オリンパス問題の教訓は何か 経営に緊張与えるお目付役必要


時代刺激人 Vol. 164

 オリンパスの巨額損失隠し問題を調査していた外部有識者らの第3者委員会の報告書(12月6日公表)を読んで、いたるところ驚きというよりも、これが内視鏡技術で世界的なブランドを誇る会社の経営実体なのか、とあきれ果てた。
その報告書や要約版は、オリンパスのネット上のホームページで簡単に読めるので、要約版だけでもご覧になったらいい。問題企業の課題はこんなにもあるのか、ということがわかる。経済ジャーナリストのみならず多くの人にとっても問題企業研究の対象となる。

第3者委員会報告書を受けて、オリンパスの高山修一社長が翌7日に緊急記者会見した。新たに経営改革委員会を設置するとともに、社外取締役増員によって企業ガバナンス(統治)はじめ経営刷新を行うと表明、そして来年2012年2月に臨時株主総会を開催し、責任をとって現役員が総退陣をすること明らかにした。当然のことだ。
しかし克服すべき問題は数え切れないほどあり、オリンパスの経営刷新は本当にやれるのか、というのが率直な印象だ。そこで、今回は第160回のコラムで「なぜ、なぜが多すぎる不祥事オリンパス、企業はいったい誰のものか」に続き、第3者委員会報告書を見て浮き彫りになった問題をヒントに、「オリンパス問題の教訓は何か」を取り上げてみたい。

企業コンプライアンス(法令順守)欠如の体質が今も続く
     そう思っていた矢先、12月11日付けの日本経済新聞の社会面の片隅にあったオリンパスがらみの小さな記事を見て、またまた驚いた。経営トップの損失隠し、隠ぺい体質だけではなくて、企業ぐるみのコンプライアンス(法令順守)欠如の体質が続いていることをうかがわせる話なのだ。まず、その問題を取り上げよう。

オリンパス幹部社員の浜田正晴さんが2007年6月、内部通報制度にもとづきオリンパス社内の法令順守窓口に、よかれと思って進言した案件が会社側の反発を招き、逆に不当な扱いで配置換えなどの人事報復扱いを受けたのだ。
浜田さんは納得がいかず、訴訟に持ち込み、結果は東京高裁で勝訴した。にもかかわらず会社側は慰謝料などの支払いを渋った。今回の不祥事発覚で、不安を感じた浜田さんがオリンパスの預金差し押さえを申し立てたら認められた。そこで、会社側が急に12月6日になって、あわてて260万円の慰謝料支払いなどに応じた、というものだ。

問題提起で内部通報した幹部社員を保護せず、逆に報復人事
 浜田さんの内部通報は、オリンパスが、顧客の重要取引先企業から社員を引き抜き採用し、さらにもう1人の引き抜きに動いており、取引先との関係悪化につながりかねず、自粛すべきでないか、という進言だった。ところが、コンプライアンス室長は担当の事業部長や人事部長らに対し、内部通報者の浜田さんの名前、通報内容を、担当部長らに報告してしまった。
善意の通報者を保護しないばかりか、浜田さんを逆に、配置換えなど報復の更迭人事処分に追い込む結果となった。オリンパス側は東京高裁の判決に不満で、最高裁に上告も辞さず、という状況だったが、巨額損失隠し問題の表面化で、社会の風向きがオリンパスにアゲインストな状況に転じたことから、あわてて支払いに応じたのが現実だ。

企業の風通しよくするための内部通報制度を「密告制度」と勘違い?

 要は、内部通報制度というものが、決して密告制度ではなく、企業の風通しをよくするものである、ということを根本から理解していないのだ。だから、オリンパスのコンプライアンス室は守秘義務を守らず、逆に内部通報者の名前や通報内容を利害がからむ側に伝える、というバカげた行動に出てしまった。

内部通報制度はまだまだ日本の企業社会には定着していないのは事実。しかしオリンパスのコンプライアンス室は、コンプライアンスという英語名が法令順守という意味で、内部通報者の善意の進言や通報をしっかり守ることで、企業内の民主主義が維持され健全な企業風土を作り出せる、という基本を理解していない。コンプライアンスが何であるか、ほとんどわかっていないダメ企業だと言われてもやむを得ないほどだ。

第3者委は監査役、監査法人にチェック機能が働かないことを批判
 さて、本題だ。オリンパスの巨額損失隠しを調査した第3者委員会報告書によれば、1)経営トップによる巨額損失処理および隠ぺいに対する監視機能が全く働かなかった、2)歴代の会社トップが長期間、ワンマン体制を敷く企業風土が問題で、役員の間に社長交代のシステムが確立されておらず、仮に問題がありそうだと察さられる時にも自分の業務のみを見て「大過なく」職務を乗り切ればいい体質があった、3)損失隠ぺいなどの手段が巧妙で、取締役会や監査役会にもほとんど必要な情報提供がされなかった、とある。

問題指摘は、このあとだ。4)会社法上のガバナンスからみれば、不正チェックの機関として取締役会、監査役および監査役会、会計監査人がいるが、オリンパスの場合、取締役はイエスマンが多く形骸化していた。社外取締役もふさわしい人物がおらず機能していなかった。監査役会も形骸化し、社外監査役を含め監査役が事業方針に異議を述べた形跡がなかった、5)監査法人は、オリンパスの一部の取引が不合理なものでないか、といったんは指摘し、チェック機能が働く可能性があったものの、外部専門家による委員会の意見に安易に頼り、結局は正しい指摘を行えなかった、という。

会社側が不正発覚防ぐため、外部専門家委を都合よく活用と問題指摘
 しかし、第3者委は報告書で、外部専門家による委員会の存在を問題視し、6)会社が、監査法人の指摘に対し、外部専門家委員会を組成し、経営トップの意に沿う報告書を求め不正の発覚を防ごうとした。だが、その報告書は多くの留保条件をおいた不完全なものであり、到底、中立公正な第3者の意見として信をおくことの出来るものでなかった。監査役会や監査法人は、この外部専門家委員会の報告書の結論のみに重きをおき、その内容は留保条件に立ち入った検討を行わなかった。外部専門家の委員会は、会社から都合よく利用されるような用いられ方をされたことを自覚すべきだ、という。

この第3者委の報告書を見る限り、確かに、外部専門家委の存在が大きく問われる。メディアでは、この委員会の実体について、あまり突っ込んだ分析報道をしていない。しかし第3者委は、この外部専門家委が、オリンパス経営トップの不正隠しに都合よく使われ、しかも本来チェック機能を果たすべき、監査役、それに監査法人までが責任逃れのためか、この外部専門家委の報告書を逆に活用してしまった、その責任逃れに悪用された外部専門家は自分たちの状況を自覚、かつ反省すべきだ、と言いたげだ。

私はまずは監査役会や会計のプロ・監査法人が不正対応すべき論
 しかし、私は異論がある。確かに、外部専門家による委員会が、不正発覚防止に躍起のオリンパス経営トップらに都合よく悪用されたことは事実だし、問題だが、監査役会、さらに会計チェックのプロとも言える公認会計士集団の監査法人がなぜ、不正を暴けなかったのか、そして外部専門家委の報告書の存在を責任逃れの道具に使って、肝心のプロとしての本来業務を放棄した方こそ、もっと問題だと思っている。

ご存じのように、監査法人のあり方が問われるケースは、過去に米国エンロンの不正に結果的にかかわって破たんした大手監査法人、アーサー・アンダーセンなどの事例が海外で多々ある。日本でも、6年前にカネボウの粉飾決算はじめさまざまな企業の不正な損失隠しや不正経理処理などに対して監査法人が機能せず、金融市場の番人としての役割をほとんど果たしていないことが厳しく批判された。そのあおりで、監査法人が解体され、また経営の吸収統合によって公認会計士が宙に浮くといったケースもあった。要は、今回が初めてでもなく、「えっ、またか」と言われかねないのが現実だ。

監査法人幹部は「巧妙な損失隠しは発見困難」、
金融庁がもっと厳しく対応も
 最近、ある知り合いの監査法人幹部に、今回のオリンパス問題にからめて、なぜ、監査法人が機能しなかったのか、いろいろ聞いてみた。その幹部は「野村証券OBら企業財務プロたちに巨額損失隠しの手ほどきを受け、いわゆる飛ばし行為で帳簿外の損失隠しまで、極めて巧妙に行われると、われわれにだってチェックは事実上、困難だ」という。
とはいえ、今回のオリンパスのケースは、英医療機器メーカーのジャイラス買収、さらにはオリンパスの事業分野とは縁遠いベンチャー企業3社に対しても企業価値をはるかに上回る買収を行い、公認会計士というプロであれば、わかり得ることだっただけに、何とも責任逃れのような感じが否めない。
その点に関して、さきほどの知り合いの監査法人幹部は「ある企業が、不正隠しのために、取引先の企業と結託して、架空の契約書をつくり、実印を押して、われわれを欺いたケースがあった。チェックのしようがない」という。ただ、会計監査をすると同時に、事業のコンサルティングやアドバイスも行う2つの顔を持つ限り、監査法人の監査機能に限界がある。そうはならないように、公認会計士協会が自主規制ルールをもっと強化、さらには監督官庁の金融庁がこれら監査法人に厳しく対応するしかないだろう。

決め手はお目付け役か、
それも社外の独立性高いプロ取締役・監査役を
 あとは、今回のオリンパス問題で感じたことは、ワンマンで長期政権化する問題企業の経営に歯止めをかけ、経営にニラミをきかせ緊張感を常に与えるお目付け役が取締役会、監査役会には絶対に必要だ、ということだ。となると、米国のガバナンス重視の企業で見られる委員会設置会社で過半数の社外取締役を置くこと、さらに、その場合、当然ながら、経営トップの学生時代の友人だとか、昵懇(じっこん)の企業経営者といったことに歯止めをかけるルールをつくること、また独立をどう概念規定するか、ということもあるが、会社と利害も、また何らかの縁故など関係もいっさいない文字通りの独立の社外取締役、独立の社外監査役が必要だ。

独立社外取締役・監査役はプロ登録市場から輩出、
3社以上の兼務は禁止
 その場合、私は、経済ジャーナリスト的な感覚でいくと、そういった独立の社外取締役や社外監査役の候補者の登録マーケットのようなものが必要だ。その場合、企業経営の経験だけでなく、財務や経理などの経営実績を持つ人が絶対に必要だ。そして、その人たちを登録できるようなシステムをつくり資格を持たせる。また、そうしたプロ経営者は3社以上の経営の兼務を禁じて、ある程度、特定の企業の経営に専念することも義務付けるべきだろう。経営の実績も経験もない、たとえば大学教授や評論家、官僚OBなどが入るのも避けるべきだ。今回のオリンパスの問題は極めて特殊ケースという人もおられようが、この問題での企業のガバナンスの教訓はしっかりと受け止める必要がある、と言える。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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