中国経済がGDP世界第2位になっても驚かず、経済の勢いの差は歴然 日本にとって「追いつき追い越せの時代」は終えん、量よりも質的な成長めざせ


時代刺激人 Vol. 69

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 中国が今年2010年に国内総生産(GDP)で米国に次いで長い間、世界第2位だった日本を追い抜くのは確実、と言われている。GDPをめぐって、日中が地位逆転するのだ。しかし私に言わせれば、中国経済の今の勢いから見て、当然の成り行きであり、何も驚くに当たらない。むしろ、中国が壮大なる途上国から中進国へと、一歩を踏み出したことに拍手喝さいだ。
 日本もかつては「経済成長面で先進国を追いつき追い越せ」をまるで国家目標のようにして、一種の国家主導での供給先行型の経済成長政策をとってきた。しかし、その行き過ぎが、環境破壊や公害はじめ所得分配の不平等への不満など、成長政策のひずみをもたらした。その結果、「くたばれGDP」が1つの時代のテーマになった。

そういった意味で、13億人というケタ外れの巨大人口を抱える中国にとっては、国内の沿海部と内陸部の間の所得、地域格差の是正によって、国民1人当たりの所得水準をどこまで引き上げることができるか、率直に言って、それは今後の大きな政治課題だ。日本との1人あたりの平均国民所得面では、10分の1と、まだかなりの開きがある。中国政府としては、かつての日本が、経済成長のパイを大きくすれば、国民1人あたりの所得水準も上がる、という論理で成長政策をとった政策をそのまま踏襲するだろうが、いずれ量的成長から質的成長への転換を強いられる時期が来る。それは間違いない現実だ。

日本も自らを見つめ直すチャンス、医療など課題を克服し文字どおりの先進国に
 このGDPめぐる日中逆転の問題は、日本にとっても、日本自身を見つめ直すいいチャンスだ。日本はどちらかと言えば、物質的な豊かさに満足してしまうと同時に、状況に流されてしまい、結果として、停滞や衰退を心配するハメになった。この際、成熟国家としての新たな生き方はいったいどんなものなのか、とくに医療や年金、教育など、克服すべきさまざまな課題をしっかりと見定め、古い制度的な枠組みを捨て去って新たな制度設計、社会システムの再構築をどうすればいいか、考えることが大事だ。政治が相変わらず内向きになっているのならば、民間が主導して新たな制度設計をすべきだと思う。私自身もジャーナリストの立場でその役割の一端を担おうと思っている。
 私が日ごろから尊敬する社会システムデザイン研究所長の横山禎徳氏、それに前東大総長で、現在、三菱総研理事長の小宮山宏氏はそれぞれ、似たような問題意識で共通のキーワード、「課題克服先進国」を強くアピールされている。まったく同感で、私自身も、至るところで、そのキーワードを活用させていただいている。

ポイントはこうだ。いま日本が抱える医療や年金などをめぐるさまざまな問題に関しては、中国はじめ欧米諸国のうち、共通の課題を抱える国々が、経済社会の高齢化を通して直面することだが、先行する日本が率先垂範、それらの重い課題に挑戦し、問題や課題の克服を成し遂げることが必要だ。それこそが文字通りの先進国であり、日本は「課題克服先進国」として、胸を張っていける、という考え方だ。いまや量的な成長にこだわるよりも、経済成長の質を高めることに力を注ぐべきだ、と思う。このため、質をめぐる課題を精査すると同時に、その課題克服とからめて制度的な枠組みを再構築する時代に来ていると思う。日本はいまこそ、そのことにチャレンジすることが大事だ、と申し上げたい。

日本は戦略的な強みの見定めを、中国には日本の新制度設計は学習対象に
 このこと自体、中国にとっても、これから国内的にも重要な政策課題であるはず。とくに年金制度に関しては、日本ではさまざまな課題を抱えて四苦八苦しているが、中国は別な意味で、日本の国民皆保険制度に高い関心を示している。中国の大学研究者の友人はいまだに「日本は、社会主義を標榜した中国と比べ物にならない社会主義国だと言っていい。だからこそ、国民皆保険制度を導入できたのだ。中国としては見習うことが多い」と述べている。こんな話を聞くと、気恥ずかしくなるが、中国にとっては、日本がこれから取り組むべき「課題克服先進国」のさまざまなテーマに関しては、多分、身を乗り出してくるだろう。その意味で、中国にとって、日本は極めて重要な学習対象になるのは間違いない。
 そればかりでない。日本は、この機会に、戦略的な強み、弱みを見極め、日本が経済面で強みを活かして、どういった国になっていくのか、その見定めも重要だ。中国にとっても、それは関心事だろう。その場合、私は、日本の強みである技術革新力を駆使して「科学技術立国」を全面に押し出し、とくに省エネや環境などの問題で、日本の存在感をアピールすべきだと思う。

白石アジア経済研所長「日本は先端的な科学技術を活かし縁の下の力持ちに」
 私の友人で、現在、日本貿易振興機構アジア経済研究所長の白石隆氏は1月9日付の読売新聞朝刊企画「日本の進路 第1部 識者は語る」の中で、私が申し上げたいことをしっかりと述べておられるので、ぜひ引用させていただこう。「日本が輝いている部分はたくさんある。省エネで賢い生活スタイルを創り出せるかもしれない。素材や部品も強みだ。電気自動車の時代が来れば、日本のモーターなしには世界は車をつくれなくなるかもしれない」「日本は覇権を求めたり、説教して回ったりする国ではない。しかし先端的な科学技術を活かして縁の下の力持ちになり、人類の生活や安全を支える――そんな役割は日本人の性に合っている。それをこなす力も衰えていないと思う」と。そのとおりだ。
 現に、私が中国の環境・エネルギー問題の調査で2008年に北京を訪れ、発展改革委員会や環境保護総局(当時)、精華大学などで話し合った際、日本は中国との相互補完は十分にあると思った。ある中国人専門家が「中国は今、経済成長によって、日本を含めた海外から環境技術などを買うことができる。しかし、最新鋭の設備などハードウエアを買っても、それをメインテナンス(維持管理)する技術、ソフトウエアの面ではまだまだ立ち遅れており、日本に依存するところ大だ」と述べた点だ。

日本は現代版「三国志型」の日米中連携を、米中に踏みつぶされない戦略軸必要
 さらに、私の「時代刺戟人」精神で言えば、日本は、この際、自らの立ち位置をはっきり決め、そのうえで、中国とはさまざまな連携をしていくことが大事だ。その場合の立ち位置に関しては、この「時代刺戟人」コラムの第2回でも申し上げたが、私の持論は、日本が現代版「三国志」型の日米中連携で臨むべきだ、ということだ。
 「三国志」は、中国の魏と呉、それに蜀という3つの国が、ある時は魏と呉が、またある時は魏と蜀がそれぞれ緊張関係を保ちながら連携、あるいはけん制し合って互いに権謀術数の外交を展開して生き残りを図る、というものだったが、これを現代に置き換えて、日米中の3つの国の関係にも、それを当てはめればいい。
この場合、日本は、仮に中国に問題があれば、中国をけん制し、その行動に自制を求めるため、米国と連携して揺さぶりをかける。逆に米国に問題が生じた場合、日本は躊躇なく中国と連携して米国の行き過ぎた動きにブレーキをかけるようなアクションをとる。最大の問題は、日本に問題が起きた場合、米中が連携すれば、日本は踏みつぶされるリスクがある。そこで、日本は外交の座標軸、戦略基盤を東南アジア諸国連合(ASEAN)に置けばいい、と思っている。しかし、日本は日米同盟を軸に対米依存の強い外交展開だったので、ASEANからは、どう受け止められるかどうか気がかりだ。その意味でも、日本はこの機会に、戦略軸の見直しが必要だ。

マルティール元マレーシア首相は日中連携でアジア経済共同市場づくりを主張
 そうしたことを踏まえて、日本は、GDP第2位となる中国とはアジアで連携するチャンスも大だ。日本は、中国と手を携えて世界の成長センターのアジアの経済「底上げ」、もっと言えばアジア地域経済共同市場づくり、制度的な枠組みづくりで協力しあうことが十分に可能だ。いま、中国は、13億の人口に消費購買力をつけ、いまや「世界の工場」としてよりも「世界の市場」として存在感を強めている。他方で、日本は、すでに述べたように省エネ、環境などの技術面でのサポートのみならず、政策面はじめ、さまざまな分野でアジアに貢献が可能だ
マレーシアの元首相で、いまだに隠然たる力を持っているマハティール・モハマド氏も朝日新聞の今年1月1日付の「ジャパン・アズ・NO3」という企画で、日本と中国が過去の歴史的なわだかまりを捨てて、欧州共同体(EU)市場づくりでライバル同士の連携を見せたドイツとフランスの例を引き合いに「60数年前の過去は過去として受け止め、わだかまりを引きずるべきでない。日中が争えば、このアジア地域のみんなが苦しむことになる。ドイツ、フランスにできたことが、東アジアでできないはずがない。平和があってこそ、経済的にも繁栄できる。日本が中国を恐れず、中国が日本を恐れなくなれば、その時こそ、この地域の本当の発展が見えてくる」と。素晴らしいメッセージだ。

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