よかった、日本にはまだまだ底力 「目指せ、ニッポン復活」で再認識


時代刺激人 Vol. 167

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 2012年という年は、間違いなく日本にとって試練が続く年だ。山積するさまざまな課題に、みんながどこまでチャレンジして、重い課題を克服できるかどうかだ。その最大課題は、東日本大震災の手つかずの復興にどこまでスピーディに取り組めるか、また東京電力福島第1原発事故に関しても、野田佳彦首相の政治的な「収束宣言」とはほど遠い現実のもとで、どこまで事態打開の道筋をつけられるかだ。

課題や問題はまだまだある。医療や年金など社会保障と消費税率上げの一体改革も「総論賛成、各論反対」に、どう決着をつけるのか、それに、これまではユーロ世界の財政危機問題と国債増発による債務返済にあえぐ日本の財政危機とは別問題、国債暴落などありえないという見方が多かったが、グローバル市場という魔物によって引き起こされる連鎖リスクがいつ日本国債に襲いかかってくるかわからない、未然に解決できる奇策はあるのか――などだ。率直に言って、これらの課題の克服も容易ではない。

中堅・中小企業の時代先取りの意欲的な展開事例はどれも興味深い
 そんな重苦しさを吹き飛ばす、興味深いテレビ番組があった。NHKスペシャル「目指せ、ニッポン復活」がそれだ。実は、1月1日夜に放映されたのだが、民放の「相棒」という娯楽ミステリー番組にチャネルを合わせてしまい、見落としてしまった。運よく2日後に再放送があったので、躊躇なく見たのだが、これがなかなかの大当たりの中身だった。
時代刺激人ジャーナリストの問題意識にもぴったり合うことが多かったので、少しコメントを加えながら、番組に登場した3人の専門家の話をお届けしよう。

最初の専門家は立教大の山口義行教授で、日本の中堅・中小企業が円高や国内デフレ経済状況に臆することなく積極的に海外展開し、成功している事例紹介の話だ。その1つは、文房具メーカーのコクヨが、円高を背景にインド第3位の文房具メーカー、カムリンを68億円でM&A(合併・買収)した事例。そして、大阪の東研サーモテックという自動車や建設機械向け金属部品メーカーの話。アジアの自動車生産拠点化したタイに早くから進出し現地化に成功しているというケースの2つ。

中堅企業コクヨのインド企業買収は戦略的、
市場調査でニーズを見極め
 このうち、コクヨのアジアでの積極展開には驚いた。今回取り上げられたのは2011年10月に買収したばかりのインド企業、カムリンの話だったが、興味があって調べたところ、コクヨは同じ年の2月に、ベトナム市場進出済みのノート工場の生産能力を倍増の3000万冊に増強した。そればかりでない。新たに、傘下の中国現地法人、国誉商業(上海)を通じて最近、最大手の何如文化用品との間で企業買収合意し、主力のノート事業部門の生産、販売を中国巨大市場で大がかりに展開する計画という。何ともたくましい。

山口教授によると、コクヨは中堅企業ながら、戦略展開が巧みで、進出に際してインドの教育現場で徹底かつ綿密な市場調査を行った。その結果、ホッチキス止めの使いにくいインド製のノートに比べ、高品質の糊付け止め、紙の材質のよさなどコクヨ製品への評価が極めて高いことがわかり、新興アジアの成長に伴う教育熱の高さ、優れた品質ノートなど文房具へのニーズの強さを見極め、十分に投資価値があると経営判断した、という。

人口減少で細る日本にしがみつくよりも新興アジアに照準の判断が
すごい
 コクヨは、日本国内での要求水準の高い消費者ニーズに対応し、競争にも勝ち抜いてきただけに、インド市場での手ごたえがそのまま、巨大市場の中国に行っても十分やれるとの自信になり、積極買収に踏み切ったのだろう。いずれは人口減少で細る日本国内の内需にしがみつくよりも、チャンスを活かして新興アジアの高い成長市場を狙った方がプラスと見たコクヨの積極経営を、むしろ評価したい。日本の中堅企業も大きく変わってきた。

東研サーモテック事例も興味深い。山口教授が紹介したのは、大阪にある本社が、タイ東研サーモという現地法人に幹部候補生を次々に送りこみ、武者修行させる話だ。その1人、タイ副工場長の米沢信博さんにスポットを当て、8年間の現地生活を紹介したが、現実は武者修行ではない。マスターしたタイ語を駆使してタイ人に技術指導しながらものづくりに必要な技術人材の養成、技術移転に努めるケースで、企業としては戦略的行動だ。

部品メーカー東研サーモテックもタイのサプライチェーン化見越して
戦略展開
 このタイ東研サーモの話で、少し思い出されないだろうか。私が162回コラム「日本のものづくりに地殻変動」で、タイ洪水騒ぎで進出日本企業が、航空運賃や長期滞在費まで支払ってタイ人技術者や作業員を日本に呼び寄せて日本工場で代替生産している、という話を書いたこととリンクする。米沢さんらが育てあげたタイ人の技術人材は、ローテク分野かもしれないが、ものづくり技術をしっかりと学びとり、今や日本の現場労働者よりもはるかに優れ者になってきている。こうして訓練された技術人材が、今回のタイ洪水騒ぎで日本での代替生産に駆り出される結果になったのかもしれない。

私のみるところ、東研サーモテック本社は、タイが次第に、日本のサプライチェーン・センターになり、進出日本企業やタイ企業向けのタイ人の技術人材、ものづくりに習熟した優秀な人材がますます必要視されることを見越して行動している。部品生産のみならず、製品補修や品質管理の面でも通用する人材、それに現場作業員の層を厚くすることで、タイを中心に新興アジア市場に進出した部品供給産業として、その存在感をアピールしようとしているのだな、と思う。米沢さんの武者修行を戦略的行動と言ったのも、この点からで、日本の中堅部品メーカーも大企業系列を離れて生き残りに余念がないと言える。

藻谷さん推薦の銘建工業、産業廃棄物の木くずをペレット化し
エネルギーに
 次に登場した専門家は、「デフレの正体」(角川書店)などの著書ですっかり有名人の日本政策投資銀行の藻谷浩介さんだ。現場第1主義で、全国を歩き回って先進モデル企業事例の発掘や地域再生に意欲的な藻谷さんが今回、紹介したのが、これまた興味深い。
岡山県真庭市の集成材メーカー、銘建工業がそれで、製材過程で出るおがくずや木くずを燃料源に活用し、バイオマス発電する企業として有名。同時に、木くずを固形燃料化しペレットにして1キロ22円で販売、年間売上高が33億円にも上っているが、真庭市内のエネルギーの30%をまかなう。藻谷さんによれば、原油高騰で石油製品に跳ね返って値上がりしても木ペレットには価格変動もなく、環境への貢献度は抜群、という。

銘建工業の中島浩一郎社長はバブル崩壊でバイオマス発電を考えついたという。今ではオーストリアで、木ペレットのエネルギー化を実践している先進事例があるのを知り、中島さんは現地訪問し吸収に余念がない。藻谷さんは「まさに真庭モデルだと言っていい。もともとはおがくずや木くずは産業廃棄物だったのを、利益を生み出す事業モデルに変えた。林業の再生が叫ばれる中で、こういった先進モデル事例を普及させることが必要だ」という。環境配慮型のエネルギーをビジネスにつなげた点でも素晴らしい事例だ。

奥山さん紹介事例はどれも日本のものづくり企業に底力ありの凄み
 3番目の専門家は、工業デザイナーの奥山清行さんだ。私自身、あるイノベーションセミナーで知り合ったが、海外、とくにイタリアで有名自動車フェラーリのデザインなどで知れ渡っている魅力的な人で、いくつものストーリーを持っているところがすごい。
率直に言って、今回のNHKスペシャル「目指せ、ニッポン復活」では、この奥山さんのいくつかの紹介事例が、日本のものつくり企業には底力がある、まだまだ捨てたものでないな、という印象を強く与えた。

その奥山さんが最初に紹介したのは、新潟県燕市のステンレス加工の三宝産業がつくった切れ目のない優雅なワイングラスだ。奥山さん自身が考案しデザインしたものを三宝産業に持ち込んで製作を頼んだものだが、三宝産業の現場担当の専務は「図面を見ただけで、われわれ職人は作業工程が頭に浮かぶ」と言ってつくりあげた、という。

新潟燕市のステンレス企業と連携のワイングラスはパリ展示会で
高評価
 グラスは形の優雅さだけでなく、ワインと氷が溶けにくい特殊な構造になっていて、国際的に有名なパリのメゾン・ド・オブジェという展示会に出品したら、高い評価を得た。奥山さんは「日本の地場産業や企業は宝の宝庫だ。ただ、素晴らしい技術の活かし方がわかっていないのが残念だ」と述べたが、考えようによっては、奥山さんのような国際的なデザイナーがマーケッティング評価し、優れ者のものづくり企業と連携すれば、日本のものづくり企業の底力に磨きがかかる、ということかもしれない。

地場企業3社とカーボン仕様のスポーツカー、デザインは奥山さん
 次に奥山さんが紹介したのがまた、すごい事例だった。山形、岩手、静岡3県の地場企業が、同じく奥山さんのデザインしたスポーツカーの車体やボンネット、そして組み立てを協力分担してつくりあげたものがテレビスタジオで紹介された。高級なアルミパネルとカーボン仕様の、かっこいいという表現がぴったりの見事な車だ。

あとで奥山さんにEメールで聞いたら「自分が本当にほしいものとしてつくった。4年前に独立した際、少量生産をめざしてつくったが、本当は、地場の職人さんにじっくりつくってもらう舞台としての商品だ」という。だから量産して儲けようといった考えはない。それでもほしいという人がいて、特別に最高級クラス車を3500万円で売ったという。

このあとも、奥山さんはまるで手品師のように、次々と事例紹介を行った。米国のホンダ・エアクラフト・カンパニーという企業で、奥山さんが友人の社長、藤野道格さんとデザイン開発など役割分担して共同開発したビジネスジェット機の成功例もなかなか興味深い話だが、スペースの関係で、あと1つだけ、ぜひ取り上げたい事例がある。

被災地の沿岸平野部に、
復興のシンボルのコンパクトシティ建設計画構想
 それは、奥山さんが建築家の迫慶一郎さんらと一緒に、東日本大震災で被災した沿岸部の平野部に、高さ20メートルぐらいの津波が押し寄せても大丈夫で、自然と共生する新たなコンパクトシティをつくりあげたいと、いま、計画中の話だ。奥山さんは番組の中で「復興の象徴として、こんな素晴らしい、新しい街を日本がつくった、ということを世界にアピール出来るようなものにしたい」と述べていた。

Eメールで、奥山さんに、この街づくりの意味について聞いてみたところ「逆境の中にこそ、希望があるかもしれない。これからは新しい軸で街をつくる必要がある。ある意味で人工的につくらないと、豊かな暮らしはますます破壊されてしまいかねない。ビジョンを持って、政治に頼らずに実現していきたい」という答えが来た。
政治が解散総選挙などをめぐって政争を繰り返し、被災地の住民目線もなく、復興から遠のいている状況で、奥山さんのメッセージはとても説得力がある。

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