事業領域の分散でリスクを回避し、ベトナム工場を規模拡大して、安定から成長を目指す


三正工業株式会社
代表取締役社長
飯島 元秀

賢者の進化論

関西圏を中心に農業機械分野などに領域拡大
短納期と適正品質の両立を図り要望に応える

油圧機器や空気圧機器、真空機器、ガソリン関連機器、水圧機器など「流体制御機器」を取り巻く部品の供給事業を展開する三正工業株式会社。専門性を高めながらも事業領域を大きく拡大している。

「従来、建設用機械、産業用機械などの油圧関連の部品供給事業が中心でした。新たに農業機械分野にも進出し、関西圏を中心に事業を着々と拡大している状況です。農業は安定している分野で、景況に左右されることが少ないのが特徴です。売上ベースでは約10%を占めており、2021年にも新たな受注が増えています」

今後も関西圏の仕事を増やしていく考えだ。

「限定した地域や業種に偏ることなく分散を図ることで、景況に左右されにくくなります。企業としての柱が揺らぐことなく継続できるよう体制を強化しています」

金属部品製造を取り巻く業界は、この5年ほどの間に減少し、集約化が進んでいる傾向があるという。

「当社の取引先企業からも、他社が廃業するので同様の部品を納入できないかという問い合わせをいただく機会が増えています。海外の金属部品製造企業に打診しても、日本のメーカーの仕事を引き受けたがらないという事情があるようです」

日本のメーカーは多品種小ロットで、納期や品質などの条件もシビアなことがその理由のようだ。

「また、中国を中心に技術が著しく向上しているのに伴い、価格も上がっています。コストダウンだけを目的に海外製の部品を採用することは難しくなっています」

こうした状況下で日本のものづくりの本質を発揮しているのが同社だ。短納期と適正品質の両立に加え、取引先からの厳しい要望に柔軟に対応できる点が強みだという。

「当社は国内外に自社工場を構えるほか、トータルで100社を超えるサプライヤーとの取引があります。表面処理や加工、熱処理など、さまざまな業種・企業のご要望に対して、幅広い対応が可能です。難しいご要望に対しても、すぐにお断りすることなく、自社工場だけで対応できなければ、サプライヤーに依頼するなど、お客様のご要望を実現する体制をとっています」

2010年に開設したベトナム工場が急成長
社内体制を確立してコスト、品質、納期を磨く

同社が心がけているのは成長の前に「安定」だ。安定した事業を展開し、これを継続することで成長につながる。

「経営状況に左右されることなく、まず全従業員の雇用を守ることが企業としての義務です。どんな状況でも、雇用を維持しながら事業を続けていくことを念頭に置いています。事業を向上させるためにも、まず安定が必要です」

コロナ禍の2020年も、期首(2019年9月)に立てた目標の1.5%ダウンに影響を抑えられたという。

「油圧関連の生産減少した期間もありましたが、一方で半導体関係やガソリン関係の受注が好調でした。また、人工呼吸器に使われる部品メーカーからの受注も増えました。やはり業種分散の結果が表れています」

10年ほど前リーマンショック時は、油圧系の仕事が70%〜80%を占めていたという。その状況が続いていたら、大きな打撃を受けただろうと振り返る。

「2010年に開設したベトナム工場も急成長を遂げています。新規の受注はベトナム工場がなくては捌けない状況で、新規受注の約70%をベトナム生産で対応しています」

現地のレンタル施設を使って稼働していた工場は手狭になり、2019年秋に2倍の規模に拡張。2020年1月には工場を買い取ったという。

「生産能力が高く、生産管理を徹底しており、稼働から納期遅れは1件も発生していません。日本から納期の厳しい案件を発注しても、さらに前倒しで納品され、こちらの期待を上回るほどです」

ベトナム工場が大きく伸びた要因は、半導体製造装置関連の受注だという。これにより事業が軌道に乗り、順調に発展してきた。

「現地工場では、開設時に日本から常駐した社長1人を除き、約100名のほとんどが現地採用のスタッフです。他の日系企業から転職した社員が多く、日本の企業風土に即した教育を受けており、真面目で優秀です」

現地周辺の他社工場に比べ、快適な就業環境を実現し、これが人材確保の維持やモチベーションアップにつながっている。

「現地の工業団地の規定で、給与には大きな差がありませんが、これ以外の部分で差別化を図っています。例えば食事は、同程度の規模ならば食堂だけを用意して、各自が持参した食事を食べるスタイルやケータリングサービスを利用するケースが多いのです。当社は100人規模の工場ながら、調理師を雇用して昼夜に温かい食事を提供しています。また、エアコンを完備して過ごしやすい環境を整えました」

更衣室にはベトナムでは習慣のないスノコを敷いて、くつろげる場所を作り、社員旅行などのイベントも開催して、モチベーションアップを図っている。

「今後は国内外で、自動化、省人化に関わる製品、半導体関連、水素充填器などクリーンエネルギー関連に力を入れていく方針です。業種に偏ることなく、さらに幅広い産業に領域を増やしていきます」

同社はその実現に向けて、社内の体制作りに力を入れる。さらに、コスト、品質、納期の面で磨きをかけて、安定から成長へと事業のレベルを上げていく方針だ。

出演者情報

  • 飯島 元秀

企業情報

  • 三正工業株式会社
  • 公開日 2021.04.09

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