消費税増税は条件付きで先送りを 「15年デフレ」脱却最優先が先決


時代刺激人 Vol. 224

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

安倍政権は今、政策判断の大きな岐路にさしかかっている。「税と社会保障の一体改革」にからむ消費税率引き上げを予定どおり2014年4月、そして15年10月に2回実施して、社会保障改革の枠組みをしっかり担保すると同時に、財政健全化に向けての日本の国際公約を間違いなく果たす、という点を内外に強くアピールするか、あるいは政権が経済政策課題として掲げるデフレ脱却の実現を最優先にし、アベノミクス政策を軌道に乗せるまでの間、消費増税を先送り、もしくは引き上げ税率を圧縮して対応するか―という点だ。

 この問題は、生涯現役の経済ジャーナリストを広言している私にとっても、避けて通れない問題だし、とても興味あるテーマなので、ぜひ、今回は、消費増税をどうするかの問題を取り上げたい。

アベノミクス政策効果出たのはチャンス、
消費税率アップに耐え得る強い経済めざせ

 まず、結論から先に申し上げよう。私自身にとってもどう政策判断するか、苦渋の選択だが、1998年から始まった日本経済のデフレに終止符を打ち、日本がデフレ脱却を果たした、ということを内外にアピールできるようにすることが先決だと思う。日本経済を長く苦しめた15年デフレにおさらばすることが大事だ。

 そのためには、現在のアベノミクス政策の効果が出てきたチャンスを生かすべきだ。とくに「第3の矢」の産業競争力強化政策の具体化に取り組み、岩盤と言われる規制部分の大胆な改革に踏み出して新規の需要の創出策などを矢継ぎ早に行うことだ。それによって、消費税率の引き上げに十分に耐えることができるような日本経済に、もっと言えば二度とデフレ経済に逆戻りすることがないような日本経済に持ち込むことが先決だ。

消費税増税は2段階上げではなくて
毎年1%ずつの小刻み上げで影響を最小限に

 これでおわかりいただけるかと思うが、私は、消費税率引き上げに関しては、デフレ脱却を最優先にし、その脱却のめどがつくまで、一時、先送りするしかないという立場だ。ただし、ここは重要な点だが、その際、安倍政権は、「税と社会保障の一体改革」、そして財政健全化への取り組みを促す消費税率の引き上げに関して、条件付き、とすることだ。
 この点を、安倍首相は記者会見で、内外に向けて明確にメッセージ発信を行い、日本は公約をしっかりと守り、「税と社会保障の一体改革」、そして財政健全化には間違いなく取り組むことを約束する、というべきだ。

 その条件付きというのは、こういうプランだ。具体的には2014年4月からの3%、2015年10月からの2%、合計5%の消費税率アップに関して、消費税法を改正して2014年9月から毎年1%ずつ、計5年間、時間をかけて引き上げることで実体経済へのマイナス効果を最小限にとどめるようにする。また低所得者向けの軽減税率に関しては、別途、検討する、という案だ。消費税率引き上げスタートを2014年9月としたのは、現時点から1年後であれば、アベノミクス政策の政策効果も挙がるだろうから、その時点で、デフレ脱却を宣言したらいいという考えからだ。

「税と社会保障の一体改革」や
財政健全化を担保する消費増税上げは重要

 私個人は、すでに、以前のコラムでも消費税率引き上げに関して、もろ手を挙げてではないが、やむを得ないとの立場でいた。
 その理由はこうだ。今後、高齢化の「化」がとれる日本の高齢社会に対応して、社会保障制度を再設計して世界の先進モデル事例にすることが重要だが、そのためには「税と社会保障の一体改革」で安定した社会保障財源を確保しなくてはならないことが1つ。

 そして同時に、デフレ長期化で税収が落ちた分を補うための国債増発が世界でも突出した借金体質になってしまっている現実に対し、何とか歯止めをかけて財政の健全化に道筋をつけることが何としても必要だ。それによって、グローバルな金融市場で日本はギリシャとは違うぞという信認を得ることだ。そのためには消費税率の引き上げ、消費増税はやむを得ない、と考えだ。

日本不信を倍加させる「公約破り」は
あり得ない、実行するが、ご猶予を、というだけ

 とくに、「税と社会保障の一体改革」は旧民主党政権時代に当時の野党の自民党、公明党の3党で合意した事項であり、政治公約になっている、また財政健全化に関しても消費税率引き上げによって巨額の財政赤字の削減に取り組むことを国際公約している。もしこれら公約を破ることになれば、日本の政治に対する内外の不信を倍加させることになりかねず、実に悩ましい問題であることは間違いない。

 しかし、私はここで、あえて申し上げるが、「税と社会保障の一体改革」の問題を先送りし、財政健全化の国際公約もあいまいにする、といった考えは全くない。これらの政策課題に関しては、間違いなく取り組むべきだ。だが、いま、政策実行の優先度をどこに置くかと、言えば、私は、デフレ脱却を最優先課題にすべきだ、という考えだ。

「長期デフレで若者に経済成長への
執着心なくなった」という早大教授指摘は深刻

 日本経済を長く萎縮させ、活力さえ奪ってきた長期デフレがまだまだ続くことを甘受するのは、率直に言って、もうたくさんだ。15年のデフレは長すぎた。消費者の立場で言えば、モノの値段が安いことはありがたい。しかし逆に、企業のサイドからすれば、企業物価が上がらず、国内でへとへとになるまで果てしない値下げ競争を余儀なくされた結果、収益力が極度に落ちて、コスト削減のために度重なるリストラを行わざるを得なくなった。その結果、優秀な技術者が押し出されるように韓国や中国のライバル企業に再就職し、技術流出で大騒ぎせざるを得ない状況だ。

 そればかりでない。以前、コラムでご紹介したのをご記憶だろうか。早稲田大学の深川由紀子教授が嘆いていたように、早稲田の若い学生は長いデフレを当たり前のものと受け止め、経済成長に対する執着心が全くなくなってきたことも見逃せない現実だ。そういった点から申し上げれば、アベノミクス政策効果で、実体経済に上向きの予兆が出ている状況を大事にし、一気にデフレ脱却にアクセルを踏むべきだ。その間、消費税率引き上げによる財政健全化の公約に関しては、しばしご猶予を、と頭を下げればいいのだ。

安倍政権の責任で消費増税実施の
最終判断するというが、見極め判断は大変

 さて、安倍晋三首相、菅義偉官房長官が9月末から10月初めにかけて、安倍政権の責任で、自民党、民主党、公明党の3党合意に伴い2014年4月からの消費税率引き上げをどうするかの最終判断を行うと明言している。率直に言って、この1か月間は、安倍首相らにとどまらず政策担当者、それにその政策判断を探るメディア関係者にとっては、実に息苦しい日々が続くことだろう。

 政策判断の最大のポイントは、消費税法の附則18条にある景気条項に照らして、国内総生産(GDP)の名目、実質成長率や物価の動向、とくに個人消費など内需の動向を総合的に見極め、「(消費増税の)執行停止を含め、所要の措置をとる」かどうかの判断を下すということになっている。

4-6月GDPは年率2.6%成長だが、
6四半期マイナスの設備投資判断が難しい

 すでにメディア報道で、いくつかの経済指標を見ておられるので、ご存じだろうが、8月12日に公表の2013年4-6月期の実質GDPは3四半期連続のプラスで、年率換算2.6%だった。個人消費と輸出に支えられてのプラスながら、民間設備投資が6四半期連続のマイナスとなる前期比0.1%減の上、全体の伸びがは市場予測の年率3.6%を下回っている。
 ただ、内閣府が8月1日に公表した政府の景気判断を示す「月例経済報告」では、「着実に持ち直しており、自律的回復に向けた動きもみられる」という前月の判断を維持した。興味深いのは、7月の物価判断で「デフレ状況が緩和しつつある」という部分に関して、8月判断は「デフレ状況でなくなりつつある」としたことだ。しかし、9月後半から10月初めにかけて公表の経済指標で実体経済の「温度」がどの程度か、消費増税に耐え得るものかどうかで、内閣の最終判断が決まる。

1997年の橋本政権時の消費増税が
マイナスに働いた「教訓」をどう見るか

 メディア報道で時々、取り上げられるので、ご存じかもしれないが、今回の消費増税の実体経済への影響度合いを探るうえで、過去の「失敗の教訓」が参考になる。1997年4月に、時の橋本龍太郎政権が財政再建とからめて、消費税率3%から5%へと引き上げたが、景気が失速し1997年4-6月期の実質GDPが前期の年率プラス3%から一気に年率ベースでマイナス3.7%まで落ち込んだことだ。
 しかも、当時、アジア通貨危機でアジア経済が混迷したのに加え、日本では旧山一証券や旧北海道拓殖銀行の大手金融機関の経済破たんにとどまらず金融システム不安が一気に表面化し、企業マインド、消費者マインドが悪化して実体経済を悪化させた。

 当時、毎日新聞から転じたロイター通信で現場取材していた私は、そのころのことをよく憶えている。橋本首相は強気の政治家で金融自由化策を盛り込んだ金融ビッグバン、財政再建に大胆に取り組み、消費税率引き上げに関しても実体経済への影響は軽微と実施に移した。それが予想外の景気失速をもたらし、橋本首相が顔色をなくしたのが印象的だ。

アジア通貨危機、国内の金融システム不安が
消費増税と重なり合ってデフレに

 政府は2011年になって、当時の消費税増税のマクロ経済に与えた影響という政策分析の報告書を出したが、そこでは、消費増税がその後のデフレ、不況の原因とは言い切れない。むしろアジア通貨危機や国内の金融システム不安が原因で、とくに金融機関が不良債権回避のために貸し渋りなどを行ったことが原因だとしていた。
 確かに、1997年は金融危機などでさまざまな問題が起き、それが実体経済を下押ししたのは事実。しかし、消費増税で5.2兆円の税負担増、特別減税終了で減税効果がなくなったこと、年金保険料の引き上げ、医療費の自己負担増などが同時集中的に重なって国民生活にしわ寄せとなったことがデフレ経済への引き金を引いたのは間違いない。

 1997年当時と現在の2013年のマクロ、ミクロ経済環境とを比べた場合、現在の方が消費増税のインパクトは相対的に小さいかもしれない。しかし、2014年、2015年の2段階での連続的引上げなので、マクロ経済への影響度合いに関しては慎重な見極めが必要だ。私としては、アベノミクス政策で少し景気上向きの予兆が感じられるので、まずは「第3の矢」政策を大胆に、切れ目なく実行に移して、15年デフレに終止符を打つことが先決との判断を変えない。消費税増税にトラウマがあるわけでないが、消費税率引き上げに耐える経済にすることが先決でないだろうか。

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