電気自動車で日米経済戦争?日本は先行き見通し判断誤れば後れも 米国は官民あげ大型リチウムイオン電池開発、標準化で世界を制する狙い


時代刺激人 Vol. 56

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 最近、新聞で報じられた話で、「おやっ、これは面白い」と興味を持ったことがある。それは、9月下旬に開催されたドイツのフランクフルト国際モーターショーで、これまでディーゼル車に力を入れていたドイツのフォルクスワーゲンやBMWなど欧州の自動車メーカーが何と戦略転換し、電気自動車、そして家庭で充電できるプラグイン・ハイブリッド車といった環境対応の新型車に力を注ぎ始めたことだ。
これは確かにサプライズ(驚き)。とはいえフォルクスワーゲンが今回、自慢にした電気自動車「Eアップ」は実際に市場に実用車として出回るのが、何と4年後の2013年というから、まだまだ先の話。これに対して、先行する日本は、たとえば三菱自動車が軽自動車タイプとはいえ、今年から電気自動車を本格的に売り出し始めた。これから見れば、明らかに日本はグンと先を走っており、心強いと胸を張っていい
ところが、今回取り上げたいのは、その日本を驚かす意外な話だ。実は、再建に必死の米GMなどビッグスリー、それに世界市場への本格進出めざす中国がそれぞれ別々に、ライバル日本を凌駕する手段を電気自動車にしぼって着々と攻勢を加えつつある、という点だ。しかも、その攻勢は、電気自動車の生命線とも言われるエネルギー源の大型リチウムイオン電池にターゲットを置き、かなりしたたかな作戦に出てきているというのだ。

人生4毛作の元バンカー、吉田さんの問題指摘は鋭く聞く耳必要
 中でも、今回、ご紹介するエリー・パワー社長の吉田博一さんは、米国が自動車メーカーだけでなく、政府も自動車産業の国際競争力の再生強化をめざし、官民一体の取り組みをしつつある、というのだ。この吉田さんの話については、9月28日発売の週刊エコノミスト誌の「問答有用」という欄で、私がインタビューして詳しく取り上げているので、ぜひ、そこをご覧いただきたい。
吉田さんは、もともとは旧住友銀行で副頭取でまで勤め上げたバンカーで、そのあと住銀リース(現三井住友ファイナンス&リース)社長を経て慶応義塾大政策・メディア研究科教授に就任。大学で電気自動車開発に取り組む清水浩教授と連携、そのプロジェクトがらみで69歳の時に大学発ベンチャー、エリー・パワーを創設し社長に就任、そして教授退官後は、その会社でリチウムイオン電池生産に専念し現在に至る、という波乱にとんだ人生なのだ。ご本人の言葉によれば、4毛作人生だが、リース会社時代に産業廃棄物処理の難しさを経験、それ以来、環境問題に深くかかわることになり、電気自動車に関しても二酸化炭素(CO2)を排出しないという観点から推進しているが、実用化にはエネルギー源の大型リチウムイオン電池の開発による量産化、低価格化が不可欠と、自らリーダーシップをとって、その開発や生産に取り組んでおられる志の高い人なのだ。

「米国の戦略を見据えないと、日本は取り返しつかない事態に」と警告
 前置きが長くなってしまったが、吉田さんが「米国の戦略をしっかりと見据えないと、日本の自動車産業は取り返しのつかない事態に追い込まれる」という点から、具体的にご紹介しよう。
吉田さんによると、米国はいま、政府と産業が連携して電気自動車、大型リチウムイオン電池の開発、そして生産へ次第にシフトし始め、ライバルの日本メーカー追い落としにかかってきているように見える。とくに米国自動車メーカーは2000年ごろから、日本メーカーとの資本、技術提携の関係解消を少しずつ始めている。これは彼らの経営損失の穴埋め対策での資本引き揚げといった目先のことよりも、戦略的に奥深いものがある。主力のGMが経営破たんという屈辱をしのんで、政府の公的資金を仰いだのも考えようによっては、計算のうちだったかもしれない、という。
とくに米国の自動車メーカーからすれば、かつては安く自由に使えたガソリン価格が、今や大元(おおもと)の原油価格自体が行き場のないマネーの投機、それに中国やインドなどの潜在的な需要増で長期的に値上がりが避けられず、ガソリン車に依存すると経営リスクが大きいと見て、環境にもやさしい電気自動車に着実に戦略転換を始めている。そして、現にオバマ政権もグリーン・ニューディール計画とからめて、自動車産業の競争力回復という観点から、最近、電気自動車や大型リチウムイオン電池の開発支援のため、48のプロジェクトに総額24億ドルを助成するとしている、というのだ。

「日本の民主党政権は大型リチウムイオン電池の量産・低価格化で政策判断を」
 吉田さんは「かつて日本が政官産一体の日本株式会社で産業競争力づくりをしている、と米国に批判されたが、その米国は今、自動車産業の競争力回復に関しては必至で、まさに政官産一体の米国株式会社スタイルで臨んでいる。しかも、米国の戦略は、米国自らの手で大型リチウムイオン電池の標準化をいち早く行い、グローバル・スタンダードをつくってしまう可能性が強い。そうなってしまえば、日本の自動車メーカーは電気自動車の生命線の大型リチウムイオン電池で後れをとってしまい、どんなに性能のいい電気自動車を開発しても、大型リチウムイオン電池で主導権を握れず、結果は勝負ありだ」という。
米国ではオイルメジャー、自動車産業が隠然たる力を持っていたが、今や石油やガソリンを湯水のごとく使える時代は終わった、と見て、ガソリン車にも見切りをしている、という戦略判断なのだろうか、と聞いたら、吉田さんは「米国をあなどってはダメ。彼らは危機をチャンスにしようと、電気自動車でソフトランディングを図ろうとしていると見て間違いない。まさにブレークスルーしようとしている。その意味で、日本は、電気自動車の量産、低価格化のカギを握る大型リチウムイオン電池に、政権交代した民主党政権がしっかり目を向ける必要がある」というのだ。
今、電気自動車は、ガソリン車に比べて、ガソリンと電気では燃費が格段に安いメリットがあるうえ、二酸化炭素を出さず環境にやさしいこと、加速性能がすばらしいなどのメリットがある半面、大型リチウムイオン電池の量産化が遅れていて、価格が高く、結果として高コストのため、全体の価格が高い。早い話が割高な大型リチウムイオン電池が実用化を妨げている。

日本の自動車メーカーはガソリン車にこだわりが強い?
 しかし、それだけではない。国内自動車メーカー各社は、本音ベースではガソリン車の生産ラインがしっかりとあるうえ、自動車部品メーカー、その他関係産業のすそ野の広さが、まるでピラミッド構造のような形で厳然と存在しており、この構造を壊したくないという考えが強い。それが結果的に、日本国内での大型リチウムイオン電池の量産化、技術開発を決定的に遅らせている。事実、国内の自動車メーカー各社は、大型リチウムイオン電池を自社生産するリスクは大きい、との判断から、ほとんどが外注に頼っている。
そればかりでない。国産自動車メーカー各社は、エコカーといった形での環境対応のからみで、トヨタ、ホンダのように電気とガソリンの併用といったハイブリッドカーでいくか、三菱、富士重工、そして日産のような電気自動車にシフトといった方向でいくかだが、まだ方向性を絞り切れていないのも現実だ。

中国も日本に対抗意識燃やし電気自動車で戦略的に動く可能性も
 冒頭で、世界市場への本格進出めざす中国がそれぞれ別々に、ライバル日本を凌駕する手段を電気自動車にしぼって着々と攻勢を加えつつあると申し上げながら、米国の話ばかりに終始したが、実は、中国も、ガソリン車では全くの後発で、開発技術力、生産力で日本には歯が立たないと自らの立ち位置を見極めている。そして電気自動車に関しては、米国と同様に大型リチウムイオン電池の技術開発、生産特化に強い意欲を示しているのだ。
 現に中国の自動車メーカーは、中国国内の旺盛な消費市場の潜在的な需要に乗る形で自動車産業の自立に強い闘志を燃やしている。中国が次世代自動車に関しては、明確に戦略を絞り込んでいけば、日本の自動車メーカーにとっては間違いなく脅威だ。中国政府が、国際競争力のある自動車産業育成という明確な産業政策を打ち出し、仮にも日本メーカーを含めた外資規制策に出た場合、どういう結果が出るかは明白だ。

日本は密かに進む地殻変動の見極め必要
 こういった形で海外の動きをみれば、日本の自動車メーカーの座も決して安泰とは言えなくなる。そういった意味でも、冷静に、地殻変動の動きを見極めることが重要だ。
これは、私が妙に危機感をあおっていると受け止められては困る。日本の経済、そして産業を支えてきた自動車産業が今後、方向を見誤ると、取り返しのつかない事態に陥るリスクがある、ということだけを指摘したいのだ。危機意識を持つ吉田さんは、現時点では大型リチウムイオン電池の量産化にメドをつけたが、売れなくては何もならず、そこで、今は太陽光発電ブームに対応し、その蓄電が可能な蓄電池ならば需要がかなり見込める、との判断から、電力貯蔵用の大型リチウムイオン蓄電池で行くことにしている、という。決して電気自動車向けを断念したわけではないが、時機を待とうという判断のようだ。

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