トヨタはリコール問題でなぜ危機管理のイロハ怠ったのか、信じがたい 過去の成功体験強く技術過信で対応遅れ、それとも大組織病がまん延?


時代刺激人 Vol. 73

日本企業の中だけでなく世界でもトップランクのトヨタ自動車(以下、略称トヨタ)が、リーディング・カンパニーのメーカーの証明ともいえる品質(クオリティ)、そして安全の面で、信じられないリコール(道路運送車両法にもとづく不具合や故障のあるクルマの回収・無償修理)問題に直面したばかりか、その対応に遅れがあったため、厳しい批判を浴びている。とくに米国でのペダルの不具合や事故への対応遅れが大きな問題になり、あおりで米ゼネラル・モーターズ(GM)経営破たんの反動か、今やトヨタ・バッシングに発展しつつあり、下手をすると日本の自動車メーカー全体にまで波及するリスクさえある。
それにしても、なぜトヨタほどの企業がリスクマネージメント(危機管理)のイロハを怠ったのだろうか。何とも信じがたいことだ。経済ジャーナリストの好奇心と問題意識でもって今回のトヨタのリコール問題を取り上げてみよう。結論から先に言えば3つほどのポイントが考えられる。
1つは、過去の成功体験が強すぎて、「そんなことはあり得ない」とする意識が強いのか、あるいはトヨタの持つ技術への過信が強いためなのか、結果として、問題対応が遅れる局面があった点だ。

リコール問題の発端は2009年8月の米国でのレクサス車での死亡事故
 今回のリコール問題が大きくクローズアップされる発端は、2007年ごろからアクセルペダルの不具合での苦情が米国であった、というが、一気に表面化したのは、09年8月の米カリフォルニア州でのトヨタ最高級車レクサスでの4人の死亡事故で、フロアマットにアクセルペダルが引っかかって暴走し事故につながった、というものだ。
米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、アクセルペダルの引っかかりで「踏みっぱなし」状態になる可能性について、9月にガイドラインを出し、さらに11月にはトヨタのユーザーに対してフロアマットそのものの交換か取り外しを強く勧めた。同時に、トヨタに対しても、顧客目線での対応を求めた、という。この指摘を踏まえて、トヨタは11月時点で、改良品のフロアマットとの交換など自主改修には応じることにした。しかしペダルに欠陥はないとして譲らなかった。自主改修対象の台数は426万台に及んだ。
 技術の専門的な話になると、私も断定的なことを言える立場にはないが、メディア報道をチェックしたところ、09年10月に米国やカナダ、欧州でアクセルペダルが戻りにくい、との苦情が多かったという。それへの対応結果なのか、トヨタは今年2010年1月21日に初めてペダルに設計ミスがあったとし米国でトヨタ車のリコールを行った。29日になって欧州でもリコールを発表した。となると、やはりペダルの品質に問題があったのか、と言わざるを得ないのだが、肝心の対応策発表は2月に入ってからだった。

ハイブリッド車ブレーキでも不具合、技術担当役員は「しっかり踏んでもらえれば、、」
 その発表は、トヨタが2月2日に「アクセルペダルの不具合に関するリコール対象車両の改善措置」という形で行った。それによると、「アクセルペダル内部のフリクションレバーの一部が摩耗した状態で、仮に低温時にヒーターをかけたりした場合に結露現象が起き、最悪の場合、ペダルが戻らない現象が発生する可能性があるため、スチール製の強化板を挟むなどの改善措置をとる」というものだ。ここに至るまでに、昨年秋から4カ月ほどが経過してしまっている。しかも一時はペダルには欠陥はないと表明したいわくつきのものだ。これも見方によっては、トヨタの技術への過信が対応行動を遅らせたとは言えまいか。
 また、今年に入ってトヨタの誇るハイブリッド車の新型プリウスのブレーキが一時的にきかなくなる問題が表面化した。これまた、専門技術的な話だが、トヨタ技術担当の横山裕行常務が行った2月4日の記者会見での説明によると、凍結した道路などを走っている際にブレーキが瞬間的に1秒ほど、きかなくなるもので、クルマのスリップなどを防ぐためのアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)というソフトに問題があったのでないかという。
私は、この記者会見には出ていないので、正確には語れないが、複数のメディア報道では、横山常務はその際、「ブレーキをさらに踏みこんでもらえば、クルマはきちんと止まる」とし、言外に、ブレーキそのものに重大な欠陥という認識がない、というのだ。これも技術過信とも受け取られかねない発言だが、トヨタは結果的に2月9日に、新型プリウスのリコールを届け出し、問題のABSの電子制御プログラムを修正するとしている。

米キングストン氏「日本企業の危機管理は遅れている」「問題を最小限に見せる」
 ここで、2月8日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙にテンプル大学アジア研究所長のジェフ・キングストン氏が「トヨタの危機はメイド・イン・ジャパン」と題するコラム記事で問題指摘をしている。参考になるので、少し引用させていただこう。
「トヨタは当初、きかないブレーキやドライバーが自らの意思を持つはずのアクセルペダルの問題の所在を否定し、最小限まで矮小(わいしょう)化しようとした」、「トヨタの反応が鈍く、的外れなのは意外ではない。日本では危機管理がひどく遅れているのだ。過去20年を振り返っても、日本企業が危機管理に成功した例は思い当たらない。どの問題でもパターンはお決まりで、当初の対応は通常遅く、問題を最小限に見せようとする。製品リコールを先延ばしにし、問題についての対外的コミュニケーションも不足し、製品から悪影響を受けた消費者へのいたわりや配慮がなさすぎる」とも。
さらに「この危機対応の誤りには、日本の企業文化的な要素もある。技能と品質に対する脅迫観念のある国で、製品の欠陥を告白することは不名誉や当惑が伴うため、公表や責任を負うことに対する基準が高いのだ」というのだ。何とも鋭い指摘だが、危機管理に関しては、うなずける面もある。

豊田社長に危機意識が欠如、技術担当役員にまかせずトップが説明責任を
 2つめの大きな問題は、組織が肥大化し大組織病が知らず知らずのうちにまん延した可能性が強いことだ。今回の場合、豊田章男社長に対して危機の実体が十分に伝わらず、このため社長自身が記者会見対応や米国政府対応で的確なリーダーシップを発揮し得なかった。その結果、トヨタ車のユーザーにいち早く不具合対応をする決断を伝えるのが遅れたのでないだろうか、という点だ。
豊田社長は2月5日午後9時という、常識では考えられない遅い時間に緊急記者会見を行い、「お客さまに不安を与えてしまい大変申し訳なく思っている。品質への不安を与えることは製造業トップとして非常に残念。1日も早く信頼を回復したい」「現在起きていることは大変なことで、危機的な状況だ」と述べた。
米国メディアの間では、豊田社長が記者会見に応じるタイミングが遅すぎる、説明責任は社長自身にあるとの批判報道が目立ったが、その記者会見でも、質問の形で出た。これに対して豊田社長は「トヨタで一番技術に詳しい人間が説明してきた。トヨタは(誰が説明しても答えは同じという意味で)ワンボイスだ。今後も、私か、それに準じる者が対応する」と述べた。

豊田社長は創業家ファミリー御曹司、傷をつけてはならないという配慮が裏目に?
 しかし、この社長発言は説得力を欠く。やはりトヨタほどのグローバル企業ともなれば、経営トップが率先して会見対応し、説明責任を果たすべきものだ。技術担当の副社長や品質保証担当の常務だけでは、その企業の経営姿勢が問われる。私が想像するに、豊田社長は創業者の豊田ファミリーの御曹司であり、あらゆることに関して、傷がつかないように大事に育てられてきた結果、たとえば危機対応を含めた危機管理についても、十分な訓練を受けていなかったのでないだろうか。
それは、ある面で大組織病の典型だ。しかし、もし豊田社長のもとに、報告が逐一届きながら、肝心の社長自身に決断がなかなかできず問題先送りがあったとしたら、それはトヨタ自体の危機となる。
 3つめの問題は、トヨタのグローバル展開のスピードが早すぎて、しっかりとした現地化対応が追い付かず、自らの生命線とも言える品質管理に問題を生じたことだ。

トヨタの積極的グローバル展開に伴う現地化で品質管理面でのリスクが増大
 今回の米国でのリコールの問題は、トヨタ自身が説明しているとおり、米国トヨタにペダル部品納入している米国インディアナ州の自動車部品メーカー、CTSのものに不具合があったのだ。トヨタとしては、日米摩擦回避のために、輸出先最大市場だった米国で現地生産に切り替え、トヨタの伝統的な「カイゼン」を含むさまざまな品質管理システム、技術の供与を図ると同時に、現地雇用を進めてきた。さらに、米国販売会社のトップは米国人を起用するなど、経営面での一体化も行ってきた。この判断は、まったく正しいし、今後も一段強化すべき点だろうが、たまたま、自動車部品の所で不具合などの問題が出てきたのだ。
しかし、ライバルメーカーの米GMやクライスラーが経営破たんする一方で、韓国などの新興国メーカーの追い上げがある現実を踏まえ、トヨタの歴代経営トップはグローバル展開のチャンスと見て、ロシアやアジアに積極進出を果たしてきた。そこで当然のごとく起きる問題は、戦線が延び切ってしまい中央のコントロールがきかなくなり、とりわけトヨタのような品質、安全を生命線にする企業にとって生産技術、品質管理技術などの徹底が及ばないリスクだ。現に、今回、それが出てきてしまったのだ。何とも悩ましい問題だ。

今回の対応遅れでぜひ「失敗の研究」を、組織に病理あるかどうかチェック必要
 これからのトヨタの最大の難関は、米国議会公聴会などでのトヨタ・バッシングにどう耐えることができるかどうかだ。私は、トヨタの持つ生産技術力、品質管理力はまだまだずば抜けている。海外でトヨタが永年かけて培ったそのブランド力は、日本にとっても誇りだ。その意味で、厳しい試練に耐えると同時に、今回の問題の教訓として、豊田社長が率先垂範して危機管理対応を行い、先頭に立って説明責任を果たすと同時に、供給先行型の企業成長スタイルでなく、顧客、消費者目線での需要創出型の企業成長スタイルに、大胆に切り替えてほしい。
その意味で、あえてアドバイスするならば、今回のリコール・ミス問題での対応の遅れなどに関して「失敗の研究」を、トヨタがしっかりやることを勧める。つまりヒューマンエラーではなく、肥大化した大組織のどこかに、端的には意思決定過程などに問題があったとして、組織エラーに至る問題個所を探り、その問題解決を図ることだ。組織に病理があるかどうか、チェックすることは重要だ。
たとえば、技術系部門に似たような発想、行動形態をとる人ばかりがいたら、出る結論は同じなので、そこに別の発想をする社会科学系の社内人材を起用するとか、いろいろ対策はあり得る。トヨタならば、リカバリー・ショットは打てるはずだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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