経済財政諮問会議はマクロ政策の司令塔放棄?求心力回復は首相次第 何としても霞ヶ関省庁に横串刺して縦割りの弊害崩し族議員政治にも歯止めを


時代刺激人 Vol. 44

 日本のマクロ経済政策の司令塔を担うはずの経済財政諮問会議の雲行きがおかしい。ここ数年、何度も、政治サイドの横やりや行政官庁の省益優先の露骨な突き上げ行動で、司令塔トップの首相がぐらついて政策の機軸である「骨太方針」、正確には「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」自体に揺さぶりがかかった。しかし、今回はかなり重症だ。私は何としても、この政策司令塔を骨抜きにさせてはならない、と思っている。
 経済財政諮問会議はご存じの方が多いだろうが、もともとは森元首相のもとで発足した。しかしその存在に重みが一気に増したのは小泉元首相の時だ。今でも当時のことを憶えている。2001年5月の経済財政諮問会議で、当時の小泉首相が「構造改革なくして持続的な経済成長はない。政権の所信表明演説に盛り込んだ構造改革政策の大方針を肉付けするための重要な会議にする」と述べたのだ。

小泉元首相が首相当時、構造改革のテコに経済財政諮問会議を巧みに活用
 「自民党をぶっ壊す」と公言していた小泉首相には当時、したたかな計算が働いていたのは間違いない。政策面でアドバイザー役の竹中慶応大教授を政権に取り込んで経済財政担当相に起用したのも、その一環だったのだろう。そして、小泉首相は当時、構造改革を進めるには霞が関の縦割りの行政組織に風穴を開けて役所間の縄張り争いや省庁益を優先させる政策の枠組みを突き崩す、同時に既得権益にしがみつく族議員と言われる政治家にもクサビを打ち込む、それらを実現するには経済財政諮問会議をマクロ政策全体の司令塔にするしかない、と判断した。そこで、最初の会合で、小泉首相は、経済財政諮問会議が今後、すべてのマクロ政策を決めていく、とのメッセージを打ち出したと見ていい。
そんなことは知っている、と言われる方もおられよう。しかし重要なのは、首相の強烈なリーダーシップ、実行力だ。この司令塔がしっかりしていれば人を動かし、組織を動かす。とりわけ岩盤とも言われかねない霞が関の官僚組織、そこと密接に絡む族議員組織にクサビを打ち込む原動力になるのだ
率直に言って、私は小泉首相が進めた改革をすべて評価するわけでないが、当時、「骨太の方針」によって、それまでのマクロ政策の基盤が根底から変わった。現場で取材していた私たちジャーナリストから見ても霞が関の行政官庁の固い、固い岩盤が崩れるのが見えた。その点は素直に評価していい。ところが今、肝心の首相の指導力が欠けているため、経済財政諮問会議に求心力がなくなってしまっているのだ。ある面で、これは日本のマクロ政策の危機だと思っているので、今回のコラムでは、それをアピールしたい。

社会保障費の歳出抑制方針が「選挙が戦えない」という自民党圧力で骨抜き
 経済財政諮問会議がかつてのような存在感を失ったな、と思わず感じさせたのは、政府が今年6月23日の臨時閣議で決めた「骨太方針2009」での社会保障費の歳出抑制方針の撤回に至る政治プロセスだ。
要は、小泉政権当時の「骨太方針2006」で、少子高齢化によって毎年、1兆円規模での社会保障支出の自然増が想定されるため、財政健全化の観点から07年度以降、各年度で2200億円、合計5年間かけて社会保障関係の歳出を抑えると決めていた。そして今回の「骨太方針2009」でも継続案件として盛り込む予定だった。ところが自民党総務会で強い反発が起きて、自民党としては了承しない、という動きになったのだ。
自民党の医療関係の族議員らを中心に「いま、医療の現場では医師不足が深刻な問題になったり、介護施設では高齢者介護にあたる職員が経営のリストラで切られ介護が満足にいく状況でない。そんな現場の苦しみを無視して、財政健全化という財政の論理だけでいいのか。与野党伯仲の総選挙では、自民党はとても戦えない。社会保障関係の歳出抑制の方針を撤回しろ」という声が高まったのだ。

メディア論調は「骨太の時代終わった」「与党押し切りで骨細に」と手厳しく批判
 そして、「骨太方針2009」は、この自民党の反発に押し切られる形で、社会保障関係の歳出抑制の方針を盛り込まなかった。具体的には「歳出改革の努力を継続する予算の概算要求基準を設定し」という当初案が、最終案では「無駄の排除など歳出改革を継続しつつ、安心安全を確保するために社会保障の必要な修復をするなど、安心と活力の両立をめざして、現下の経済社会状況への必要な対応を行う」に変わってしまった。
 この政治の横やりは明らかに問題だ。メディアの論調も「改革後退、針路失う、財政再建目標や社会保障費抑制の骨抜き鮮明」(日経新聞)、「骨太方針 幅きかす族議員、選挙対策口実に押し切る」「歳出圧力増大の懸念、“本丸”陥落、財政再建また後退」(いずれも産経新聞)、「骨太方針での社会保障自然増容認、骨太の時代終った」(毎日新聞)、「与党押し切り骨細に、歳出圧力の次は公共事業、借金体質見えぬ改善策」(東京新聞)といった形で手厳しい。
ただ、私は、もう少し違う問題意識でいる。冒頭から申上げているとおり、マクロ経済政策の司令塔を担っている経済財政諮問会議について、会議の議長である麻生首相が強いリーダーシップを発揮することが今回、決定的に欠けていた。麻生首相は、米国発の金融危機、グローバル経済危機のもとで、現在、日本経済が非常事態、緊急事態のため、マクロ政策の見直しを行う、とメッセージ発信することが大事だったのだ。

首相の指導力こそ問題、今は非常事態、医療制度改革を最優先と表明すべき
 たとえば、非常事態乗り切りのため、財政出動せざるを得ず、一時的に財政再建路線を棚上げする、しかし景気回復が確認されれば直ちに財政健全化に向けての取り組みを再開する、あるいは医療の現場が社会保障支出の歳出削減で削り過ぎによって荒廃現象が起きているのは重大事態だ、この際、医療制度そのものに問題があったので、制度設計をやり直す、これらすべてに関して経済財政諮問会議で論議し、「骨太方針」に盛り込む、これらに関しては政治生命を賭けて実行に移す、といったメッセージを、首相自身が明確に打ち出すことが何よりも重要だった。
当然ながら、自民党などの政党に対しても「骨太方針」決定直前で政治圧力をかけてくるようなことに関して、麻生首相はその際、社会保障支出の歳出削減による医療の現場混乱に関して、経済財政諮問会議で医療制度改革の論議を行い、歳出削減がいいのか、他の制度改革で乗り切るべきかの方向付けを行う、その過程で提案を歓迎する、といった形で、いい意味での指導力を発揮し、政策や改革の大方針を決めるのは経済財政諮問会議であることを強くアピールして、求心力を強めればよかった。そうすれば、「骨太方針」決定直前の大混乱といった、ぶざまな事態は回避できたはず。

組織改革し審議会をすべて傘下に、与謝野経済財政・財務相兼務はおかしい
 それと経済財政諮問会議の仕組みそのものにも注文がある。日本のマクロ経済政策の司令塔にするためにも、この組織の機能強化が重要で、政策立案につながる機能、政策のすり合わせなどの調整機能などをすべて経済財政諮問会議の傘下に置くことで、政策の一元化を図ることが必要だ。
 今、首相官邸には首相への政策アドバイスのための有識者会議などが数多くある。それに財務省や経済産業省などの行政官庁にも昔ながらの大臣の政策諮問機関という形で審議会が乱立している。行政機関の中には大臣の私的諮問機関というワケのわからない私的懇談会がある。こういった機関や組織が無数にあって、それらがアドバルーンの形で答申、報告書として政策提案する。そこへ行政官庁の縄張り争いが出てくると、同じ政府部内でも政策が重複したり、あるいはまったく正反対のものが出てきて収拾がつかなかったりする。こう述べれば、おわかりいただけよう。こういったものは混乱の極みであり、経済財政諮問会議のコントロール下に収めるべきだ。経済財政諮問会議の求心力を高める意味でも必要な点だ。
まだある。経済財政諮問会議自体は、首相が議長になり、とりまとめ役の経済財政担当相、それに財務相、経済産業相、総務相、内閣官房長官の6人の政治家出身大臣、それに日銀総裁、そして4人の民間議員の構成となっているが、ここにもいくつか手直し課題がある。まず、いま、与謝野経済財政担相が財務相と金融担当相の3ポスト兼務だが、利害が反する経済大臣ポストを兼務するのは明らかに問題。経済財政諮問会議での政策調整があいまいになりかねない。

民間議員も改革提案で存在感を、今は「骨太方針」は単なる作文集
 それと民間議員4氏に関して、今、経済界から2人、有識者、学識経験者という形で大学教授やシンクタンク所長がいるが、個別の誰がということは別にして、改革提案などがよく見えない。はっきり言って、政府のマクロ政策を決める司令塔で、政治とは一線を画して、大局的な判断ができるのだからどんどん政策提案すべきだ。かつての小泉元首相時代の経済財政諮問会議の民間議員は仕掛け人がいたこともあるが、存在感があった。
それと最後に、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」である「骨太の方針」に関して、見ていると、あれも、これもと盛りだくさんに書いてあって、結果的に、今年の改革やマクロ政策の目玉はこれだ、といった最優先テーマがない。悪く言えば、作文集に終わっている感じが否めない。これでは求心力も働かない。
霞が関の官僚や政治の族議員に、政策決定の主導権を奪われないようにするためにも、首相が強い政治的な指導力を発揮し、同時に、経済財政諮問会議の民間議員を含め、大胆な政策提案、改革提案をすることによって求心力を高めないと、いつか来た道に戻ってしまう。それだけは阻止しなくてはならない、と思う。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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