人生100年時代に向け試練の挑戦 団塊の世代がカギ、アクティブに動け!


時代刺激人 Vol. 296

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「すごい人がいるものだな」と、きっと誰もが思う話から始めさせていただこう。私の母校、早稲田大学の元総長の西原春夫先生がその人だ。もともと刑法学の専門家だが、最近、私が関係する国際アジア共同体学会の会合で特別講演され、北朝鮮問題や中国の南シナ海での海洋覇権問題など緊張関係が続く東アジア地域には国際法が機能する枠組みづくりが必要で、その具体化のためプラットフォームづくりに今、取り組んでいる、と熱弁を振るわれた。

「すごい人がいるものだな」と、きっと誰もが思う話から始めさせていただこう。私の母校、早稲田大学の元総長の西原春夫先生がその人だ。もともと刑法学の専門家だが、最近、私が関係する国際アジア共同体学会の会合で特別講演され、北朝鮮問題や中国の南シナ海での海洋覇権問題など緊張関係が続く東アジア地域には国際法が機能する枠組みづくりが必要で、その具体化のためプラットフォームづくりに今、取り組んでいる、と熱弁を振るわれた。

89歳の早大元総長
「60歳は人生マラソンレースの折り返し点」発想が素晴らしい

この取り組み自体、極めて重要なことだ。しかし、私が「すごい」と思った理由は別にある。学会終了後の懇談会の場で、西原先生は「私は現在、89歳です。みなさんは、私の年齢でまだアクティブに動いていることに驚かれるかもしれない。でも、大事なのは、志をしっかりと持ち、その志の実現に向け多くの仲間と行動に移すことだ」と述べ、次のように締めくくられたので、その場にいた多くの人たちは感激して思わず拍手したのだ。
「人生をマラソンレースにたとえれば、日本の企業社会で定年と一般的にいわれる60歳の年齢は、人生の折り返し点に過ぎない。そこから新たな後半生に向けゼロスタートとなる、といった発想で意欲的に行動することが必要だ。私の89歳は、そのスタート地点から数えると、今は29歳となり、後半の実社会で本格的に動き出す年齢だ。私も引き続きがんばるので、みなさんも人生100年社会という位置づけでもって、現代日本の高齢社会が抱える課題、あるいは世界の課題に取り組んでいただきたい」と。

生涯現役ジャーナリスト志向の私も思わず脱帽する
問題意識やスケールの大きさ

私も70歳を過ぎてしばらくたつ今、生涯現役の経済ジャーナリストを意識し現場取材などを続けて情報発信に取り組んでいるが、私と違って、問題意識や取り組みのスケールの大きさ、すごさには思わず脱帽だ。西原先生の話に強い感動をおぼえた私は、その懇親会場で直接、日常生活をうかがった。すると、今や世界中で大きな焦点となりつつある東アジアで国際法が機能するようなプラットフォームづくりのため、中国政府に参画してもらうことが重要であると、中国訪問も時々、されるという。
そのバイタリズムにも驚いたが、さらに驚いたのは、外出時にいまだに、自ら自動車を運転されていることだ。さすがに、私は「最近、高齢者ドライバーの事故が目立ちます。自分は絶対に大丈夫という過信が思わぬ事故につながっていますので、ご注意を」と申し上げたら、西原先生は「過信は禁物。その点は、十分に注意している」ということだった。それにしても、この行動力はとても89歳とは思えない。

「18歳と81歳の違い」事例が興味深いが、
81歳イメージを変革できるかが焦点

本題に入る前に、私の知り合いの野村證券OBの高梨勝也さんが、ある友人から披露されたという「18歳と81歳の違い」の事例がなかなか興味深い。というか、私は思わず抱腹絶倒してしまった。ここにご紹介する81歳は、西原先生とは違った、まさにこれこそが今の現実かもしれないが、今後、人生100年社会を考えた場合、ここで描かれた81歳の人たちの意識改革ができるかどうかだ。まずは、そのいくつかをご紹介しよう。
「人生につまずくのが18歳、小石につまずくのが81歳」「高速道路を暴走するのが18歳、逆走するのが81歳」「心が脆(もろ)いのが18歳、骨が脆いのが81歳」「まだ何も知らないのが18歳、何も憶えていないのが81歳」「自分探しの旅をしているのが18歳、出かけたままわからなくなるのが81歳」。この興味深い話はまだ続く。「愛しているって聞くのが18歳、息しているって聞かれるのが81歳」「アメをかみ砕けるのが18歳、アメをかみ歯が砕けるのが81歳」「自動車運転免許とるのが18歳、返納するのが81歳」「乾杯で会を始めるのが18歳、献杯で会を始めるのが81歳」。

81歳の高齢者の姿をうまく浮き彫りにしているが、西原先生からすれば、「他人から、そのように見られて恥ずかしくないか。もっとメリハリのある人生を過ごせ」という反論が返ってくるかもしれない。

 

超高齢社会が始まる2025年が最大危機、
800万人の団塊世代が75歳に到達

さて、ここからが本題だ。西原先生が問題提起されたことに関しては、100%同感で、それを踏まえて、私は、今後の日本の高齢社会に関して、次のような問題意識でいる。
日本は今後、高齢化の「化」がとれて、文字どおり高齢者の数が人口面で次第に大きな比重を占める高齢社会に陥る。それどころか、戦後日本の高度成長経済の大きな担い手だった団塊の世代という巨大な人口の塊が2025年に75歳の年齢層に達する。高齢社会どころか、「超」高齢社会となるのだ。何とその団塊の世代層は800万人に及ぶ、というから重大事態だ。
ところが日本政府や自治体、企業は、こういった時代が訪れることを早くから予見していながら、それに見合った制度設計、社会システムづくり、財政負担対策、さらには医療や介護の現場がこの人口の巨大な塊によって大きな負担を強いられることに対応するシステムづくりに関して、率直に言えば、とても十分なことができていない。今後の政策課題は多い。とりわけ高齢社会が定着する中で、制度や社会システムなどをどこまでそれに見合ったものにできるか、そして団塊の世代対策だ。

英グラットン教授の「100年時代の人生戦略」は
まるで日本への制度設計アドバイス

そういった点で、西原先生が問題提起されたことは重要だ。企業社会国家とも言える日本で60歳定年によって自らの人生は引退、隠居し、あとはのんびり人生と考えたら大間違い。医療技術の発達によって、健康寿命が大きく伸び、人生100年時代も十分に想定される。団塊の世代が今後、社会のお荷物とならないように、アクティブシニアとして元気で好きな仕事に携わり、医療や介護の世話にならずに済むようにすることだと思う。
この問題意識に沿って、まるで日本の将来設計を想定して書いたのでないかと思う本がある。すでに話題になっているので、お読みになった方々も多いかもしれないが、英国ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授が書いた「100年時代の人生戦略」(東洋経済新報社刊)がそれだ。ぜひ読まれたらいい。
グラットン教授によると、これまでは、20歳までが学びという名の教育時期、60歳までが生産労働力としてさまざまな仕事に携わる時期、それ以降は、いわゆる退職、引退によって老後を楽しむ時期という3段階構造の人生設計が主要国で一般的だった。しかし今やそれは時代遅れになっている。今後は、引退によって豊かな老後をエンジョイするのも重要な選択肢だが、むしろ自身で新たなスキルを学んでそれを活用、あるいはこれまでとは全く異なるワークスタイルで仕事をしてみるとか、要は長寿社会になることを前提にマルチステージ、つまり多段階構造の人生設計をたてることが必要だ、というものだ。

団塊の世代を軸にした超高齢社会の制度設計、
システムづくりが出来ていない

日本は、世界でも人口の高齢化のスピードが最も早く、その一方で国民皆保険制度や医療保険制度、介護システムなど世界の先進モデル事例になる要素を持っている。それだけに、日本が、よく言われるように「課題先進国」として課題解決の先進モデル事例をどんどん出していけば、間違いなく世界で大きな存在感を示すことができる。
実は、日本は、歴史という長い時間をかけて、人口の高齢化に対応した制度設計、さらに社会システムづくりをしてきたはずだが、すでに申し上げたように、ここ10年以上、団塊の世代の高齢化などへの対応が遅れ、成熟社会国家に見合ったシステム設計が後手後手になっているのが問題だ。
しかし、中国やタイなどの国々が日本とは違った形での人口の高齢化に苦しみ始めている。つまりこれらの国々は、経済成長に弾みがつき、中進国から、もう一段の高みの先進国への道を歩むところまで来たにもかかわらず、人口の高齢化スピードが速まり、それに伴う医療費や介護、年金などの財政負担が必要になって、言ってみれば経済成長の果実をそちらに回さざるを得ず、そのあおりで「中進国の罠」という政策ジレンマに陥っている。その点では日本は、そのレベルを過ぎており、逆に先を進んでいる「先進国」として、高齢社会化のさまざまな問題について、アドバイスできる立場にある。

人生年齢は8掛けの発想、
「健康寿命よりも就労寿命を伸ばせ」の発想が重要

ここまでは総論の話だ。問題は、いま70歳前後の800万人に及ぶ団塊の世代という巨大な人口の塊の世代をどうやってアクティブシニアにするかが最重要課題だ。私はかねてから人生年齢に関しては8掛けで、プラス思考でとらえるべきだ、という持論でいる。それでいくと、まだ56歳前後という計算だ。
それともう1つ。私は、健康寿命という言葉の使い方に、どこか抵抗があって、働くことに生きがいや意欲を持つことが結果的に健康につながるという意味で、健康寿命に代わる就労寿命という言葉がいいな、就労寿命を伸ばせばいいのだと思っていた。そうしたら同じような発想をされる方がおられ、医師の石蔵文信さんがやはり「健康寿命りも就労寿命」という形で同じような問題提起をされているので、うれしくなった。この言葉も、団塊の世代の人たちにぜひアピールしたい。
要は、病院治療や介護に頼らず、健康体で、しかもこれまでの企業の現場で培った知見や技術などをうまく生かしてアクティブに仕事をし、それによって「俺たちは時代のお荷物ではない。税金をもらうどころか、担税力を持っていて支払う側にある。見損なうなよ」と啖呵を切ってもらう元気ぶりを発揮してほしいのだ。

大企業OBと中小企業の間の人材マッチング
「新現役交流サポートの会」が面白い

そんな問題意識でいたら、最近、うれしい取り組みを知った。一般社団法人「新現役交流サポートの会」という会で、大企業を定年退職したりしたあと、大企業に勤めていた時代に培った経験やノウハウをうまく活かしれないままでいる人たちと、その一方で、中小企業の人たちの間では、さまざまな人材を必要としているのに人脈ネットワークがなく、ビジネスチャンスも失うといった現実をうまくマッチングしていこう、という取り組みを行っている。会は生保OBの保田邦雄さん、それに経産省・ジェトロOBの塚本弘さんらが中心になっている。
この問題に関心を持って取材している友人の共同通信OBの経済ジャーナリスト、中西享さんから「ぜひ取材したらいい」とアドバイスを受け、最近、東京都内の6つの信用組合と「新現役交流サポートの会」が共催の形で、大企業OBの人たちと中小企業をつなぐ人材マッチングの会合に参加させていただいた。
結論から先に申し上げれば、なかなか活気があって、よかった。中小企業の側は、技術経営などの面でアドバイスをしてもらえる人材ニーズが非常に強く、また「新現役交流サポートの会」の人材登録した大企業OBの人たちもフルタイムでなくても自らの経験やノウハウの活用先を、と探し求めていた人たちが多かった。これまでなかなか機能していなかったシルバー人材センターに代わるものになること間違いなしだ。応援したい。

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