韓国は生き残りかけFTA戦略、 農業も被害対策講じ競争力を強化


時代刺激人 Vol. 153

新興アジアで高成長が際立つ中国に比べ、韓国は経済規模が小さいながらも最近、国際社会で、とみに存在感を強めている。その基軸が積極的な自由貿易協定(FTA)戦略だ。中進国から先進国への仲間入りを果たすこと、日本以上に貿易依存度の強さから生き残りをかけて貿易立国に徹すること――などのため、FTA戦略によって欧州連合(EU)や米国との間で関税障壁を取り外して貿易展開を進める、同時に通貨ウオン安を巧みに使って輸出競争力も強化する形だ。内向きの日本とは対照的で、大胆なグローバル戦略を国家の基軸に据えているように見える。

そんな中で、韓国は、日本と同じく比重の高い国内農業をどう位置付けているのだろうか。FTA戦略のもとで、今やグローバルレベルで強み発揮のエレクトロニクスや自動車などの輸出産業に優先度を与えることの方が国益の面で重要との判断で、農業は被害対策を講じればいい、という安易な政策判断なのだろうか。逆に農業の国際競争力をつける手立てをやらないのだろうかといった点に、ジャーナリストとしての関心があった。

狭い内需にしがみつかず
輸出戦略で攻勢が国家の生きる道との判断
私がメンバーの農政ジャーナリストの会で、FTA下の韓国農業を見る、という取材旅行プロジェクトがあったので、躊躇なく9月19日から約1週間、参加した。そのため、コラムを1回、お休みさせていただいたが、今回は、その出張レポートをしよう。

結論から申上げれば、韓国は4800万人口のもとで、狭い内需にしがみつくよりも、90%超の貿易依存度(世銀調べ)の現状を踏まえ、FTA締結に伴う海外からの輸入攻勢のリスクを承知で、積極的に輸出戦略をたてるのが国家の生き残る道との判断でいる。

この戦略のもと、国内農業に関しては、主食のコメだけは適用除外とし、それ以外のコスト面で競争に勝てない農産物分野には対策を講じる。逆に競争力強化策を講じれば生き残れる分野に関しては輸出団地の造成はじめ、状況によっては輸出補助金もつける政府や自治体の対応だ。しかも農業の国際競争力をつけ、攻めの姿勢で臨もうという点も特徴的だ。日本にとって学ばねばならない部分がありそうだ。

農協中央会幹部も本音ベースでFTA許容やむなし、
コメだけ例外扱い
農業分野で、政治に対して最大の圧力団体でもある韓国農協中央会の複数の幹部と話し合った際も、幹部の1人が、「これは個人的な発言で、農協中央会の総意と思われては困るが、あえて本音を申上げる。国内の農業担当記者には、この本音は絶対には言わない」という条件付きで語ったのが次のような点だ。

韓国は、輸出入を含めた貿易への依存度が今や90%台の貿易立国の国だ。日本のように巨大な国内需要(内需)が軸にある国と違って、海外との貿易を伸ばしていくしか生きる道がない。となれば、競争力のあるエレクトロニクスや自動車、造船などの製造業の輸出を伸ばすため、FTAを積極的に結び関税の自由化をうまく活用する手法に行かざるを得ない。農業はその分、しわ寄せを受けるが、そのための被害対策を、政府に短期的に講じてもらうと同時に、中長期的には逆に海外に農産物輸出が出来るように競争力強化策を展開する。それが貿易立国の韓国の農業の生きる道だ、というのだ。

要は、何が何でも絶対に反対というものでない。韓国としては、ある程度、FTAを許容し、むしろ、コメのように必ず適用除外品目にするものをハッキリと決め、それ以外のものについては自由化対策をしっかり政府や政治に求めると同時に、農産物輸出する力をつけることだ、と言う姿勢だ。

韓国は生き残りかけFTA戦略、
農業も被害対策講じ競争力を強化

日本市場をターゲットに競争力強化策、
ウオン安も援護射撃に
また、韓国のある農業関係者は「日本は、われわれ韓国農業にとっては、とても魅力的な市場を持っている。われわれがさまざまな面で競争力強化に取り組み、高品質、高価格、高利潤が見込める農産物の輸出を日本向けに行えばいい。そのため、最近は政府や自治体がバックアップしての輸出団地化を行い、生産農家も、その団地に集約を図るケース、あるいはR&D(研究開発)機能や集荷機能を持たせるケースなど、競争力のある農産物輸出のための戦略展開に取り組み中だ」と述べている。

そこで、われわれ農業ジャーナリストチームはソウル北にある日本市場向けのバラ、キクの花きの輸出団地を見学した際、団地を統括する幹部の話では、政府と自治体で合計15%の出荷輸送補助を行っている、という。早い話が一種の輸出補助金だが、国を挙げて農産物輸出のサポート体制も出来ている、ということだ。

言うまでもないことだが、今の韓国の輸出産業にとどまらず農業にとっても、韓国通貨のウオン安は大きな強みだ。為替面で価格競争力を補強する形になっている。韓国の農産物の輸出促進策を進めている韓国農水産物流通公社の幹部は、韓国農産物輸出増に対してウオン安が20%ほど寄与しているかもしれない、とポロっと漏らした。この数字はかなり意味のある数字だと言っていい。

サムスン研究所「日本は問題先送りばかり、
戦略性が必要」と耳の痛い指摘
私たちは、農業関係者だけでなくサムスン経済研究所でFTA問題に取り組んでいる研究者にも話を聞いた。サムスングループのシンクタンクなので、当然ながら、FTAを活用したグローバル戦略が韓国の生き残りの道という点に関しては積極姿勢だった。

ただ、興味深かったのは「韓国は大統領制という、政治の意思決定が早いシステムが特徴で、FTAが重要な国家戦略と判断すれば、すぐに政治決断する。その点、日本は例外品目なしの環太平洋経済連携協定(TPP)でいくのか、あるいはコメなど例外品目を認める二国間取り決めなどのFTAでいくのか、よくわからない。それに、政治そのものが問題先送りばかりしているように見える」という研究員の指摘だった。

その研究員はさらに、「日本も韓国も今後、マクロ政策面では同じ運命をたどる。内需拡大が難しくなる中で、FTAなどグローバル対応で外需に活路を求めざるを得なくなる。そこで、韓国はFTAにからむ農業対策に関しても、犠牲を最小限にとどめるため、まず、小国のチリで学習し経験を積み、次第にEUや米国などとのFTAに発展させた。日本はもっと戦略性が必要だ」とも述べた。日本研究もやっていて、指摘も鋭い。日本の政治家に聞かせたい話だった。

サムスン研出身の農村振興庁長官、
成熟社会下の日韓農業連携も提案
そのサムスン研究所から政治任用で大統領秘書官に引き抜かれ、そのあと副大臣を経て、農村振興庁という政府機関のトップについたミン・スン・キュー氏の話は逆に参考になった。民間出身者だけにアイディアマンで、発想も興味深い。

日本にもヒントになるなと思った発言部分は、「日本、韓国の農業は成熟社会の農業と言う点で、意外に似ているところがある。端的には、安全・安心、おいしさ、高品質、さらに信頼される農産物などのキーワードだ。私は、日本と韓国の農業が新たな生命資本主義といったパラダイムで連携し、新興アジアの農業をリードするのも役割でないかと思う。新しい先進モデル事例となる農業をめざすべきでないか」という点だ。

そして、長官は民間出身者の発想でもってSTRONG+アルファというキーワードを持ち出し、農業に情報技術(IT)を導入、消費者を感動させる農産物づくり、農業者に経営マインドを植え付ける、農業がマーケットリサーチをしながら売れる農産物のネットワークづくりが大事だという。韓国農業に新風を吹き込もうとする姿勢が感じられた。

韓国は中国とのFTAにはコスト競争力などの面で意外に警戒的
ただ、そうは言っても韓国農業は、日本農業と違って専業農家比率が極めて高く、圧倒的に小規模経営だ。今や輸入農産物比率が50%を超す状況のなかで、海外、とりわけ中国からの安い農産物との競争を強いられている。
この点に関連して、中国とのFTAについては、農業関係者の口が意外に重かった。理由はおわかりだろう。韓国の農業者の人件費を含めたコストと中国のそれは明らかに差があり、中国と韓国との間の経済国境を取り外すと、中国から相対的に割安の農産物がどっと韓国に流入し、あっという間に国内市場を席捲されるリスクがある。このため、韓国にとっては競争力があるエレクトロニクスや自動車などでは中国の巨大市場への輸出が可能で、外貨を稼ぎだせるが、こと、農業にとっては、明らかにコスト競争力の面で比べものにならないため、中韓FTAに関しては可能な限り先延ばしが本音、という印象だ。

ある農業関係者は「EUや米国とのFTAは地理的にも距離があり、生鮮野菜を除く冷凍加工の野菜や畜産物などが流入するリスクはあるが、大きな問題ではない。むしろ、その点で言えば、中国との間は、1日経済圏なので、韓国の農業にとっては、コストの安い中国産農産物が流入するリスクがある。その点では、中国とのFTAは他の国々とは異なる戦略対応が必要になるかもしれない」と述べていた。

ある農業関係者は「EUや米国とのFTAは地理的にも距離があり、冷凍の畜産物や食品加工品などが流入するリスクはあるが、大きな問題ではない。むしろ、中国との間は1日経済圏なので、韓国の農業にとっては、コストの安い中国産農産物が流入するリスクがある。中国とのFTAは他の国々とは異なる戦略対応が必要になる」と述べていた。

日本は韓国から何を学ぶか、
「農業国チリとのFTAで経験」は参考になる
今回、韓国のFTA戦略と影響を受ける農業の対応が大きな取材テーマだったが、韓国から学ぶべきことは、戦略を明確にし、強みと弱みが何かを見極め、そのうち弱みの部分の農業に関して、被害対策だけでなく、逆に攻めの対策も講じるやり方だ。

とくにサムスン研究所研究員が指摘していたように、まずチリという農業国とのFTAで競合するブドウなどの影響を見極め、廃園対策を講じる一方で、生産時期がバッティングせず、むしろ補完し合えるように対策を打っている。結果は、表現がよくないが、管理淘汰によって生産過剰をなくして、チリブドウとのすみ分けを実現している。

これによって、韓国としてはFTA農業対策の経験を積んで外堀を埋め、次第に本丸のEUや米国、さらに今後の中国、さらに日本とのFTAに備えようというものだ。日本はこと、FTAに関しては、国内農業が政治問題化しかねないというリスクばかりを考え、シンガポールなど農業とは無縁の国々とのFTAで臨み、どちらかと言えば弱腰の戦略だ。韓国のように、FTAが戦略的に避けて通れない課題と見たら、いち早く弱みの農業対策のために、農業国チリで対策の経験を積む。この韓国のやり方は、「なかなかしたたかに考えているな」と思わせるものだ。

韓国農業の現状で、もう少しレポートしたいこともあり、次回も韓国の話を取り上げる。とにかく韓国はたくましくなっていることだけは間違いない。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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