郵政改革法案めぐる鳩山政権内対立は見苦しい、首相はもっと指導力を! 郵貯限度引上げの狙いは国債や株式買支えのPKO原資確保?どこかおかしい


時代刺激人 Vol. 79

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 日本の政治の質の劣化は旧自民党政権時代から続いていることで、今に始まったことではない。しかし、有権者はこの国の将来に少しでも期待が持てるようにと、政権交代による改革の道を選んだ。民主党政権が最初から素晴らしい改革を次々に出してくるとは思えず、「期待半分・不安半分」だったが、半年以上たった鳩山民主党連立政権の現状は、不安部分が増幅するばかり。とくに最近の郵政改革法案をめぐる迷走ぶりは見苦しい。この国の周辺では地殻変動が起きているというのに、政治が内向きになっていていいのだろうか。今回は、郵便貯金の限度額引き上げなどをめぐる郵政改革法案の問題を取り上げよう。
 郵政改革法案をめぐる迷走は最終的に、3月30日夜の鳩山内閣の全閣僚による臨時の閣僚懇談会で、鳩山由紀夫首相が一任をとりつける形で決着がついた。その決着内容は今後、国会に出される政府の郵政改革法案で明らかになるが、現時点では、鳩山首相は亀井静香郵政改革・金融担当相や原口一博総務相が6日前の3月24日に記者発表した最終案を呑み込む形となっている。何が問題かは、これから申し上げるが、この決着を報じた3月31日付の新聞各紙の見出しは、手厳しい。「郵政票無視できず、参院選意識、首相が急旋回」(日経新聞)、「亀井案で決着、首相、連立を優先、郵政票にらみ仙谷氏支持広がらず」(毎日新聞)、「首相、郵政亀井案丸飲み、政権危機回避へ即断」(朝日新聞)、「総理一任で矛収める、『限度額見直せる』仙谷氏軟化」(読売新聞)などだ。

鳩山首相一任で最終決着したが、一時は民法TVで亀井・菅両閣僚が口論
 国民の前に醜態(しゅうたい)をさらしたのは3月28日の民放テレビ朝日の討論番組でのことだ。ご覧になっていた方が多いかもしれないが、ちょっと再現してみよう。ゆうちょ銀行の預け入れ限度額(現行1000万円)を倍増の2000万円に引き上げる亀井氏の最終案について、菅直人副総理・財務相・経済財政担当相が「(記者発表する前に)事前に、そういった数字は聞いておらず、知らなかった」と述べたら、亀井氏は「鳩山総理に話をして了解された、ということで、菅さんにも電話で全部、申し上げたはずだ」と反論した。これに対して、菅氏は「いや、具体的な数字は聞いていない」と述べたら、亀井氏が「菅さんにだけ、数字なしに報告するわけがない。今後、菅さんとの電話(での報告)はテープにとっておかないといけない」と述べたあと「あんた、耳が悪いんだよ」と言ったものだから、菅氏がムッとした表情になり、一瞬騒然となる状況だった。
 しかし、この郵貯の限度額引き上げなど郵政改革法案をめぐる鳩山内閣内対立は、民主党連立政権の底の浅さ、政権基盤の弱さを露呈するものだ。というのは、菅・亀井論争レベルにとどまる話でないからだ。仙谷由人国家戦略相はじめ主要閣僚も記者発表によって新聞などに発表内容が出るまで知らなかった。政策決定の透明性が問われるので、閣議決定の前に議論するべきだ、と場合によっては振り出しに戻せという動きにもなっている。そればかりでない。「鳩山首相の了解は得ている」と、亀井氏が突っ張りの根拠にした肝心の鳩山首相自身も記者発表後、「私が(最終案を)了解したと伝えられているが、実際には了解ではない。これから閣議で調整されるべき事項だ」と述べたのだ。これら一連の言動を見る限り、この連立政権はいったいどうなっているのかと、誰もが思うだろう。

亀井氏には7月参院選での選挙戦を有利に運ぶための政治的思惑が先行
 「時代刺戟人」ジャーナリストの立場で、いくつか問題指摘したいが、まず、亀井氏の胡散(うさん)臭い政治行動に早く歯止めを、という問題だ。私は、第60回のコラムで、日本郵政社長人事に関して「脱官僚依存の新しい政治を標榜(ひょうぼう)していた民主党政権が、こともあろうか旧大蔵次官OBの大物を起用したうえ、決定に至る手続きが実に不透明で、到底、国民の共感を得るようなものでない」と批判した。同時に、「日本郵政の社長人事だけでない。銀行の貸し渋り・貸しはがしに対応する中小企業や個人の借金返済猶予(モラトリアム)法案もしかりだ。民主党政権は政策決定プロセスを限りなく透明性の高いものにするはず。亀井氏はそれに逆行することを平然かつ強引に行っている」と。 亀井氏はもともと、旧小泉政権時代の郵政民営化に反対して自民党を離脱したあと、全国郵便局長会を選挙支持母体にする国民新党の創設に加わり現在に至っている。そこで見えてくるのは、今年7月の参院選を前に、支持母体の一段の選挙協力をとりつけるために思い切った郵政改革法案をつくるしかない、という政治的な思惑だ。事実、3月24日に記者発表した郵政改革法案のポイント部分を見ると、民主党連立政権の改革案というよりも、自らが代表を務める国民新党の選挙対策的な意味合いが強い。
 4月中に政府の最終的な改革法案が国会提出されるので、それを見るしかないが、当初の亀井氏の改革案の主なポイントを見てみよう。今の日本郵政の5社体制を3社体制に変えること、その際、持ち株、郵便、郵便局の3社を統合して親会社とし傘下に郵便貯金、簡易保険の金融2社をぶらさげること、郵便のみに義務付けられている全国一律のサービス提供を貯金、保険の金融2業務にも拡大すること、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額を倍増の2000万円にすると同時にかんぽ生命保険の保障限度額も1300万円から2500万円に増額すること、さらに極めつけはグループ内の業務委託にかかる消費税の免除、郵便局への金融検査の簡素化、そしてグループで約20万人の非正規社員のうち10万人を正社員化することだ。とくに、この最後の雇用対策部分は、支持母体の全国郵便局長会の受けを狙ったのでないかと勘繰られても抗弁できないのでないかと思えるものだ。

政治の胡散臭さを持つ亀井氏の言動に、実は、民主党内でも冷ややかな受け止め方だけでなく、「この際、参議院での過半数確保対策のために、民主党の政策の根幹がゆがめられる事態になっては何も意味がない。相容れないものがあるなら、社民党ともども国民新党との連立解消に踏み切るべきだ」という若手幹部の声さえある。しかし現実問題として、目先の参院選対策を意識する小沢一郎民主党幹事長の強い意向に反旗をひるがえす動きは鳩山首相を含めて出てきていない。それが結果として、亀井氏の増長を誘い、「連立解消、閣僚更迭など、やれるものならやってみろ」という開き直りの姿勢にもなっているのでないだろうか。何とも危うい政権基盤だ。

ゆうちょ銀資金増えても融資ノウハウなし、国債運用に振り向ければリスク大
 今回、もう1つ、ぜひ指摘しておきたいのは、郵貯の預け入れ限度額の拡大、かんぽ生命の保障額拡大の2つの改革案に関する問題だ。結論から先に申し上げれば、金融システムを非効率にしてしまう話で、私は、まったく無意味だと判断し反対だ。郵貯の限度額引き上げに際して、民間金融機関の経営破たん時の預金保証である「ペイオフ」とのからみがどうなるかがポイントだが、今のところ、民間の元本1000万円と利子分しか払い戻さない、という点と同じにするとしている。しかしゆうちょ銀行への政府の間接的な出資が残るため、暗黙の政府保証がつく形となり、それを期待して、郵貯の限度額引き上げ分の2000万円に預け入れられる可能性が大きい。かんぽ生命の保障額拡大も同じだ。
 はっきり言って、ゆうちょ銀行は貯金を抱え込む必要は今、何もない。かつて戦後の財政を陰で支えた財政投融資制度は、郵貯資金や簡保資金を旧大蔵省資金運用部に預託され、そこを通じて政府系金融機関や政府系機関に貸し出されて運用された。しかし、不透明な資金運用が問題になり廃止された。それに伴い郵貯資金はゆうちょ銀行の自主運用に委ねられているが、一部、民間のスルガ銀行と提携し貸し出しノウハウを学ぶと同時にスルガ銀行の金融商品を代行販売したりしている。しかし現実はゆうちょ銀行の資金の80%が国債投資の形で運用しているだけ。かんぽ生命資金の60%も同じく国債運用だ。しかし、国債運用はリスクが大きい。日本政府の国債に対するマーケット評価が仮に悪化して急落どころか暴落したりした場合、評価損などでゆうちょ銀、かんぽ生命は大変な損失をこうむる。そのリスクを抱える中で、郵貯の預け入れ限度額で増えた資金をどう活用しようというのか。本来ならば民間金融機関を通じて、運用されるべき資金が事実上の官業金融機関に吸い取られて非効率なものになりかねない、というリスクこそが問題だ。

国債や株価PKO対策と今後の国債増発に備える「本音」が見える?
 今回、鳩山首相が閣内の不協和音を呑み込む形で「私に一任を」と収拾を図ったが、最初で紹介した新聞各紙の見出しにあるように、国民新党などとの連立政権維持を優先したこと、7月の参院選を意識して郵政票の取り込みを図ったことなどが真相なのだろう。早い話が問題先送りだ。
しかし、新聞各紙があまり取り上げていないポイント部分を申し上げよう。それは冒頭の見出しに掲げたように、国債価格や株式相場の下落を防ぐための買い支え資金に充てるのでないか、ということだ。ご記憶だろうか。PKOという言葉を。かつて旧自民党政権時代に、株価を押し上げるために郵貯や簡保の資金を使ってPRICE KEEPING OPERATION(PKO)を行った。時の政権にとっては、年度末などに株価が大きく下落したりすると、企業や投資家のマインドを冷やしし、ひいては景気にも悪い影響を与えかねないと、買い支えの行動に走った。それを今度は国債も対象に加えて、大がかりな相場の下支え、あるいは押し上げの武器に使おうということが考えられる。
日本郵政ならば、まだ政府が株式を保有しており、経営に対して発言権も行使できる。社長に旧大蔵省事務次官OBを起用したのも、そうした布石だったのかもしれない。それならば、亀井氏の批判ばかりに終わらず、民主党としても譲歩は可能だ、とでもする気なのだろうか。私に言わせれば、もしそういったことで、今回の郵政改革法案をあいまいなものにするならば、民主党政権自体が問われる。今後、税収の伸びが大きく期待できない中で、政策需要が多く、一時的に国債増発に頼らざるを得ない。そこで、PKOを含めて、ゆうちょ資金などを使って国債買い支えで相場下落に歯止めを、という別の思惑が働いている可能性もある。しかし、マーケットの時代に、そういったPKOが通用すると思っているのならば大間違いだ。

マーケットがどう受け止めるかも関心事、まだまだウオッチと検証が必要
 もう1つ、見過ごせないのは、いま申し上げたように、今後の景気動向次第で大型補正予算で景気対策を打たねばならなくこともある。その場合、緊急避難的に国債増発で切り抜けるしかない。しかし、国債増発がマーケットでどう受け止められるか、消化が進まなければ、長期金利の跳ね上がりにつながるリスクがある。民間金融機関や一般投資家がどこまで増発国債を買ってくれるか、そこで、安定的に国債消化してくれる「頼りになる存在」が必要だ。それが今回の郵貯限度額引き上げ論の背景にあると思う。それに、政府は日本銀行とのマクロ政策面での財政金融一体化を主張しているが、日銀の金融政策の独立性を尊重せざるを得ない。となれば、財政政策となると、税収低迷のもとで国債増発に頼らざるを得ず、その金融政策とのからみでもマクロ政策の自由度をつくっておきたい、という点が指摘できる。また、前原誠司国土交通相は政府ファンドでインフラ投資への活用構想も打ち出しているが、このあたりは、まだ政策的にも未成熟な感じがする。いずれにしても、この問題はまだまだウオッチと検証が必要だ。

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