今やネット経済が減速中国を下支え? 通販やスマホ決済、タクシー配車サービス


時代刺激人 Vol. 291

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

経済は何が弾みでアクティブに動き出すのか、読めないことが多い。ところが、国有企業改革の遅れによる過剰生産・過剰在庫などで、経済成長の減速が避けられないとみられていた中国で、意外にもインターネットを活用したネット経済の動きが活発化し、サービス消費のGDP(国内総生産)寄与度が上がり、経済を下支えしている、というのだ。

経済は何が弾みでアクティブに動き出すのか、読めないことが多い。ところが、国有企業改革の遅れによる過剰生産・過剰在庫などで、経済成長の減速が避けられないとみられていた中国で、意外にもインターネットを活用したネット経済の動きが活発化し、サービス消費のGDP(国内総生産)寄与度が上がり、経済を下支えしている、というのだ。
要は、国有企業などの「旧経済」部門に代わって、パソコンやスマートフォン(スマホ)を活用した消費財のネット通信販売が急増、さらにスマホを介在させたタクシー配車サービス、町の屋台での飲食代金のスマホ決済など、ネット活用の「新経済」が台頭し実体経済に活気を与えている、という。生産主導から消費主導の経済に変わったのだろうか。

アリババのネット通販で「独身の日」に
わずか1日で1.9兆円の売買取引

メディア報道でご存知のことと思うが、中国ネット通販大手、アリババが2009年以来、毎年11月11日の「1」のつく日を「独身の日」と名付けてネット上で大々的に行っている特別安売りセールが、昨年2016年に、売買取引額が前年比32%増の1207億元、円換算で約1兆8900億円というケタ外れの金額となった。わずか1日でそれだけの消費購買力が若者にある、というところが何とも驚きだ。
そんな矢先、NHKが最近、特集番組NHKスペシャルで「巨龍中国14億人の消費革命~爆発的拡大!ネット通販」と題して、ネット経済社会の問題を取り上げた。ネット通販による売買額が2015年に円換算60兆円にのぼり、今や米国を抜いて世界一になったという。現場ルポを中心に見ごたえある企画で、一攫千金を夢見る若者たちが起業して、ネット上で通販サイトを立ち上げ通販ビジネスに取り組む生態を描いた。成功してプロジェクト強化に乗り出す若者のケース、逆に思惑が外れて通販用の商品在庫を山のように抱えた若者夫婦が資金手当てつかずで、廃業を余儀なくされるケースなどさまざまだった。

GPSにリンクのサービスインフラ整備で
ネット通販のサービスに魅力、が決め手?

そこで、ジャーナリストの好奇心で、私なりに中国の現場にいる友人たちとEメールで意見交換、また中国と往来を続ける日本国内の大学やシンクタンクの中国人の人たちにも中国ネット経済の状況を取材した。今回は、それらの話をもとに、「新経済」の現状と課題、また日本にとって学ぶものがあるとすれば何かをレポートしよう。
取材先の話をもとに、結論から先に申し上げれば、日本のコンビニなど小売り店舗で経験するサービスレベルの高さが中国では十分でないため、消費者がネット通販の出現で便利さに魅力を感じて飛びつき、ネット上の口コミで広がって爆発的に伸びたようだ。しかし注目すべき点は、それではなかった。ネット経済化で新たな社会インフラ、とくにGPS(グローバル・ポジショニング・システム、衛星による地球測位システム)と組み合わせたサービスインフラが急速に出来上がり、それを活用して、たとえば注文後の輸送が今どのレベルにあるか、いつごろ到着するかといったことが消費者に伝えられ、さらにオンライン上での商品クレーム対応などもシステム化されたことが大きい、という。

清華大・野村総研センター松野さん
「びっくりするほど快適、中国は変わりつつある」

事実、長年の友人の1人、清華大学・野村総研中国研究センター理事兼副センター長の松野豊さんはこう述べている。「中国のネット購買は本当に便利になった。タクシー配車サービス向けなどで開発されたGPSとリンクのサービスインフラが整い、消費者満足度を高めているのは事実だ。私自身、外に出ると寒い北京で食事の出前代行サービスを頼むと、数分の誤差で正確に届く。しかも決済もスマホなどネット決済で、以前に比べればびっくりするぐらいの快適サービスだ。中国は間違いなく変わりつつある」と。
同じく友人の富士通総研主席研究員の金堅敏さんも昨年7月、「ネット時代における中国の消費拡大の可能性」に関するレポートを出し、「中国情報産業省や中国インターネット情報センターなどの統計では2015年のスマホのユーザー数が9.1億人、インターネットユーザーが6.8億人にのぼりネット大国と言ってもいいほど。ITインフラの整備やインターネット普及に伴い情報関連消費の市場規模が急速に拡大している」と述べている。中国の場合、日本に比べて数字の単位が異なり、巨大人口の強み部分を生かして消費パワーになっていることは事実だ。

日本はネット通販が急に伸びてきたが、
宅配ビジネスは人手不足で対応しきれず

日本で最近、ショッキングな現実が明らかになった。宅配ビジネス最大手のヤマトホールディングスが人手不足でサービス対応が追い付かず、しかも大口顧客の荷物配送を割り引く競争に巻き込まれ連結営業利益が一時的に減益になった。中でも人手の確保が大変だというのだ。失業率が3.1%と安定している上に東京オリンピック・パラリンピックに向けての建設ニーズの高まりで人手不足が強まり、3.11被災現場のみならず宅配便現場にもしわ寄せがきている。とくに日本ではネット通販が急速に比重を高めてきたため、ヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸では対応しきれなくなっている、という。
金堅敏さんに、日本と中国の物流ビジネス、とくにネット通販で人材確保の問題を聞いたら、人口過剰国だけに「日本と違って、中国は人手不足、人材不足が深刻にはなっていない。むしろ量的に不足する、というよりも、いま、中国ではネット通販の輸送サービスの質をいかに高めるかが問題になっている」と述べた。

中国で通販輸送が激化し違法サービスも、
政府は出稼ぎ者の雇用創出から静観

松野さんに別途、その点を聞いたら、興味深いことがわかった。限りなくタイムリーに注文品が消費者の手元に届くネット通販も、少し裏側を見ると、「競争の激しさで、事業者は電気自転車に簡易な荷台をつけた配送車を使い、早く届けるスピードを競う。それが交通渋滞や環境汚染を引き起こしている。これらの車は違法だし配送人の労務管理もずさんだと言っていい。ただ、ネット通販などの配送が農村からの出稼ぎ者の雇用創出につながっているので、中国政府も当面は静観という感じだ」と述べている。
中国共産党政府はこれまで、資本主義的な市場経済化のシステムを容認しながら、社会主義中国の基軸も崩さず、という2つのシステムの使い分けで巧みに経済成長をめざしてきた。問題は、このネット経済化が、もし社会不安や政治不安につながった場合、歯止めをかけるかどうかの点だけだ。

中国政府にとっては「旧経済」が停滞下で
メガベンチャーらの「新経済」に期待大?

中国NO2の李克強首相が共産党の何かの大会で、ネット通販を軸にしたインターネット社会の消費力を高く評価し、とくにネットベンチャーでの起業などに関して、政府は政策支援していくと述べたところをNHKスペシャルは放送で取り上げていた。年率6%台で「旧経済」部門の国有企業などの停滞ぶりを苦々しく見ている習近平共産党主席ら共産党中央にとっては、これら「新経済」に強い期待を持ったことは言うまでもない。中でもメガベンチャー企業かつグローバル企業となったアリババには感謝、また感謝なのだろう。
しかし、私が見るところ、アリババは、中国ではネットの新興ベンチャー企業で、共産党政権がネット社会の進展に警戒的だったころからブレークスルーする大胆な動きを次々に展開、日本の通信大手ソフトバンクとも連携し米ニューヨーク株式市場にいち早く上場して中国企業としてはめずらしいグローバル企業となったのは間違いない事実だ。
これに刺激を受けて中国ではネットベンチャー企業が次々に輩出し、今では世界の10大ネット企業にアリババ、バイドゥ、テンセントの中国3社が名を連ね中国では成長著しい3社の頭文字をとってBATと呼ばれるほどで、まさに「新経済」の担い手企業だ。

スマホ活用のタクシー配車ベンチャーの
滴滴出行は中国進出の米企業大手を買収

その点で面白い話がある。米国の配車アプリのベンチャー企業、ウーバーテクノロジーがタクシービジネスにくさびを打ちスマホなどネット活用で営業免許のない「白タク」やそのドライバーをお客と結び付けるビジネスで成功したら、中国でも滴滴出行というベンチャー企業が事業展開した。
ところが中国専門家の話では、中国の関係する7つの行政機関がすかさず規制に乗り出そうとしたが、タテ割りの組織の弊害で責任を押し付けあううち、ネットを通じて利用者の爆発的評価が高まり、最終的に共産党政府が合法化した。要は「新経済」の担い手を活かそうというわけだ。
この配車アプリビジネスの滴滴出行にも驚きがある。2016年8月に米ウーバーテクノロジーの中国事業を買収し中国国内でシェア90%のトップ企業になった。日本では、独占禁止法に抵触して、公正取引委員会から間違いなく「待った」がかかりのだろうが、中国では、国家か国益が先行するのか、そのM&Aは問題視されず現在に至っている。

中国政府は「新経済」起爆力で「旧経済」
下支えを期待、でも国有企業改革が課題

いずれにしても、中国は「旧経済」と「新経済」をうまくかみ合わせながら、「新経済」の起爆力で「旧経済」などを下支えする状況、と言っていい。金堅敏さんによると、この 「新経済」はネット通販などネット関連のものだけでなく、中国共産党政府は新技術、新ビジネスモデル、新組織などで構成された経済をすべて取り込んで「「新経済」と位置づけており、新エネルギー自動車、バイオエネルギー、新農業組織、ロボット応用の製造業などを含めている、という。
そうした中で、中国ウオッチャーの専門家によると、中国は2016年に「供給側構造改革」をスタートさせた。冒頭に申し上げた国有企業の過剰生産・過剰在庫の除去、生産コストの削減、不良債権など金融リスクの排除、貧困層への補助が改革のテーマで、これに合わせて国有企業の統廃合などリストラにも取り組んでいる。
しかしいずれも経済の活性化、景気浮揚にはすぐに結びつかない。そんな矢先にネット消費が新たな成長の起爆剤になるかもしれない、と中国政府や共産党中央も考え始めたのは間違いない。
ただ、繰り返しだが、「新経済」は中国にとって成長下支えの期待の星となるかもしれない。でも問題は、「旧経済」をどこまで改革できるかだ。事実、国有企業には既得権益にしがみつく共産党幹部が多く権力闘争もからんで行方は不透明。中国ウオッチャーとしてはまだまだチェックが必要だ。

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