ミセル化ナノ粒子を用いた研究開発を推し進め、今後はスペシャリティファーマへの成長を目指す
ナノキャリア株式会社
代表取締役社長
中冨 一郎
放送15周年の特別インタビューとして、これまでに「賢者の選択」にご出演いただいた方々に、時代や環境変化への対応や展望についてお話しを伺いました。
(ナノキャリア株式会社 代表取締役社長 中冨 一郎:賢者の選択ご出演 2010年8月放送)
高分子を用いたDrug Derively System(DDS)技術のパイオニアとして、これを応用した抗がん剤など新しい医薬品の研究開発に取り組むナノキャリア株式会社。コア技術であるミセル化ナノ粒子を用いたグローバルな展開を推し進めている。
「今もまさに臨床開発をどんどん進めている状況です。リーマンショック後で厳しい状況が続きましたが、台湾とアジアの試験から始め、資金を調達しながら日本やアメリカ、ヨーロッパに拡張して臨床試験を行ってきた経緯があります。パイプラインひとつに複数のプロジェクトがあり、例えばNC-6004は、膵臓がんに関してはアジア地域と日本で、非小細胞肺がん、胆道がん、膀胱がんは欧米で、頭頸部がんについては、アジア地域と欧米でと、様々な戦略のもとに臨床開発を行っています。抗がん剤の適応症というのはいろいろな試験をしてみないと分からないことが多いのです。医薬品ごとに、適応症を見つけ、拡大していくために、一つの医薬品候補においても広く臨床試験を行っているのです」
これと並行して共同開発も着実に進めている。
「抗腫瘍作用と、強い副作用を軽減するという意味では高い臨床効果が得られています。DDSによって、非常に強い副作用を軽減することはできます。しかし、まだゼロではありません。他の組織に影響を与えないわけではありません。これをゼロにする。これは大変難しいことです」
この8年間、大きな進捗を見せた技術もある。
「さらに効果を上げて副作用を軽減する、究極の薬の開発を目指しています。これは抗体/薬物結合型ミセルADCM(Antibody/Drug-conjugated Micelle)と呼ぶ技術で、薬物を大量に内包する粒子の表面に抗体が結合しているもので、簡単に言うとセンサーがついているカプセルです。がんを探すセンサーを付けて抗がん剤を直接大量にがん細胞に伝達させるシステムです」
これは、現在までに臨床試験しているプロジェクトよりもさらに効果的にがんにアタックできる方法だという。
「従来のミサイル療法より精度が高く、がんに直接アタックできる方法です。また、これまでの低分子抗がん剤だけではなく、核酸も対象にしており、がん細胞の中にある増殖のキーになる成分にくっついてブロックし、がん細胞の増殖を抑制するような研究も行っています。核酸はとても不安定な物質で、血液中に入ると直ぐに壊れてしまうのです。これを安定的にミサイルに閉じ込めて、がん細胞だけに投射することで効果的にがんにアタックする方法を試しています」
そこには、究極のミサイル療法によるがん治療が見えてくる。
「従来の方法ではミサイルは通り道にある他の細胞にも少なからず影響を与えてしまいます。新たな方法では、がん細胞の増殖の原動力になっている部分だけに到達させます。さらに、核酸は、原因となる成分がなければ作用しないため、副作用がでない究極の治療薬になります。現在のところは臨床試験までは到達していませんが、今後に大変期待しています。副作用がまったくゼロで、がん細胞だけに作用するという、真の究極を目指しているのです」
同社の培ってきたミセル化ナノ粒子技術は、医薬品だけでなく、化粧品の分野での応用も進められている。
「化粧品への展開は、美白美容液を2010年に自社で発売して以降、付加価値のある高級化粧品を販売する化粧品会社と共同開発を進めました。アマゾン地域に生息するフルーツのオイルや紫外線の強い地域で生息する沖縄のブドウオイルを配合し、抗酸化成分と皮膚細胞を整える成分をミセルに閉じ込めて皮膚の再生に必要な部分に届けてあげるコンセプトを持つ製品です。2013年秋に化粧品メーカーより発売され、急速な勢いで販売が伸びた商品となりました。当社は共同開発したミセル原料を供給しています。今年10月にはリニューアルし、さらにパワーアップした製品として発売され、ロングセラー商品として位置づけられています。さらに美白成分をミセルに入れ、別の美容液にも展開しています。また、新たな展開として、2016年に発売したスカルプケアシリーズ「Depth」という男性向けの育毛剤も発売しました。さらに2017年には女性向けも発売し、ヘアケアシリーズも次々と生まれています。今後、化粧品向けの販売促進を図るとともに、新規に皮膚科医薬品にも展開していくつもりです」
ミセル化ナノ粒子(高分子ミセル)技術は、医薬品、化粧品の両サイドから大きな期待が寄せられている。
「抗がん剤と育毛剤では分野が違いますが、がん治療を受けられて脱毛に悩む方も多くいらっしゃいます。こうした方のケアに利用できないか検討しているところです。いずれの分野でも、さらに面白いものができ上がりつつあるのが現状です。これを早く世に出したいと思っています」
同社は、創薬技術基盤ベンチャーからスペシャリティファーマへの成長を見据えた活動へのシフトを掲げ、研究開発を進めていく方針だ。
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