大丈夫?自民総裁の大胆金融緩和策 資金需要伸びず、デフレ脱却は別対策で


時代刺激人 Vol. 206

日本の政治劣化で先行きに不安を感じていたが、総選挙に臨む主だった政党の動きを見ていると、時代刺激人ジャーナリストの立場で言えば、荒っぽい選挙公約が目立ち、率直なところ、ますます不安を感じる。政権交代で有権者が変化を期待した民主党は期待裏切りの3年間だったし、とって代わろうと意気込む自民党は同じ3年間で、徹底批判された古い政治体質をどう反省し、新たな政策の力を蓄えたのかがさっぱり見えない。

第3極をめざす政党は、と言えば、維新ひとつ見ても準備不足が否めず、仮に自民、民主両党の既存政党離れの無党派層票を得たとしても、民主党の未熟の二の舞いになりかねない。また、総選挙対策の理由で政党再編に踏み切った少数政党は、期待を抱かせる政策になっていない。日本の周辺の新興アジアで、対中国を含めて、しっかりとした取り組み対応が必要なのに、日本の政治は、大丈夫なのだろうか、と思わず考えこんでしまう。

政権狙い理解できても、
インフレターゲット2%実現に向けた大胆緩和は荒っぽい
今回のコラムでは、経済ジャーナリストの立場で、経済問題にしぼって考えてみたい。特に、次期政権の最短距離にいる、と世論調査で出ている自民党、その政治リーダーの安倍総裁の打ち出した大胆金融緩和策が何とも現実を見据えない不安な部分を残しているので、それを中心に問題展開したい。

結論から先に申し上げよう。安倍自民党総裁が総選挙に勝利して政権奪還したい、という政治的意図を理解できないわけでないが、そのためにインフレターゲットにあたる消費者物価上昇率目標を2%に置き、その実現に向けた日銀の大胆金融緩和によって一気にデフレ脱却をめざせばいい、という主張は荒っぽい。

「公共事業10年集中的実施の財源、
日銀の国債大量買入れ増で」も危うい
 関連して、社会保障財源確保のために民主、自民、公明3党合意で踏み出した消費税率引き上げに関しても、安倍総裁は、デフレが長引き物価回復が見込めなければ税率引き上げを白紙にせざるを得ない、そうなれば社会保障改革も先送りになるが、それでいいのか、と半ば選択肢はないぞ、とでも言いたげな形でデフレ脱却の大胆金融緩和に固執する政策姿勢だ。これも同じく大丈夫なのかな、と思いたくなる。

また、安倍総裁は、選挙公約で防災と減災のための公共事業を10年間に集中的に行うことを鮮明に打ち出し、その財源については「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう」と発言し、財政法で禁じた日銀の国債引き受けにつながりかねない、との反発が出たため、一転して、市場経由での日銀による国債の一段の大量買い入れ増でまかなえ、との主張になったようだ。しかし、聞きようによっては、日銀に財政資金の貯金箱役を、というわけで、財政規律の問題をどこまで本気で考えるのか、安倍総裁も危ういな、と首をかしげざるを得ない。

安倍総裁の強気の金融緩和策は金融市場での株高・円安でさらに弾み
 総選挙を意識した政策公約とはいえ、なぜ、こんな言動になるのだろうか、と考えたが、それは株式市場での株高、また為替市場での円安の進行にあった。安倍総裁が、この金融緩和大胆論をぶち上げてから、金融市場が、政策効果期待を先取りする形で、株高、そして円安を織り込んだのだ。

それに自信を得たのか、安倍総裁は「もう、この金融緩和をめぐる民主党の野田首相との論争は勝負あった。すでに自民党が政策の新公約を発表したあと、円が円高の行き過ぎが是正されてどんどん(円安方向に)下がっていくではないか。株価は逆に上がっている。どちらの政策が正しいかは、もうすでにはっきりしている」と、地方遊説先の自民党セミナーで述べている。

日銀がすでにインフレターゲット導入し量的緩和しても効果上がらずをどう見る?
 さて、ここで、日銀の金融政策を現場でウオッチしてきた経済ジャーナリストの立場で、安倍総裁が打ち出した大胆金融政策のどんなところが荒っぽく、危ういなと感じるか、申し上げよう。

最大のポイントは、すでに日銀は今年2月、物価上昇率1%めどをターゲットにした「インフレ目標」政策を初めて導入すると同時に、一段の大幅な量的金融緩和策を行ったが、ユーロ危機や中国経済の鈍化を背景にした日本経済の実体経済自体の弱さでデフレ脱却がさっぱり進んでおらず、量的な金融緩和策の効果に限界があるのでないかということだ。
にもかかわらず、安倍総裁は、日銀の量的緩和がまだ小幅にとどまっていることにこそ問題ありとし、最近の講演では「輪転機をぐるぐる回して無制限にお札(日銀券)をすればいい」「(民間銀行が日銀に預ける)当座預金金利も現在の年0.1%よりもゼロかマイナスにすればいい」といった形で、無制限の金融緩和を主張している。

金融機関は資金需要難を理由に長期国債に投資運用し量的緩和効果上がらず
 しかし、それによって、本当に経済がデフレ脱却に向かうという保証はあるのだろうか、これまでの金融政策を検証しても大胆緩和の効果が上がっておらず、さらに緩めるというのは副作用の方が大きくなるリスクがあるのではないか、ということだ。現実問題として、東日本の復興開発現場での企業の資金需要は別にして、いま、旺盛な資金需要が日本国内であふれんばかりに起きているのにマネー供給が不足して、そのネックによってデフレの深化が進んでいる、とは思いにくい。

むしろ、メガバンクを含めて民間金融機関が融資先の企業への資金が不良債権化するのを恐れて、貸し渋りを行っている、というよりも、資金需要が起きないために、これら金融機関は、相も変わらず長期国債に投資しているのが現実だ。いわば、行き場のない量的緩和のマネーは金融機関の手元で滞留するか、長期国債投資への運用に回っているのだ。安倍総裁は、この金融現場の現実をどう見ているのだろうか。

それでも安倍総裁は日銀法改正して説明責任や雇用増加協力を負わせると強気
 そればかりでない。安倍総裁は、日銀がインフレターゲットを1%とか小幅に置いていることに問題があるのであって、自民党の政策公約では2%に引き上げたが、自分自身としては3%でもいいと考えている。そうすれば、一気に金融緩和感が実体経済に浸透し、経済の流れが変わってくる、という。そして、自民党が政権をとった段階で、日銀法を改正し、政府のマクロ政策の実現に向けて協力させると同時に、インフレターゲットに実績が達しない場合には日銀総裁に説明責任を求める、さらに日銀には雇用増加に関しても政策責任を負わせる。そのために、日銀法の改正も視野に入れる、というのだ。
このうち、政府が中央銀行の聖域とも言える独立性の部分に手を突っ込むのは問題でないか、という反発が出てきたため、安倍総裁は言葉を濁しているが、政治が金融政策に注文をつけて何がまずいのか、といった姿勢を変えておらず、この点でも危うさを感じる。

日銀による国債直接引き受けめぐる発言でもマーケットへの影響を考えるべきだ
 それに、金融専門家やシンクタンク・エコノミストらから反発を招いた、安倍総裁が一時、公言した日銀による政府発行の国債直接引き受け問題に関しても、当初は日銀法改正でやるべきだ、と発言し、実は日銀の国債引き受けを禁じているのが財政法だと言う点を安倍総裁は知らなかったフシがある。その点でも、安倍総裁は金融政策には十分な知識がなく、周辺の政策の知恵をつけた人たちの話を消化不良のまま、オープンな場でしゃべってしまった、という危うさもうかがえる。

ただ、このあたりは、いずれ政権をとるかもしれない自民党の総裁として、あるいは首相候補として、マーケットにも、金融政策にも十分な見識がないまま、アドバルーンだけ上げる政治家と決めつけられてしまえば、今度は一転、金融マーケットから売り浴びせられるリスクもある。率直に言って、マーケットにからむ問題の発言に関しては、言葉を選びながら発言をすることが重要だ、ということを申し上げたい。

その点で申し上げれば、実体経済が好転していない中で、日銀による国債引き受けを主張したりするリスクは計り知れない。というのも、欧米の金融投機筋が一転して、日本国債売りだとか、日本円は売りだといった形でマネーゲームのターゲットにしかねない問題がある。今や日本国内では、さきほど申し上げたように、民間金融機関が足元の滞留マネーの運用先として長期国債投資に向かい、国債価格が高く、逆に長期金利が低く抑えられているプラス効果が出ているが、もし、欧米投機筋の思惑的な日本国債売りによって、一転して国債価格下落、長期金利が逆に急上昇となったら、それこそ実体経済のダウンサイドリスクを引き起こす。

政府は海外投資家が思わず日本に投資したいと思う大胆なプロジェクトを
 それよりも、私は以前から申し上げている点だが、デフレ脱却のために、絶対にこれだという妙案はないとはいえ、政府や、さらには政治がもっと大胆な規制緩和策を打ち出すと同時に、一段の経済特区の推進などを行え、という立場だ。とくに、東日本の大震災地域の復興に関しても、政府主導で新たな復興特区、防災面で農漁業と都市がバランスや調和がとれる新たな町づくりで復興需要を高めるとか、海外の投資家が思わず、これなら日本の再生に賭けて投資してみようと思うような構想力のある、わくわくするようなプロジェクトを立ち上げることの方がマネーは動き、それに誘発されて経済が活性化すると思う。

現に、民間の大企業を中心に、内部留保は多いのに、行き場を見出せず、資金をだぶつかせている企業が意外に多い。これら企業の資金を積極投資に引っ張り出す大胆なプロジェクトを、政府自らが打ち出していけばいいのだ。金融政策に過大な負担を強いるよりも、まずは政府がもっとアクションを起こすことだ。もはや、かけ声だけの成長政策を計画で出すようなことを終わりにすべきだ。

自民党は野に下った3年間で見違えるようによくなったと思わせる政党に
民主党がレームダック化してしまった現状で、有権者は、今回の総選挙で、民主党に政権交代を委ねた「失敗の教訓」として、政権担当経験がある自民党に、という有権者の判断があるのは事実。世論調査結果などにも出ている。それだけに、安倍総裁は自覚を持って、そして誰もが、これは面白い、期待が持てると思うようなしっかりとした政策の裏付けがある提案をしてほしい、と言いたい。いかがだろうか。

私の専門分野ではないが、自衛隊の国防軍構想の話なども、聞けば聞くほど、危うさを感じる。それに仮に、政権をとって、首相になったあとに、靖国神社参拝や尖閣問題で過激発言を行って対中国関係を悪化させる恐れも懸念材料だ。自民党よ、野に下っていたこの3年間で、本当に勉強して、信頼に足る政党としてよみがえったな、と言われるようにしてほしい。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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