自主管理運営の八戸岸壁朝市が面白い 民間創意で地域起こし、先進モデルだ!


時代刺激人 Vol. 284

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

逆境を跳ね返して、アイディアをめぐらし、人や組織を見事に動かしている地方などの現場を見ると、勢いがあるので、生き生きしていることが多く、思わず「素晴らしい」「すごい」と叫びたくなる。

逆境を跳ね返して、アイディアをめぐらし、人や組織を見事に動かしている地方などの現場を見ると、勢いがあるので、生き生きしていることが多く、思わず「素晴らしい」「すごい」と叫びたくなる。今回、「時代刺激人」コラムでご紹介したいと思ったのは、青森県八戸市の館鼻(たてはな)岸壁朝市の、まさに勢いのある現場の典型例だ
実は、この朝市を見ることができたのは、里山資本主義などの著作で常に現場ウオッチを欠かさない私の友人、藻谷浩介さんが主宰する3.11フォローアップツアーのプロジェクトに参加したおかげだ。
私は、3.11のフォローアップに強い興味があって、過去3回、参加した。今回は、これまでの福島県飯舘村や南相馬市など原発事故被災地域へのツアーと違って、津波で壊滅的な被害を受けた岩手県宮古市そばの田老町などの復興状況を、三陸鉄道北リアス線に乗って見て回るのが目的で、最後の目的地が八戸漁港だった。私自身にとって八戸市訪問は初めてだったが、地元で地域起こしプロジェクトにかかわるナビゲーターの町田直子さんの案内で現場見学して大当たりだったのが、今回ご紹介する朝市だ。

漁港のある八戸市の人口が24万人で、
しかも朝市が9つあって活況なのは驚き

朝市は、言うまでもなく長い歴史がある。日本だけでなく、世界中のさまざまな地域で、人が集まる場所には、近隣の農業者や漁業者などが早朝に生産物を持ち寄って売買取引するための市場(いちば)が立つ。市場機能が整っていないところでは自然発生的に生まれるが、成熟した日本国内では、函館朝市などのように常設の朝市となって、一種の観光スポットになっているものもあれば、地域起こしの拠点として朝市が広がっている。岩手県盛岡市の神子田朝市、岐阜県高山市の宮川朝市や陣屋前朝市などがそれだ。

私は全国の朝市めぐりをしているわけではないが、今回、八戸市で館鼻岸壁朝市を見て、活況ぶりに驚くと同時に朝市の地域起こし効果を再認識した。青森県内で漁港の町として有名な八戸市が人口24万人を擁して、県庁所在地の青森市に匹敵する人口規模であるうえに、市内の中心部には何と9つの朝市がある、と聞いて驚いたが、今回ご紹介する館鼻岸壁朝市は、毎週日曜日だけの開催にもかかわらず、際立っている。活況ぶりには実は成功の秘密があり、全国に数ある朝市の中でも先進モデル事例に入る、と言っていい。

 

八戸の館鼻岸壁朝市は360店が出店し
早朝から大賑わいで活気度がすごい

その成功の秘密の前に、まずは現場のすごさを申し上げよう。館鼻岸壁朝市は、イカやサバなど全国有数の漁獲水揚げを誇る八戸市の太平洋岸にある八戸港の中で、館鼻岸壁という青森県の広大な県有地を使って雪解けの3月から12月までの毎週日曜日限定で、夜明けから午前9時まで開催されている。現場で圧倒されたのは、会場の端から端まで800メートルに及ぶ朝市ストリートという通りが2列になっていること、しかも2つのストリートの両側にぎっしりとおしゃれなテントを張った店から露店の店まで、約360のさまざまな店が軒を連ねているのだ。まるで小さな町がそこにある、というイメージだ。

私がその朝市に着いたのは午前6時過ぎだったが、まだ時間的に早朝だというのに買い物客がぎっしりで、ちょっと先が見えないほどなのだ。どのお客も立ち止まってほしいものを物色したり、あるいはウインドウショッピングを楽しむ形でぶらぶら見て回るなど、さまざまだが、早朝の漁港岸壁が人、また人で大賑わいなのはやはり驚きだ。しかも朝市に出店した地元の人たちが面白い。声を張り上げて楽しそうに呼び込みを行うので、思わずのぞいてみたくなるほどだ。

 

八戸の館鼻岸壁朝市の成功モデルは
商工関係者らの見事な自主運営管理

朝市がこんなに活気あるのを見て、誰もが、いったい何が成功の秘密なのだろうか、と思うだろう。結論から先に申し上げよう。館鼻岸壁朝市の成功モデルは、八戸市内で商売している農漁業、商工業の関係者が自主的につくった「協同組合湊日曜朝市会」(上村隆雄理事長)による自主管理運営にある、と私は思っている。

ジャーナリストの好奇心で、協同組合理事長の上村さんにいろいろ話を聞いたところ、やはり、自主運営管理がポイントだった。上村さんによると、県や市など行政へのお上頼みにせず、農業者、漁業者ら生産者から商工業関係者まで、さまざまな人たちが互いに連携して民間の発想で、いい意味での創意工夫を重ねながら朝市を自主運営管理していることが活力の源泉でないか、という。

上村さんの話では、この館鼻岸壁朝市の母体は、同じ八戸市内の湊町山手通り沿いに展開していた湊日曜朝市だ。その朝市も、上村さんらが自主運営管理していたが、町の中心部の商店街での日曜朝市だったため、お客を含めて参加者が増えるにしたがって歩道部分を占拠する形になり、危険だと苦情が出た。当然のことだ。そこで、移転先を探すうちに県が保有管理する館鼻岸壁が候補地として浮上した。その岸壁は、主として平日に青森県外の遠洋漁業の漁船などが修理で使っている場所で、広大な敷地が魅力。問題は、県が日曜日限定とはいえ、使用を認めてくれるかどうかだった。

 

県には朝市の経済効果をアピール、
規制も不要で民間がやると頼み込んで許可得る

そこで、上村さんらは、朝市の経済効果を全面に押し出し、行政が地域起こしのためにバックアップすることの重要性を指摘、その上で運営費用などをすべて民間でまかない、管理もトラブルを起こさないように徹底して行うので、広大な県有地を毎週日曜日の午前2時ごろから午前9時まで、という使用時間限定で借り受けられないだろうか、と提案した。その際、衛生管理などルールはしっかり守るので、規制を加えないでほしい、と頼み込んで合意をとりつけた、という。

問題は、その自主運営管理だ。上村さんの話では、広大な駐車場の管理から、10か所にのぼる仮設トイレ、大量に出される場内のごみの分別ごみ捨て場などの管理、また迷い子などの連絡の場内放送、さらに地方への宅急便などの発送手続きコーナーの管理などはすべて、行政に頼らずすべて自主管理で、整然と行っている。

タテヨコ3メートル、6メートルの1区画を1人1万円、中には2区画2万円で出店したい人たちに割り当てる。出店料収入は電気代を含めた運営管理費用に充てられる。協同組合は上村さんが理事長になっているが、役員、専従従業員をおかないので、経費もほとんどかからない。何か問題があった時に幹部が合議制で問題解決にあたるだけ、という。

 

360店が出店、まだ80店が待機中というからすごい、
観光客が泊まり込みで来訪

この館鼻岸壁朝市の出店者は360で、全国の朝市でも突出しているが、何と現在80店が申し込んできて待機中というからすごい。協同組合では、それら出店者を認めるにあたって面接を行う。夜店などでよく見かける香具師(やし)、テキヤといった、いわゆるやくざまがいの人を排除するためで、怪しいなという場合、地元警察に照会する。自主運営管理の責任を心得ているところがすばらしい。

上村さんの話では、季節などにもよるが、平均して館鼻岸壁朝市には1回8万人が来てくれる。そして午前6時からピーク時の午前8時半ぐらいまでのわずか3時間弱で、売上高が平均して1億円、という。朝市の経済効果は間違いなく大きい。

そればかりでない。上村さんは「実は、この館鼻岸壁朝市は2004年に現在地に移転してから13年目ですが、評判が評判を呼んで、私たちの朝市を見にいこうという観光客の人たちが増え、前夜から八戸市内に宿泊していただくので、市内中心部も繁華街に変わり、飲食店や商店が潤うというプラス効果が出たのです。うれしいことです」という。

 

農業、漁業者の人たちも朝市に参加、
売れ筋商品を探って川下参加のプラス効果

ナビゲーターの町田さんにも面白い話を聞いた。館鼻岸壁朝市に出店する人たちは、八戸市内にも店を出す商店の人たちが多いが、農業者、さらに漁業者の人たちも意外に目立つ。この人たちは、川にたとえれば川上で生産だけに携わっていたのが川中の加工に手を広げ、その商品化したものを川下の流通現場の館鼻岸壁朝市で売る、という六次産業化に目覚めた。言ってみれば卸売市場流通にだけ頼らず、自分たちで売れる商品づくりに工夫を凝らして、いい意味で儲けることにやる気を見せてきたが、この朝市では、お客のニーズを探って、売れ筋商品づくりにも意欲を示す、というのだ。漁業者は、とくに出漁するご主人たちではなくその奥さんたちで、水揚げして卸売市場でセリにかけない、あるいはかけにくい魚で調理加工すれば売れそうだ、というものを朝市の現場で売り出したら、大当たりだった、という。とてもいい話だ。

 

焼き立てパン屋さんには行列、
おいしさなどがSNS効果で全国に伝わり話題に

しかし町田さんによると、もっと興味深い話がある。館鼻岸壁朝市に出店する店の中で、アンジェリーナというかわいい名前の焼き立てのパン屋さんが大人気で、行列ができるほどだという。この店のビジネスモデルは、本格的なパン焼きセットを装備したトラックを店の奥に置き、その場でニーズに対応して味にこだわりのあるパンを焼くので、焼き立てという鮮度に加え、味のよさが評価を得ている。クロワッサンが大人気で、地方区から一気に全国区に行くほどの味のよさで、この評判がプラスに働いて、スマホでフェースブックなどを通じて「おいしかった」と全国に流されたおかげで、アンジェリーナはいろいろな場所に出店する人気だ。まさにソーシャルネットワークサービス(SNS)と館鼻岸壁朝市の行列のできる店の二重効果だ、という。

 

協同組合リーダーの上村さん
「行政のお上頼みで行かず自主運営管理が成功」

上村さんは自主運営管理による朝市効果に関して、「行政のお上頼みで、しかも補助金などを当てにしたりする地域起こしはうまくいきません。それに行政にかかわると、責任をとりたくないためか、規制が先行します。その意味で、私たちのような自主運営管理手法で行けば、衛生管理などはもちろん、自己責任で厳しくやりますし、また出店した人たちがみんな、朝市に集まるお客との会話で売れ筋商品などのヒントを得るし、また他の店の売り方を見て、刺激を受けて、自分たちでも工夫するとかの効果も大きいです」とメリットを盛んに上げた。

しかも、上村さんは、町田さんが指摘したようにスマホなどを通じてインターネットで広がるSNS効果の大きさも大いに勉強になったとし、若い人たちに「館鼻岸壁朝市が面白いぞ、おいしい店があるよ」などと発信し「いいね」「いいね」のリアクションで情報が広がり、集客にプラスに働く効果も見過ごせない、という。

そして上村さんは「海に囲まれた日本には、館鼻岸壁のような岸壁はいっぱいあります。私たちの成功事例を参考に、県など自治体が積極的に使用許可を与えて、有効活用してほしい。地域起こしの場を提供してくれるだけでいいのです。あとは、私たち民間が自主管理運営して成果を上げるのですから、、、」と語っていたのが印象的だ。

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