活かせ!眠る深海底のエネルギー資源 国主導で自給率上げ経済安全保障を


時代刺激人 Vol. 215

 最近と言っても2週間ほど前の2013年3月12日、愛知県と三重県の境にある海域の深海に眠る次世代エネルギーのメタンハイドレートが、海底で海水と天然ガスに分離、天然ガスの主成分のメタンガスという形で産出することに成功した、というニュースが大々的に報じられた。ご記憶だろうか。間違いなくグッドニュースだ。
このメタンハイドレートに関しては、あとで申し上げるが、ドイツ人が書いた興味深い海洋小説で、深海のメタンハイドレートが取り上げられ、私は、ちょっとした関心を持っていた。そのからみもあり、このニュースを見て、ますます深海底の資源に好奇心をそそられたので、今回はその問題をぜひ、取り上げてみたい。

1300mの深海でメタンハイドレートを発見、
海水と分離して天然ガス化は見事
 ニュースで驚いたのは、独立行政法人の石油天然ガス金属鉱物資源機構の技術だ。この機構の技術者が、地球深部探査船「ちきゅう」号で1000メートルある海底まで深く潜ったあと、その海底から、300メートル掘り進んだ所でメタンハイドレート層を発見したのもすごいが、そのあと、海水と天然ガスを分離する技術を使って見事に分離、そして、すでに組み立ててあった井戸で海上まで天然ガスを送り上げたことだ。
鉱物資源掘削の世界では、「千三つ」と言って、油井を見つけるため千回穴掘りしても三回当たれば上出来、という確率の悪さが常識になっている。今回の探査も探査技術が進んでいるとはいえ、一朝一夕に実現したわけでなく、様々な試行錯誤の上に、やっとのことで、ここまでこぎつけたのだろう。だが、重ねて、そのすごさに加えて、メタンハイドレート層発見後の分離技術は見事だ。カナダで2007年から08年にかけて、ツンドラ(永久凍土)層から別の技術で取り出したケースはあるが、深海底で海水とガスに分離してメタンガスという形で産出するというのは画期的なことだ、という。元気の出る話だ。

南鳥島周辺の5700mの深海で希少金属のレアアース層発見も
サプライズ
 サプライズはそれだけでない。その9日後の3月21日に、同じく独立行政法人の海洋研究開発機構が東京大の研究チームと一緒になって、小笠原諸島の南鳥島周辺の水深5700メートル前後の海底で、希少金属のレアアース、それも高濃度のものを見つけた、というニュースが流れたことだ。これもビッグニュースだ。
このレアアースは、中国が陸上の露天掘りのような場所で産出して、全世界の90%以上の独占的シェアを持っている。中国が経済覇権戦略に使っているため、日本の産業界のみならず世界中が振り回され、代替資源開発を余儀なくされ切歯扼腕していたものだ。
ところが、プロジェクトに参加した東京大の研究チームの加藤泰浩教授によると、中国産のものよりも10倍の高濃度のものだ、という。深海底から掘り出して、事業化できるまでには、かなりの技術的課題や資金などの問題が重くのしかかるだろうが、これまた、「よくやった」、英語で言えば「GREAT JOB」と思わず声をかけたくなるものだ。

エネルギー自給率4%の日本には海底の天然ガス・鉱物資源は
先行きに光明
 さて、ここからが本題だ。資源エネルギー庁は「エネルギー白書2011年版」で、日本のエネルギー自給率は水力や地熱などを合わせても4%しかない、と指摘した。今も状況は変わっていない。裏返せば、残り96%を海外からの石油や天然ガス輸入に頼らざるを得ず、経済安全保障の面できわめて憂慮する事態が続いている。その点で、今回のニュースは、エネルギー自給に関して、先行きに光明を与えるものだ、といっていい。
日本の戦略的な強み、弱みを冷静に分析したら、弱みの中には、国際競争力ゼロの政治を別にして、戦略的にサポートすべき重要分野が2つある。自給率がきわめて低いにもかかわらず経済産業面で重要な食料とエネルギー資源だ。この2つに関しては、政治的にも政策的にも力を注いで確保しなくてはならない。経済安全保障という観点からも必要だ。

海洋資源開発は国主導が基本、
事業化チャンスが見えたら民間にバトンタッチを
とくにエネルギーに関しては、自給率引き上げのため、陸上での地熱発電や再生可能エネルギーの開発に加えて、海洋エネルギー資源の積極開発を行うべき時期に来た。しかし、海洋資源開発は、今回の2つの事例を見ても、深海底までの探査船、海中に立ち上げる汲み上げ用の井戸など、民間がリスクをとってチャレンジできるような状況でない。
このため、深海に探査船を送り込み、さまざまな技術を駆使して資源開発する場合、国が初期段階から、国策として取り組み、開発のめどがつき始めた段階で、民間企業の連合体を参画させ、民間の経営手法を導入する二段構えの取り組みが必要だ。いうなれば、事業化のチャンスが見えたら、複数の民間企業連合に競争入札で参画させればいいのだ。

海外で民間凄腕企業が開発現場に、
後発日本は最終的にオールジャパンで対応も
今回、いろいろ取材し、また谷口正次氏の「オーシャン・メタル」(東洋経済新報社刊)などの参考図書を読み漁ったが、それらによって、わかったのは、水ビジネスにおけるフランス企業でグローバル展開しているスエズ、ヴィヴェンディ2社と同様、海洋資源開発で、凄腕のグローバル企業がいることだ。
ノーチラス・ミネラル、ネプチューン・ミネラル、テクニップなどの欧米企業がそれだが、いずれも多国籍のさまざまな企業が参画し、民間企業でリスクをとって海洋資源開発に取り組んでいる。そればかりでない。韓国や中国が追い上げつつある。日本は、これまで問題意識を持ちながらも本格的な取り組みがないまま現在に至っている。間違いなく後発だが、日本得意の国、民間一体で行う「オールジャパン」方式で取り組み、弾みがついて、海外でプロジェクト受注が出来るほどの体力がつけば、民間連合企業体がグローバル社会で名乗りをあげればいいのだ。

「海洋立国研究会」が海洋新産業の創出や資源開発がらみの
経済安全保障を提言
 にわか勉強で恐縮だが、この海洋資源開発分野では民間のキャノングローバル戦略研究所の「海洋立国研究会」が問題意識旺盛に取り組んでいることを知った。とくに海底資源や海洋エネルギーの開発に取り組む海洋新産業の創出、それに排他的経済水域(EEZ)における資源開発と経済安全保障などの問題に関して、研究会としての提言も出ており、とても勉強になった。興味ある方々は、ぜひ、研究所のホームページでご覧になればいい。
ところで、ここに出てくる日本の排他的経済水域は、国連海洋法条約にもとづき各国の経済的主権が及ぶ水域のことで、日本は1977年にいち早く条約に参加し、国内法もつくって対応した。端的には沿岸から200海里内の海底の経済資源の開発権益などを得る見返りに海洋資源保護や汚染防止の責務を負う。経済ジャーナリストとしては、一昔前に取材テーマにした問題だが、いま起きている日本、中国、台湾との間で尖閣諸島の島の領有権をめぐる争いの背後には、この海洋権益争いが複雑にからむ。

日本プロジェクト産業協議会の分析では計り知れない経済資源が
深海底に
 この日本の排他的経済水域に、いったいどれぐらいの経済資源があるのかが関心事となるが、民間の日本プロジェクト産業協議会の分析データによると、熱水鉱床(海底の奥深くマグマ活動のある場所に海水が浸み込み、その熱水によって鉱物資源が海底部分に噴出されできる鉱床)には金や銅など原鉱石賦存量で7.5億トン、チタン、コバルトなどコバルト・リッチクラストと呼ばれる鉱物の原鉱石賦存量が24億トン、冒頭のニュースに出てきたメタンハイドレートが賦存量で12.6兆立方メートルある、という。
問題は、どれぐらい回収できるか、その技術力、さらに採算ベースに乗るかにもよる。しかし協議会の分析ではコバルト・リッチクラストで45%、メタンハイドレートで33%、仮にそれらを事業化によって商業生産すれば、それぞれチタンやコバルトなどが地金ベースで100兆円以上、また天然メタンガスで120兆円以上という。

米国のシェールガスの産出コストは安価、
メタンハイドレートのガスは競争力弱い?

 米国でいま、シェールガスという天然ガスの抽出を、陸上での地下資源開発で成功したばかりか、膨大な埋蔵量を商業生産化することが可能になったため、石油の中東依存からも脱却できるようになった。そして、いずれ日本への輸出も視野に入ってくるようで、米国が慢性的に苦しんでいた貿易赤字が解消し、貿易黒字国になる可能性も出てきたため、米国ではシェールガス革命が停滞していた米国経済を救う、といった評価になっている。
日本にとっては、冒頭の愛知、三重両県の県境海域で見つかったメタンハイドレートから分離抽出した天然ガスはエネルギーの自給率を変える新たな革命起爆剤になる魅力を秘めているが、問題は米国のシェールガスの生産コストがきわめて安く、その差に大きな開きがあるのが悩み。事業化にめどがついた場合の最大のポイントで、国が価格政策面でどこまでバックアップできるかは今後の問題であることは間違いない。

ドイツの海洋小説「深海のYrr」は面白い、
海の知的生命体が人類に反撃
さて、話が最後になってしまったが、メタンハイドレートに、強い興味を持ったきっかけは、ドイツ人作家のフランク・シェッツイング氏が書いた「深海のYrr」(早川書房刊)という奇妙なタイトルの海洋冒険小説で、それがカギを握る話になったからだ。文庫本で上、中、下の3冊に及ぶ大作だが、要は、人間社会の環境破壊に対する深海の知的生命体の大胆な反抗がメインテーマ。
その知的生命体が何と海中に生息するゴカイに命じて、大陸棚などにあるメタンハイドレートの鉱床をどんどん口でかじらせる。それが中途半端な行動でなく、広範囲に、大胆に行われるため、地盤が崩れ、地殻変動を引き起こして、ついに大津波が生じ、北欧などの沿岸部で壊滅的な都市災害に発展する。一方で、知的生命体はクジラなどに命じて観光船などを転覆させ、恐怖のどん底に陥れる。大学教授らが、この知的生命体のメッセージを読み取るのに躍起になるなど、これまでにない海洋小説だ。

小説の教訓は深海底の経済資源めぐり醜い争いを避け、
環境保護にも配慮?
 この小説をどう読むかは、みなさんの問題だ。しかし、われわれ人間社会が、1970年代の排他的経済水域の問題を再び持ち出して、とくに、尖閣諸島の領有権をめぐって争いを仕掛けるのも、深海底に眠る経済資源を得るためのもので、こういった形で見苦しい戦いを繰り広げたりすると、深海の知的生命体が小説のように反撃に出てくるかもしれない。各国がルールにもとづいて、資源保護などをしっかりやりながら、開発に取り組むという姿勢を見せないと、本当に、しっぺ返しを食らうかもしれない。そこは確かに重要なポイントだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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