東電福島第1原発事故、「多重防護」の安全神話が崩れた、廃炉もやむなし 今後は間違いなく原発冬の時代、他電力も「想定外」許されず安全対策徹底を


時代刺激人 Vol. 127

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 東京電力福島第1原子力発電所(以下原発)での水素爆発事故には本当に驚かされた。巨大な地震・津波の影響とはいえ、第1号機、第3号機の強固なコンクリート建屋を吹き飛ばすほどの爆発事故は、日本ばかりか世界中を震撼させた。率直に言って、震撼という言葉がピッタリするほどだった。誰もが一時は、そんなことは絶対にあってほしくはない、と念じながらも、ひょっとして不測の事態が起き、福島第1原発が制御不能に陥ってしまう最悪の事態もあり得るのだろうか、と何度も不安に駆られたことは間違いない。

東京消防庁や自衛隊、警視庁機動隊の決死の挑戦で、原子炉や使用済み核燃料プールへの冷却水注入が進み、それと平行しての電気系統の復旧工事が必死に進められた結果、3月22日の時点で、ヤマ場を越したのかな、という感じも見受けられる。しかし、そんな矢先に「第3号機から原因不明の煙が出て作業を一時中断、退避へ」といった速報ニュースが流れたりすると「えっ、また何か起きたのか?」と不安に陥る。私でさえ、テレビなどの情報源に目が離せない状況が続くが、原発周辺地域から緊急退避された人たちを含め大震災ですべてを失った人たちにとっては、気持ちの休まる日がない。本当に心が痛む。

放射能遮断の「5重の壁」があり安全性は絶対大丈夫との説明受けてきたのに、、、
 これまで毎日新聞経済記者時代にエネルギー問題を担当した私は、取材先の電力業界からは、放射能を外界と遮断する圧力容器、格納容器など「5重の壁」による「多重防護」によって原子炉がしっかりと守られており、安全性は全く心配ない、と聞かされていた。公益性の高い日本の電力会社は、それぞれ培った技術力、それに厳しい品質管理で安全確保をしてくれているものと信じていた。

しかし今回の事故で、その安全神話がもろくも崩れてしまった。東電の清水正孝社長は記者会見で「未曾有の津波という想定外の事態で、こんな結果になり申し訳ない」と述べたが、ここまで事態が深刻化すると、「想定外」というエクスキューズ(釈明)はかえって経営の逃げにしか聞こえなくなってしまう。

CO2排出量の低さ考えると原発活用せざるを得ないが、信頼の確保が最優先
 そこで、今回は、原発問題について、取り上げてみたい。結論から先に申し上げれば、私は、石炭や石油火力発電で出る二酸化炭素(CO2)排出量からみて、その度合いが圧倒的に少ない原発エネルギーに関しては、地球環境保護の面で、安全性確保を最大条件にやはり活用せざるを得ないこと、その安全性の確保に関しては第3者機関や監督官庁の原子力安全・保安院の監視やモニターを徹底すると同時に、信頼の確保のためにあらゆる情報を開示すること、それと、今後は中国やインド、中東諸国など原発運転経験の少ない新興国で原発建設ラッシュが始まるだけに、運転不慣れによるリスクが増大する。このため世界各国間で、過去の旧ソ連のチェルノブイリ原発や今回の原発事故で出てきた問題や課題を開示し、安全管理に関する技術協力を活発に行うことだ。それが最低限必要だ。

ただ、日本に関しては、今回の原発事故がもたらした被害は計り知れず、誰もが「想定外」でやむをえなかった、と片付けるわけにはいかないと思っている。東電の経営責任も厳しく問われるのは避けられないだろう。それに、福島第1原発のすべての原発に関しては、再稼働そのものに対する理解は到底得られにくい。原子炉の廃止処分となるのは確実だ。現に、枝野幸男内閣官房長官やエネルギー担当の海江田万里経済産業相は記者会見などで「廃炉は避けられない」と明言している。

太陽光や風力など再生可能エネルギーの重要度高まるが、安定供給が期待できず
 そればかりでない。福島第1原発を含めて日本全国に54基ある原発すべてが海岸立地している。東電を含めて電力各社は、今回の事故をきっかけに「想定外」リスクに対応すべく安全対策のハードルを一段と上げて、厳しく対策を講じないといけない。問題は2020年に9基、2030年に14基の原発新設が計画されていることだ。最後は国民の選択によるが、現状では延期か凍結という事態になるだろう。そういった点で、今回の福島第1原発のもたらした問題で、日本の原発は長い冬の時代に入るのは間違いない。

問題は、日本のエネルギー政策が、原発をエネルギー供給全体の30%に起き、それをベースにしていただけに、政策の根幹を揺さぶる事態になってくることだ。今後の電力需要をいったい何でまかなうのか、という重大な問題が出て来る。理想は太陽光や風力、地熱発電、バイオマスなど、原子力よりもはるかに環境にやさしい再生可能エネルギーの活用だろうが、率直に言って、巨大な需要をまかなうだけの供給力が期待できない。

新たな成熟社会システムづくりスタートさせ「課題克服先進国」に向けて取り組みを
 しかし日本が今後、本格的な成熟社会に入り、ひたすら高成長を求める時代でなくなってくることを考えれば、新しい社会システムづくりを考えるべきだろう。このコラムで再三、キーワード的に申し上げている「課題克服先進国」をめざすことだ。その課題の1つが、省エネルギーをベースにした社会の制度設計だ。

まず、需要サイドではエネルギー多消費の生活スタイルに区切りをつけること。産業のエネルギー消費も技術力を駆使してエネルギー節約型にする。ビジネスモデルが出来上がれば、中国など新興アジアにモデルを販売したり、技術協力してもいい。その場合、間違いなく日本は素晴らしい、時代の先を行く「課題克服先進国」という評価につながる。

電力、ガス、石油の3業態を一体化し2つか3つの総合エネルギー企業に集約も
 当然のことながら、供給サイドも、この社会システムに対応せざるを得ない。電力、石油、ガスなどのエネルギー産業が過大に張り合って競争する必要はない。むしろ電力、ガス、石油の3つの業態が経営統合して、新しいタイプの総合エネルギー企業になった方が重複投資も不要だし、戦略が見えてくる。
液化天然ガス(LNG)1つとっても、電力、ガス企業が互いに競合してロシアなどで権益確保に走っていたが、結果的に、供給国のロシアから足元を見られ、割高なものを買う羽目に陥っていた。そういった点でも、大胆に産業再編成して、新しいタイプの2つか3つの総合エネルギー企業に集約するのも、この機会に考えるべき視点だ。

中国やインドなど資源買い漁りの新興経済大国が登場してくる中で、エネルギー資源を買い負けないようにすると同時に、エネルギー供給国との交渉力を強めるためにも、経済安全保障の立場で、産業再編成をとか、そこに国も関与させるべきだといった議論もあり得る。しかし、まずは日本国内の内需が人口減少とともに小さくなる中での産業のあり方から言っても、総合エネルギー企業づくりは1つの考え方だ。

第1原発の津波の高さは14メートル以上と判明、「想定外」にどこまで対応可能?
 さて、今回の東電福島第1原発での問題に、もっと踏み込まねばならなかったのに、今後の問題に比重をかけ過ぎてしまったが、現場の問題について、述べておこう。まず「想定外」のリスクに関する問題だ。3月22日付の日経新聞によると、東電は今回の福島第1、そして第2の2つの原発を襲った津波の高さが少なくとも14メートル以上だったことが判明した、という。東電が当初、津波の高さについて第1原発で10メートル、第2原発で12メートルと見積もっていたが、敷地内のタービン建屋などに残されていた津波の痕跡から、当初の推計を上回る高さだった、という。

あるTV局の報道では、40年前に東電が第1原発の工事許可申請書を出した際の記録では想定津波の高さが4.2メートルだったという。ところが別の新聞報道では東電は第1原発については津波の高さを6メートル弱と想定、そこで原発の敷地の高さを海水面から10メートルの高さに設定した、という。今後、「失敗の研究」をする場合、その想定が正しくはいくらだったか、安全確保の面で40年前当時の設計判断はどうだったか、工事許可を下す監督官庁の行政判断はどうだったか――などの検証が必要だが、今回のように最大14メートルの津波だったら、リスクの想定がいずれも甘かったことになる。

プラント専門家「安全のための巨額コストどこまで覚悟するか、経営には重い課題」
 あるプラントメーカーの専門家は、「今回ばかりは、こんな大事故を引き起こした東電も想定外だったと津波の異常な高さをエクスキューズには出来ないだろ。今後の問題として、海岸立地している他の原発の安全対策見直しに関して、最悪の事態を想定して、どこまで補強すべきなのか、場合によってはゼロからの再設計ということも考えられる。その場合、投資額がケタ外れになる。事業体として、安全のコストとしてどこまで覚悟できるかだ」と述べている。経営にとっては重い課題だが、世界中を震撼させた事態を踏まえれば20メートル、30メートルの津波も想定した原子炉建屋の再設計にせざるを得ない。

今回事故の教訓、安全性確保のため津波は過去最悪データのさらに数倍想定必要
 日本原子力技術協会の前理事長の石川迪夫さんが3月19日のBS朝日番組で、「一般論として、我々、原発などの設計にかかわる工学屋は、自然災害への対応として、過去の積雪、洪水、津波などの最悪のデータをもとに、その50%増のレベルを想定して設計する」と述べていた。石川さんは「原子炉の暴走――臨界事故で何が起きたか」(日刊工業新聞社刊)などの著作で有名な人だ。

以前、私が新潟県柏崎市で開催された中越沖地震で被災した柏崎刈羽原発の耐震問題をめぐる国際シンポジムに参加した際、問題意識の鋭さに感銘したが、その石川さんでさえ、福島第1原発に関して40年前当時、6メートル以上の津波を想定した、という話で、それよりも2倍以上の津波まで想定出来ていなかった。しかし原発の安全性を考え直す時には、50%増レベルでなく数倍を考えないとダメだというのが、今回の事故の教訓だ。

東京消防庁や自衛隊、機動隊の「見えない恐怖」との決死の作業には敬意
 最後に、今回の原発事故処理で、ぜひ述べておきたいことがある。東京消防庁や自衛隊、そして警視庁機動隊の決死の挑戦で、原子炉や使用済み核燃料プールへの冷却水注入が進み、そのおかげで電気系統の復旧作業にも道筋がついたことだ。

このうち東京消防庁の佐藤康雄総体長、高山幸夫現場隊長らの3月19日深夜の記者会見の模様はとても迫力があり、聞いていてとても感動した。とくに高山さんは「放射能という目に見えない恐怖との闘いに際して、隊員が短時間に被爆せずにどうやって任務を果せるか、隊長として辛いものがあった」と述べていたこと、また佐藤さんが携帯メールで決死の覚悟の気持を「これから出動する」と奥さんに送ったら「日本の救世主になってください」との返信メールがあったことを会見で明らかにしたことだ。現場での決死の気持ちが伝わる思いだった。本当に素晴らしい。最大限の敬意を表したい。
どれだけ多くの人たちが、この原発事故の処理にかかわっているか、その献身的な、自己犠牲的な努力が下支えになっている。東電の経営者は、事故のもたらした重みを感じなければならない。

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