日本の衰退につながりかねないトップの言動や失言・放言リスク 航空自衛隊前空幕長や前国交相ら「あとを絶たず」がこわい


時代刺激人 Vol. 15

 最近は、「日本株式会社」といった表現が使われなくなったが、日本という国を株式会社にたとえれば、政治家、官僚、財界人はある意味で経営の任に携わる重役たちである。その言動は当然、極めて重くあるべきだし規律も求められるはずなのに、この国ではトップを極めた人たちの言動にお粗末さどころか、開き直りとも思えるところが時々、見受けられる。日本の衰退につながりかねない文字どおりのリスクなので、一度、取り上げたい。
 「我が国が侵略国家だったなどは濡れ衣(ぬれぎぬ)である」と、航空自衛隊のトップである航空幕僚長が民間の懸賞論文に応募し堂々と論陣を張ったことが最近、表面化したのもその1つだ。
これに関して、麻生首相は、国内で政治問題化しかねないばかりか、中国などとの関係で国際問題にもなりかねないと判断し、論文を書いた田母神(たもがみ)空幕長(当時)の更迭を指示、浜田防衛相が「辞表を出してほしい」と本人に伝えた。ところが田母神氏は「自分からは辞めない」という開き直りだったため、防衛省は解任、そして定年退職という形で追い込み一件落着を図った。しかし参院外交防衛委員会で参考人招致された際の発言を見ても、田母神氏は自説を曲げず、何ら間違っていない、という姿勢だ。

言論の自由が認められていても政府の一角を担う立場わきまえない無神経さ
 この論文での主張は、明らかに政府の統一判断と大きく食い違っている。1995年8月、太平洋戦争から50年たった時点で当時の村山首相が戦前の日本の植民地支配と侵略を認めると同時に、「国策を誤り」「アジア諸国の人々に多大な損害を与えた」ことを痛切に反省し心からおわびする、という談話を発表した。これはその後の歴代首相に引き継がれており、田母神氏の主張は明らかに逸脱しているのは言うまでもない。
 日本国憲法で言論の自由が認められており、田母神氏が個人として、どういった発言をしようが許されてしかるべきだろう。しかし問題は、自衛隊の指揮官トップともいえる現職の航空幕僚長が、自ら身を置く政府の判断や見解を真っ向から否定する言動を平然と行うことだ。

同じことは、閣僚就任してからわずか5日間で「不規則発言」が問題になり辞任を余儀なくされた中山前国土交通相にも通じる。
中山氏は、成田空港拡張工事に反対した住民を「ごね得」と決めつけたり、大分県の教職員採用問題にからめて日教組を手厳しく批判し、とくに日教組批判に関しては、所管外の文部科学省の問題に言及したことが越権行為となって問題になり、最後は引責辞任となった。
この場合も、閣僚という立場を離れて、一政治家あるいは個人の立場での言動ならば、「言論の自由があるから、何を言ってもいいが、馬鹿な発言をするものだ」だけで済まされる。しかし、ひとたび閣僚、大臣という立場で、しかも公式の記者会見などの場で平然と発言するに至っては論外だ。その無神経さが問題になったのだ。

企業トップは「失言」でも企業自身がマーケットから退場求められるのに、、、、
 過去にも、現職閣僚の立場で「問題発言」「不規則発言」をして、中にはせっかく射止めた閣僚の座をあっけなく棒に振るケースは枚挙にいとまがないほどあった。これらの場合、うっかりしてミス発言をしたり言い誤りの「失言」ではなく、確信犯的に、辞書で「思うことを遠慮なく言う」という「放言」である中山前国土交通相の発言のようなケースが多いから始末に困る。
 ご記憶だろうか。雪印乳業の食中毒事件を責任追及するメディアに対して2000年7月、石川社長(当時)がエレベーターに乗り込んだ直後、疲れ切った表情で「私だって寝ていないんだ」と同情を求める発言をしたことを。
これは開き直りでも「放言」でもなく、ちょっと魔がさしての「失言」だったが、この社長のひとことがメディアばかりか、多くの消費者の反発を買って不買運動にまで発展、雪印乳業は一気に経営破たんに追い込まれた。しかし、この石川社長の発言は、いわゆる個人のヒューマンエラーではなくて、雪印乳業という食品業界のリーディングカンパニーの「大企業病」という組織病理がもたらしたことだったかもしれない。

いずれにしても、企業トップの経営者の「失言」、さらには「放言」は間違いなく、マーケットという場で厳しい評価を受け、雪印乳業のようにマーケットから退場を求められるケースがある。ところが、政治家、閣僚、あるいは政府のトップといった「日本株式会社」の重役たちのうち、政治家は、選挙の場で有権者の指弾を受けることもあり得るが、一般的には企業トップの「失言」などによって、その企業の命とりになる、といったことは少ない。それだけに閣僚や政府トップは、身を律しての行動が求められるのに、残念ながら、その自覚に欠けるところが、この国にとってこわいことだ。

決め手となる未然防止策、再発防止策がないのが最大のリスク
 さて、マーケットの時代、スピードの時代、グローバルの時代といった時代のくくりで申上げれば、「日本株式会社」の重役たちの「失言」や「放言」は明らかにリスクであり、何らかの未然防止策、あるいは再発防止策が必要だ。
 ところが、これに関しては、「日本株式会社」の重役たちのことだけに、誰がネコの首に鈴をつけることができるのか、現実問題として、難しい。だからといって、何の方策も講じない、というのもリスクを抱え込む、もっと言えば時限爆弾を抱えるのと同じだ。

閣僚の場合、最近は事前にスキャンダル歴などがないか、米国の事例にならって、こっそり「身体検査」をやるが、この際、リスクになりそうな「不規則発言」歴なども重要な判断材料というふうにするのも一案かもしれない。
しかし、田母神氏の場合、あとで知って驚いたが、記者会見などでも自衛隊トップとして問題になるような発言をしていたというのだ。防衛省自体の「大組織病」という問題に及ぶ話かもしれない。

日銀総裁の笑うに笑えないうっかりミス発言、マーケットに出れば大騒ぎにも
 笑うに笑えない話がある。白川日銀総裁が2008年8月19日の金融政策決定会合後の記者会見で、聞いていた記者団も思わず「エッ?」と声を出しそうな発言ミスをしてしまった。「本日(19日)の金融政策決定会合で、無担保コールレートオーバーナイト物を0.75%前後で維持するよう促すという、これまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定した」と述べた。現行の政策金利維持ならば当然0.5%であるはずなのに、0.75%と述べてしまったのだ。
記者団のみならず日銀事務当局もあわてて会見場の白川総裁に駆け寄って発言ミスを伝え、総裁自身も訂正したので、コトなきをえた。それに、記者会見そのものが終了時まで缶詰状態だったので、金融市場を混乱に追い込む事態にならなかった。が、何とも危うい話だ。マーケットの時代、グローバルの時代には中央銀行トップの失言が予期しない混乱を生みだすだけに、細心の注意が必要なことは言うまでもない。
 その点で言えば、故橋本首相が米国訪問中の1997年6月、「米国債を売りたい衝動に駆られる」と発言し米国債価格が急落、ドル売りというハプニングも忘れ難い事件もある。
いずれにしても、「日本株式会社」の重役たちには、厳しい自己規律を求め、その立場や地位にふさわしい言動を求めていくしかない。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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