さあ、政権交代した民主党は矢継ぎ早に新政策の方向付け、リセットを マニフェスト実効遅れれば自民党に戻るリスク、政治主導での官僚活用がカギ


時代刺激人 Vol. 52

 民主党が、念願にしていた政権交代をやっと果たした。それにしても、事前のメディア世論調査どおりの民主党圧勝ぶりには驚かされたが、これは間違いなく有権者の大多数の意識が変わった結果だ。ハッキリ言って、有権者は、自民党政治の制度疲労、金属疲労に失望し、このまま自民党に委ねていては日本という国がマンネリズムに陥って衰退の道を歩む可能性が高いと判断、そして政権担当能力に不安がある民主党だが、ひょっとしたら変えてくれるかもしれない、一度チャンスを与えて政策チャレンジさせてみよう、古びた政策のリセット(新規巻き直し)を期待しようという意思の表れと見ていい。
 実は、この1か月間、農業の現場取材などで地方を歩き回る機会があった。ジャーナリストの好奇心で、タクシー運転手はじめいろいろな人たちに聞いてみたら、自民党への失望が予想外に強く、その裏返しとして民主党に政権交代のチャンスを与えてみるか、という声が強かった。代表的なのは「もともと自民党支持だが、この4年間、首相が相次いで政権の座を投げ出しながら、国民に信を問わないのはおかしいと思った。一度、民主党に政権をとらせて、政策をやらせてみる。ダメなら、自民党に戻せばいい」という声だ。あとは「今の自民党では何も変わらず、悪くなるだけだ。小泉政権時に改革を期待したが、ぶっこわしただけで、格差やひずみが拡大し生活が不安定になってしまった。民主党がどこまでやれるのかわからないが、マニフェスト(政権公約)で提案しているのだから、チャレンジに期待してみよう」という声だ。

民主党への過剰なまでの期待が失望に変わる時がこわい、賞味期限は3ヶ月?
 そういった意味でも、これからの民主党の責任は重大だ。さあ、そこで、民主党がどこまで矢継ぎ早に新政策の方向付けを打ち出せるかどうかだ。マニフェストに掲げた政治公約の実行がモタモタして遅れ、今年中に、政策の方向付けが行えなければ、「な~んだ。せっかく期待したのに、何も変わらないじゃないか」という手厳しい批判が起きやすい。今回の場合、有権者の声にあるように、自民党政治に対する鬱積(うっせき)した不満や反発がベースにあり、それが一転、民主党への過剰なまでの期待となっているのが特徴だ。
この過剰期待は、民主党にとって、とてもこわいことだ。とくに1、2カ月は許容の範囲としても、自民党と同様、旧日本新党や旧自由党、旧社会党などの寄り合い所帯の民主党の悪い面が露呈して、4か月、あるいは5か月たっても、何も動かず、何も変わらずという最悪事態になれば、有権者や世論の動向は間違いなく失望となる。それどころか政治不信から、もう1回、総選挙で国民の信を問い直せ、といったことになりかねない。言わば民主党の政策の賞味期限は3か月、今年末までというところだろうか。
 そこで、まずは次期首相となる民主党の鳩山由紀夫代表は新しい政治リーダーとなったのだから、閉そく状況に陥っている日本という国をたくましい、活力のある国にするための方向付けを行うこと、そしてマニフェストに盛り込んだ政策の実行スケジュール、つまり工程表をいち早く打ち出すことだ、マニフェストはある面で選挙時のスローガンだったが、政権交代した今、新政権を担うリーダーとして、政策実行の優先付けを示すことが必要だ、と思う。

まずは新政治リーダーがたくましい国づくりビジョン、そして政策の工程表を
 端的には、民主党は総選挙時から、生活者目線の政治を強くアピールしている。今回の選挙結果を見ても、少子化に対応した出産育児一時金やこども手当の支給、公立高校生授業料の実質無料化、雇用政策がらみで雇用保険の拡大、最低賃金の引き上げ、高齢者対策としての後期高齢者医療制度の廃止、複雑に絡み合った年金制度の一元化などに関しては有権者の強い関心があり、民主党支持につながった面があるので、早急に、現行制度との食い違いなどを調整し、実行に移す必要がある。
これに対して、マニフェストで大きく掲げた項目のうち、道路建設財源に使われていたガソリン税や自動車重量税などの暫定税率の廃止は過重な税負担だったので廃止は当然にしても、高速道路料金の無料化に関しては、私は異論があり、急いで実施に移す必要はないと思っている。民主党は、無料化で交通量がどうなるかなどの実験を経て、段階的に実施していく、との方針でいるが、それでいい。しかしその実験段階で、自動車交通量が急速に増え、排気ガスの多いさが環境悪化、地球温暖化対策に逆行といったことにつながることが見えた場合、経済成長よりも環境重視の政策を鮮明に打ち出して、高速道路料金の無料化を撤回する柔軟さも必要だ。
いずれにしても、マニフェストは政治スローガンであって、いざ、政権を担当した場合、議論が分かれる政策の実行に関しては、合意形成、つまりコンセンサスをつくり、その見極めがついたら、新政権として果敢、大胆に、かつスピーディーに実行に移す、ということをすればいいのだ。

霞が関官僚に対し政治主導の政策をどう示すかがポイント
 さて、そういった中で、民主党新政権にとって、霞が関の官僚群に対する新たな政策面での仕切りをどうするかが現実問題になっている。具体的には、2010年度予算の概算要求を白紙にし、民主党に政治主導の予算編成権を持たせるかどうかが1つ。それに9月1日にスタートする消費者庁に関して、民主党は初代長官に就任予定の内田俊一元内閣府事務次官の人事が駆け込みの天下り人事であること、また消費者庁の新オフィスが相対的に割高な賃貸料の民間ビルに入ることは生活者や消費者の感覚から言っておかしいこと、といった形で異論を持っており、早急に結論を出さねばならないことだ。もちろん、今後、こういった問題が個別具体的に出てくる。その意味でも、新政治リーダーの鳩山代表がいち早く、新政権の方向付けとなる方針や考え方、ビジョンを打ち出すことが必要だろう。
このうち、官僚制度の問題に関しては、民主党がめざす官僚主導から政治主導への政策決定の枠組みづくりの発想は大いに結構だ。私は、第49回のコラムで「大組織病化した官僚制度改革は絶対必要」としたが、その一方で、「霞が関の巨大シンクタンクの政策立案能力は活用次第、問題は政治の指導力」と指摘した。この考え方は今も変わらない。
つまり、政治が主導で政策の方向付けをすることに関して、大胆にチャレンジしたらいいが、官僚を不必要に、敵に回して行政組織が動かなくなることは避けた方が得策だ。それは明らかにリスクであり、むしろ巨大なシンクタンクの政策立案能力に対して政治のリーダーシップを示し、活用した方が意味がある。

武村元蔵相は政治家大臣が政策選択できるように2つの案提出を求めた
 細川政権時の蔵相(現財務相)だった武村正義氏は、新聞とのインタビューで面白いことを言っている。武村氏によると、自分が大臣の時に、政策案に関して、旧大蔵官僚は役所内で議論したうえでの最終案を1つだけ持ってくる。しかし私に言わせれば、大臣に異論があった場合にぎくしゃくしかねないので、大臣から見てどれがいいか政治判断できるように、2つぐらいの選択肢を持ってこい、といったことがある、というのだ。これは1つの見識だ。
第49回のコラムでも指摘したとおり、今の霞が関の官僚組織、行政機構は各省庁とも「役所益」優先の政策決定の枠組みになってしまっている。民主党が政治主導にこだわる場合、政治家がハッキリした政策の方向付けをしないと、官僚も動かないし、下手をすると「役所益」にこだわり、結果は大臣の政治家と官僚組織との間の対立だけが前面に出てしまい、何も動かないといった最悪のシナリオになりかねない。それだけは避けるべきだ。
 その点に関連して、「官僚支配を打破する技法は川口順子元外相が手本になる」と、ある雑誌で述べている元外務省主任分析官の佐藤優氏の問題提起が興味深く、参考になる。佐藤氏によると、通常の政権交代ならば、自民党内で抗争を展開していても政権運営のために必要な事項は引き継ぐ。しかし民主党政権への引き継ぎの場合、必要な事項の引き継ぎを十分にしない可能性が高い。新政権の閣僚は官僚から引き継ぎを受けることになるが、その場合、3つの可能性がある、という。

佐藤氏は「川口元外相が外務省全職員に義務付けた意見書提出が有効」
 まず第1は、官僚が従来、自民党に行っていたのと同じレベルで、ある程度、自己に都合の悪い情報を含め引き継ぐ可能性、第2は官僚にとって都合がいい情報だけ引き継ぐ可能性、第3は民主党政権をつぶすためにスモーク(歪曲・わいきょく)された情報を流す可能性。佐藤氏によると、当面は第2の、官僚にとって都合がよい情報だけを流して、新政権の対応や出方を見て、民主党に対して、より本腰を入れて協力するか、あるいは政権をつぶして再び自民党が権力に返り咲く方向で誘導するか決めるだろう、というのだ。
そこで、佐藤氏は、かつて2002年2月に川口外相(当時)が用いた手法、つまり外務省本省、在外公館(大使館、総領事館など)に勤務するキャリア、ノンキャリアを問わずすべての職員に対して、A4版の用紙1枚に意見書を書くことを義務付け、官職、氏名を明記したうえで密封して外相に提出させる手法を、今回も導入すればいいという。これによって省庁内部の情報がかなり入り、政治との癒着(ゆちゃく)、パワー・ハラスメント、セクシャル・ハラスメントから始まって企業との不適切な関係までがわかる、というのだ。外務省が自らの省益を守るために、優れた分析官だった佐藤氏を野に放出したのは、明らかに間違いだったが、この分析やアドバイスは民主党にも参考になるのだろう。
 さて、結論だが、民主党は、新しい日本の枠組み作りのために、さまざまな挑戦をやるべきだ。有権者も、それを期待している。しかし、すでに申し上げたとおり、有権者には自民党前政権への失望の反動で過剰な新政権期待があるだけに、賞味期限内に、素早く方向付けが必要だ、とだけ申し上げたい。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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