「中国は今や日本に積極的関心がない、米国との戦略連携に軸足移す」 中国政府前アドバイザー八城さんの指摘はショック、内向き日本は魅力なし?


時代刺激人 Vol. 100

日本は内向き志向から脱却してグローバルな世界で存在感のある行動、とくに中国やインドが軸になる世界の成長センター、アジアでの戦略的な展開が重要になってきている、と思っていた矢先に、ある有力ビジネスリーダーから、とてもショッキングな話を聞いた。中国は今や日本には積極的な関心がないし、日本の存在も意識していない、むしろ米国を今後の戦略パートナーとして位置付け、軸足を米国に移している、というのだ。
ところが、友人の中国の大学教授は「中国経済の高成長に酔いしれて、日本軽視論的な発言が一部に出ていることは否定しない。しかし今の中国経済は『調和社会』実現のためには医療、環境、防災などの面で日本から学ぶことが多く、日本を重視する姿勢に変わりがない」と述べている。中国は日本との関係では、どういった考えでいるのだろうか。このコラムが100回という節目になったのを機会に、日中関係の問題を取り上げてみよう。

「中国の唯一の関心はバブル崩壊の日本の政策失敗を繰り返さないこと」
 まず、中国は本当に日本を見限ったのだろうか。「中国は今や日本に積極的な関心がない」と語った有力ビジネスリーダーの話から始めよう。このリーダーは八城政基さんだ。京大、東大大学院を卒業したあと外資系企業に入り、石油メジャーのエッソ石油社長などを経て、米大手銀のシティコープヤシティバンク・エヌ・エイの副社長兼日本代表を務めた。今でいうグローバル経営の先駆者の1人だ。その後、破たんした旧日本長期信用銀行の受け皿会社、新生銀行の会長兼社長も務めたが、退任後、中国政府からの強い要請に応えて、今年5月まで政府の金融監督委員会などのアドバイザーを引き受けた。中国政府の要路にも強い人脈があり、その交流経験を踏まえた話には耳を傾ける必要がある。

八城さんは、私がかかわるNPO全国社外取締役ネットワーク会合でのスピーチの中で日中関係に言及されたのだが、ポイント部分は、こんな話だ。「日本は保守的で、変化を嫌い、内向きになり過ぎている。しかも過去の成功体験から抜け出せない。その日本とは対照的なのが中国で、今や経済成長に自信を深めたのか世界のリーダーになる気概が出てきた。共産党政治体制を維持しながら、それ以外の改革開放に関しては大きく自由度を拡げるという政策運営方針でいる。しかも米国志向を強めている。とくに米国が世界中から移民を受け入れ人材を集めて成長の源泉にしたことを高く評価する。米国をパートナー視し、戦略的な連携も辞さずという姿勢だ」「中国が今、日本に関心を持っているのはバブル崩壊とそのあとの経済デフレを招いたマクロ政策の失敗の研究だけだ。それ以外では日本に対する積極的な関心がない。日本はこの現実を厳しく受け止める必要がある」と。

聞きようによっては、中国はもはや日本から学ぶものはないとの意識?
 聞きようによっては、中国は、もはや日本から学ぶものは何もないと豪語しているようにも聞こえる。ただ、日本経済の「失われた10年」が20年までに長期化する、といったマクロ政策の判断ミスをしっかりと学習し、中国経済が今、直面する不動産バブルリスクの軟着陸化を図ることだけは失敗の研究という形で学習対象にしよう、と言いたげだ。
八城さんによると、中国からすれば、日本は内向きで、グローバルな競争に勝つような国家ビジネスモデルになっていない。すでに経済的には後発のメリットを生かして、日本からは学んだり修得したものが多いが、今後の戦略展開という点では、むしろターゲットは米国だ、と見ている、という。

日中共同意識調査でも「世界政治をリードするのは米国と中国」との自信
 そういえば、今年6月から7月にかけて、言論NPOと中国日報社が共同で日中両国の人たちを対象に行った共同意識調査で面白い結果が出たのを思い出した。「これからの世界の政治をリードするのはどこの国か」という質問に対して、中国では米国と回答したのが55%、中国が49%で1、2位を占めた。明らかに中国は今後、米国とともに「G2」体制で臨む、という判断だ。さらに2050年の中国経済に関しても、米国を追い抜く、もしくは米国と並ぶと答えたのが中国では83%、日本でも56%だった。誰もが中国の世界No2を見通しているのだ。
すでに中国が今年2010年の4-6月期の国内総生産(GDP)で、世界第2位だった日本を追い抜いている。まだ瞬間風速の数字であり、1-6月でみれば、日本のGDPが若干、優位にあるが、日本経済のデフレ状況、中国の経済成長の勢いの差は歴然であり、年間を通して見れば、多分、GDPの日中逆転は間違いないだろう。この経済の勢いの差が、日中の共同意識調査結果にも出てきて、中国を強気にしているのは間違いない。

日中GDP逆転は確実だが、質的成長には日本との関係強化が重要のはず
 しかし、中国はGDPで世界第2位になるのが確実とはいえ、国内的には課題がまだまだ多い。13億人というケタ外れの巨大人口を抱える中国は、国内の沿海部と内陸部の間の所得、地域格差が大きい。国民1人当たりの所得水準でみれば、日本とは1人あたりの平均国民所得面で10分の1と、まだかなりの開きがある。そればかりか環境破壊、行き場を失ったマネーが不動産投資や株式投資に回ってバブルリスクの爆弾を抱えている。その意味で、先行する日本がたどった成長プロセスをしっかりと学習し、それをもとに中国が量的成長から質的成長を果たし、文字どおりの大国になることが先決だ。むしろ、中国にとっては、日本との連携が重要であり、また今後のアジア地域経済統合時代の流れの中でも日本を重要なパートナーにすべきだと思うのだが、八城さんの見方では、必ずしもそうではない、と言うことなのだ。本当にそうなのだろうか。

中国在住の日本人研究者「今の中国には米国経済モデルは参考にならない」
 そこで、中国の北京で大学と連携して研究活動に携わる日本人の友人に、率直に聞いてみたところ、なかなか興味深い話が聞けたので、ご紹介しよう。結論から先に申し上げれば「中国は確かにGDPで世界第2位が確実な情勢下で、これまで以上に米国を強く意識していることは間違いない。ただ、現在の中国経済は、さまざまな課題を抱えている。端的には省エネ型経済への転換、『小康社会(少しゆとりある社会)』実現のために必要な医療制度の充実、環境保全や安全社会の実現、耐震設計技術やインフラなど防災体制の整備といった社会システムの構築、人民元高阻止のためのドル買い・人民元売りの為替介入でもたらされた資産バブル対応など、日本の技術や政策経験を強く必要としている。これらは米国の経済発展モデルから得るのは難しく、中国としてはまだまだ日本との関係強化を図る方が戦略的にも重要」というのだ。

朱建栄教授も「中国指導部は日本から『調和社会』建設のヒント得よとの意識」
 この発言を裏付けるように、私が長くつきあっている朱建栄東洋学園大学教授は「中国社会では一部の学者を含めて、経済の高度成長に酔いしれて日本軽視論的な発言をしているのは事実。しかしそれは中国指導部や主流学者の考えを代表したものでない」と述べている。
朱建栄さんによると、各省庁トップを含めて中国指導部の意識の中には、中国経済は米国型経済の道を歩んではならないこと、むしろ日本の経験から『調和社会』建設に向けてのさまざまなヒントを得なければならない、という点が強い、という。
ここでいう米国型経済に中国経済の将来モデルは見えない、というのは、私なりに解釈すると、マネー資本主義がもたらす弊害、とりわけ競争による格差拡大は成長のエネルギーになっても社会不安という副産物をもたらす可能性が高く、中国にとってはかえってリスクだ、という、意味合いが含まれているように思う。

中国若手研究者は日本と同様に{内向き}志向?実は過信がもたらしたもの
さきほどの北京で研究活動を続ける友人は、さらに興味深い話をしてくれた。それは、中国の政府指導者を別にして、大学の研究者や学生なの間で最近、日本以上に「内向き志向」が強まってきている、というのだ。
ところが、よく聞いてみると、同じ「内向き」でも意味が全く違う。つまり、中国の経済成長が米国発のリーマンショック後も意外に崩れないどころか、しっかりした歩みを続けていること、それに軍事大国化の道を歩み始めたことなどで、若い人を中心に自国への自信が過剰気味になり、米国を含めた外国への関心が薄れてきたこと、さらにはグローバルな金融危機後、欧米から積極的に学ぶものは少なくなってきた、むしろ自分たちの「社会主義・市場経済併存の中国モデル」が最も優れているのでないか、という意識になってきたことが中国の「内向き」の意味なのだ。これは日本にとっては、中国が独善に走りやすい危険性を秘める「内向き」志向であり、何としても、友人として「過信は禁物だ」と、さまざまなルートを通じて、アドバイスしたり議論交流で注文をつけたりする必要がある。

日本は医療や年金制度改革で先進モデル事例つくり中国にアドバイスを
 私は、日中関係の問題に関しては、69回のコラムでも取り上げたが、いま日本が抱える医療や年金などをめぐるさまざまな問題に関しては、中国は経済社会の高齢化を通して同じように直面する。そこで、先行する日本が率先垂範、それらの重い課題に挑戦し、問題や課題の克服を成し遂げ先進モデル事例をつくり、制度改革案を打ち出すことだ。その時点で、日本は「課題克服先進国」として、胸を張っていける。その時点で、日本は、中国に対して、今や量的な成長にこだわるよりも、経済成長の質を高めることに力を注ぐべきだ、とアドバイスすればいい。
中国にとっても、日本がこれから取り組むべき「課題克服先進国」のさまざまなテーマに関しては、いずれも共通課題であり、多分、身を乗り出してくるだろう。その意味で、中国にとって、日本は極めて重要な学習対象になるのは間違いない。その時こそ、八城さんの見方とは異なるが、中国は、間違いなく日本との関係強化の道を探って来るはずだ。

— さて、実は、チャンスがあって、私は、9月半ばに中国の三峡ダムや上海万博を見に行く。そこで、勝手ながら、来週9月14日のコラムはお休みさせていただき、帰国後の9月21日に中国最新事情をレポートしようと思う。—

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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