日本テレビ「真相報道バンキシャ!」誤報検証いまひとつ、再発防止策が見えず 放送倫理検証委は再度勧告を、ジャーナリズムの信頼確保が今こそ重要


時代刺激人 Vol. 51

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 8月23日午後6時、そして深夜午前零時50分の2度にわたって放送された日本テレビの「真相報道バンキシャ!」誤報検証番組をご覧になられただろうか。生涯現役ジャーナリストの好奇心もあって、私も、その検証番組を見せてもらった。しかし結論から先に申上げれば、検証はとても十分とは言えず、不満が残った。その理由はこうだ。日本テレビ報道局は、誤報を今年3月に認め、事態を重視した首脳の引責辞任に追い込まれたあと、実に半年近くが経過するというのに、今回の検証番組では誤報を引き起こした確認取材の甘さを再度認め、そして報道局組織に幹部と現場のコミュニケーション不足など構造上の問題があった、という指摘に終始しただけ。肝心の再発防止策をどのように大胆に実施したか、それがその後、どのように機能しているかといった検証がいまひとつだったのだ。
 過去に、テレビ朝日やTBSなど他のテレビ局の誤報検証番組を見たが、たとえばテレビ局によっては誤報検証にかなりの時間を割くと同時に、再発防止策に関しても、複数の第3者の評価、コメントを加えたりといった形で、二度と同じ過ちを繰り返さない、といった真摯(しんし)な姿勢が見受けられた局もあった。今回の日本テレビの検証は、そういった点で言えば、あとで申上げるが、再発防止策が不十分で、今後、再発リスクは本当になくなるのか、という不安を感じた。
その点で、ちょっと申し上げたい。日本テレビに検証番組放送を勧告した放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会はこの際、今回の検証番組チェックを入念に行い、場合によっては再度、厳しい勧告をすることも必要だ。そして日本民間放送連盟も、日本テレビの除名処分を見送った際、その理由に関しては「BPOの勧告は極めて重要であり、検証番組の内容をまず見極める」と言っていたのだから、今回、同じく毅然とした姿勢を見せてほしい。

新聞社や出版社の協会組織も同じような検証委つくり自浄に努めるべき
 このBPO放送倫理検証委は、2007年5月の関西テレビの「発掘あるある大事典Ⅱ」ねつ造問題でメディア批判が強まり、とくに政治などの場でメディア規制の動きが出てきたことからNHKや民間放送でつくるBPOの内部に急きょ、つくられた。委員は弁護士、大学教授ら10人で構成されている。テレビ局自身で自浄作用を持とうという発想からだが、私は、日本新聞協会、そして雑誌などの出版社でつくる協会でも同じような自主、自浄のための検証委組織をボランタリーにつくり範を垂れるようにすればいい、と思う。
そして、お行儀が悪いどころか、ジャーナリズムの信頼をなくしかねないような行為のあった新聞社、雑誌などの出版社には除名などの形で退場してもらう措置もとればいいのだ。いま、新聞もテレビも販売、広告両面からの厳しいボディブローにあい、さらにインターネット時代のもとで新聞、テレビ離れが進んで再編・淘汰(とうた)が進む情勢だけに、それに拍車を掛けるジャーナリズムの信頼失墜という問題に、メディアが厳しく対処しなければ、自滅の形で退場、企業破たんといった事態に追い込まれかねないリスクがあることを申し上げておきたい。

久保前社長は「報道局内の報告、連絡など基本中の基本がおろそかに」と謝罪
 本題の日本テレビの「真相報道バンキシャ!」誤報検証番組の中身に入る前に、結論部分に時間を割き過ぎてしまい恐縮だが、ここで、検証番組がどうだったか、述べてみよう。
まず特集の冒頭、引責辞任した久保伸太郎前社長(現相談役)が岐阜県や岐阜県警、さらに視聴者のみなさんに多大のご迷惑をかけたことを深くお詫びします、としたあと、約5分間にわたって、とくに「報道局内の上司と部下との間の報告、連絡、相談のあり方などについて、基本中の基本のことをおろそかにしていました。内部告発に関して、外部のインターネットサイト情報に頼るということも最初から採用すべきでなかったと思います。また報道現場で幹部が部下に対して、情報の検証をどうしたのか、それをもとに、どのように指示したのかなどの面で多くの課題を残しました。率直におわびします」と深々と頭を下げた。そして最後に、「私ども日本テレビは再発防止の徹底に努めます」と述べた。
 この「真相報道バンキシャ!」誤報問題は、第30回コラムで取り上げており、それをご覧いただけば、内容がおわかりいただける。ただ、ここでは簡単に、概要を述べておこう。要は、岐阜県の元建設会社役員がインターネットの情報サイトに「岐阜県内で談合がある」と書き込んだのを、日本テレビの下請け製作会社スタッフが見つけて取材を始め、元役員に当たったところ、脈ありと見て「架空工事を受注したように見せかけ、岐阜県庁職員に200万円の裏金を振り込んだ」と大々的にスクープと報じた。実は、発言をうのみにした裏付け取材なしだったため、誤報に気づかなかったのだが、今回の誤報検証番組では振り込んだといわれる通帳チェックが十分でなかったこと、岐阜県当局への内容確認を怠ったこと、県当局に対しては証拠とおぼしきものを提示したりすれば、かえって証拠隠滅されるリスクがあると考え、あいまいな取材に終始したことなど、結果として確認や裏付け取材を怠ったのがすべての原因だ、と述べている。

取材ディレクター不在で放送にゴーサイン出した組織上の課題も表面化
 同時に、日本テレビは、今回の誤報検証番組で構造問題として、報道局の組織上の判断ミスがあった、という。具体的には、放送日前日の2008年11月22日夜、プロデューサー、デスクら4人が、最終的に放送するかどうかの会議を行った。その際、肝心の取材ディレクターは欠席だったが、議論した結果、元役員の証言は信用できると判断され、誰からも「見送ろう」という意見が出ないまま、ゴーサインを出した。しかし、取材ディレクター欠席のまま見切り発車したのは問題だったというのが1つ。それと、チーフプロデューサーに報告をあげて、放送前に最終的な話し合い、いわば最終決定の御前会議を行うことを怠ったことも問題だった、という。
 こうした問題を踏まえて、日本テレビは、久保前社長が述べた再発防止策に関して、誤報検証番組では1)調査報道に関して今後、時間をかけてきちんと取材し、事前に放送日を特定せず決めないこと、2)番組のプロデュースに関しても、週ごとのタテ割りを止め、毎週議論する大部屋制にすること、3)政治部や社会部など部を越えた「危機管理アドバイザーチーム」を組織し、アドバイザーたちが情報源などに関してチェックを加えるようにすること、4)主に取材記者を対象にした「人材研修制度」をつくり、取材のイロハともいえる基礎取材から実践、応用に至る3段階の研修プログラムを実行に移すことを明らかにした。

誤報発覚半年後に再発防止策は遅い、テレビ局と番組制作会社の問題も不透明
 これらの再発防止策は、何も新たに打ち出すほどのものでなく、当然、取材などの報道の現場ではやっていてしかるべきことで、取材現場経験の長い私からすれば、何をいまさら、という感じがしたのが1つ。それよりも、誤報問題が表面化してから半年近くたつ中で、日本テレビの報道局ではすでに事件後、再発防止にどんどん取り組み、その結果、どういった実績が上がったか、あるいは課題としては、どんなものが新たに出てきたかなどを今回の検証番組で示すべきで、これから再発防止に取り組みます、というのが何ともおかしい、というのが2つだ。
それよりも、検証すべきもっと重要な問題は、テレビ局とテレビ番組下請けを行う制作会社との組織上の関係、とくに取材で得た情報の価値判断を誰が行うのか、その最終責任はどうするのかなどに関して、今回の「真相報道バンキシャ!」取材では大きな課題になっているのに、今回の誤報検証番組では、あまりというか、ほとんど触れられていないのだ。新聞社での記者経験しかない私にとって、実はなかなかうかがいしれない世界だが、いろいろなルートで、テレビ局と制作会社の難しい関係に関しては、いろいろ聞いている。実は誤報のリスクの1つはここにあると思っているのだ。
現に、あるテレビ局関係者によると、テレビ局の報道現場は、量的にも質的にも人材が不足しており、いきおい、番組制作会社にアイディア提供から現場取材までのかなりの作業を頼らざるを得ないこと、今回のような日本テレビの誤報問題が発生すれば最終責任は当然、テレビ局が負うが、現場取材でつかんできた番組制作会社スタッフの1次情報をタイムプレッシャーの中でどう情報価値判断するか悩ましい場合もあること、テレビ局社員と番組制作会社スタッフの給料格差がかなりあり、それらの人たちがチームを組んで現場取材に行った場合に不満や反発が現場で出てきて、リスクになる場合もあることーーなどだという。

週刊新潮誤報事件での編集長「おわび」でのお騒がせジャーナリズムはお断わり
 以前、取り上げた週刊新潮の誤報事件で、当時の早川週刊新潮編集長がおわび記事の最後で「週刊誌の使命は、真偽がはっきりしない段階にある『事象』や『疑惑』にまで踏み込んで報道することにある」と述べ、大きな問題になったのをご記憶だろうか。この発言を見る限り、週刊誌報道は、真偽がはっきりしない段階にあっても、ある面で問題提起の形で取り上げればいい、という安易さと危うさがある。明らかにお騒がせジャーナリズムだが、テレビ局の報道、あるいは新聞社の報道が確認、裏付け取材なしに、ライバルとのタイムプレッシャーのもとで見切り発車されたら、大変なことになる。
その意味でも、今回の日本テレビの誤報検証番組は、もっと再発防止策などに関して、誰もがさすがと感じさせるような対応策を示すべきだった、と思う。肝心の日本テレビ首脳陣や報道局幹部から出る言葉は「本当に申し訳なかった」「事態を重く受け止めている」といったものばかり。それがちょっと残念だった。BPO放送倫理検証委の再度のチェックによって、テレビ局の報道現場の自浄作用につながることを期待したい。

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