阪神・淡路大震災の教訓が活かされず 非常事態法など危機管理体制構築を


時代刺激人 Vol. 133

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 大地震、大津波による東日本大震災、そして身の毛がよだつような東京電力福島第1原発事故。日本ばかりか世界中を震撼させたあの日から間もなく2カ月がたつ。にもかかわらず被災地の人たちを含め誰もが先行きに対して、未だに何の展望も持てないままでいる。劣化した政治、とりわけ菅直人首相の指導力のなさを含め、多くの問題が指摘されているのは事実だが、スピード感が全くないうえ、半ば機能不全のまま、時間ばかりがどんどんたっていく。何かがおかしい。

ジャーナリストの問題意識で、1995年1月の阪神・淡路大震災時の教訓や課題が何だったのか、を調べてみた。実は当時も同じような事態が起きており、当然のことながら問題提起もされていた。ところが今回の大震災ではそれらがほとんど活かされていない。そこで、今回のコラムでは、阪神・淡路大震災時の教訓をもとに、今からでも対応が必要な日本の危機管理の課題について、ぜひ、取り上げてみたい。

東日本で先進モデル例をつくるための法的バックアップに

 結論から先に申上げれば、前々回の131回コラムで取り上げた「政治は、さまざまな対策会議ばかりつくって、いまだに有事立法に積極的に取り組んでいない」という点と絡むが、国家非常事態法のようなものをいち早くつくって、今回の有事の時には復興、再興を最優先に、既存の法体系を越える超法規的な権限を与えること、その最終責任は総理大臣が負うこと、それによって広域災害に及んだ東日本で復興の先進モデル例をつくるための法的なバックアップシステムにすることがポイントだ。

加えて、余震が続く現状を見ていて、危機をあおるわけでないが、首都圏、東海、南海などの大震災のリスクが現実味を帯びてきているため、その最悪の事態を想定して、米国の連邦緊急事態管理庁(FEMA)、またロシアの非常事態省のような危機管理に対応した超法規的な行政組織の創設も議論したらいい。もちろん、その場合、行政組織に屋上屋となるような有事だけの非効率な組織になりかねない。そのためにも既存のタテ割り組織にメスを加え、省庁横断的な、危機に機動的に対応出来る組織にすることが絶対に必要だ。

131回コラムでのタテ割り組織の弊害問題にさまざまな意見

 この話を持ち出したのは、他でもない。私が131回コラムで、日本のタテ割り組織がまたまた、今回の大震災の現場で「待った」をかけ、身動きがとれないどころか、スピード感が何よりも必要なこの時期に、弊害になってしまっていること、政治は政治休戦して今こそ政治のリーダーシップを発揮し、有事の機敏な対応システムづくりをすべきだ、といった問題提起をした。

そうしたら、共感するコメント、さらに「タテ割り組織の弊害というよりも硬直的な制度にあり、その制度改革が大事」との指摘、「当たり前の指摘で、問題解決になっていない」といった批判意見など、予想外にリアクションをいただいた。それらの意見をヒントに、阪神・淡路大震災時の教訓を再チェックし、日本の危機管理問題とからめながら、もう一度、考えてみた結果、やはり、今のような身動きがとれない広域災害対応には国家非常事態法をつくることが必要だ、という結論に至ったのだ。

「世界で非常事態宣言法があり自然災害時に直ちに発令される」

 国家非常事態法という名前自体が、おどろどろしく、テロや軍事リスクに対応することが前提のような法律名で、今回のような大地震、大津波、原発事故という3つの集中リスクに対するものとは異なるのでないか、といった指摘もあり得よう。その点、私は名称自体、どんなものでもいいのであって、大事なのは大震災といった国家の非常事態の危機に対応する超法規的な枠組みづくりが必要だ、と思っているだけだ。

私がかつて勤務した毎日新聞の外信部記者OBで、モスクワ特派員経験もある友人、石郷岡建さんは私のコラムへのコメントで「世界では、どの国でも非常事態宣言法があり、自然災害や動乱、大事故などの際には直ちに発令される。日本にはそれがないのが問題だ。ロシアの場合、非常事態省という役所があり、非常事態の際に動く部隊組織や機器、輸送手段を持っており、24時間いつでも直ちに動ける態勢にある」という事例を引き合いに、私が指摘したタテ割りの行政組織の弊害といった問題指摘にとどまらず、むしろ「非常時と平常時では法律やルールが違うのが当然で、この際、非常時対応の組織を、一定期間の間に別個につくる、という考え方が必要だ」と述べている。

阪神・淡路大震災時の反省で日本版FEMA創設論も根強い

 私が指摘したのも、これに似たことだ。今回のような大震災時に既存の行政のタテ割り組織がネックになって身動きがとれないこと自体が問題なのであり、既存の行政組織、その法律に優先して機敏に有事対応、危機対応が出来る特別立法が必要、ということだ。

その絡みで言えば、阪神・淡路大震災時の教訓を踏まえて米連邦緊急事態管理庁(FEMA)に似た日本版組織をつくればいい、という意見が当時、多かったが、今もその議論は根強い。このFEMAは、米国で1979年に、核戦争への対処機関として、当時のカーター米大統領直属の機関としてつくられた。危機管理にかかわる連邦機関が当時、100以上あり、有事に機動的に対応するには統合が必要だ、ということで出来た。ところが、その後、9.11のテロ事件で、当時のブッシュ米大統領のもとで、国家安全保障省の傘下に入り、権限や規模が縮小されてしまったが、主要国の間では依然として、先進モデル事例の1つになっている。私自身は今でも検討していいテーマだと思っている。

神谷さん「官僚主義体質改めない限り日本版FEMAは無意味」

 しかし、時事通信記者として、かつて阪神・淡路大震災時の現場取材した神谷秀之さんはその著書「阪神・淡路大震災10年 現場からの警告――日本の危機管理は大丈夫か」(神戸新聞総合出版センター刊)では、「平時のタテ割りを是正しなければ、日本版FEMAは導入しても役立たない」と述べ、官僚主義の体質を改めない限り無意味、という発想だ。
 少し引用させていただこう。「日本の省庁は、現場の『必要性』、『ニーズ』よりも『前例』『法的・制度的な決まりごと』を最優先する。『前例』のないことへの対応は極めて不得手で、『前例』のないものはすべて『想定外』となり『想定外』危機への対応は常に後手に回る。その元凶は、現場をないがしろにする中央の集権システムにある」という。

この神谷さんの指摘も理解できないわけでないが、ニワトリが先かタマゴが先かのような議論になりかねない。むしろ、私は、岩盤のように強固な霞ヶ関のタテ割りの官僚組織が、それぞれの拠って立つ基盤の行政組織の設置法などを根拠に動かないため、今回のような非常時にもタテ割り組織の壁を崩せないでいる。だからこそ、超法規的な臨時立法措置を講じて、対応すべきだと思っているのだ。日本版FEMAもその1つだ。

貝原兵庫県前知事は当時の経験踏まえタテ割り行政組織を問題視

 前兵庫県知事の貝原俊民さんは阪神・淡路大震災時の現場知事としての経験を踏まえて書かれた「大地からの警告――大震災は何を語りかけたか」(ぎょうせい刊)で「阪神・淡路大震災時に、主要幹線道路がマイカーなどによって大渋滞を起こして、公共的緊急輸送ができずに被害を大きくした。このような事態を避けるために、都道府県公安委員会は一般車両の通行禁止や制限をすることが出来ることとされているが、当時、主要幹線道路が国道であったため、霞ヶ関の関係省庁との協議に時間を要し、現実に通行規制ができたのは24時間たったころとなってしまった。制度を立案する時には、机上の理論だけでなく、現実を踏まえて判断しなければならない」と述べ、タテ割り行政組織が災害対応を遅らせたと問題視している。

この教訓が今回の大震災時にもほとんど活かされていない。それどころか、131回コラムでも指摘したように、タテ割り組織の弊害、硬直性が事態を悪化させている。「失敗の研究」が研究のままで終っているようでは、日本は先進国家とは言えなくなる、と言えまいか。

「有事の特別行動規範、指揮命令系統の確立を」と財務省OB

 この点に関して、財務省OBの私の友人は「タテ割り組織の弊害というよりも、硬直的な制度の問題だ、と思う。役人は、法令に従って仕事をするように義務付けられているので、自分の心が痛んでも思うように行動出来ず、言うこともできない。それを取り除くためにも、平時と区別した有事の際の特別行動規範、それに指揮命令系統の確立が必要だ」と述べている。確かに、官僚組織をうまく動かすためにも、有事に対応する特別立法、超法規的な臨時立法をつくればいいのだ。
 これに関連して、国会で立法考査にかかわる私の友人は、政治リーダー、とりわけ首相がしっかりとした指導力を示し、官僚がリスクをとって責任ある行動をすることに対して支えたりバックアップする姿勢を見せなければ、官僚は動かない、という。
 「肝心の政治トップリーダーが頼りにならず、余計なことをしたと責任をとらせるようなことがあれば、役人は、良心に従って行動したのに、出世を棒に振り、しかも退職を余儀なくされ退職金自体も失うようなことになりかねないならば、危険回避のために権限外のことはやらなくなる。役人は、法律論をあれこれ言うが、内心では、このままでは日本はダメになると思っていることもある。だから、政治家がいい意味で『政治判断』で決断してくれれば、役人は喜んで新事態に対応する」と述べている。

与野党とも権力闘争止め、まずは国民や被災者目線で行動を

 こうして見ると、国家非常事態法を素早くつくり、有事対応に機敏な指導力を発揮する政治リーダーが必要だ、ということがわかる。政権交代した民主党政権には、誰もが失望し、今や前の自民党政権と同様、国民の間では政治不信ばかりが強まっているが、今のような日本自体が非常事態の時に、与党であれ野党であれ、ここは政治休戦して、とにかく指導力が問われる菅直人首相でも、まずは危機対応を最優先に、国家非常事態法はじめ、必要な有事対応法案を早く実行に移すことが先決だ。
 とくに、与野党政治家の国会の予算委員会の議論を聞いていても、政権の足を引っ張ることに終始し、議員立法でこの法案成立をめざそうといった言動が見受けられない。といううか、国民目線や被災者目線に欠ける。政治家に輝きもなければ、見識も感じられずない。さらにはこの国の襲来を託したい、という気持ちが起きてこない。政治にすべてを託さなくても非常事態が乗り切れるならば、言うことはないが、現実は悲しいかな、政治に頼らざるを得ないのだ。

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