就職難の若者の閉そく状況は社会問題、企業の新卒一括採用は弊害多い プロ野球と同様、実力評価の中途採用を、終身雇用や年功序列賃金も見直す


時代刺激人 Vol. 111

大学生に限らず若者全体の就職がうまく進まず、大きな社会問題になっている。競争社会に投げこまれた若者たちにとって、実社会に出る最初の部分で出鼻をくじかれれば不安ばかりが先行し、縮み志向、内向き志向の意識行動に拍車がかかってしまいかねない。それがとても心配だ。さりとて企業の側も、デフレ脱却が進まない景気状況のもとで、過去のバブル期に大量採用した社員の塊りがあるため、いきおい、積極採用に踏み切れない悩みがあるのも事実。では政治が手を差しのべるかというと、菅直人首相が「1に雇用、2に雇用、3に雇用」と政治家独特のメッセージを流しても、指導力を発揮できないまま雇用を生み出せずにいる。いったい、この閉そく状況をどうすればいいのだろうか。

景気回復図ること最優先だが、企業はスピードの時代に対応し制度の再構築も
 結論から先に申し上げよう。まずは景気回復につながる需要創出策を図って企業が先行きに自信を持ち、雇用に関して積極投資する状況を早くつくるしかない。それと同時に、企業はこの際、長年とり続けてきた大学生を中心にした新卒一括採用というシステムが、時代に合わなくなっており、その採用制度を止めることだ。そして企業は、社員採用に関して新卒に限定せず、むしろ年齢制限を外して能力ある人たちの中途採用に道を大きく開くこと、とくに2、3年間、海外でのボランティア体験など評価できそうなさまざまな活動をした人たちのうち、優秀だと判断できる場合、積極的に中途採用することだ。

そして、ここからがポイント部分だが、企業は、長年、日本的な経営という形で重視してきた終身雇用制度、それに連動する年功序列型の賃金制度も、スピードの時代、グローバルの時代に対応できるようにそろって見直しを行い、それに代わる制度を早急に検討する必要がある。

若者が終身雇用制度を逆利用し入社と同時に安定志向に走るのは驚き
 最近聞いて信じられないと思ったことの1つに、新卒で入社した若者の中に、ひとたび企業に入ったら終身雇用という身分保証がある安心感から安定志向の意識行動をとる、という。ハングリーさに欠けるような、緊張感をなくす制度を温存していくのは企業にとってリスクだ。むしろ、そうした終身雇用制度にサヨナラをして、企業側はプロ野球と同じように仕事評価制度のもとに、その評価に合わない社員については、ある一定期限を経て、雇用契約を打ち切る制度にして緊張感を持つことが大事だ。
その場合、給与制度についても、私自身が毎日新聞からロイター通信に転職した際に経験した年俸制度を導入するのも一案だ。成績評価制度をつくって、企業に貢献する仕事内容であれば翌年度の年俸評価で増額し、逆に評価に値しない仕事内容が続けば、年俸を引き下げることもあり得るという形で、安定志向にクサビを打ちこめるようにすることがむしろ必要なのでないだろうか。
いま、新卒一括という企業の採用制度が、さまざまな弊害をもたらしている。企業が大学3年生の10月から新卒採用をスタートするという仕組みにしているため、そこで何が起きているかというと、大学生は、企業訪問し、企業の面接を受けるためのエントリーシート提出に躍起になる。インターネットを通じての申し込みにも必死になるが、ひどいのになると、親を動員して200社、あるいは300社の面接のチャンスを得ようとする、という。
書類審査を経ての面接の関門を通らねばならず、ふるい落とされるリスク回避のために大学の講義などそっちのけで、まずは企業訪問、あるいは面接のチャンス確保のための企業研究が最優先となり、大学3年生、そして内定を得られなければ大学最終年次の4年生も就活と言われる就職活動一色になる、というのだ。

今や大学1、2年生から就職活動を最優先、大学側も授業欠席を黙認
 ところが、もっと驚いたのは、友人のある大学教授のショッキングな話だ。その大学では学生の就活に配慮して2年生から学外セミナーの参加を容認している、という。そのセミナーは問題意識を生みだす研究セミナーなどかと思えば大違い、要は企業の就職説明会のようなものだ。教授としては担当の授業の欠席に目をつぶらざるを得ないのだ、という。
別の友人の大学教授は「メディアで就職氷河期などと危機をあおる報道をするので、学生がますます浮足立ってしまう。大学側も学生の企業訪問、企業でのインターン活動のスタートを大学1年生の段階から認めている」と話している。大学が高等教育の場を半ば放棄して、学生の就職のバックアップをしているのが現実なのだ。
その大学教授は「単位不足で卒業できず留年されてしまい、こちらが変に面倒を見ざるを得ないような状況に追い込まれるよりは、いっそのこと、こちらが目をつぶって、『どうぞお好きに。早く企業の採用内定をもらってこいよ』といった状況に陥ってしまう」というのだ。そればかりでない。大学生の中には、就職先が決まらないまま、卒業すると不安定ということで、わざと留年するか、就職狙いで大学院に進学するケースも多い、という。どこかがおかしい。

海外旅行していたら就職チャンス失うと目先の利益に走る若者の現実がこわい
 そればかりでない。私自身、学生時代に「なんでも見てやろう」式で、海外のいろいろな国にいくために必死にチャンスを探したし、そのわずかなチャンスを活用して冷戦真っただ中の旧東ドイツでベルリンの壁を見ることが出来た。またアジアでもさまざまな経験をした。中印国境紛争が激しいころ、インドのカルカッタ(現コルカタ)駅頭で中国人と間違えられて囲まれ、あわやリンチに合いかねない経験、さらにはその数年後、ベトナム戦争で米国の北爆が始まったころだが、旧南ベトナムの首都サイゴン郊外にあるビエンホアという空軍基地を見にいき、サイゴンに戻って船で香港に着いて新聞を見たら、その基地がベトコンと呼ばれる旧北ベトナムの兵士に襲撃されたとことを知って南ベトナムの陥落はそう遠くないことを実感した。日本に戻って平和のありがたさをしみじみと感じた。しかし世界の激動を学生時代に実感した経験は、その後のジャーナリスト活動にも影響を与えたことは間違いない。
ところが、就職活動に組み込まれて必死の大学生にすれば、新興アジアという世界の成長センターになど関心を持つよりも、まずは目先の就職活動が大事なのだ。つまり海外旅行しているうちに就職機会を逸する現実がこわい、というのだ。事実、ある大学生に聞いたら、「そのとおり。旅行しているうちに、自分の今後の生活に影響する就職機会を失うのがこわい」と述べていた。何とも寂しくなる現実だ。

工学院大理事長も「新卒一括採用のシステム崩れた、単線型の採用を複線型に」
 日本学術会議、東京大学、朝日新聞共催の公開シンポジウム「大学教育と職業との接続を考える」の内容が11月29日付の朝日新聞で詳細に取り上げられていた。その中で、工学院大学理事長の大橋秀雄さんが企業の新卒一括採用制度を問題視している。なかなかポイントをつく指摘なので、ぜひ引用させていただこう。
「(企業は)長期雇用を前提として仕事に必要な能力は(若いうちから早く)企業内で育成する、そんな新卒一括採用制度が日本で長く続いてきた。だが、バブル崩壊後、そのシステムは崩れた。バブル時期に(採用した)学卒者が1.5倍に増え(採用し過ぎた反動で)今のような雇用のミスマッチが起きた。将来的には今の単線型の新卒採用を複線化しなくては、、、。正規雇用で入れなかった人も、いろんな仕事や経験を積み、新たな力や価値を(身に)つけて(いれば)正規雇用に入れるようにすべきだ」と。

ここで大事なのは、大学生に対して、次のような意識を植え付けることだ。まずは最低3年間、目先の就職のことにまどわされることなく自分が情熱を注ぎこめる学生生活を送ってみろ、それが研究生活なのか、サークル活動なのか、あるいは他の大学の仲間との大学ベンチャーづくりなのか、とにかく自らの存在感を示せるようなものだ。そして最後の4年生の1年間は就職活動を通じて自分の将来を託せる就職先探しに時間をつぎこむのもよし、あるいは独立ベンチャーをめざすもよしだ、というところだろうか。

メディアの現場も「病んでいる」新卒の新聞記者が増え始め採用に苦悩
 学生を社員として採用する企業の中にも最近、新卒一括採用でとった学生の質の低さ、幼さ、あるいは精神的な弱さなどを問題視するケースもある。現に、メディアの現場では驚くなかれ「病んでいる」若者が意外に増えてきて現場泣かせという事態が起きている。私が毎日新聞に入ったころは「病んでいる」という場合、ケガなどの病気になるという意味だったが、今はそうではなくて、精神的にタフではなく、うつ病や一種のノイローゼ症状などにつながる「病んでいる」というケースだ。
差しさわりがあるので、具遺体的な新聞社名を控えるが、以前に実際に起こったことを紹介しよう。東京大学卒業の新卒が成績優秀、面接も問題なしだったので、駆け出し記者の特徴として新人教育のために地方支局に出されたら、何と数週間で出社拒否症に陥った。理由は、「新聞記者はかっこいいもの」というイメージだけで実際の現場経験を始めて見ると、取材の仕方、原稿書きなどにとまどいが先になり、次第に苦痛になって自宅として借りたアパートの部屋を出るのがおっくうになり、ついに支局長らに連絡もせず引きこもり症状となった。そして数カ月後に退職してしまった。新聞社の側も、最初は何が何だか状況がつかめず、次第に現実を知ってショックだったことは言うまでもない。新卒一括採用でピカピカの大学生を採用しても、こんな現実が増えているのだ。まさに企業にとってもリスクだ。

海外での異文化体験経てコミュニケーション力、語学力つけた若者の中途採用を
 この若者の就職難の話は、社会問題化していて、どう結論付けるか、実に難しい問題だが、私は、今後、日本企業が否応なしに迫られるグローバル対応のからみでいけば、冒頭部分で述べたように、企業は新入社員の年齢制限を外して能力ある人たちの中途採用に道を大きく開くこと、とくに2、3年間、海外でのボランティア体験など評価できそうなさまざまな活動をした人たちのうち、優秀だと判断できる場合、積極的に中途採用することだ。
この海外経験を持つ人たちに積極的に門戸を開くことは意味がある。新興国体験が望ましいが、欧米先進国での体験もかまわない。異文化との交流や生活体験を経て、語学力もそこそこ身につけタフに動き回ることができる若者たち、それにできれば座標軸をしっかりと持っていて先行きに見通し感やオピニオンを持っている人がいい。政府支援の海外青年協力隊での2年間のボランティア活動を通じて、新興国などでいい意味での指導力を発揮して面白い生活体験をしてきた人たちのうち、企業の枠組みで異文化体験を生かせそうな人は積極採用の対象にするというのも一案だ。企業も実は、こういった人材を必要としているはずだ。いかがだろうか。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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