3.11乗越え農業にビッグチャレンジ 仙台で異業種企業と連携する熱血漢


株式会社舞台ファーム
代表取締役
針生信夫

時代刺激人 Vol. 246

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 日本農業は、農業に携わる人たちがしっかりとしたビジネスマインドをもって、産業化につなげていけば、間違いなく成長産業になる。農業の現場で、その先進モデル事例がある、と兵庫県姫路市の農業生産法人、「夢前夢工房(ゆめさきゆめこうぼう)」社長の衣笠愛之さんの取組みを、前回のコラムで取り上げたら、予想外に反響があった。

 日本農業は、農業に携わる人たちがしっかりとしたビジネスマインドをもって、産業化につなげていけば、間違いなく成長産業になる。農業の現場で、その先進モデル事例がある、と兵庫県姫路市の農業生産法人、「夢前夢工房(ゆめさきゆめこうぼう)」社長の衣笠愛之さんの取組みを、前回のコラムで取り上げたら、予想外に反響があった。時代の閉そく状況を刺激したいという「時代刺激人」の役割が果たせ、私も正直言ってうれしい。
その評価は、衣笠さんが主導して、兵庫県内に分散する稲作専業農家25人と一緒に稲作株式会社をつくって農地の大規模化のメリットをフルに生かすビジネスモデルをつくりあげた点に対するものだった。「素晴らしい。大組織病に陥る農協を相手にせず、独自のビジネス手法で農業のビジネスチャンスを形にするやり方がたくましい」「農と食のつながりを重視してチャレンジする、こういった人たちにこそ、日本農業を託したい」などだ。

宮城県仙台市でコメ、野菜生産・販売の農業生産法人「舞台ファーム」社長針生さん

そこで今回、もう1人、日本農業の先進モデル事例をつくりだす農業経営者だと言い切っていい人をご紹介したい。宮城県仙台市若林区でコメ、野菜の生産販売を大規模に展開する農業生産法人で株式会社「舞台ファーム」社長の針生信夫さんだ。

針生さんはずっと以前に、このコラムで、3.11の東日本大震災を見事克服した農業経営者として取り上げたので、ご記憶ある方がおられるかもしれない。実は、経済ジャーナリストとして、3.11のフォローアップ取材を行っているが、その一環で最近久しぶりに針生さんと会って話し合ったら、以前よりも一段とたくましくがんばっているどころか、そのビジネスモデルに磨きがかかっているのだ。

日本の食料を消費者へ安定的に供給する農業サプライチェーン化にチャレンジ

結論から先に申し上げれば、針生さんは今、農業の新しいビジネスモデルをつくりあげて、その具体化にチャレンジしている。キーワードは農業のサプライチェ―ン化だ。針生さんによると、野菜やコメなど日本の食料の基幹部分について、農業者主導で生産、加工、販売まで消費者に安定的に供給できるシステムづくりがサプライチェ―ンというのだ。

具体的には主力の野菜に関しては、自身で経営する「舞台ファーム」のハウスなどでの露地栽培以外に、地域の農業者と連携してつくった株式会社「みちさき」の植物工場での栽培、ハウス水耕栽培の生産システムを確立した。3.11の大津波で土地利用型農業のもろさがはっきりしたため、被災した農業者の生産モデル事例にすることをめざして植物工場、鉄筋のハウス水耕栽培施設づくりに取り組んだのだ。国の農業補助金に頼った部分があるが、チャレンジする姿勢が素晴らしい。

カット野菜を無人・無菌の自動化工場で加工し、
コンビニだけでなく流通網で販売

針生さんの野菜サプライチェ―ン化の面白さはここからがスタートだ。とれた野菜は市場流通を通さず直接販売する以外に、カット野菜に加工して販売するシステムを基軸に据えた。そのカット野菜加工に関しては、「舞台ファーム」に新たにつくった無人全自動かつ無菌状態の生産ライン工場でカット野菜化した。しかも配送後まで徹底した低温管理を行い、これまでカット野菜にしてから2日が消費期限だったが、工程管理を厳しくして最長5日間にまで延ばした。
これは今後の新興アジア向け輸出に道筋をつける狙いがある。「舞台ファーム」では毎年、ASEAN(東南アジア諸国連合)から1人ずつ社員を雇い入れているが、日本の農業生産を学んでもらうと同時に、品質管理に工夫をこらしたカット野菜の需要開拓とともに、現地ニーズを探る役割を担ってもらおうというわけだ。

しかし野菜サプライチェ―ン化のポイントは、「舞台ファーム」が大手コンビニ、セブンイレブンと独占供給契約を結び、東北一円のコンビニにカット野菜を供給すること、コメで資本連携したアイリスオーヤマの流通網で販売するシステムをつくりあげたことだ。

コメは東日本の稲作法人とネットワーク、
株式会社化し全体で3300ヘクタールの生産力

なかなかすごい経営感覚だが、コメに関しても、針生さんが主導して宮城県内の4つの農業生産法人や稲作専業農家、岩手県の2生産法人、さらに秋田県、新潟県の生産法人と一緒に株式会社「東日本コメ農業生産者連合会(RIO東日本)」を立ち上げた。前回コラムで取り上げた兵庫県の衣笠さんのケースと同様、生産農地を束ねて東日本地域一帯でコメ生産ネットワークを持つ稲作株式会社を作り生産連携を図るようにしたのだ。

RIO東日本に帰属する保有農地は300ヘクタール、そして委託生産農地がその10倍の3000ヘクタールに及ぶ、という話なので、すごい生産力だ。「舞台ファーム」も自家保有農地35ヘクタールでコメ生産する以外に、周辺の稲作農家の600ヘクタールに生産委託している。
針生さんの発想は、生産力を集約化による大規模経営でコストダウンを図って競争力をつけると同時に、品質のいいコメづくりによって市場での評価を高めるが、販売先の消費需要の掘り起こしがポイントになる。

アイリスオーヤマと連携し大型精米工場、
新鮮で味のいいコメお小分けパック販売

針生さんのコメのサプライチェ―ン取り組みの面白さは野菜のケースと同じように、消費者ニーズの掘り起こしで異業種企業と連携したことだ。
針生さんは同じ仙台を拠点に企業展開するアイリスオーヤマの大山健太郎社長と意気投合し、共同出資で株式会社「舞台アグリイノベーション」という低温精米、そして消費者が買いやすいように3合ぐらいに小分けパック化したコメの販売、さらに農業関連商品の販売を行う会社を立ち上げた。今年7月に完成する低温精米工場は4万2000トンのコメを貯蔵できる日本国内でも最大級の規模だ。その資本連携会社の強みは、大山社長のアドバイスによって、消費者がいつも新鮮で味のいいコメを食べやすい小分けパックで売るシステムを導入したことだ。
「舞台ファーム」は、この販売ルート以外に、外食弁当や学校給食などの独自開発ルートも持って首都圏にもビジネス展開しており、サプライチェ―ンに厚みを加えている。

3.11で農業ビジネスモデル変更を余儀なくされた、
6次産業化は今や古いモデル

針生さんは52歳の若さだが、私の見るところ、間違いなく熱血漢で、発想も鋭く、取り組みのスピードも速い。「3年前の東日本大震災の3.11で、正直なところ、私の人生も、農業に対する取り組みも大きく変わりました」という。その点に関して、針生さんはこうも述べている。「3.11以降、私たちが目指してきた農業のビジネスモデルを根底から変更せざるを得なくなったのです。それまでの生産・加工・販売流通というワンパターンのやり方ではなく、さまざまな組織と連携しながら柔軟な発想で変幻自在にビジネスに取り組む仕組みづくりが必要になったことです」という。

さらに、日本の農業現場が新たなビジネスモデルと捉えている6次産業化についても、古いモデルだ、という。6次産業化は、第1次産業の農業が生産から加工、販売流通にまで主導的に関与するやり方、つまり市場流通に頼らず、独自の産直バイパス流通ルートを確保して利益を求めるやり方だ。
しかし、針生さんは「確かに、農業者が農業生産法人をつくって、農協にも、市場流通にも頼らずに独自に農業展開する1つの先進モデルだと思っていました。しかし、農業者だけでは発想に広がりがなく、ビジネス展開に限界がありました。さまざまなレベルで異業種の人たちとの交流、あるいは連携が必要で、それによって農業に付加価値もつけることが出来る、ということを痛感しました」と。

異業種との資本連携、
東日本の稲作農業生産法人との株式会社化

針生さんの経営手法を見ていると、これまでの6次産業化という第1次、第2次、第3次産業のすべてに農業が主導的にかかわる、という従来パターンの農業ビジネスモデルから一歩も二歩も踏み出したのは間違いない。端的に言えば、アイリスオーヤマという異業種企業との資本連携、さらには東日本の稲作生産者との広域連携によって、兵庫県の衣笠さんと同様、規模拡大のメリットを求めて稲作生産株式会社の組織化などで、農業のサプライチェ―ン化を実現した部分が大きい。

この農業のサプライチェ―ン化の取組みは、これまでの農業者の経営とは180度、異なる。早い話が、大半の農業者は、農協の枠組みに頼って系統出荷するが、農協は何の販売努力もしてくれないまま集荷手数料だけとって卸売市場などの市場流通に売買を委ねるため、需給関係で価格が決まり、農業者の手にする利益はわずか。しかも農協には割高の肥料代や機械代金を持って行かれ、農業の再生産の余力を生み出せない。このシステムにクサビを打たないダメだ、というのが、針生さんの3.11以前からの発想だったが、あの大震災でビジネスモデルの根本変換を迫られた、というわけだ。

大震災だけでなく原発事故による放射能汚染リスクにさらされ植物工場を決断

針生さんは「大地震、そして大津波被害だけでなく、東電原発事故の影響で、宮城県も風向きによっては放射能汚染、あるいは放射能の風評被害リスクにさらされるという現実に直面しました。このため、農産物から放射能がいっさい出ないような、しかも津波被害にも防備できる生産システムということで、植物工場での生産が必須だと判断した。野菜の露地栽培やハウス栽培はこれまでどおり対応しますが、最悪の事態に備えての生産システムづくりは3.11が起きなければ、発送しなかったことです」という。確かにその通りだ。

それにとどまらない。針生さんは、大学との連携も積極的に取り組み、野菜の成分数値の見える化を確立し、健康にプラスになる食材の開発も活発に進めるようになった。すべては3.11がきっかけだが、状況に流されずに、置かれた新たな状況下で、異業種との資本連携などによって、農業のサプライチェーン化という発想をすること自体、優れ者の農業経営者だ。
サプライチェーン化は、もともとは製造業の世界で起きた発想だが、農業もある面で農産物を製造する産業であり、生産から加工、流通、販売までのチェーン化が必要になってきたこと、そこに農業の収益源があると見抜いた針生さんの取組みは素晴らしい、と思う。みなさんはいかがだろうか。

関連コンテンツ

運営会社

株式会社矢動丸プロジェクト
https://yadoumaru.co.jp

東京本社
〒104-0061 東京都中央区銀座6-2-1
Daiwa銀座ビル8F
TEL:03-6215-8088
FAX:03-6215-8089
google map

大阪本社
〒530-0001 大阪市北区梅田1-11-4
大阪駅前第4ビル23F
TEL:06-6346-5501
FAX:06-6346-5502
google map

JASRAC許諾番号
9011771002Y45040