やはり海外の「福島事故」不信強い IAEAは原発保有国に抜き打ち検査


時代刺激人 Vol. 140

 世界中を震撼させた日本の原発爆発事故に対する国際原子力機関(IAEA)の評価はやはり厳しかった。6月20日開催のウイーンでの閣僚会議で、海江田万里経済産業相が日本の原発事故の経験と教訓を国際社会と共有したい、と表明した。しかし現地発のメディア報道によると、参加各国の最大の関心事である原発事故の収束時期について、日本はハッキリと確約が出来なかったため、日本不信を浮き彫りにする結果となった、という。

IAEAの危機感は無理もない。なにしろ事故から3カ月以上たった今も、東京電力福島第1原発の現場では高濃度汚染水の処理に手間取っており、原発事故の最悪基準「レベル7」を引き下げる状況に至っていないからだ。このため、IAEAは今回の閣僚会議で、原発を保有する全部の加盟国に対する専門家の抜き打ち検査実施を打ち出すと同時に、厳しい内容を盛り込んだ国際安全基準を今後12カ月以内に策定することを決めた。原子力管理にこだわるIAEAにとっては、原発と共生せざるを得ない全世界への強い決意なのだろうが、同時に、日本にプレッシャーをかけようという意図も感じられる。

菅首相は8月6日の広島「脱原発」宣言よりもレベル7引き下げが先決
 そんな中で、首相の座に異常なまでの執着心を見せる菅直人首相が、原爆投下された8月6日に広島で「日本の脱原発」を宣言することにこだわっていて、それが政権延命の1つになっているのでないか、という話を聞いた。複数の民主党関係者が冗談交じりに異口同音に言っているのだが、市民運動家的な発想の持ち主の菅首相なら、あり得ることだ。

しかし、私に言わせれば、そんな見え透いたパフォーマンス政治はどうでもいい。それよりも、東電の原発事故対策をさらに急ぎ、原発事故の最悪基準「レベル7」をいち早く引き下げて安全領域にまで戻すことが先決だ。今回のIAEA閣僚会議を見ていても、国際的な日本不信は根深い。その不信感を取り除くことが何よりも必要だ。それと放射能汚染の被災地から避難を余儀なくされた人たちを早く住みなれた自宅に戻してあげること、さらには「原子力損害賠償支援機構」法案の早期成立だ。政争に巻き込まれて、未だに成立に至っていないのは許されるべきことでない。

中国など原発推進の新興国は成長を最優先、規制強化を警戒
 今回のIAEA閣僚会議での重要ポイントは原発推進を掲げる新興国の安全対策、監督体制の徹底だ。ところが、現地発の報道では、中国はじめ新興国は、原発を積極的に立ち上げ、それによって経済成長に見合ったエネルギー需要をまかなおうとする意向が極めて」強いため、今回のIAEAの規制強化には極めて警戒的だ、というのだ。
経済成長の実現が最優先課題であるこれらの新興国にとっては、原発は、リスクがあってもクリーンエネルギーであり、しかも膨大なエネルギー需要を満たす重要な存在。そんな位置づけでいる新興国にとっては、国際的ながんじがらめの規制で原発稼働に「待った」をかけられるのは迷惑、という姿勢が透けて見える。
しかし、率直に言って、こと原発問題に関しては、ひとたび事故が起きた時のリスクは計り知れない。とくに技術的なノウハウ、専門家人材の蓄積が不足しがちな新興国で仮に今回レベルの原発事故が起きた場合、その国のみならず周辺国などに複合災害をもたらすリスクが十分にある。その点で、新興国の原発がどんな状況にあるか、実態把握が必要だ。

中国は何と2カ月に1基ペースで原発建設し2020年に86基へ
 そこで、今回は、新興国の原発が抱える問題について、レポートしてみよう。とくに最近、中国の原発を含むエネルギー政策に詳しい帝京大の郭四志准教授など専門家らに話を聞く機会があったので、まずは急ピッチで建設を進める中国の原発問題をめぐる課題を取り上げてみる。

専門家の分析情報では、中国は現在、稼働中の原発が13基あり、発電量は1080万キロワット。そして現在、新たに28基が建設中で、同じく発電量が3100万キロワットを見込んでいる。中国政府は、これによって2015年に4000万キロワットのレベルに持ち込む計画だが、その後、さらに45基の原発を新設する予定でおり、これによって2020年には86基、そして8600万キロワットの総発電量にする。平均で2カ月に1基以上を完成させるスピードぶりだ、というから、すごい話だ。それでも中国の総発電設備能力に占める原子力発電比率はわずか5%で、日本の30%とは大違い。

ところが6月25日付の日経新聞報道では、中国は40年後の2050年には原発を400基超まで拡大する長期エネルギー計画をまとめつつある、という。

石炭火力のCO2排出量過多防ぐ環境対策から原発傾斜も
 郭准教授によると、中国経済の成長テンポが速く、エネルギー需要が急増していることが背景にあるが、中国の場合、豊富に産出される石炭への過度な依存があり、石炭火力の比率は70%に及ぶ。ところが二酸化炭素(CO2)の排出量が30年前の4億トンから2009年時点で74億トンにまで拡大し、世界全体の排出量の24%を占める。いわば環境負荷を和らげるために省エネ技術の開発を急がねばならないと同時に、原子力発電のようなCO2を出さないクリーンエネルギーへの代替が重要な政策課題になってきたことも、ここ数年の原発傾斜の背景だ、という。

このため、中国政府は2009年、原発に関しては「積極的開発」から「強力的開発」へと開発方針をレベルアップさせている。そればかりでない。中国は、新増設にあたっては、現在の日本などで原発の主力世代となっている第2世代の原子炉に改良を加えた機種、さらに、東芝子会社の米国ウエスチングハウスの新技術を加えた第3世代炉の導入に意欲的だ、という。そして、最近は国産機種に自主開発にも取り組み、需要の強い中東産油国はじめパキスタン、タイなどアジア新興国への輸出に積極姿勢を見せている、というのだ。

福島原発事故で中国も一転、原発の「強力的開発」から「慎重的開発」に
 ところが郭准教授は「福島の原発爆発事故で、中国の原発政策に微妙な変化が出てきた。原発新増設を推進する大方針には変わりはないが、これまでの『強力的開発』から『慎重的開発』に変わっていくのでないか」と述べている。
というのは、郭准教授が今年5月、1週間ほどかけて中国沿海のいくつかの原発と周辺住民の間で福島原発事故がどういった影響を与えているか探った。住民の間では、間違いなく原発の安全性に対する不安が高まっていたし、放射能汚染の影響が中国にも飛び火するのか、といった懸念を持っていた。

しかし地方や中央の政府に対して反発し、反原発運動に結び付けて行くといった動きにはならない。日本と違って、中国は社会主義体制国家で、原発立地や建設はすべて国家の土地を活用するため、住民が日本のような反原発運動に踏み出すことがない、という。

温家宝中国首相が福島事故後、国内の原発緊急安全検査を指示
 とはいえ、中国当局も強気でいられるはずがない。温家宝首相は福島の原発事故から5日後の3月16日の国務院常務会議で、中国国内で計画中の原発審査手続きを一時凍結すると同時に、国内の原発施設の緊急安全検査を実施するように指示した。当然のことだ。

現に、中国人の友人の話でも、中国の中央テレビはじめメディアがまるで中国国内で起きた原発事故かと思うほど、ほぼ24時間、連続的に放送し、否が応でも事故に巻き込まれた、と述べている。
また、知り合いの早稲田大大学院元教授で、早大中国塾主宰の木下俊彦さんは今年3月29日、上海社会科学院から講演依頼があり、「東日本大震災(M9地震、大津波、福島原発事故)と中国への教訓」というテーマで講演された。大学教員の人たちの関心度は高く、突っ込んだ質疑があったが、大きな流れとしては、原発推進は必要であること、ただし安全性の確保を徹底することの2つだった。それでも福島原発事故が微妙にからんで自国の原発を不安視していることは間違いなかった、という。

中国は原子力開発で40年経つのに原子力基本法などが未だ不備
 さて、経済の急成長に合わせて原発傾斜を強める中国だが、いろいろな原発専門家の話を聞くと、中国には課題が多い。最大の問題は、中国の原子力開発への取組みが40年もたつというのに、中国には未だに原子力関連法、端的には中国の原発の安全管理を義務付ける法制度、国と地方の政府の原発事故対応、さらにもっと広範な危機管理対策などに関する基本法がない、というのだ。これには、さすがに驚いた。

郭准教授は最近の著書「中国のエネルギー事情」(岩波新書刊)で法制度や安全管理体制に関して「放射性汚染防止法」「民用核施設安全監督管理条例」などがあるものの、原子力の安全性の監督・管理に携わるスタッフは現在、わずか300人程度で、今後、原発急増に伴い1000人レベルの安全・険査・管理体制を構築することが不可欠と述べている。

中国内陸部の原発は水不足で冷却水確保に課題残す可能性も
 中国の原発にはまだ、問題がある。東京電力福島原発事故で、地震対応に問題がなかったが、大津波へのもろさが露呈し外部電源が確保できないまま冷却水に事欠き最悪事態の原子炉のメルトダウン問題を引き起こした。実は、中国の場合、大半は沿海部に立地しているが、広大な国のため、一部の原発は内陸部の川に面した地域に立地し、毎年、問題になる水不足が仮に深刻化した場合に対応できるのか、という大きな課題も残している。
最近、郭准教授に会った際に、この水不足問題を聞いたところ、「川の水量が豊富な地域に立地することになっているが、確かに水位が低くなったりしたら問題も出て来る」と述べていた。

こういった中国の原発リスクに対して周辺国が何も懸念しないはずがない。現に、韓国が海を隔てて、距離的にはそれほど遠くない山東省の原発施設の動向に過敏だ、という話を聞いたことがある。ましてや、ベトナム、タイなどメコン河沿いの国々も、同じ不安を抱えていることは十分に想像できる。中国は、高成長に伴うエネルギー需要の急増への対処が最重要の政策課題とはいえ、原発の安全管理での弱みが重大事故に発展しないように厳しいチェック体制づくりを求めたい。

中国が2020年までに86基の原発を立ち上げるというのに、それに対応する危機管理対応、安全管理対策が十分に出来ていない、というのでは、国際社会で大きな問題になる。IAEAが日本の原発事故をきっかけに抜き打ち検査や国際的な安全基準づくりに踏み出したのも、実は中国など新興国対策が狙いなのかもしれない。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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