肥大化した厚生労働省の分割見直し、首相指導力の腰砕けが残念 族議員や官僚の反発にしっぽまくようではダメ、首相には確たる行動力が重要


時代刺激人 Vol. 40

麻生首相が唐突ながらも5月15日の政府の「安心社会実現会議」で、トップダウンの形で大胆に検討指示を打ち出した厚生労働省組織の分割再編成の問題。この数年、経済ジャーナリストの私が外から見ていても、課題山積の厚生労働省は一種の大組織病に陥っていて組織の再見直しが絶対に必要だと思っていた。それだけに、ブレが大きくて過去に政治混乱を招いた麻生首相も、今度は、ゴルフでいうリカバリーショットを打てるかな、と少し期待していたのだが、やはりダメだった。
 理由は、メディアの報道でご存じだろう。麻生首相が5月28日、首相官邸の記者団のぶら下がり会見で、厚生労働省の分割再編成問題への対応を聞かれた際、「私は最初からこだわっていない」と述べ、あっけない幕切れになったのだ。いくつかの新聞報道によると、「私は、最初からこだわっていない。全然こだわらない。国民の安心・安全を考えた時に、少子化問題を含めて精査したらどうかと、(安心社会実現会議委員の)読売新聞の渡辺氏が最初に言った。それをもとに、(議論が)スタートした。(メディアは組織の)分割の話ばかりしておかしい」と。
さらに翌日5月29日の参院予算委員会でも、麻生首相は、この問題に関して「私の(過去の)発言はすべて公開されている。国民の安全・安心を確かなものにするため、厚生労働省や内閣府などの国民生活に関係する部局を再編強化してはどうかと考えている、と申し上げただけ。厚生労働省のみを例に引いて直ちに分割しろという話はしていない」とも述べた。

内閣官房長官の与党向けマル秘メモでも首相の政治意思は明確だったのに、、、
 ところが、複数の新聞社の友人の政治担当編集委員らの話、それに、この問題に担当閣僚の1人としてかかわった与謝野経済財政・財務・金融担当相のインターネット上に掲載されている経済財政諮問会議後の記者会見の発言を見聞する限り、麻生首相は、はっきりと厚生労働省の分割再編成問題に関して、早急な検討を指示している。
とくに、政治担当編集委員に見せてもらった、河村内閣官房長官が与党の自民党幹部ら向けにつくったマル秘の印がついた麻生首相の問題取り組みに関する対応メモによると、「厚生労働省はあまりにも肥大化が進んでしまっており、安全・安心社会を実現するうえで問題が多く、厚生労働省の分割再編成が必要」といった趣旨の首相の政治判断が書かれている。麻生首相が言う「私は、最初からこだわっていない。全然こだわらない」という発言と違って、はっきりとした政治意思が示されているのだ。
 そればかりでない。経済財政・財務・金融担当の3大臣を兼務する与謝野氏が経済財政担当相の立場で経済財政諮問会議後に行った5月19日の記者会見の内容がインターネット上の内閣府・経済財政諮問会議のホームページに詳細に掲載されているが、そこでも首相指示にかかわる部分が掲載されている。ちょっと長いが、引用させていただこう。

与謝野経済財政担当相の記者会見でも厚労省の分割・幼保一元化支持を説明
 与謝野経済財政担当相は記者会見の冒頭、「総理から厚労省の仕事の切り分け、すなわち組織の分割、幼保(幼稚園と保育所)一元化は与謝野大臣が案を出してくれという御指示がありました」「私からは、そういう総理の御指示を受けて、ピンポイントで厚労省の分割と幼保一元化の問題をやらせていただきますと。行革を全体としてやり、省庁全体に広げるのは議論に時間がかかるので、まずは厚労省の問題に取り組むということにさせていただきたい、ということで(安心社会実現会議の)出席者全員から御異論はございませんでした」と述べている。
さらに「また、私から、幼保一元化については(保育所は所管が厚生労働省、幼稚園所管は文部科学省と異なるため)各大臣は覚悟を決めてほしいと。総理から御指示があった案については、案を官邸と御相談しながら作成して、(経済財政)諮問会議として議論を進めたいということを申し上げたわけでございます」とも述べているのだ。
 しかし、その与謝野経済財政担当相は、麻生首相のトーンダウン発言後に行った5月29日の経済財政担当相としての記者会見で、記者団から、上記の5月19日の会見で披露した首相指示の内容は正確な引用でなかったということなのか、という質問に対して「正確性に欠けていたと思っております」と述べた。突然、はしごを外されたようなもので、苦渋に満ちたものだったに相違ない。
なにしろ、与謝野経済財政担当相は別の記者会見で、首相指示に関して「いかづち(雷)のように下りてきた」と言いながらも、一方で、与謝野氏自身、同じように厚労省の分割再編成の必要性を感じて、かなり踏み込んで対応しようとしていただけに、わずか2週間ほどの間の事態の様変わりぶりには担当大臣の1人として辛いものがあったのだろう。

自民党族議員が事前根回しなしの唐突な首相指示に反発し潰しにかかる
 知り合いの自民党幹部、それに前述の政治担当編集委員に聞いた話を総合すると、厚生労働行政や文部科学行政に隠然たる力を持つ自民党の族議員、それに関係省庁の官僚が麻生首相の唐突な指示に対して、よくある「俺は聞いていない」式の事前根回しなしだったため、強く反発し、潰しにかかった結果なのだ。
事実、いくつかの新聞報道によると、5月26日の自民党行革推進本部役員会で、説明に訪れた河村内閣官房長官がつるし上げにあい「なぜ今、省庁再編成なのだ。それも厚労省だけなのだ」といった批判がぶつけられた、という。そして、前述の政治担当編集委員の話では、衆院解散、総選挙という難しい時期に族議員や官僚、自民党の支持団体が多くからむ厚生労働省の問題、それも組織分割というデリケートな問題に、なぜ麻生首相は踏み込むのか、政治音痴だ、といった反発が族議員を中心に強く出た。このため、麻生首相も読みが甘かったと思ったのか、政治情勢が微妙な時期にあえて火中のクリを拾う勇気はなく、「私は、最初からこだわっていない。全然こだわらない」といった逃げの発言になってしまったようだ、という。
 さて、ここからが私の申上げたい点だ。日本はさまざまな課題を抱えており、とくに政治が内向きになっては困るような地殻変動が日本の周辺のアジアで起きていて、それに対するしっかりとした座標軸のある行動が必要だ。しかし、同時に、国内でも厚生労働省の抱える医療や介護、年金保険、雇用、少子化の問題はある面で凝縮された日本の課題だ。

行革統合後に肥大化した厚労省、国土交通省などに大組織病、見直しは必要
 そんな課題多い厚生労働省が2001年の行革に伴う省庁統合の結果、組織が肥大化し過ぎて、しかもスピードの時代に機敏に対応できるような組織になっておらず、さまざまな大組織病の病理現象が見受けられる。
それに、与謝野経済財政担当相が5月19日の当初の記者会見で厚生労働省の問題点について「予算規模で20数兆円。業務範囲が雇用問題から医療、年金、介護、その他の福祉制度、国民衛生に関する全般的な業務など多岐にわたっていて、自民党からも1人の大臣では守備範囲が広すぎる、という声がありました。確かに舛添大臣は、きょうは年金、あすは医療、雇用問題と、今までよくぞ1人でやって来られたと思うぐらいです」と。
 副大臣制度はどうなっているのか、政務官は機能しているのか、大臣の補佐的な政治担当者は何をしているのか、という問題はある。しかし、省庁再編成の行革によって、以前の縦割り行政組織の弊害が少しは改善した半面、一方で、官庁統合で肥大化した厚生労働省、国土交通省、総務省の大組織病の問題もあり、見直しが必要な時期に来ているのは間違いない。
そういった点で、肥大化してスピードの時代に対応できない行政組織の再見直しは間違いなく必要なのだ。麻生首相が政治のトップリーダーとして、毅然と国民に対して問題提起をすればよかったのだ。とくに麻生首相自身の構想でもある2分割構想、端的には医療、介護、年金福祉を「社会保障省」、雇用、児童、少子化などを「国民生活省」に分割といった問題提起すれば、国民は、首相の問題意識をそれなりに受け止めただろう。それを、族議員や官僚の反発にしっぽをまくようなことではダメだ。今回も問われたのは首相の指導力、確たる行動力だ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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