日本は現代版「三国志」型の日米中連携を アジアでの地殻変動受け止めASEANベースの外交戦略軸が重要


時代刺激人 Vol. 2

いま、日本全体が内向きになってしまって一種の「車座社会」のように外に背を向け、しかも世界の成長センターであるアジアの地殻変動をしっかり受け止めず、対外的なメッセージ発信も十分でないため、日本自身の存在感がなくなってしまい、あげくの果ては、海外でも日本が相手にされず、どちらかと言えば無視される状況に陥っている。
 現に、ごく最近、海外経験の長い小生の友人が海外旅行から帰国した際、「日本は魅力がなくなったと見られているのか、こちらが積極的にアピールしない限り無視される。それに引きかえ中国への関心が強く、どこへ行っても『中国は国内に問題を抱えているが、今後どう動くのか』といった質問ばかり。日本に関してはサッパリだった」と述べている。

そこで、申し上げたい。日本は、中国やインドといった新興経済国の急成長を背景に大きな地殻変動が起きているアジアの中で、しっかりとした外交戦略軸を再構築することが、いまこそ必要だ、と思う。具体的には、中国と米国との3国間で相互に緊張関係を保ちながら時に連携し、時にけん制し合うような外交軸で、その場合、日本はASEAN(東南アジア諸国連合=インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポールの5カ国が結成した地域協力機構、その後ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアが加わり現在は10カ国連合)をベースにした外交戦略軸を持つべきなのだ。

中国の魏、呉、蜀がかつて権謀術数の外交展開したのがヒント

もっとわかりやすく言えば、現代版「三国志」型の日米中連携だ。

「三国志」は、ご存知のように、中国の魏と呉、それに蜀という3つの国が、ある時は魏と呉が、またある時は魏と蜀がそれぞれ緊張関係を保ちながら連携し、かつけん制し合って互いに権謀術数の外交を展開して生き残りを図る、というものだったが、これを現代に置き換えれば、日米中の3つの国の関係にも、それが当てはまる。

この場合、日本は、仮に中国に問題があれば、中国をけん制し、その行動に自制を求めるため、米国と連携して揺さぶりをかける。逆に米国に問題が生じた場合、日本は躊躇なく中国と連携して米国の行き過ぎた動きにブレーキをかけるようなアクションをとる。最も効果的なアクションは、日中が大量に保有する米国債(TB)を売るぞ、と揺さぶりをかけることだろう。いま、2008年6月末現在で中国が1兆8000億ドル、日本は1兆ドルというケタ外れのドル建て外貨準備を持っているが、その大半を米国債購入の形で資産運用し、結果的に米国の巨額の財政赤字を日中で補てんしている。その日中2カ国が、もし「米国債を売るぞ」と揺さぶりをかければ、間違いなく米国は縮み上がってしまい、それがけん制効果となって行き過ぎた外交行動を思いとどまるだろう。

もちろん、いまのようなマーケットの時代、スピードの時代、さらにはグローバルの時代に、日中が本気で公言したりすれば、その瞬間に、外国為替市場ではドル売りでドルが暴落し、日中双方が持つ米国債を含めたドル資産は一気に目減りして大損害につながる。だから、「米国債を売るぞ」というシグナルはこっそり外交ルートを使ってやるしかない。しかし米国にとっては、財政赤字補てんシナリオが狂うばかりか、ドル暴落で経済的に致命傷を受けかねず、必死になることだけは間違いない。

日本に問題があって米中が県警した場合、踏みつぶされるリスク

問題は、日本が問われる場合だ。これは率直に言って、日本にとっては大ピンチだ。米中が連携すれば、それこそ踏みつぶされるリスクがあるからだ。

そこで、すでに申し上げたように、日本はASEANを後ろ盾にしたアジア外交戦略軸を武器に、米中双方にニラミをきかすような行動をとることが大事だ。逆にいえば、米中双方が日本に対してアクションを加えれば、そのバックにいるASEAN10カ国が黙ってはいない、という状況をつくることだ。

では、現実問題として、日本は、そういったASEANをベースにした戦略展開をしているかと言えば、思わず首をかしげられることだろう。そのとおりだ。 いま、仮にASEAN+3(日本、中国、韓国)の首脳会議などを開催しても、日本の存在感は正直言って弱い。日本が指導力を発揮できるチャンスがあるのに、ASEANからすると、米国の顔をうかがってばかりいて主張がはっきりしない、あるいは日本はアジアの中に入って同じように汗をかこうとしない、と冷やかに見られてしまったりするのだ。

私が数年前、フィリピンに本部を置くアジア開発銀行のメディアコンサルティングにかかわった際、インド人エコノミストから「いま、日本は、米国のジュニアのような立場で行動していて、本当の顔がどこにあるのかよく見えない。かつてのアジアのリーダー的な元気さもない。インドや中国は国内にさまざまな問題を抱えているが、勢いがある。日本はもっとアジアと行動をともにすべきだ」と言われたことがある。

メコン経済圏プロジェクトに対する日本のかかわりを見てもそれが言える。タイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、中国のメコン河流域諸国を巻き込んだ地域開発プロジェクトだが、日本は直接の当事者でないにしても、アジアの地域経済統合のモデルケースとしてプロジェクトを位置づけ、統合に向けた旗振り役を果たせるのに指導力を発揮していない。たまに、日本がメコン開発に資金協力するといった打ち上げ花火の話をするだけだ。

それに対し中国は当初、雲南省というラオスなどに隣接する最南端の省のプロジェクトだったのが、いまや北京中央政府のプロジェクトとし中国の南下戦略の1つにしている。

最近死去された千野忠男アジア開銀前総裁(元旧大蔵省財務官)が生前、「中国は1日数時間、アジア戦略を討議している。日本の霞が関や首相官邸は1日、わずか数分しかアジアのことを議論していない。アジア戦略をどう考えるか、という日中の差はいずれ大きな開きとなって跳ね返ってくる」と述べていたのが印象的だ。

米国は重要なパートナーだが、過剰な対米依存は再検討も

日本の外交軸は日米安保条約に裏打ちされた日米同盟関係だ、という人がいる。日本にとって、米国は間違いなく重要なパートナーだが、冷戦構造が崩壊し、その一方でアジアが世界の成長センターとなり、同時に東アジアで中国が存在感を増している中で、日米関係に関しては見直しが必要な時期に来ているのでないだろうか。むしろ、日本にとって、過剰な対米依存は、リスクとみるべきかもしれない。成長するアジアの一角に位置する日本がアジアから取り残され、場合によっては見捨てられるリスクさえある。

日本が同盟国と位置付ける米国は、いま、米中経済戦略対話といった形で双方の閣僚レベルでの会合密度が高まっている。米国の友人は、「米中間に課題や問題が多いから、頻度を多く戦略対話という形で閣僚レベルの会合を持っているだけ。日米は、懸案がなく信頼関係があるので、何も閣僚レベルの会合を重ねる必要がないだけだ」という。しかし私から見れば、米中間で頻繁に戦略対話の形で対話を重ねていけば、互いの懐疑が信頼に変わってくる可能性もある。

そういった意味で、私は、改めて、現代版「三国志」型の日米中の連携という形で、つかず離れずの緊張関係を維持しながら、戦略的展開をすることが重要でないか、と思う。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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