さあ、メディアも意識改革が必要、記者クラブ制度に安住せず独自報道を 政権交代に伴う官僚の会見廃止を「情報統制」と批判するのは筋違い?


時代刺激人 Vol. 55

有権者の国民が選んだ政権交代で、民主党の新政権がスタートした。大手新聞各社が一斉に行った緊急世論調査では鳩山内閣の支持率はいずれも70%を超えている。日本の再生を託して大丈夫だろうか、との不安が強い半面、頼むぞという国民の期待度がそれ以上に強いわけで、新政権の責任は重大であることは言うまでもない
今回は、新政権をウオッチする重大な役割を持つメディアの問題をぜひ、取り上げたい。というのは、「官僚依存から脱却し政治主導での政策を」スローガンにしている民主党政権がその一環として、霞が関行政官庁トップの事務次官による事務次官会議の廃止、それと併せて、各省庁での事務次官の記者会見を廃止したのだが、これをめぐって、一部のメディアが新聞社説で厳しく批判した。端的には「政治主導をはき違えていないか」(読売新聞)、「情報統制が懸念される」(産経新聞)、「情報公開の流れを止めるな」(東京新聞)との批判論陣を展開しているのがそれだ。
 同じメディアの現場で取材した経験を持つ私は、この論調には反対だ。むしろ、今回の政権交代をきっかけに、メディアも意識改革が必要で、横並び取材や情報を安易に「官」に頼る体質を改め、独自取材力を高める方向に力を注ぐべきだ。とくに、今は、どのメディアも記者クラブ制度に安住してしまい、各省庁の記者クラブ担当記者は担当する行政機関を結果として代弁するような報道姿勢に陥ってしまっている。このあたりについて、あとで、もう少し詳しく申上げよう。

読売新聞は「国民の「知る権利」奪うのであれば容認できず、会見禁止の再考を」
 その前に、議論のとっかかりとして、読売新聞、産経新聞、東京新聞の社説を少し引用させていただこう。
まず、読売新聞は「官僚トップの事務次官会見など、府省幹部の公式会見は、担当行政にかかわる専門的なテーマについて、見解をただす貴重な機会になっている。鳩山内閣が『官僚依存』の政治を『政治主導』へと転換させていくことに異論はない。しかし、その名のもと、報道機関の取材の機会を制限し、国民の『知る権利』を奪うのであれば、容認できない。官僚会見の禁止に再考を求めたい」という。そして、「そもそも、行政機関は、常に国民からよく見える存在でなければならない。報道機関は、国民に代わって行政機関を監視する役割を担っている。記者会見を制限し、政策決定過程の透明性が低下することになれば、新政権が掲げる『官僚支配打破』にも反することになろう」と述べている。

産経新聞も「官僚に取材拒否の口実を与える恐れ、弊害が大きいこと考慮を」
 産経新聞も、ほぼ似たような論調だ。「行政機関への自由な取材を制限するものにほかならず、民主主義社会の根幹である報道の自由に反すると指摘せざるを得ない。到底、受け入れられるものではない」と厳しく批判したあと、こう述べている。「事務次官会見に限らず外局の長にも適用され、気象庁長官の会見も中止された。気象情報が政治主導の問題と、どうつながるのか不明だが、有無を言わせず一律に情報統制するやり方は、新政権が強権的で官僚主義的な体質を持っているとの印象を与える」、さらに「閣僚からも『マスコミの取材の自由を束縛するつもりはない』『事務次官の会見禁止は1つの実験』など、さまざまな意見が出ている。禁止措置は、各省庁に過度な自粛ムードを招いたり、取材拒否の口実を与えたりすることにつながる恐れもある。弊害が大きいことを考慮すべきだ」という。

東京新聞は「官僚が情報隠しの理由にしかねず、政務3役は情報公開に努めよ」
 最後に、東京新聞にも登場願おう。東京新聞は、読売新聞など2紙と違って、新政権の措置に対して理解を示しながらも、情報公開が後退するリスクにつながる恐れを問題視する。具体的には「官僚が政治家の知らないところで情報を発信し、既成事実化するのは避けたいという気持ちは理解できる。官僚が自分たちの言い分を広めるため、会見などを利用してきたことは事実だろう」「記者は会見だけを取材の場としているわけでなく、会見が行われなくても、独自に取材し、情報を集めればいいだけの話だ」という。
しかし、その一方で、東京新聞は「危惧するのは、官僚側が『政治家が責任を持って話すから』と、情報隠しの理由にしたり、政治家の顔色をうかがって取材に口をつぐみ、閉鎖的な空気が広がることだ。密約外交や年金問題などをめぐって官僚を追及する場が制限される可能性も否定できない」「政務3役とされる大臣、副大臣、政務官は、より積極的に取材に応じ、情報公開に努めるべきだ。政治主導への転換で、その責任は重い」という。
 さて、ここで、私の意見だが、読売新聞などの危惧するところは、わからないでもない。読売新聞などの主張は、わかりやすく言えば、メディアが新政権に妙な理解を示して「報道の自由」を半ば放棄し、自己規制するよりも、メディアの立場で堂々と「知る権利」を主張し、官僚による常時の記者会見を求めて情報開示を迫るべきだ、ということだ。

官僚取材の現場は事務次官会見などをほとんど活用せず、鋭い質問もせず
 しかし、私は、冒頭の部分で申上げたように、今回の政権交代をきっかけに、むしろ、メディアもこれまでの取材方法を改めると同時に、意識改革が必要だ。端的には、記者クラブ制度に安住してしまっており、この取材方法を改め、緊張感を持って切っ先鋭い取材をすべきだ、という立場だ。こう申し上げると、「そのことと、今回の官僚の事務次官会見廃止問題に対する読売新聞などの主張とがかみ合わないではないか」と言われそうだ。
そこで、申し上げよう。実は、私も毎日新聞、ロイター通信で主として、経済記者の現場取材に長く携わり、経済官庁を中心に記者クラブで事務次官会見などの記者会見に臨んだ。その経験を踏まえて言えば、メディアが事務次官会見などの場を活用して、ニュースを引っ張り出したことは皆無と言っていい。ほとんどのメディアは、各社が居並ぶ記者会見の場で質問して、自分の、あるいはその社の問題意識、もっと言えば何をテーマにニュースを追いかけているかの手の内を明かすような馬鹿なことはすべきでない、といった姿勢でいることが多い。会見に臨む事務次官も、自分の方から不必要な情報開示は不要とダンマリを決め込む。といった形で、ほとんど記者会見が会見にならず、お座なりになってしまう。

事務次官会見がテーマになるのは官僚スキャンダル追及や政策問題紛糾時のみ
 私などは、そういった状況が我慢ならず、記者会見は事務次官といった官僚トップの発言を引き出すチャンスなのだからと、よく質問したのを憶えている。だが、大半のメディアは、事務次官会見に限らず主要な官僚の会見では鋭く質問せず、それら官僚の自宅の夜回り取材、あるいは役所での官僚への個別取材で情報をとろうとする。もちろん、その個別の独自取材は必要だが、私に言わせれば、公式の記者会見をもっと活用すべきなのだ
ただ、事務次官会見などが大きくクローズアップされた例外がいくつかある。旧大蔵省の幹部官僚のスキャンダル、さらに金融システム不安に関連して、旧大和銀行ニューヨーク支店のスキャンダル問題への対応遅れが大きな波紋を起こし、当時の銀行局長の行政対応に批判が集中した際などの時だ。こういった時は、メディアも、当局追及の絶好のチャンスもあってか、あるいは緊急事態時に事務次官らの発言をとるのはこの記者会見時しかない、となったためか、記者会見の場を必死に活用したケースもあった。
しかし、これで少しはおわかりいただけよう。事務次官会見は確かに1つの重要な取材のツールだが、私に言わせれば、記者クラブに所属するメディアの記者は総じて、これら事務次官会見で鋭く追及すると、あとで個別取材になった際に、名前を憶えられていて、まともに取材に応じてくれず、必要な情報もとれないことを恐れ、さきほど申上げた理由以外にも、事務次官会見などでは踏み込んだ切っ先鋭い質問をしない。これならば、読売新聞などの社説が指摘する問題と現場事情は違うな、とご理解いただけよう。

記者クラブ制度は権力に相対峙するような切っ先鋭い状況でなく、なかよしクラブ
 それに、今の記者クラブ制度は、悲しいかな、なかよしクラブになっている。かつてのような時の権力に相対峙(あいたいじ)し、権力者あるいは日本株式会社の重役たちが今、何を考え、どうしようとしているかを残り95%ほどの庶民や国民の立場に立って、反権力のジャーナリスト精神旺盛に、記者クラブという場を活用し取材する、といった姿勢は、客観的に見ていて見られない。もちろん、問題意識旺盛な記者がいることは全く否定しないが、数が少なく、一握りと言っていい。
私に言わせれば、今の記者クラブ制度が緊張感を欠いて、なれ合いを許すような体質の場になってしまっている。要は、官庁側に対して、記者クラブで、幹事社を通して、記者会見を求めたり、あるいはレクチャーという名の発表会見、背景説明会見を要求してしまうのだ。官庁側も心得たもので、それの方がメディアの独自取材でスクープ取材される恐れもないし、メディアの独断や思い込みでの記事リスクもなくなるうえ、ほぼ、メディアを共通の情報でコントロールもできるので、今や記者クラブとは決して喧嘩(けんか)せず、官庁と記者クラブが仲良しの関係にあることが多い。

朝日新聞がタテ割り取材の弊害なくすため「政権取材センター」つくったのは評価
 だから、私は、今回の政権交代という歴史的な時に、メディアの取材報道体制も、横並び取材や情報を安易に「官」に頼る体質を改め、独自取材力を高める方向に力を注ぐべきだ、と申し上げたいのだ。その点で、朝日新聞が9月1日から、「政権取材センター」と「特別報道センター」をつくって、政治、経済、社会などの取材グループの記者クラブ制度に頼らない独自の取材体制をとったのは、素直に評価したい。
朝日新聞の友人は「まだ試行錯誤で、うまく機能していない」と言っていたが、これは、メディアの側の自己改革へのチャレンジであり、1つの変化だなと思っている。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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