MERSや大気汚染リスク連鎖が心配 日中韓で危機管理連携センターを


時代刺激人 Vol. 271

韓国で広がるMERS(中東呼吸器症候群)のコロナウイルスの感染症リスクが日本だけでなく隣接する中国、周辺の香港、台湾、さらにベトナム、タイなどASEAN(東南アジア諸国連合)にまでじわじわと及んでいる。

韓国で広がるMERS(中東呼吸器症候群)のコロナウイルスの感染症リスクが日本だけでなく隣接する中国、周辺の香港、台湾、さらにベトナム、タイなどASEAN(東南アジア諸国連合)にまでじわじわと及んでいる。韓国では6月26日現在、感染者の死亡が31人にのぼったが、韓国以外では、今のところ空港などの水際での感染チェックが厳しく死亡に至るといった事態に至っていない。ただ、連鎖のリスクは消えていない。
メディアはあまり伝えていないが、各国の公衆安全や環境衛生、医療現場の関係者は、安全が確実に担保されるまで、半ば臨戦態勢でいるのは事実だ。というのも韓国政府が今回、MERS感染者を確認しながら、経済や社会の混乱を回避するために情報統制を敷いたことが結果的に事態を悪化させたことがはっきりしている。明らかに危機管理ミスで、過去の中国でのSARS(重症急性呼吸器症候群)で対応遅れが大問題を引き起こした「教訓」が生かされていなかったため、各国とも最悪のリスクに備えているのだ。

日本の政治リーダーがホットライン使って提案を、
日韓の「政冷」改善兆しもチャンス

そこで、今回のコラムでは、国境を越えてあらゆるものがつながってリスク連鎖が起きやすいグローバルの時代に、感染症に限らず大気汚染、気候変動などのリスクに対し、日本や韓国、中国などの関係地域諸国がどうやってスクラムを組むべきか、述べてみたい。

具体的に言えば、日本が中心になって、当面のリスク源の韓国、そして中国に対し、感染症リスク対応の問題に限らず大気汚染や水や海洋汚染など環境汚染、気候変動リスクなど、あらゆる社会リスクに積極対応するため、日中韓3か国で共同して特別の安全問題対応の情報共有組織をつくり、ホットラインで常に連絡をとりあうようにすべきだ、と政治主導で呼びかけることだ。キーワードは、安全文化の確立だ。日韓間の「政冷」改善の兆しが見えた今、まずは感染症リスク対応に苦しむ韓国に働きかけるのはチャンスだと思う。

日中韓の環境・保健大臣レベルでの協力合意が
機能しておらず一本化する必要も

私のこの問題提起は、決して突飛な話でない。実は、日本、韓国、そして中国の3か国環境大臣が今年2015年4月末に中国上海で、「環境協力にかかわる日中韓3か国共同行動計画」づくりで合意している。北京を中心に自動車排気ガスなどの拡散に伴うPM2.5(微小粒子状物質)の増大で大気汚染が深刻化したため、中国が拡散リスクを懸念する韓国や日本の求めに応じたのが引き金になって3か国で連携行動になった。大気汚染だけでなく水および海洋環境保全など優先9分野を共同行動の対象にしようとしている。ところが、まだ積極的なアクションプランづくり、そして行動にまで踏み出していないのだ。

他方で、同じく日中韓3か国の保健大臣(日本は厚生労働大臣)が2014年11月、北京でエボラ出血熱対策に関する緊急会合を開催、患者発生時の情報共有などに取り組む共同声明を出した。当時、エボラ出血熱の感染症の拡大リスクが3か国の担当者間で共通に生じていたこと、とくに巨大な人口を抱える中国では、ひとたび感染症の疑いのある患者が入り込んだ場合のリスク対応は、過去のSARS経験で身に染みているため、韓国や日本と情報共有したいという気持ちが当時、強かったことが日中韓3か国の保健大臣会合に発展したのは間違いない。ところが、これもまた大気汚染対応と同様、MERS対応では、連携の枠組みで大きく動き出したという話が残念ながら、まだ聞こえて来ないのだ。

3か国の官僚組織が感染症や
大気汚染リスク対応の連携に積極対応せず

問題は、3か国ともタテ割り行政の弊害が出ていて、感染症リスクや大気汚染や気候変動のリスクにそれぞれの担当大臣が対応する、というレベルにとどまってしまって連携行動がない、ということだ。
3か国は、政治システムや官僚組織、社会システムの枠組みがそれぞれ異なるが、そこで起きていることで容易に想像できるのは、行政組織間で縄張り争い、あるいは責任の押し付け合いが起きること、また官僚組織の共通行動パターンとして、責任を負いたくない、あとで問題が生じた場合の責任追及がこわい、このためリスクも積極的に負いたくない、といったことになって後ろ向きになっている。
このため、3か国にとって仮に感染症リスク対応で何らかの共同行動を、という問題が出てきても、現状は、自国で空港などでの水際作戦で侵入を食い止めることに終始する。もし、リスクが顕在化してもリスク連鎖に積極対応に至らない恐れが出てきているのだ。

3か国の政治リーダーは歴史認識などでの
対立にこだわっている場合ではないはず

そんな状況に加えて、この3か国間では依然、歴史認識をめぐって対立が消えていない。また、安全保障絡みでも政治的、外交的、かつ軍事的に相互不信感が強まっている。これらがネックになって対話の窓が開かない、という事態になった場合、感染症や環境汚染リスクなどの連鎖が目前にあっても、国家の威信や政治の建前ばかりが先行してしまい、危機は一気に拡大して、とりかえしのつかない最悪の事態になる恐れが十分にある。

私の問題提起がおわかりいただけよう。私は、政治指導者らが互いのメンツにこだわって、事実上、門戸を閉じる馬鹿げた行動に終始するよりも、この際、政治主導で組織横断的に連携して疾病がらみのあらゆるリスクの連鎖に関しては、3か国が連携して積極対応が出来る危機管理センターをつくれ、と訴えたいと考えるのだ。

安全文化の欠如が問題、韓国、中国とも
事故対応でも組織エラー対策に踏み込まず

さて、今回の韓国でのMERS初期対応での危機管理対応にミスがあったため、自国のみならず周辺国を巻き込んでのリスク連鎖を引き起こした問題について、私は、韓国に安全文化の考え方が欠けていたのではないか、という問題意識を持っている。過去のSARS対応で問題を引き起こした中国も全く同じ状況だったのでないかと考えている。

そんな矢先、私が所属するNPO組織で、失敗の事例研究を行う「失敗学会組織行動分科会」の最近の会合で、その安全文化の確立問題が大きなテーマになった。リーダーの石橋明さん(安全マネジメント研究所長)は韓国の旅客船セウォル号沈没事故、中国・長江での客船転覆事故の2つの事例を引き合いに、こう述べている。
「旅客船セウォル号沈没事故の処理が象徴的だが、韓国当局は、ヒューマンエラーに問題があった、と任務放棄、責任放棄の船長に責任を押し付けた。しかし過重積載などを現場に要求した海運会社、それを許可した行政当局などの組織エラーに踏み込まず、一種のトカゲのしっぽ切りの対策に終始したため、再発防止策も中途半端に終わっている。安全文化が韓国社会に欠如していることが最大の問題だが、組織エラーに踏み込まない限り、また同じような問題が起こり得る」と石橋さんは述べている。

韓国朴政権はMERSで初期対応に判断ミス、
中国もかつてSARSで同じミス

韓国の朴政権は、旅客船セウォル号沈没事故の処理では国民の反発が政権批判、リコール批判に及ばないようにヒューマンエラーで片付けようとしたが、今回のMERS問題の初期対応に関しても似たような危機管理対応で、感染者の入院先、感染者数などの情報開示をすると不必要な混乱が生じ、政権の対応のまずさが出かねないため、感染者を封じ込めて早く治療対応すれば、いずれ事態は沈静化するだろう、という甘い読みだった。しかしそのこと自体が安全文化の欠如につながると言える。

中国の場合、SARSでも当時の共産党政権は、感染者を封じ込めて最悪の事態になる前に患者処理を済ませれば、社会問題化しないだろうと判断したのだが、リスクの連鎖が一気に広がり、収拾がつかなくなった事例だ。今回の長江での客船転覆事故に関しても、未だに原因究明中とはいえ、ヒューマンエラーで片付け、組織エラーの追及に踏み込まずに問題処理したりして、あとで違った真相が浮かび上がった時に社会不安が政治不安、共産党批判に発展するリスクは皆無とは言えない。これも韓国と同様、安全文化が欠如している、と言われても、共産党政権は、反論できないのでないかと思う。

韓国の友人教授「米国や日本は法治国家で
対応早いが、韓国は対応遅れ」と指摘

韓国人の友人で、大学教授の魏晶玄さんと今回のMERS対応の問題を話し合っていたら、魏さんは興味深い指摘を行った。「米国や日本は安全文化が確立すると同時に、法治国家として、感染症法などに対応し感染症の疑いのある人が出れば、すぐに隔離して、リスク連鎖を最小限に抑える社会システムが出来上がっている。ところが中国は法律をつくっていても、法治よりも共産党の党治になっていて、社会不安が政治不安に発展しないように抑え込もうとする。問題は韓国だ。OECD(海外経済協力機構)メンバーとして先進国かつ民主主義国家のはずだが、今回の問題対応では危機管理対応がまったく出来ていなかった。安全文化が確立していないのは事実で、恥ずかしい限りだ」と述べている。

韓国でのビジネス経験長い友人
「安全に配慮しても一銭の得にならずの意識が災い

韓国でのビジネス経験が長い私の友人の1人は、韓国の安全文化の欠如、という点で、これまた、興味深い話をしてくれた。「韓国のバスに乗ると、バス運転手の荒っぽい運転ぶりに驚く。乗客がバスに乗って席につく前に、運転手は急発進してスピードを出し、安全運転などは二の次ということを随所に感じる。日本のバス運転手の運転とは対照的だ。当初は、韓国人のパリパリ精神(急げ急げ精神)の表れかと思ったが、韓国人の意識構造が違うことがわかった。要は、安全安心に配慮しても運転手には一銭の得にもならない。万一、事故になっても会社側、国、地方自治体の不当な待遇、労働条件の低さがもたらしたものと、労組を巻き込んで抗議活動に切り替えればいいと考える」というのだ。
その友人によると、赤信号でも歩行者などが横断していなければ信号無視で突っ走っても問題ない、それが当たり前だ、それを正直者気取りで交通ルールを守っているのはバカのやることだ、という意識行動でいるのが大半。東日本大震災の時に、タクシーを待って整然と並ぶ日本人が理解できない、という姿勢で、たとえば自分が何としてもタクシーに素早く乗りたい場合、列の先頭に行ってタクシー運転手に平然と「2倍、3倍の料金を払うから、先に乗せろ」と言う。そこには安全文化の意識などがない、という。

日中韓3か国にとどまらず、
日本はアジア全体の広域危機管理組織体制づくりも

今回のMERSの感染症リスクにとどまらず、PM2.5などの大気汚染、気候変動リスクが特定の地域や国に封じ込めることなどできず、リスクの連鎖が着実に起き得るため、私は、このコラムで、日本の政治リーダーが安全文化の確立を訴えて、こと感染症リスクを含めた社会安全、市民安全につながる問題に関しては、日本、中国、韓国の3か国で連携し危機管理センターで対応できるようにしたらどうか、と提案すればいい、と重ねて申し上げたい。

日本は今後、感染症リスクにとどまらず大気汚染や気候変動リスク対応で、アジアでの広域危機管理組織体制作りも早急に主導すべきだ。このアジアへの働きかけに関しては、以前のコラムでも指摘した点だが、世界的に人口集中するアジアで今、経済成長優先政策が高じて、環境問題への対応や医療体制整備の遅れが問題化しつつある。日本は、アジア各国が成長優先で見落としがちな環境破壊や気候変動対応の対策はじめ危機管理策を主導的に進めるべきだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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