民主党の「自民党化」?が心配 政策決定の失敗反省し新戦略を


時代刺激人 Vol. 152

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

ここ数年、国民は、政治に裏切られっぱなしだ。制度疲労状態に陥った自民党政治に幻滅し、政権交代めざす民主党に新たな政治を託したら、当初の「期待半分・不安半分」は政権運営の未熟さで、期待外れ度が一気に深刻になった。そればかりか東日本大震災、原発事故という文字どおりの国難への対応に関しても、スピード感がないうえ政治指導力が決定的に欠けた。国民が期待した日本のフルモデルチェンジなど、到底、望めない状況だ。

そんな中で、新たにスタートした野田佳彦首相率いる新政権の中核大臣の1人、鉢呂吉雄前経済産業相が放射能汚染で避難生活を余儀なくされた福島県の被災地住民の神経を逆なでする「人っ子1人いない死の町」という問題発言で反発を招き、あっけなく辞任となった。民主党政治の未熟度は相変わらずだ。ところが野党第1党の自民党の石原伸晃幹事長も10年の節目を迎えた米国での同時多発テロについて最近、「歴史の必然で起きたことでないか」と米国民の神経を逆なでする不規則発言を行った。与野党問わず、政治家の無神経さ、緊張感のなさが何ともこわい。

前自民党政権システム全否定から一転、
先祖がえりでは存在問われる
さて、今回のテーマは、民主党の野田新政権が進めようとする政策決定システムの変更が「自民党化」しつつある、という点をめぐる問題をとりあげたい。
結論から先に申上げれば、政権交代に際して、前自民党政権システムの全否定から始まって、民主党が新たに構築したシステムにもし問題が生じたのなら、躊躇なく変更を加えるのは望ましいことだ。しかし、これまでの政策決定システムのどこに問題があったのか、問題抽出をしっかりと行い、その反省のもとに、どうすれば機動的な、時代先取りのスピーディーな政策決定が行えるかの処方箋を明示すべきだ。前自民党政権への単なる先祖がえりだけだったら、民主党という政党の存在そのものが問われることになりかねない。

現時点では、民主党新政権の政策決定システムがどう変わるのか、全容が見えない。ただ、いくつかの主要な新聞メディアが報じるとおり、自民党前政権の政策決定システムを取り入れつつあり、それが「自民党化」していることは事実だ。

民主党政調が政府提出法案の事前審査、内閣一元決定から変更へ
たとえば前原誠司民主党政策調査(政調)会長が9月6日の民主党政調役員会で、政府提出法案については党政調が事前承認することを決め、党主導で政策決定を行っていく方針を打ち出したのは大きな意味を持つ。なにしろ、これまでは政策決定の一元化、とくに首相官邸に政策決定権限を委ねる内閣一元化が民主党政権の旗印だった。それが今回の決定では、かつての自民党政務調査(政調)会が政府提出法案の事前審査を行って内閣にニラミをきかし、また同じく自民党総務会も隠然たる力を持ち、党主導色、党の存在感を強めた自民党型政策決定のやり方に近いものに変えつつあるからだ。

そればかりでない。民主党は9月12日の党役員会で、この党政調が政府提出法案の事前審査することに加え、議員立法法案の提出も党政調に集約する、早い話、党政調がすべて仕切る、という考え方を打ち出した。しかも、この党政調の事前承認をもとに、政府・民主3役会議ですべての政策を最終了承することが制度化されるという。その顔ぶれは野田首相、藤村修内閣官房長官の政府側2人に、党側が興石東幹事長、前原政調会長、平野博文国会対策委員長の3人だ。

政策決定に関与しないと「蚊帳の外」状態で不満充満、
その対策に?
なぜ、こんなに大きく軌道修正しつつあるのだろうか。知り合いの民主党中堅幹部に聞いたところでは、この党主導の政策決定にしたのには背景があるという。具体的には、政権交代後の最初の政権、鳩山由紀夫元首相のもとでは民主党政調という組織そのものが廃止となり、内閣に政策決定を一元化するようにした。
そのあおりで首相官邸での政策関係会議にかかわらなかったり、あるいは大臣、副大臣、政務官という各省庁の政策決定権限を持つポジションにつけない民主党議員にとっては、政策決定の蚊帳の外に置かれてしまい、フラストレーションばかりがたまったという。

そして、そのあとの菅直人前政権になって、反動で、党政調が一応、復活したが、各議員は政調会長に政策提案や進言の範囲にとどまり、存在感がゼロ、つまりは政策決定に関与しない限りは、何の力も持てない状況だった、とも述べている。

「次期総選挙など国政選挙見据え、
中途半端な立場の議員にやる気を」
その中堅幹部は「ボク自身は、ある時期から行政機関の政策決定ポストにかかわれたので、何とか政策決定に関与出来たが、それまでは、フラストレーションがたまったのは事実。他にも同じような境遇の国会議員が多く、『政治主導の政策決定などを打ち出しているのに、なぜ関与できないのか』といった不満の声が多かった。だから、今回はガス抜きというよりも、今後の総選挙など国政選挙を見据えながら、党主導での政策形成で中途半端な立場の議員たちにやる気を起こさせるということでないか」と述べている。

ただ、ここは私の勝手な推測だが、野田首相が自らの政権基盤の弱さを補うために、民主党の党組織の政策への参加寄与度を強めさせようと、政調に事前審査機能を与えた。しかしこの政調が、下手に歯止めがきかなくなったり暴走したりするリスクもあるので、これまでの主流派仲間の前原氏に政調会長を、さらに政調会長代行に同じ前原派の政策通の仙谷由人元内閣官房長官を起用することでニラミをきかしたのでないかと思う。

民主党に政策決定の主導権委ねる「党高政低」型で大丈夫?
とはいえ、間違いなく民主党政治では党主導色が強まり、お天気の「西高東低」と同じごろ合わせだが、「党高政低」という形となり、野田新政権が政権運営や政策決定で自由な意思決定が行えるのかどうか、もっと言えば指導力の低下が危惧される。

しかし、ここで重要な点は、今回のテーマの民主党政権の「自民党化」という問題だ。前自民党政権時代には、自民党政調が政府提案の法案などの事前審査を行い総務会も利害調整の役割を担った。小泉純一郎元首相時代は例外にして、歴代政権は党の意向を無視することが出来ず、一種の自民党主導のコンセンサス政治が幅をきかした。とくに総務会が利害調整と同時に事実上、最終判断を下す機関となったため、各派閥の大物議員たちが総務会ポストにこだわった。

前自民党政権時代の総務会、政調に権限強まり族議員復活のリスク
しかし、自民党の政策決定では政調の存在が際立って大きかった。政策面での調整どころか事実上の政策決定機関となり、その下には、いわゆる族議員という隠然たる力を持つ利益集団がいた。農林族、厚生労働族といった形で、特定の政治分野で一種の利権あさりを行う政治家たちだと言われていた。

民主党が、党主導政治に比重を置くことで、これら族議員が復活し、かつての自民党と同じような利権あさりの政治家が増え、そこに官僚や産業界が群がるような利権政治の構造が再現したりしたら、それこそ大変だ。そのリスクだけは回避しなくてはならない。
この民主党新政権のもとで、党主導色が強まったが、これまで行政官庁で脱官僚、政治主導という形の政策決定の枠組みが今後どうなるのか、まだ、もう1つよく見えない。

大臣・副大臣・政務官の政治主導の政策も機能せずとの
官僚側の声も
いくつかの行政機関にいる友人の官僚の話を聞くと、口をそろえて言ったのが大臣、副大臣、政務官の政策決定3役の会議があまり機能せず、行政事務の停滞が進んだことだ、という。官僚サイドから、よかれと思って、意見具申や提案すると「お前たちの関与する問題でない。俺たち民主党政治家が政治主導で政策判断する。聞かれた時にだけ答えればいい」といった対応で、隙間風が長期にわたって吹いた。

ところが、彼ら官僚に言わせると、これら政務3役が過去の政策のしがらみなどを気にせずに大胆に時代先取りの政策判断をするなら、自分たちも不満をくすぶらせずに応じる。ところが、政策勉強もしないままムダな議論を続けて結論を先送りしたりするケースも多く、何が政治主導の強みだったか未だによくわからない、というのだ。
この行政機関の政策決定に、民主党主導での政策決定がどうかかわるのか、正直なところ、よくわからない。当面は、見守るしかない。
ただ、今回の民主党の野田政権の政策決定のシステム変更のうち、私自身が今後の推移に関心を持っているのは、前自民党政権時代の経済財政諮問会議に似た国家戦略会議(仮称)を新設し、新たな取り組みをする、という点だ。

国家戦略会議新設構想は賛成、マクロ経済運営の司令塔に
野田首相は9月13日の国会での所信表明演説で、野田首相自身が国家戦略会議の議長となり、古川元久経済財政・国家戦略相を軸に安住淳財務相、新任の枝野幸男経済産業相ら経済閣僚、それに白川方明日銀総裁、米倉弘昌経団連会長、古賀伸明連合会長らをメンバーに、学者ら有識者も加わってマクロ経済政策運営に関する政策を決めて行く、という。端的には予算編成、税制改正、そして税・財政と社会保障の一体改革、環太平洋経済連携協定(TPP)はじめ、中長期の成長戦略なども入るのだろう。

これだけみると、前自民党政権時代の経済財政諮問会議そっくりだ。さきほどの民主党中堅幹部の話では、この国家戦略会議に強い権限を与えるために法律整備するか、閣議決定で設置するか、まだ流動的なこと、また菅前政権時代に、首相官邸に数多く作ったマクロ政策関連の社会保障改革に関する集中検討会議などの会議を統廃合するか、国家戦略会議に一本化するかどうか、さらにはこれまで述べてきた民主党本部の党主導の政策決定とどのようにからませるのか、主導権争いをやっている余裕もないが、その調整を間違いなくやっておかないと、あとあとしこりになるので、これも課題だという。

大事なのは戦略構築力、
野田政権は日本のフルモデルチェンジ出来るか
ただ、民主党のこれまでの政策決定システムを見る限り、率直に言って、鳩山元首相、菅前首相には、そろってパワフルな政治指導力に欠けた。とくに菅前首相は自分の周辺に補佐官や顧問、参与などやたらにアドバイサーを置くと同時に、首相官邸内には重複しかねないほど数多くの経済関係の専門家会議を置きながら肝心の指示や方針を打ち出さなかったため、会議が空回りしていた、という話も聞いた。
そういった点で、民主党の野田新政権がこれまでの政策決定の「失敗の研究」を十分に行いながら、失敗の総括を経て、あとは強いリーダーシップを確保し、今後の日本のフルモデルチェンジを含めて、どういった国家にしていくのか、戦略なりビジョンを、この国家戦略会議で打ち出してほしい。また「期待半分・不安半分」が最後は期待外れに終わらないように頼みたい。

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