TPP参加で経済外交展開を 日本がアジア巻き込むチャンス


時代刺激人 Vol. 158

 環太平洋経済連携協定、正確には環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の文字がほぼ連日と言っていいほど、どこかの新聞紙面やテレビニュースに出る。野田政権が11月12、13日のハワイでのアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で、この協定に日本が参加するかどうかの表明を行う必要ありと判断し、そのための最終方針を決める前に、日本全体での合意形成が必要と、国会を中心に、さまざまな場での議論を求めているため、メディアにTPPが登場しない日がない、という状況になったのだ。

合意形成は大事だが、ちょっと異常だなと感じるのは、協定への参加をめぐり与党の民主党を中心に、野党も加わって政局化し始めたことだ。TPPは関税撤廃を原則にした貿易自由化をテーマにしたものだが、日本では輸出競争力強化のメリットをめぐる論議よりも、輸入面で海外から安い農産物が流入し日本農業が壊滅的被害を受ける懸念ありと、被害に半ば論議集中している。早い話が、TPPイコール農業問題になっていることだ。

与野党で農業問題にしぼっての政局化、米国属国の論議は異常
 しかも衆院総選挙が想定される中で、政治家特有の票田としての農民、農協を意識した農業保護のための反対論が見え隠れする。政治は本来ならば、与野党を含めて、グローバル時代に対応した農業の国際競争力強化をどうするか、国内農業の新成長モデルは何か、あるいは循環型農業を軸に自然環境を守る農業をどう構築するか、高齢化で担い手が減る農業をどうするかの議論をすべきだが、輸入自由化反対だけの1点に絞り込んでしまっている。それを政局に結び付けようとする動きさえ感じられるから、何とも理解しがたい。

もう1つ、これまた異常と思うのはTPPの枠組みが米国主導で行われているとの見方をもとに、一部で「日本は、米国の輸出増強による低迷経済打開の戦略に振り回されている。協定参加で国内市場を差出して、米国の属国になるのか」といった議があることだ。

当初、シンガポールなど4カ国でスタートしたTPPに、米国が後発国として加わったのは、輸出拡大のための市場を求めたことは間違いない。しかし、米国を含めて5カ国が加わってのTPPになったことで、9カ国がそれぞれの主権をぶつけながらルールづくりをしている。米国だけが強引にルール押し付けはあり得ない。だから、日本が参加しても主張すべき点はすべきで、米国の属国になる、というのはどう見ても論理の飛躍だ。

日本はTPPにとどまらずASEAN+3も巻き込み広域経済圏づくり主導を
 そこで、今回は閉そく状況の時代を刺激する、という時代刺激人ジャーナリストの立場で、このTPP問題を取り上げたい。ちょうど1年前の108回コラムでも問題提起したが、その際、「日本は、TPP参加を表明して国のドアを大きく開け、戦略的強みの技術革新力や環境分野で競争力を強め、同時に戦略的な弱みの農業などに関しても、大胆に強化策を打ち出すという形で、骨太の国に脱皮するチャンスにすべきだ」と述べた。この主張ポイントは変わらないが、今回はこうも言いたい。TTP参加表明で、日本はアジア大洋州、そしてアジア全体を巻き込んで大胆に、存在感のある経済外交を展開すべきだ、と。

大胆にというのは、TPPにとどまらず、東南アジア諸国連合(ASEAN10カ国)プラス3(日本、中国、韓国)による東アジア地域経済統合に向けて、日本が主導的な役割を果すべきだ。

日本国内でいろいろな人たちと、このTPP問題で議論していると、日本はTPPを選ぶか、あるいはASEAN+3を選ぶかといった、互いを対極に置く発想がある。しかし私に言わせれば、TPPとASEAN+3は対立しあうものでないし、双方にかかわることは矛盾しない。現にベトナムやマレーシア、シンガポールといったASEANメンバー国が双方にかかわっている。大事なことは、双方に大きな影響力を持つ日本が広域経済圏づくりで主導的な役割を果たせる絶好のチャンスなのだ。

米国や中国の政治的思惑とは別に、
日本が独自経済外交戦略示すこと必要
 その枠組みが整えば、さらなる広域経済圏づくりをめざして、ASEANプラス3に、インドや豪州、ニュージーランドを加えASEANプラス6の経済圏を立ち上げることも重要テーマになる。南アジアに位置するインドは今、LOOK EASTという形で、東のASEAN、そして大洋州に熱い視線を送っている。中国と並んで、インドは新興アジアの中核にあり、無視できない存在だ。同様に、豪州やニュージーランドもアジアとのつながりが強まっているうえ、鉄鉱石はじめさまざまなエネルギー資源を持っている。

中国はASEAN+3の枠組みに、これら3カ国を加えることについては抵抗している。逆に、米国は、中国の力が強大化することを警戒して、豪州など3カ国を押し込もうとし、その仲介役を安全保障上の同盟国日本に委ねようとしている。しかし、日本は、米国の政治的な思惑とは別に、日本独自の経済外交を展開するため、戦略軸をつくり、アジア、そして大洋州で存在をアピールする行動に出ればいいのだ。そうすれば米国の属国などという、おかしな議論もなくなる。

アジア金融危機を克服しグローバル展開の韓国の戦略性に学ぶべき
153回コラムで指摘したように、隣国の韓国は、狭い内需にしがみつかず、グローバルな世界に生き残りの活路を求めて、TTPのような多国間の貿易協定の枠組みとは別の二国間の自由貿易協定(FTA)を戦略的に活用している。しかも国内農業が政治問題になると見るや、最初のFTA対象国にあえて農業国のチリを選び、そこでの農産物輸入被害対策の経験をもとに、最後は世界最大の農業国の米国とのFTAに臨む、というしたたかな戦略だ。日本は、韓国から学ぶべき点は大だ。

韓国でFTA下の農業の課題取材をした際、興味深い話を聞いた。韓国農業にとって守るべきはコメであり、これを関税撤廃の適用除外扱いにするには二国間FTAの枠組みの方に自由裁量余地がある、この点、TPPは例外を認めないため、韓国としては、あえて二国間FTAで貿易自由化に臨む、というのだ。

米国が豪州乳製品の輸入関税撤廃に難色、
日本がTPP交渉で例外づくりも
 確かに、TPPは原則として、関税撤廃では例外を認めず、としており、これが韓国のみならず、日本国内で「主権侵害だ。各国にはどうしても産業政策上、守るべきものがあり、例外を認めず、というTPP参加は反対だ」との拒否反応につながっている。しかし外務省、それに経済産業省の担当者は口をそろえて面白い話をしている。それによると、TPPの関税撤廃はあくまでも原則の話で、米国にも実は弱みがあり、最終的には例外品目をTPP全体で認める可能性がある、というのだ。要は、米国は豪州との間で、豪州が強みの酪農製品、とくにチーズなど乳製品、それと砂糖に関しては、米国農業を保護のために、関税撤廃に強い抵抗を示しているためだ。

その点から言っても、日本がとりあえずAPEC首脳会議でTPP参加の表明を行い、そのあと来年6月の正式合意に向けての本格交渉で例外品目を互いに認め合い、ある程度、フレキシブルな貿易自由化市場づくりに主導性を発揮すればいい、と考える。TPPで影響力のある米国に対峙する形で、日本が、各国の特殊性を認め、例外品目に柔軟対応で指導力を発揮したとなれば、ベトナムやマレーシアからの日本評価が上がるのは確実だ。

そのTPPゴールラインが見えてくれば、例外品目なしの関税撤廃にネガティブな姿勢の韓国が、二国間よりも多国間の枠組みがいいとTPPに柔軟対応する可能性もある。その意味で、日本がTPPに参加表明し、交渉の中で主導的役割を果たすことがまず大事だ。

中国も本音はTPP参加したいが、投資など資本自由化要求を警戒
 ただ、日本が、仮にTPPだけでなくASEAN+3あるいはASEAN+6の広域経済圏づくりに主導的な役割を果そうと踏み出す場合、最大の問題は、中国をどう巻き込むかだろう。中国は韓国と同様、自由裁量が働く二国間のFTAには柔軟ながら、TPPのような多国間の関税撤廃に例外なしの枠組みに反発を見せており、そこがクリアにならなければ参加は難しい、と見られていたからだ。

しかし、もし米国の豪州産乳製品などの輸入関税撤廃への反発が引き金になって、TPPも関税撤廃に例外あり、となった場合、中国はどう出るかが関心事となる。中国がその場合、TPPへの対応姿勢を変えていくかどうかだが、経済産業省の担当者は「中国の最大の弱みは、資本の自由化に踏み出せないでいることだ。TPPという多国間の経済市場には魅力があるだろうが、ヒト、モノ、カネの自由化のうち、資本の自由化には国内的にも強い警戒感があるので、最終的には時間がかかるのでないか」と述べている。確かに米から強い要求の出ている人民元改革についても、資本の自由化がネックになっている。

日本がリーダーシップ発揮し、中国を広域経済圏に巻き込めば面白い
しかし冒頭から申上げている日本がTPPに参加表明し、合わせて広域経済圏づくりの経済外交を展開せよ、という場合の最大のポイントは、今や米国の存在を意識すると言うよりも、むしろ日本が中心になって、新興アジアの中核の中国をどう広域経済圏に巻き込むか、と言う点だ。その際、中国にお行儀よく経済行動してもらうために、さまざまな国際的な経済ルールや規律を守ることの重要性を認識させることが出来るかどうか。日本が、そのためのリーダーシップをとるのは、なかなか容易でないが、まさに、そこが経済外交での手腕にかかっている。そのためにも韓国のような戦略性を持つことだろう。

さて、日本国内で大きな議論になっている肝心の農業の問題はどう考えているのか、という不満が出かねない。そこで、私が数多くの現場で見てきた日本農業の新たなチャレンジぶりをぜひ、次回のコラムでレポートしよう。私自身の問題意識は、政治や農協が、農業の保護や農業の守りに躍起になるのではなく、攻めの農業を確立するためにはどうしたらいいか、国際競争力のある日本農業はどうあるべきか、もっと議論した方がいいということだ。TPP参加をめぐる問題で言えば、政治が主導して、農業に影響が出る部分に関しては韓国のFTA対応と同様、綿密な対策を講じる一方、攻めの農業づくりには大胆な対策でバックアップすることだろう。次回はぜひ、そういった問題を取り上げたい

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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