アジアは「世界の成長センター」、日本は今こそ内需拡大に積極協力を 麻生首相の「アジア経済倍増計画」は戦略性に欠け「本気度」がポイント


時代刺激人 Vol. 33

 麻生太郎首相が4月9日、日本記者クラブでの会見で発表した2020年までにアジアの経済規模を今よりも倍増させる、という「アジア経済倍増計画」構想は、着想の面白さがある半面、率直に言って、戦略性や構想力の深みのようなものに欠ける。その構想は、G20金融サミットを受けたアジア首脳会議向けのものだが、どう見ても政権の再浮揚を図る思いつきの構想という面がぬぐえず、今後の「本気度」が試されるところだ。
 ジャーナリストの好奇心もあって、私は麻生首相の記者会見に参加した。その日、日本プレスセンターにある記者会見場は、政局がらみもあってか、新聞社やテレビ局が数多く集まり、ごった返していた。冒頭、麻生首相は、「100年に1度の経済危機だが、ピンチをチャンスに変えることができる国が大きな繁栄をつかむことができる。そこで、この機会に、新たな成長戦略として、2020年までの伸ばすべき産業分野の姿や実現の道筋を示したい」と語り、「日本経済の未来開拓戦略」、そして「アジア経済倍増へ向けた成長構想」という2つにしぼって問題提起した。
このうち、「日本経済の未来開拓戦略」に関しては、新聞のヘッドライン、見出しで言えば「低炭素革命で世界をリードする国」として太陽光世界一プラン、エコカー世界最速普及プラン、「安心・元気な健康長寿社会」として30万人介護雇用創出プラン、地域医療再生プラン、「日本の魅力発揮」としてキラリと光る観光大国、日本のソフトパワー発信といった盛りだくさんなプランだ。
このあたりは、わずか1年で政権を放り出した安倍晋三元首相、福田康夫前首相が政権の戦略プランという形でかつて打ち出したものと大差ない。プランはいずれも実現すれば、日本が面白い国になることをうかがわせるが、問題は、どこまで実効性があるのか、財政面での裏付けはどうかといった「本気度」のところだ。麻生首相が打ち上げた構想にも、そこがよく見えなかった。

アジア広域インフラ整備に日本の民間投資向かうよう2兆円の貿易保険枠設定
 そういった点で言うと「アジア経済倍増へ向けた成長構想」も似たようなところがあるが、麻生首相の構想のポイントはこうだ。
「アジアは21世紀の成長センターだ。この4年間で、人口が1億3000万人も増え日本と同じ人口規模の国が誕生するペースだ。それら人口の中核となる中間所得層が着実に増えつつある。その中間層が安心して消費拡大に取り組めるように、社会保障などのセーフティーネットの充実、教育の充実などが必要だ。日本でかつて、池田勇人内閣が所得倍増計画を打ち出し、高度成長経済へのきっかけをつくった。そこで、日本としてはアジアの内需拡大によって経済を2020年に倍増することをめざし、対等の立場で応援していきたい」と。
問題提起自体は悪くない。それよりも、聞きたいのは、どのようにして、アジアの経済規模倍増に貢献するか、という点だ。  麻生首相は記者会見で、その点に関して、インドのムンバイ――デリー産業大動脈、メコン川流域諸国によるメコン総合開発、インドとメコンをつなぐ産業大動脈、さらにインドネシア、フィリピンなどのBIMP広域開発といったさまざまな地域の開発計画などをつなぎ合わせ一体的に広域インフラの整備などを進めれば、成長の起爆剤になっていく。日本としては、アジアの広域インフラ整備に民間投資資金が向かうように2兆円の貿易保険枠を設ける、と述べた。

アジア域内で広域インフラ整備は進みつつあり 日本提案はインパクト不足
 アジアの内需拡大を図ることが、アジアを「世界の成長センター」として持続させるポイントであるというのは正しい判断だが、麻生首相の主張は、日本として、アジアの各地域で芽生えつつある開発計画や開発地域を連携させるため、物流や港湾、電力、工業団地などのインフラ整備を広域にわたって一体的に進めればどうか。それによって投資が投資を生む形で内需拡大につながっていく。そのため日本からの民間投資がカギを握る。政府としては貿易保険枠でリスク回避のサポートをするので、官民あげてのアジア内需拡大協力も可能、というシナリオだ。
しかし、私に言わせれば、広域インフラ整備の話は、やらないよりはやった方がいいことは事実だが、何とも戦略性や構想力の深みのようなものに欠ける。というのは、この種の話は、すでにアジアでの域内協力の形で進んでいる面もあり、日本が声高に、「アジア経済倍増へ向けた成長構想」という形で打ち出しても、アジアには強烈なインパクトを与えない。むしろ日本はやっと動き出したか、という受け止め方に終わる、と思う。
 1つの例をあげよう。私が数年前、アジア開発銀行のメディアコンサルタントして、さまざまなプロジェクトにかかわった際、麻生首相が記者会見で挙げたメコン川流域諸国によるメコン総合開発に関しては、すでにかなりプロジェクトが進んでいた。具体的には東西回廊や南北回廊といった、さまざまな経済効果を生み出す「経済道路」を建設したり、タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、それに中国という関係国間の税関手続きの簡素化など、ある面で将来のメコン経済圏をめざす取り組みだ。

中国はメコン経済圏の戦略的重要性に気づき、日本と違って攻勢かけるすごさ
 もちろん、日本も政府開発援助(ODA)を通じて、インフラ整備に協力していた。しかし、当時感じたのは、日本は援助の発想しかなかったこと、道路建設やメコン川にかかる橋の建設にかかわっても、その面で、つぎ込む技術力などはすごいものの、逆にメコン経済圏という新しい経済共同市場設立のために、戦略的に、いい意味でのリーダーシップを果たすといった発想や行動があまり見受けられなかったこと、どちらかと言えば、プロジェクトへの資金協力をたまに打ち出すのが印象に残ったぐらいだ。
この点に関しては、第2回のコラムで「日本は現代版三国志型の日米中連携を、アジアの地殻変動を受け止めASEAN(東南アジア諸国連合)ベースの外交戦略軸が重要」という話を書いたので、参考にしていただきたい。しかし率直に言って、日本の対応の遅さはひどい。それに対して、中国はいち早く、このメコン経済圏の戦略的な重要性に気が付き、雲南省の地域プロジェクトを北京中央の国直轄プロジェクトに切り替え、中国のASEANにむけての南下戦略の中核に位置付けて、今やさまざまな攻勢をかけている。

日本はアジア地域経済統合に向け戦略提案も、G20前に事前会合開催すべき
 といった意味で、私が言いたいのは、麻生首相が記者会見で掲げた広域インフラの整備、アジア総合開発だけでは旧来のハコもの整備の発想と同じであること、むしろ戦略的な構想力がアジアにとっては重要であること、政治を切り離して、まずは経済連携で進めること、ハードとソフトを組み合わせたアジア全体の地域経済統合への一環として、経済共同市場づくりには、こういった政策連携の準備があるとか、アジアが強い関心を示すテーマはいくらでもある。問題は、日本が先導的にリーダーシップを発揮できるかどうかだ。
アジアは10年前のアジア通貨・金融危機を通じて、さまざまな「学習効果」をもとに欧米諸国に依存しないでもたくましく成長できるようなアジア域内経済システムづくりに強い関心がある。今回の米国発の金融危機に端を発したグローバルリスクに対しても、アジア独自の成長モデルづくりを考える時期にある。そういったときに、日本が「アジア経済倍増へ向けた成長構想」を打ち出すのはタイムリーだが、現実問題として、戦略性に欠ける点が問題のように思うのだ。
ところが、日本の出鼻をくじく事態が思わぬことが起きた。麻生首相が構想打ち上げを予定していたタイでの東アジア16カ国首脳会議、正確には ASEAN10カ国+3(日本、中国、韓国)+3(インド、オーストラリア、ニュージーランド)首脳会議が運悪くタイの反政府デモ拡大で急きょ、中止になってしまったのだ。このため、アジアの首脳を前にした日本の構想打ち上げは不発状態のままとなっている。まだ、チャンスはあるのだから、麻生首相は、もっと中身のある「アジア経済倍増へ向けた成長構想」にすべく構想練り直しをしたらどうか。
それと、4月2日のロンドンでの金融サミット、G20にはアジアからも日本、中国、韓国、インド、インドネシア、それにオーストラリアが参加した。しかし、残念なことに日本は自らリーダーシップをとって、G20に向けたアジアの主張を束ねる会合を事前に開催するとか、戦略的な提案づくりで中国やインドといった新興国と打ち合わせるといったことなどをやれていない。日本は、そういった意味で戦略的な構想力がないと言われても仕方ないのでないだろうか。私が心配するのはそういったことだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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