社刊)を読んで、東京地検の検事調書の取り方には問題が多いことがよくわかった。

江副氏はこう書いている。「ある時、私は神垣検事に聞いてみた。どうして『新聞にはこう書いてある』とか『夜回りの新聞記者がこう言っていたけれど、どうか』と、新聞記事や記者の話をもとに、私に対して聞かれるのですか」と。(これに対して神垣検事は)『(東京地検)特捜部の人員はたかだか30数名。新聞やテレビ、週刊誌などの記者はわれわれの数十倍いるんだ。特捜部がどこかに犯罪がないかと探しに行ったって見つかるわけがないじゃないか。(中略)リクルート事件も報道が続いているから立件することになった。新聞は世論。特捜部は世論に応えなければ権威が失墜する』と。

この著書の中で、江副氏は、東京地検が巧みにメディアを活用して状況をつくり、あるときには「メディアがこう書いている」といった観測記事をもとに江副氏自身を追い込み、東京地検のシナリオに沿った形での検事調書にサインをすることを強要する箇所が随所にあったことを指摘している。

メディアは結果として情報ほしさに東京地検の手の平に乗せられている?
 さらに、「私の心の動揺を感じとってか、検事は脅すように言った。『長期こう留で君の人が変わるぞ。それよりも、調書にひとまず署名して裁判所で争った方がいい。君のためを考えて言っているんだよ』と。何度も、そう繰り返されるうちに、検事の言うとおりだろうと思うようになり、長期こう留されたくない気持ちも募って調書の署名に応じざるを得ないと思った」と述べている。しかし江副氏はあとで誤算だったと認めているのは、いざ裁判の場では検事調書が裁判官の心証に強く影響し、裁判官に必死で反論してもあまり認めてもらえず悔しい思いをした、と述べている。
 要は東京地検の作戦勝ちだったのだが、メディアも捜査情報欲しさに、東京地検の手の中にうまく乗せられてリークと言う形での情報漏えいはなくても、何となく方向づけする形での情報提供に乗せられた、と言えなくもない。今回の小沢氏周辺の強制捜査に至るまでの土地購入資金に関する疑惑部分で、会計担当者か小沢氏のいずれしか知らない、しかも、その両者ともメディアにベラベラとしゃべるはずがない情報が新聞やテレビの報道に出てきている。これは、ある面でメディアが東京地検のリークと言う形での捜査の状況づくりに巧みに乗せられたか、あるいは表現悪いが、手を貸したとしか思えない。メディアの私の友人たちは「われわれが地検のリークに沿って、ハイ、わかりましたって書くはずがないじゃないか。複数の関係者のウラをとって、これは間違いないと思って書いている」と口をそろえて、メディアの独自取材だと主張するが、こればかりは何とも首をかしげたくなる。
私が申し上げたいのは、東京地検特捜部は政治的には中立で通し、法に沿っての正義を貫く捜査であることを説明できるように、小沢氏の政治手法の問題と同様、限りなく透明性をもってやってほしいということだ。いかがだろうか。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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