責任果たす真のリーダーが日本にいない 黒川さんが新著で「国民に不幸」と警鐘


時代刺激人 Vol. 283

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「福島第1原発事故は、日本の最も弱い部分、すなわち『日本のエスタブリッシュメントの甘さ』を世界中に露呈した。日本の信用が一気に低下したのは事実だし、今もその動きは止まっていない」

「福島第1原発事故は、日本の最も弱い部分、すなわち『日本のエスタブリッシュメントの甘さ』を世界中に露呈した。日本の信用が一気に低下したのは事実だし、今もその動きは止まっていない」
「志が低く責任感がない。自分たちの問題であるにもかかわらず、他人事のようなことばかり言う。普段は威張っているのに、困難に遭うと、わが身かわいさから、すぐ逃げる。これが日本の中枢にいる『リーダーたち』だ。政治、行政、銀行、大企業、大学、どこにいる『リーダー』も同じである。日本人は、全体としては優れているが、大局観をもって『身を賭しても』という、真のリーダーがいない。国民にとって、なんと不幸なことか。福島第1原発事故から5年過ぎた今、私は、改めてこの思いを強くする」

「東電原発事故から5年たっても誰も責任とらず、
事故教訓も生かされていない」

これらの言葉は、東電の福島第1原発事故の原因究明にあたって、政府や東電から独立して調査に臨んだ国会事故調査委員会の黒川清委員長(当時)が、最近出版の「規制の虜(とりこ)」(講談社刊)の中で言及したものだ。日本社会に対する警鐘と言っていい。

黒川さんにすれば、世界中を震撼させた大事故にもかかわらず、事故後5年がたっても誰も責任をとっていないこと、事故の教訓が生かされないまま原発再稼働ばかりが先行する現実、原発事故というシビア・アクシデントに対する広域住民避難計画など防災体制づくりが先送りになっていること、世界の国々が日本の原発事故から何を学ぶべきかを知りたいのに、日本政府は再発事故防止策に対する日本の教訓について、未だに世界に対し明確に発信していないことなどへの強い憤りが、これらの警鐘になった、と言っていい。

私自身も、黒川さんと一緒に国会事故調にかかわり、事務局で現場調査を見てきた関係から、冒頭の警鐘部分に関しては実感しているうえ、日本の組織社会、とくに日本株式会社の中枢にいるエリートといわれる人たちの本質を鋭く突いており、100%同感だ。

米MIT教授も政治リーダーに不満、
FTジャーナリストは組織の罠リスクを問題視

そこで今回は、黒川さんが警鐘を鳴らした日本の組織社会をマネージするリーダーたちの問題、とくに与えられた責務や責任を果たすアカウンタビリティ欠如の問題、それが社会に影響を及ぼす重大さ、日本のシステム危機に及びかねない問題を取り上げてみたい。

そんな矢先、米マサチューセッツ工科大学のリチャード・J・サミュエルズ教授の著書「3.11 震災は日本を変えたのか」(英治出版刊)を読んでいたら「日本は3.11をきっかけに新たな日本づくりをめざし大きく変化するチャンスだったが、政治リーダーは現状維持を優先した」と不満げに述べている。今の日本にとってヒントになると思った。

さらに、英フィナンシャル・タイムズ紙の米国版編集長のジュリアン・テッドさんが著書「サイロ・エフェクト――高度専門化社会の罠」(文芸春秋社刊)で、組織の細分化、専門化、複雑化が進んだことで陥りやすい組織リスクの問題をサイロ、つまり家畜の飼料や牧草を貯蔵する倉庫棟のサイロ、日本流にはタコつぼにからめて、タテ割り組織にヨコ串を刺さずに連携を怠ることで起きる弊害を問題視した。ソニーなど巨大組織事例を取り上げており、これもリーダーが考えるべきことで、日本のシステム警鐘になると思った。

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