自民党の凋落ぶりはひどい、歴史的な敗北で「失敗の研究」を 「敵失」ねらいでの再起では問題解決にならず、病根洗い出して対策必要


時代刺激人 Vol. 53

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 民主党が政権交代で勢いが出てきたのと対照的に、自民党は痛々しいほどの凋落(ちょうらく)ぶりだ。総選挙での歴史的な大敗北をきっかけとはいえ、わずか1カ月前までは、政権与党としての力を誇示していた政党がなぜ、これほどまでに力を落とすものなのか、意外な感じがする。有権者は今回の選挙をきっかけに、2大政党制が定着し政治そのものに緊張感が生まれることを期待したはず。自民党はこの際、なぜ敗れたのか、再生のカギは何かなどに関して「失敗の研究」をしっかり行うべきだ。もし民主党の「敵失」ねらいで再起を図ろうしているならば、自民党は淘汰の憂き目にあうかもしれない。
 9月4日に自民党本部で開催された地方組織のリーダーらによる全国幹事長会議が象徴的だった。麻生太郎首相が冒頭、自民党総裁の立場で、総選挙の敗北について「国会で活躍した多くの同志を失うことになり、残念至極だ。総裁としての責任を強く感じている」と謝ったが、苛立ちを深める地方組織の幹事長らはおさまらなかったようだ。私は、あいにくその会議には入れず、取材できなかったので、会議の中身を報じた新聞記事に頼るしかないが、毎日新聞の報道によると、「これからどこに陳情に行けばいいのか」、「野党経験のない私たちに野党活動ができるのか。中央につながる体制がないと盛り返すのは難しい」などの声が相次いだ。それに対して保利耕輔政調会長が「まだ省庁とのパイプは十分に持っている。信頼関係があるので、大丈夫だ」と説明したが、説得力を欠いた、という。

自民党地方組織は「政策が民主党の後追い」「次の参院選も完敗」と総括
 これら自民党地方組織の幹事長が行った総選挙敗因分析はポイントを突いているので、新聞報道から、いくつか紹介させていただこう。具体的には「政策が民主党と同じで大衆迎合になっている。(民主党との)違いを出さなければ、次の参院選も完敗する」(徳島県連)、「自民党のマニフェストは民主党より後からつくったのに後追いのうえ、わかりにくかった」(福島県連)、「保守政党と(しての自民党と)民主党の対立軸がなくなっている。今の時代に合う新しい保守の理念を打ち立ててほしい」(熊本県連)といったところだ。
みんな、それぞれしっかりとした問題意識で、事態を鋭く見ているではないか。しかも、どの地方組織にも共通して主張しているのは、自民党が掲げた政策公約がほとんど民主党の後追いで、保守政党としての独自性がなかった、と指摘していることだ。こういった地方組織の問題提起や意見を早い時期から吸い上げ、自民党がライバル民主党に対峙(たいじ)する政策を打ち出していれば、もっと有権者の関心を引き付けたかもしれない。
 確かに、今回の総選挙での政権公約と言われるマニフェストと見る限り、自民党が打ち出した政策は、どちらかと言えば、先に出していた民主党の政権公約に引っ張られて精彩を欠いていた。そればかりでない。さすが自民党、次代を引き続き託してみようという魅力のある政策提案に乏しかったことは事実だ。しかし、このことは実は重要な問題をはらんでいる。つまり政党は、政策シンクタンクのようなもので、さまざまな制度改革などに関して、政党内で鋭く議論して結果をもとに立法措置を講じて法律にしていく、といったことが求められているはず。その肝心の部分で、野党の民主党の政策後追いだったりすれば、政党としての存立基盤を失っている、と批判されても返す言葉がない。いったい自民党は、政権与党として、政策立案に関しては、何をしていたのか。ほとんど官僚頼みだったために、政策形成能力を次第に放棄する結果になっていた、ということだろうか。

元自民党幹事長室長の奥島氏も「権力にあぐらをかいていた」と手厳しい
 「自民党幹事長室の30年」の著者で、元自民党幹事長室長の奥島貞雄氏が9月6日付の朝日新聞オピニオンページでインタビューに答え、極めて興味深い話をしている。面白いと思った部分をピックアップさせていただこう。
奥島氏はその中で「冷静に考えてみると、今回の(自民党の)大負けにはそれなりに理由がある。権力にあぐらをかいていたのです。大だんなのような気分になって謙虚さを失った。バッサリとやられ、ぼうぜんとしているのでしょう」と述べる。さらに、政権交代で自民党が過去に下野した1993年の時に、苦渋に満ちた議員生活を強いられた状況について、「自民党は負け慣れていないから、野党になるとこたえます。『非自民』の細川政権ができた際は、しゅんとしたものです。予算の説明に来るのも、役所のトップから課長クラスに格下げ。各種団体の陳情も形ばかり。これは寂しかった」と述べている。
 この奥島氏よりも、東大大学院政治学研究科の北岡伸一教授が8月31日付の毎日新聞で指摘した点は鋭い。北岡教授は「自民党を一般企業に見立てれば、この20年間、不採算部門をそのまま維持し、有望部門も大して力を入れてこなかった、ということ。それではゼロ成長も当然だ」という。北岡教授によると、自民党政治のポイントは、もともと(1)官僚制がさまざまな分野の国民の利害、意見をくみ上げる、(2)政治家も個々の地方や業界などで国民の声を吸い上げ、政治に反映させるーーの2点で、これまでは、それなりに機能してきた。それは成長のパイが拡大したからだが、これが拡大しなくなったら、大胆なスクラップ・アンド・ビルドをしなくてはいけない。ところが官僚・自民党モデルではそれができない。ゼネコンなどとの関係も、利益還流を前提にしたシステムだったため、還流してこなくなったら、うまくいくわけがない、というのだ。

自民党が供給先行型の古い成長モデルにこだわり改革先送りしたことにも問題
 私も同じ問題意識でいる。日本経済は、すでに高成長から低成長へ陥っている、それどころかゼロ成長が当たり前、しかもバブル崩壊の後遺症を引きずったまま、未だにデフレ脱却が出来ていない状況にある。にもかかわらず自民党政治がずっと踏襲してきた政策手法は、供給先行型の成長モデルで、財政資金をつぎ込んでの公共投資主導のマクロ政策運営だった。政治が経済実体を把握せずに古い政策手法にこだわったため、問題が先送りされてしまい、傷口を大きくしてしまっていた、と言えるのでないだろうか。
わずかに危機感を持った橋本龍太郎首相が1997年ごろ、6大改革という形で経済ビッグバンはじめ霞が関の肥大化した行政組織の再編成などに取り組んだが、運悪く経済が大きく落ち込み、しかも金融システム不安を招いてあえなく退陣。それからしばらくして登場した小泉純一郎首相の構造改革も、官主導の経済から民主導の経済へとスローガンはよかったものの、経済特区や規制緩和による需要創出策が中途半端で機能せず、それどころか市場原理主義的な競争自由を強く打ち出し過ぎたため、格差の拡大をもたらし、政治不信を招いてしまった。その後を引き継いだ安倍晋三首相、福田康夫首相は手に負えないと見たのか、わずか1年で政権を放り出してしまった。政権政党としての機能喪失状態が経済をさらにおかしくしてしまった、と言っても過言でない。

企業の「失敗の研究」ではヒューマンエラーよりもほとんどが組織エラー
 そこで、冒頭に申上げたとおり、日本には2大政党政治が定着し、いい意味で政治に緊張感が生まれ、経済政策などでも切磋琢磨(せっさたくま)が必要だ。そのためにも自民党はこの際、歴史的な敗因は何によるものか「失敗の研究」を行えばいい。私は、NPO失敗学会という組織にかかわり、その中で最も活動的な分科会「組織行動分科会」に所属して失敗の事例研究を行っている。この分科会組織には元航空会社の機長だった人や元化学会社の役員、元重機械メーカーの幹部、現大学教授、それに私のような生涯現役ジャーナリストを広言している元新聞記者など、好奇心の強い人たちばかりがいて、企業などの事件や事故の事例をもとに、何が事故につながったか、再発防止策は機能したのか、といった失敗の事例研究を行っている。
結論から申上げよう。事故などには必ず事故そのものを現場で引き起こした電車運転手、機械作業員などのミス、つまりヒューマンエラーの部分がある。しかし、われわれはヒューマンエラーの問題も無視できないことながら、それよりも組織エラー、つまり企業組織に、事故に至る組織的な原因、エラーが必ずある、という形で問題の本質に迫る。これまでの企業が引き起こした失敗事例研究では、ほぼ共通して組織要因がもたらしたケースが多い。自民党も、小泉首相や麻生首相らのヒューマンエラーもあっただろうが、それよりも組織エラーの方が圧倒的に多かったと見るべきだろう。自民党はこの際、歴史的な大敗に関して、徹底して「失敗の研究」に取組んで敗因分析をすれば、構造要因が何かがわかり、戦略の再構築も可能になるかもしれない。自民党という巨大政党が淘汰の憂き目にあわないためにも、ぜひ「失敗の研究」を勧めたい。いかがだろうか。

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