タテ割り行政が東日本大震災復興に「待った」、有事法制などが必要


時代刺激人 Vol. 131

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 「えっ、そんな頑なことが現場で起きているの?」「いまはスピード感が大事だと、みんながわかっているはずなのに、いざ現実に直面すると、リスクをとって思い切った判断がなぜ出来ないのだろうか」――「3.11」大地震・大津波から、すでに1カ月がたったというのに、被災地の現場ではタテ割り行政が、復興に向けた動きに「待った」をかけてしまったり、透明性などを重視し過ぎるあまり、フレキシブルに事態が運ばない、といったケースが出てきている。1995年1月17日の阪神・淡路大震災でも同じことがあったと聞く。なぜ「失敗の研究」結果や教訓が十分に活かされないのか、なぜ同じことを繰り返して学習が出来ないのだろうか、ということを改めて感じる。

まずは、コンビニ大手の社長さんのケースだ。被災地の現場を動き回ったあと、自衛隊の幹部から食材の調達を頼まれ「よし、引き受けた。協力しましょう」と言った所まではよかったが、そのあとに予想外の事態が起きて、思わず「エッ?」と返す言葉に窮した、というものだ。具体的には、ある自衛隊幹部から、災害現場での遺体探しや生活支援などにかかわる自衛隊員用に13万食分のカップラーメンを確保してほしい、という依頼だった。「いますぐということであれば、1万6、7000食ぐらいなら確保が可能。しかし13万食はすぐには難しい。手配するにしても、時間がかかる」と答えた。

自衛隊員13万食分ラーメン早期に必要なのに手続きは競争入札
 問題はそのあとだ。コンビニ大手の社長が「品物の手当の必要もあり、一部は現金前払いなど、買い付け方法はどうされますか」と聞いたら、「週明けに入札でやりましょう」との回答だ。この社長さんにすれば、自衛隊員の苦労ぶりを見ていたので、時間のかかる公開入札手続きには驚いた。「隊員の人たちは、早く口にしたいのでしょう?そんなノンビリしたことでは、対応しきれませんよ」と言ったが、防衛省の物品調達規定では公開競争入札が原則、その入札結果を踏まえて、安く買える事業体のものがあれば、そこでの最終落札、との手順を崩せない、という。

この話は、友人が社長から直接聞いたものだ。私も興味があって、その後、どう対応したか確かめたいと思ったが、多忙な社長なので、なかなかつかまらず、話は競争入札手続きにこだわった部分までで、あとのことが聞けていない。でも、大事なことは、防衛省が非常事の現場で食材の確保にも透明性の確保にこだわって公開入札方式でいく、との姿勢を貫いたことだろう。過去に、不透明な資材の購入などで問題を起こしたことを踏まえてのものだが、この社長にすれば、フレキシブルにやればいいのに、という判断だ。

危険な避難所からの強制的移住の有事対応が必要、と石井さん
 次は被災地の医療にかかわった日本看護協会の石井美恵子さんの話だ。医師や看護師、医療ジャーナリストらのシンポジウムがあり参加した際、パネリストの石井さんの話が興味深く、直接、具体的な話を聞いた。石井さん自身は、阪神・淡路大震災時に出来た災害支援ナース(看護師)のネットワークの有力メンバーだが、東日本の被災地の現場で3月22日以降、高齢者や要介護の人たちの支援の仕事にかかわった、という。

石井さんの問題提起はこうだ。被災地の石巻などの現場で避難所そのものが、次の地震や津波災害に遭遇するリスクが高い場所にあることが多く、しかも避難所が急ごしらえで、設備も劣悪な状況にある。有事対応として、より安全な場所に強制移住させるべきなのに、システムそのものが平時のものになっていて「場所がない」「動かせない」の一点張り。行政がもっと敏感に受け止めて、新たな災害リスクを回避する取組みが必要だ、という。確かに、行政は、こういった現場の貴重な指摘に耳を傾け機敏に動くべきだろう。

被災地の病院間で不足する薬融通規制を緩和するのに長時間
 医療の件では別の人から、こんな話も聞いた。宮城県の被災地のいくつかの病院で薬局部門がダウンして薬の不足が起きたうえ、薬を納入してくれていた卸売業者とも連絡とれずパニック状態になった。そこで、病院間で連絡をとりあって、互いに余裕のあるものを融通しあったりして連携対応した。ところが、薬を融通し合うこと自体が薬事法違反にあたる、という。最終的に、厚生労働省が被災地現場からの要求もあって、有事対応が必要ということで規制を緩和してくれたが、そこに至るまで1、2週間かかってしまった、なぜ、もっと機敏に動けないのかという反発がある、というのだ。

読売新聞が4月16日付の「検証 東日本大震災」企画で、国の硬直対応に批判、という記事でも、似たような話があり引用させていただこう。それによると、岩手医大の小川彰学長が地震直後、緊急に必要な医薬品などの支援を厚生労働省と文部科学省に求めた。ところが数日後、「知事を通じて首相官邸に要請してくれ」という回答。そこで岩手県内を視察中の知事の帰りを待ち、改めて要請したところ、医薬品が届いたのは10日以上もあとのこと。そのころには卸売業者から薬が入った、という。要は非常時に、タテ割り組織が硬直化した対応をやっていては緊急支援の意味がない、というものだ。

自衛隊の行方不明者発見時に警察や消防に通報義務も異常
 もう1つ、まだ現場無視のタテ割り行政があるのか、と思ったのは、自衛隊員が被災地でがれきの山の中から行方不明者を探す際に起きる問題だ。要は、遺体を発見した場合には関係者に連絡し、遺体安置所に運ばなければならないが、まずは警察に連絡し、遺体の身元確認や死因の特定のために検視官、医師、とくに歯型などから身元確認する歯科医にチェックを求める。法律上、それが義務付けられているので、自衛隊員はそれに従う必要がある。一方、運よく生存者を見つけ出した場合には警察ではなく、消防署、その関連で救急車に連絡する必要がある。これも法律で義務付けられている、というのだ。

自衛隊は阪神・淡路大震災後に、災害対策基本法が改正され、警察官が周辺にいなくても救急車の通行をスムーズにするため、放置自動車の移動や撤去などの作業を行えるようになった。しかし自衛隊法では被災地での遺体の捜索や収容、あるいは搬送などの仕事が主たる業務として、位置づけられる状況でない。ましてや遺体や生存者の発見後の処理に関する自衛隊法での明記がないため、遺体は警察に通報義務、また生存者は消防・救急車に通報義務といった形になる、というのだ。

機動対応できる有事法制が必要、全体最適の発想も重要
 最近、宮城県や福島県の被災地を友人の見舞いで訪問の際、この自衛隊の不安定なポジションの話を聞いた千葉商科大学の島田晴雄学長は「まったくおかしな話だ。ある面で、タテ割り組織の弊害だ。自衛隊が被災地で機動的に対応出来るように、有事法制をつくるべきだ」と述べている。確かに、そのとおりだ。既存のタテ割りの法律に振り回されてしまうと、行方不明者の捜索のために自衛隊員、警察官、消防署員が必ず3人1組で行動せよ、といったバカげた事態にもなりかねない。

私はぜひ言いたい。こういった非常事に、タテ割り組織にこだわっていると、互いの行政組織が機動性を失い、何も動かずに停滞だけが残って問題解決にならない。有事の危機対応が問題先送りされるリスクなので、タテ割りの組織に横串をさして連携をとり、速やかに行動する必要がある。要は、部分最適にこだわるのでなく、むしろ全体最適を重視する行動をすべきだ、ということだ。

阪神・淡路震災時に日銀支店長が機敏行動、現場判断の勝利
 そこで、今回は、阪神・淡路大震災時の日銀神戸支店で、当時の遠藤勝裕日銀支店長が現場の判断で機敏な行動をとり、タテ割り組織の弊害をいち早く砕いた、という話をぜひご紹介したい。なかなかわくわくする話だ。
遠藤さんによると、1995年1月17日早朝に大震災が起きた際、とっ嗟に考えたのは、その日午前9時の営業開始と同時に、日銀を含め民間金融の現場で大混乱を起こさないこと、そのためにはマニュアルに沿って、金融特別措置を発効させることだ、と腹をくくった点だ。この金融特別措置というのは、金融機関は、預金者らが通帳や印鑑が紛失していても何らか本人確認が出来るものがあれば、いつでも預金引き出しに応じる、というもので、生活者や企業などの立場に最大限、配慮した措置だ。

この特別措置を素早く発効させるためには日銀支店長の遠藤さん、それに旧大蔵省の近畿財務局神戸財務所長の塩屋さんの2人の署名が必要だった。ところが塩屋さんが地震で大けがをして病院での手術が必要な状況だったが、とりあえず止血だけしてもらって、日銀神戸支店で2人そろって手書きでサインして発効させた、という。

旧大蔵省は当初、日銀での仮店舗営業は銀行法違反とクレーム
 問題はそれからだ。農協系の農林中央金庫と政府系金融の中小企業金融公庫の店舗が全壊ということで、頑丈だった日銀神戸支店に避難してきた。さらに、震災翌日の1月18日には旧日本興業銀行や旧第一勧業銀行が同じく神戸支店が全壊ということで、日銀神戸支店に駆け込んできた。そこで、当時、神戸に本店機能を持っていた旧さくら銀行、旧兵庫銀行、旧阪神銀行の本店もしくは支店に頼みこんで、それら店の一角を使って預金の払い出し業務をやらせてもらうようにした。
非常事だけに、すべてが異例づくめだった。ライバル銀行に、本店などの軒先を貸して商売をさせる事態ことは、平時ならば考えられないことだ。圧巻は、遠藤さんの判断によって、18の民間金融機関のうち、14機関を日銀神戸支店で、残り4機関をさくら銀行などの仮店舗で、すべての預金の払い戻しに応じさせたことだ。

ところが、当時の旧大蔵省銀行局は、被災地の現場にある日銀神戸支店で14の民間金融機関が仮店舗の形で預金の払い出し業務をやるのは、銀行法違反で、事前許可が必要と、東京の日銀本店にクレームをつけたというのだ。遠藤さんはすでに、現場ベースで旧大蔵省の出先機関の塩屋財務所長とも連携して金融特別措置を発効させ、それにあわせて民間金融機関に預金者が殺到する事態に備えた有事対応を適切に行っている。旧大蔵省も実態を知って、最終的に文句のつけようがなく了承した、という。現場の完全勝利だった。

スピード感ある政治が大事、いまだに有事立法ができず
 この場合、日銀支店長の遠藤さんが的確な判断、そして機敏な行動をとったからこそ、奇跡的に金融の現場で混乱が起きなかった。しかし、もし現場が、全体最適でなく、部分最適の発想で行動し、責任逃れの行動に終始したり、上司や上部組織におうかがいをたてる行動に出ていたら、それこそ大混乱になっていただろう。
その点に関して、今回の東日本での大震災はまだ、復興までには気の遠くなるような長い時間がかかる可能性が高い。とくに東電福島第1原発の事故現場は、東電が公表した工程表では安心できる状態までには6~9ヶ月がかかる、という。それぞれの現場が、この阪神・淡路大震災時の日銀神戸支店長のような果敢な判断で、タテ割りの行政のカベ外しに、大胆に挑戦してほしい。政治は、さまざまな対策会議ばかりつくって、いまだに有事立法に積極的に取り組んでいないが、スピード感のある政治をしないと、ますます政治不信を生み出すだけだ、と言いたい。

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