東日本大震災でGPSが意外な活躍 今こそ日本独自のQZSS戦略活用を


時代刺激人 Vol. 141

今回の東日本大震災対応で、とても興味深い話を聞いた。衛星利用測位システム(GPS)の活用だ。大震災当初、目線をちょっと変え、空から見下ろす形で被災地の状況をつぶさに見るだけでなく、道路寸断で支援物資の輸送が遮断されている地域の状況、自動車がまだ走れる地域の状況を情報収集したら、何とさまざまな交通状況が一目でわかり、多くの人にとってプラスだった、という話を聞き、GPS機能のすごさを改めて感じた。

そんな矢先、政府部内にある宇宙開発戦略本部が、米国のシステムであるGPSとは別に、日本版GPSとも言える独自の準天頂測位衛星システム(QZSS)を本格的に事業化するプロジェクトを進めていることを最近知り、思わず興味を持った。いろいろ調べてみたら、その中身がなかなか面白いのだ。災害時に役立つのみならず、産業や生活の分野などで戦略的に活用でき、ケタ外れの需要創出につながることがわかった。時代刺激人ジャーナリストとしても早期に事業化を進めるべきだ、とアピールしたいテーマだ。

米国GPSを補強し測位精度は
10mから一気に1m以下に
準天頂測位衛星システムの「準天頂」という言葉が馴染みのない言葉だな、と思ったら、要は天頂、つまり日本の真上の上空のことだ、という。だから、この測位衛星システムは、日本の上空を通過する軌道に人工衛星をいくつか打ち上げて、衛星が出すさまざまな測位情報を自動車や船舶などの方向づけをするナビゲーション機能に活用したりするものだ。

2010年9月に準天頂衛星1号機「みちびき」の打ち上げに成功し、日本の上空を8の字型で1日8時間、動いている。宇宙開発戦略本部は今、2、3、4号機を相次ぎ打ち上げて測位精度を高める計画でいる。米国GPSの測位精度は約10メートルなのだが、この新システムが実現すれば米国GPSの精度は大きく補強され、一気に1メートル以下、場所によって数センチまで精度が上がるという。日本の技術力はやはり捨てたものでない。

アジア太平洋上も守備範囲、
大津波の予測情報が貴重
今、米国のGPS、欧州のガリレオ、中国の北斗がグローバルレベルで先行し、激しい競争を演じている、という。このQZSSのカバー範囲は日本を軸にアジア太平洋地域の地域限定だそうだが、地震や津波の多いアジア太平洋での測位情報は間違いなく関係諸国にとって貴重だ。私自身、にわか勉強だが、太平洋上のいたる所の海面にGPS波高計などを設置し、海底にある測位計とリンクして大津波の動きなども素早く予測可能になる、という。過去にスマトラ沖大津波で数え切れない死傷者を出した苦い思い出がインドネシアなどにあるだけに、日本のQZSSによるアジア太平洋での測位情報は極めて有効だ。

これによって、日本の存在感が高まるのみならず、その技術力が改めて、高い評価を受けるのは間違いない。この際、日本も国家戦略として推進すべきだろう。国内政治が政争などに明け暮れ、閉そく状況が一段と強まる時にこそ、こういった次代を切り開くシステムを着々と準備しておくべきかもしれない。

コマツが世界中の建設機械の稼働状況などを
GPS機能で把握

このGPSで思い出したことがある。建設機械大手のコマツが「コムトラックス」というシステムを全世界に販売する23万台の建設機械にすべて装備し、GPS機能だけでなく、エンジンコントローラーなどのセンサーから収集した機械に関する情報を通信機能も合わせて活用し本社データセンターで分析解析している。要は、センサーの数値で稼働状況や燃料消費の度合いなどを読みとり、市場の「見える化」を実践しているのだ。

コマツの坂根正弘会長が先見の明で導入したものだが、このシステムは今、中国経済の「体温」を探るのに大いに役立っている、という話を聞き、ビジネスの現場でのGPS活用はこういった形で活かされているのだ、と感心した。
坂根会長が最近、民間の景気討論会でのパネリストとして語った話は、とくに面白かった。それによると、中国国内のコマツの建設機械稼働状況は今年4月まで前年比プラスだったのが、5月に入って一転、マイナスに転じた、という。

坂根コマツ会長
「中国経済は2004年引締め時に比べ軟着陸」
北京中央政府は今、中国国内の物価高に賃金上昇が加わりインフレ懸念が強いため、金融引き締め政策をとりつつあるが、あまり引き締めのグリップを強めると不動産などのバブル崩壊につながりかねず、そろりそろりと慎重な姿勢でいる。しかし、成長志向の強い地方政府の固定資産投資の強さがバブル過熱に発展するのを抑えるため、現場にブレーキをかけており、それが建設機械の稼働ダウンにつながっている可能性もある。

ところが坂根会長は、その討論会で「金融引き締めで建設投資抑制が顕著だった2004年ころは、建設工事にストップ命令が出て、建設機械の稼動は前年比50%ダウンだった。その時からみれば、今回はそれほど心配することはない。中国政府はソフトランディング(軟着陸)で調整を図ろうと慎重対応している」という。このコマツの判断は、すべてGPSを通じての「市場の見える化」によって判断が可能だ、と言いたげだった。

浜名湖で携帯電話での位置情報が
GPS捕捉され無事救助
GPSの活用効果は、数え上げれば、他にもいっぱいある。ごく最近、静岡県の浜名湖で悪天候によって船に乗っていた4人の男女が遭難した際、たまたまその1人が携帯電話で位置情報を発信したら、それがGPSを通じて情報捕捉され、救助船が現場に急行し見事に救助した。1人だけが水にのみ込まれて惜しくも亡くなったが、悪天候のもとで、もしGPSがうまく機能しなければ、4人は無残な結果に終わったかもしれない。その意味でも、GPSが現場の位置情報を正確に捕捉できた効果は大きい。

笑い話のようなことだが、実は、さきほどのコマツの坂根会長によると、建設機械をGPSとリンクさせるシステムを考え付いたのは、たまたま建設機械の盗難防止対策がきっかけだった。つまり建設機械を工事現場から盗んで、郊外の金融機関出張所を壊し自動現金引き出し機(ATM)ごと盗み出す荒っぽい強盗団対策から、機械にセンサーをつけてGPSで動きを捕捉できるようにしたというわけだ。それがヒントになって、中国での稼働状況を見ると同時に、流通在庫もゼロにすることができ、無駄な在庫投資もする必要がなくなった、という。「コムトラックス」システム、GPSさまさまといっていい。

QZSSは日本の技術力の成果、
今後は新社会インフラに
さて、本題の日本独自のQZSSに話を戻そう。宇宙開発戦略本部の準天頂衛星開発利用検討ワーキンググループの委員の1人で長年の友人、日立コンサルティング社長の芦辺洋司さんは「QZSSは、日本の技術力の成果と言っていい。今後は自動車や鉄道など交通機関の運行管理はじめ遭難救助、自動車や携帯電話を使ってのナビゲーションなど、さまざまな分野で活用でき、重要な新社会インフラとなり得る。とくにハードウエアだけでなくソフトウエアも積極開発して、さまざまなサービス事業としてグローバル展開が可能になる」と述べている。新社会インフラという発想はなかなか興味深い点だ。

芦辺さんによると、双方向通信による緊急通信ネットワークの確立が今、1つの課題になっていて、この双方向通信システムが出来上がると、たとえば携帯電話から測位衛星にアップリンクすることで、がれきの下から無事なので救助を、といったことが可能になる。逆に、相違衛星からのダウンリンクによって、津波の恐れがある地域の人たちの携帯電話にいち早く避難メッセージが送れる、という。これも新社会インフラだろう。

米国、欧州、中国が測位衛星で
グローバルスタンダード争いも
GPSはもともと米軍の軍事技術であったことは、十分に想定できることだが、冷戦が崩れたあと、民生技術に移転され、現在のようなさまざまな平和利用にもつながっている。しかし中国は、経済の高成長を背景に大国主義化を強め、測位衛星の北斗を使って、米国のGPS、欧州のガリレオに対抗しながら、グローバルスタンダードを狙っての覇権争いに加わっている、という話も聞く。

政府の宇宙開発戦略本部のワーキンググループ委員、北海道大学公共政策大学院教授の鈴木一人さんは5月18日に開催の「衛星測位と地理空間情報フォーラム」で「国家戦略としてのQZSS」と題しての講演で、「持続可能な測位を生み出すには、独自の測位衛星システムが必要だ。日本が公共財としての測位を提供するのは主権国家としての責務だ」と述べている。日本の場合、米国GPSに全面的に依存しているが、QZSSのような日本独自の測位衛星を開発し、「測位主権」を確立することが必要だ、という考えのようだ。日本は覇権争いとは一線を画し、平和的に新たなシステムづくりをめざせばいい。

官民連携研究会スタートをきっかけに
需要創出にチャレンジを

こうした中で、経済産業省が近々、官民連携で測位衛星利用ビジネスを開拓するため、研究会を組織する、という。新たな需要創出という点で言えば、大きな可能性を秘めており、官民で知恵を出し合えばいい。
そのためにも、宇宙開発戦略本部が計画中のQZSSの2、3、4号機の打ち上げをまずは実現することが先決だ。この3機打ち上げでは1500億円、また補助的な静止衛星も加えた6機打ち上げの場合、2300億円の予算が必要になるという。すべて財政資金に頼らず、民間資金のPFI活用なども一案でないだろうか。とにかく閉そく状況にクサビを打ち込むためにも、チャレンジが必要だ。いかがだろうか。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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