アジア危機対応で新プラットフォームを アジア・シンクタンク・サミットがヒント


時代刺激人 Vol. 221

いま中国で「シャドーバンキング(影の金融取引)」という聞きなれない金融取引が肥大化し、不気味な存在になりつつある。事態を重く見た中国政府の銀行業監督管理委員会は厳しい監視対象にすると同時に、中央銀行にあたる中国人民銀行も金融政策面で規制に動きだした。このため、中国の金融市場では短期金利が過剰反応して急上昇し株価が一時、急落した。それがそのまま「マーケットの時代」「スピードの時代」「グローバルの時代」のもとで世界中に波及し、金融関係者の間で中国金融リスクへの不安感が広がった。

中国「シャドーバンキング」に金融不安リスク、
不気味な存在でウオッチが必要
この金融取引は、名前のとおり、銀行経由の正規のものと違って、信託会社などノンバンクが高利回りで誘いをかけた金融商品で、行き場のない中国国内のマネーを吸い上げ、それらを地方政府や地方の不動産開発業者に高利で融資しているものだ。典型的な財テク商品で、中国名では理財商品と呼ばれているそうだが、中国銀行業監督管理委員会の尚福林主任が6月29日に公表したところでは、その残高が8兆2000億元(日本円換算で約130兆円)というケタ外れの金額に上っている。

しかし中国からの現地報道では、その残高規模は公表数字の4倍ほどに膨れ上がっている、という。公表数字だけをとっても中国GDP(国内総生産)の約16%に及ぶため、金融当局にとっては看過できない数字だ。仮に不動産開発業者への高利のノンバック融資が焦げ付いたりしたら、金融不安、信用不安に一気に波及し大変な事態に発展しかねない。不動産投資バブルが消えない中国の地方経済のリスクを考えると、間違いなくウオッチが必要と言っていい。不気味な存在になりつつある、というのは、そういう意味だ。

アジア開銀研サミット会合は政策連携に向けたプラットフォームづくりで成果
 そこで、今回のコラムに移ろう。実は最近、私がメディアコンサルティングでかかわるアジア開発銀行研究所で、この中国の「シャドーバンキング」リスクのような問題が仮に現実味を帯びた場合、アジア各国の政策シンクタンクはリスク回避のために、政策連携を通じて当事者の国の政策当局に共同で提案行動がとれるだろうか、ということを議論する会合が開かれた。アジア・シンクタンク・サミットと呼ばれるもので、21か国・地域の41の政策シンクタンクが初めて東京に集まり、2日間かけ、さまざまな議論を行った。

サミット会合の目的は、こうだ。アジア開銀が行った2050年時点でのアジア経済の動向を予測した調査によると、中国、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)10か国・地域を含めたアジアのGDPが世界の過半数を占める世界の成長センターになる。世界への影響力が各段に上がるアジアで今後、経済・金融危機が起きたら、世界中にリスクが波及する恐れがある。それを未然防止するため、各国の政策シンクタンクがヨコの連携を強められないか、言ってみれば政策調整や政策連携のプラットフォームをつくれないだろうか、というものだ。

経済・金融危機のリスク管理にとどまらず成長拡大のための政策連携もテーマ
もちろん、今回のアジア・シンクタンク・サミットはリスク対応、危機管理だけでなく、成長を加速するためにはマクロ政策連携だけでなく、都市化などに伴う物的インフラの整備、それに医療や教育、年金、介護など社会インフラの充実をはかるための政策情報共有、さらに大気汚染や環境破壊などアジアの地域全体に及ぶ経済社会への影響対策に関する政策提案など、成長の芽を広げ、地域連携を広げることに伴うスケールメリットを得るためにはどうすればいいか、といったことも議論のテーマだった。

しかし最大の関心事は期待対応のための政策連携などのプラットフォームづくりにあった。率直に言って、2日間、ずっと議論を聞いた感じでは、アジア各国のシンクタンクには温度差があり、一気に方向付けが出来たというところまでは至っていない。しかし、問題意識がかなり共有できたことは間違いない。というのも、目先の中国の「シャドーバンキング」リスクの問題もさることながら、アジアでは1997年のアジア通貨危機、さらにその後、2007年から08年にかけての米国リーマンショックに端を発したグローバル金融危機のアジアへの影響があった。

アジア各国間のヨコの政策連携を期待、
過去の政策成功例や失敗経験の共有も
各政策シンクタンクにしてみれば、今後、アジアが震源地となって世界中に影響を与えるような経済、金融リスクが現実のものになった場合、その影響がはかりしれず、対応しきれるだろうか、という危機感が極めて強い。このため、リスクが顕在化する前に、危機管理や予防対応がどこまでできるか、そのノウハウをできれば共有したいのが本音だ。

その意味で、今回のようなアジア・シンクタンク・サミットは、願ってもないものだと言える。というのも当事者の国のシンクタンクだけでなく、各国間でのヨコの連携が必要になると同時に当然、過去の事例や政策実行の経験、あるいは失敗の経験を知りたくなる。そこから、対応策を学び取ることができるし、政策ツールの準備もできるからだ。

中立的な地域開発機関主導での組織化が重要、
メディアが報道しないのが残念
公的な地域開発金融機関のアジア開銀の戦略シンクタンク、アジア開銀研のような中立機関が各国に働きかけて、今回、初のアジア版シンクタンク・サミットが実現したことは意味があった。正確に言えば、実は米国ペンシルバニア大学のシンクタンク&市民社会プログラム(TTCSP)との連携で実現した。TTCSPがグローバルレベルで、地域シンクタンクのサミット会合を開催、アジア開銀研がそのアジア・大洋州版会合に呼応したのだが、今後は、世界でアジアの存在感が強まっていること、成長センターのアジアでの危機へのリスク対応が重要であることから、この地域に精通しているアジア開銀研主導で恒常的に毎年でもシンクタンク・サミットを開催すればいいと思う。

今後のアジアを見据えた時に、こういった政策連携のプラットフォームづくりで動き出したことに関して、なぜかメディアがあまり取り上げなかった。私がメディアコンサルティングに携わっているからというわけでないが、メディアも単なるレポーターにとどまらず、また世の中の事象を批判することに終始せず、こういった流れを変える新たな動きをしっかりと分析し報道することが重要だ。

中国では政策シンクタンクの独立性確保が課題、
各国との連携でパワー確保を
 そこで、今回のサミット会合での議論で、興味深い発言をレポートしてみよう。中国シンクタンク、開発研究基金のマイ・ルーさんの発言が率直で面白かった。今回のサミット会合を評価したうえで「アジアの世紀が今後、中国の台頭で中国の世紀になると考えるか、といったことを聞かれるが、中国はまだまだ学習しなくてはならないことが多い。現に、東京大や東京財団などと互いに協力し合っている」という。

また、政策シンクタンクの役割について「中国では政府系のみならず民間も含めシンクタンクが数多くあり、いろいろな活動を行っている。ただ、政府系シンクタンクが政府の政策を批判すると、なぜ政府批判を行うのかと反発を浴びることがある。政策研究の自由度を高めるには独立性をどう担保できるかなど、課題が多い」とも述べた。 確かに、政府系の政策シンクタンクは、どの国でも政府から予算をもらっての研究が多く、マイ・ルーさんの発言のように、政府からにらまれて、予算減額の圧力を加えられるリスクがある。その意味で、アジア各国の政策シンクタンクがヨコの連携をとって、政策連携のパワーで危機時にリスク回避策を提案するフレームワークをつくることが重要だ。

韓国KDIは政府から独立し政策関与、
日本は霞ヶ関が最大の政策シンクタンク?
 また韓国開発研究院(KDI)のジョー・キムさんの発言も政策シンクタンクの独立性という点で、興味深かった。42年前の朴政権時代に、政府の政策立案に協力する研究所ということでKDIがつくられ、政府への政策提言も行った。ところが当時の朴大統領が、なぜかKDIを政府の外に出せと主張し、その後は政府の外で、独立した形で政策立案することになった。結果的に、その大統領判断に支えられ、独立の立場を貫けているうえ、提案した政策が批判を招かないように、政策内容の精度を上げている、という。

日本では霞ヶ関の行政官庁が、最大の政策シンクタンク化している。韓国KDIのように、独立の政策シンクタンクをつくる必要があるが、現状では民間の場合、銀行や証券系のシンクタンクとは別に、構想日本や言論NPOなどが独自の政策提案を大胆に行えるほど育っていないのが現実だ。私はかねてから主張しているが、立法府が国民目線で行政府の行政監視をしっかりと行い、政策や制度設計に問題がないかチェックすればいいのだ。

立法府が行政府監視で、
国会事故調のような新たな政策調査委立ち上げも

アジアには政策連携が必要な課題が山積、
日本は先進モデル事例提供して貢献を
アジアではマクロ経済政策課題のみならず、すでに申し上げたように経済社会問題で共通に政策情報を共有していいテーマが数多くある。とくに都市化などに伴う物的インフラの整備のみならず医療や教育、年金、介護など社会インフラの充実をはかるための政策、さらに大気汚染や環境破壊などアジアの地域全体に及ぶ対策に関する政策などがそれだ。

日本は、先進モデル事例を持っているのが大きな強みだ。その意味でも日本が政策シンクタンクの陣容を整え、今回のアジア・シンクタンク・サミットに参加したアジアの政策シンクタンクと連携し、新たな政策連携や政策調整のプラットフォームづくりに踏み出してほしい、と思う。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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