オバマ米大統領へのノーベル平和賞は驚き、でも受賞辞退したらもっと好評価? 率直にいえば時期尚早、受賞理由の核廃絶を実現したら胸張って受け取ればいい


時代刺激人 Vol. 58

今年のノーベル平和賞に、米国のオバマ大統領の受賞が決まった、という10月9日のニュースには、正直言って、本当に驚いた。こうした評価を下すノーベル賞委員会の判断自体は素晴らしいものだ。しかし、オバマ大統領がもし、受賞を辞退し「名前を挙げていただいたことを本当に誇りにしたい。ただ、私の仕事はまだ道半ばだ。核廃絶を実現した際に再度、評価していただいたら、今度こそ間違いなく胸を張っていただく」というスピーチをしたら、どうだっただろうか。まず、間違いなく世の中のオバマ評価はもっと高まったのでないだろうか。こんなことを言うと、ジャーナリストっていうのは、本当に素直じゃないな、ひねくれているなということになるだろうか。
 だが、率直に言って、現職の米国大統領へのノーベル賞委員会の授賞は驚きながら、就任して9カ月という短さで、まだ十分な実績をあげておらず、むしろ期待先行という部分が強いこと、オバマ大統領の数々の名スピーチのうち、とくに4月のチェコ・プラハでの演説で、核兵器のない世界の実現を強く訴えたのは素晴らしいが、まだ核の廃絶を実現したわけでないこと、とりわけ核保有大国の米国が率先垂範して核能力の大幅削減というアクションを起こしたら文句なしだが、現実にはまだ行動に移していないこと、それだけに、受賞自体は少し早いのでないだろうか、と思っただけのことだ。
そうしたら案の定、メディアだけでなく、一般の人たちのコメントなどの間でも評価が分かれていた。そこで、今回は、この機会に、ノーベル平和賞っていうのは、過去、どうだったのか、いい機会だからもう一度、検証してみよう。

ノーベル賞委「オバマ大統領の取組みは委員会が108年間、追及してきたこと」
 その前に、今回のノーベル賞委員会の授賞理由を見ておこう。当然ながら、オバマ大統領の取組みを絶賛している。具体的には「核兵器のない世界へ向けたオバマ大統領の理想と行動を重視した」「国連を軸に国際機関の役割を重んじる多国間外交を前面に押し出した」「対話と交渉を重視する新たな政治の取組みや流れを国際政治の世界にもたらした」「気候変動問題への取り組みに関して、オバマ大統領は、米国のこれまでの姿勢を大きく変え建設的な役割を演じている」「民主主義と人権を強化する政治に取り組もうとしている」「よりよい未来に向け、世界中の人々に希望を与えた」「グローバルな問題に取り組むために、みんなが責任を分かち合おうという考えを強く打ち出した」「オバマ大統領の国際的な取り組み、政治姿勢、理想は、ノーベル賞委員会が過去108年間の歴史を通じて、まさしく追求してきた理念だ」としている。
 この授賞理由をご覧になれば、ノーベル賞委員会の判断は極めて明快だ。委員会があえてノーベル平和賞という賞を設けて毎年、さまざまな分野の人たちに授賞しているのは、世界平和の実現に向けてたゆまぬ努力をした人、あるいは多くの人たちに勇気を与えた人、率先垂範して取組み努力をしている人を激励し応援するためのものだ、というメッセージを出そうとしていることは間違いない。そして、今回のオバマ大統領への授賞は、最後の部分の「率先垂範して平和を実現するための取組み努力をしている人を激励し応援する」という部分に該当した、ということだろう。

久保東大教授「ノーベル賞委がオバマ大統領の政策を後押し、理念も評価」
 現に、東京大学教授で米国政治などを研究される久保文明氏は、朝日新聞紙上でこう述べている。「就任後わずか9カ月、まだ成果が見えない段階での授賞は驚きだ。ノーベル賞委員会には4年後、8年後の実績を見てから判断するやり方もあった。委員会は、多国間外交を進めるオバマ大統領の政策を後押しする役割を果たそうとしたのでないか。(中略)基本的に、委員会は、具体的な成果よりも未来への提唱、理念を評価した、と言える」と。
ノーベル賞委員会が、もとより批判されることはない。委員会が授賞理由で述べているとおり、過去108年間、委員会がひたすら追求してきた平和の実現に向けた取り組みに関して、米国の48歳で、さまざまな可能性を秘めているオバマ大統領が就任後、いち早く行動に移し、とくにスピーチを通じて強烈なメッセージ発信をしていることを高く評価したのだ。むしろ、これが弾みになって、オバマ大統領の行動にエンジンがかかり、期待した以上の成果が大きくあがったりすれば、ノーベル賞委員会の判断は極めて適切で、現職の米国大統領を奮い立たせた、ということになる。ノーベル平和賞は、そういった意味で、極めて特別な意味合いを持つ賞とも言える。

英タイムズ紙は逆に「ノーベル平和賞ではなく政治賞だ」と皮肉る
 ところが、英国のタイムズ紙は10月10日付の社説で、「プライズ・フール(平和賞バカ)」という見出しをつけて「ノーベル政治賞だ」と皮肉っている。要は、「ノーベル賞委員会が政治的な党派性が強いことを露呈し、自らの品位を落とした」と手厳しく批判、その理由として、過去2002年にカーター元米大統領に対しノーベル平和賞を授賞した際に、国際紛争の平和的な解決に努めたことを評価した、とする一方で、「(ブッシュ)米政権に対する批判として(の意味合いがあると)解釈されるべきだ」と異例のコメントを出したことを挙げている。
このタイムズ紙社説が今回のオバマ大統領への授賞を政治賞だと皮肉ったことについて、産経新聞は10月19日付のオピニオン欄で「タイムズ紙は(単独行動主義に走った)ブッシュ政権が終わったことへの安堵(あんど)感の表れ、とも述べている。オバマ政権が多国間協調主義に戻ったことは、欧州では歓迎されているが、『賞は今年、平和のために贈られなかった。これはもうノーベル政治賞だ』と締めくくっている」と書いている。

米ニューズウィーク誌はさらに手厳しく「オバマはノーベル賞に値しない」
 これに対して、オバマ大統領のおひざ元の米国のニューズウィーク誌は、もっと手厳しいと同時に痛烈な皮肉を込めた論調でいる。10月21日号の表紙は「オバマはノーベル賞に値しない」というセンセーショナルなタイトルにし、それを裏付けるようにワシントン支局のマイケル・ハーシュ記者の「平和賞はブッシュのおかげ」という記事は、なかなか辛辣(しんらつ)だ。それによると、世界各国の指導者は、オバマ大統領が今もブッシュ前大統領の後始末に追われているのを承知している。アフガニスタンでタリバンが復活したのも、ウオール街が野放し状態になったのも、元はと言えばブッシュ前大統領の責任。これこそ、オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞した最大の理由かもしれない、という。
 ブッシュ前政権の後始末に追われているケタ外れの努力ぶりが評価された、という皮肉だけでない。ハーシュ記者は「ノーベル賞委員会が平和賞授与に込めたメッセージ『がんばれ、バラク・オバマ!』もむなしく、こうした希望と期待は猛スピードで消え始めている」という。その理由として、オバマ大統領が、次々と待ち受ける難題、端的には金融規制改革、医療制度改革、財政赤字、アフガニスタン問題の泥沼にはまり込み、共和党の抵抗に悩まされている。世界が頼りにした米国は、改革不可能な国になったのではないか。国際社会には、そんな疑惑が芽生えている、というのだ。
こればかりでない。もっと信じられないような受け止め方が米国の政治ジャーナリストの一部にある。ノーベル賞委員会が「よりよい未来に向け、世界中の人々に希望を与えた」と、オバマ大統領の強い志(こころざし)や取組みを評価したにもかかわらず、余計なお世話だと言わんばかりの反応なのだ。10月15日付けの産経新聞によると、米国の民主党系外交コラムニスト、ジム・ホーグランド氏は、米ワシントンポスト紙で「米国の政治への干渉だ」としたうえで「早計な授賞がオバマ氏を過信させ、今後のアフガン作戦などで強硬すぎる行動をとらせかねない」と述べているのだ。ノーベル賞委員会という親の心、子知らずに近いものだ。

今回の受賞はさまざまな議論があり、オバマ大統領が授賞式直前に辞退も一案
 私は、冒頭で申し上げたとおり、今回のノーベル賞委員会の判断は素晴らしいものだと思う。オバマ大統領が就任当初からとってきた素早い政治行動は、率直に評価する。イラク戦争などで犯してきた傲慢で思い上がりの強い米国に、新しい風を起こす数少ない政治家になると思う。そういった意味で、ノーベル賞委員会がとった評価は、これまであげてきたいろいろな見方とは別に、やはり素晴らしいと思う。しかし、私からすれば、この授賞は時期尚早だ。私は、オバマ大統領が12月の受賞式を前に、冒頭に述べたような理由で辞退を申し出たら、間違いなく世の中のオバマ評価はもっと高まる、と思う。
それに、過去のノーベル平和賞の受賞者をみると、ポーランドの元自主管理労組「連帯」の議長レフ・ワレサ氏、旧ソ連のペレストロイカ(改革)、グラスノスチ(情報公開)に果敢に取り組んだミハイル・ゴルバチョフ元大統領、さらにはミャンマーの民主化運動の指導者アウン・サン・スー・チーさん、インドで献身的に貧困との闘いにチャレンジしたマザー・テレサさん、米国の人権運動指導者のマーチン・ルーサー・キング牧師らは、文句なしに授賞に値する。ノーベル平和賞という賞の素晴らしさを証明した。その半面で、えっ、なぜこの人が受賞するのだろうか、むしろ在任中に、逆に問われるような言動もあったでないかという人もいる。
そうした中で、今回のオバマ大統領に関しては、繰り返して言えば、期待が強い半面、まだ実績評価が見えないところだけに、もう少し慎重であってもよかったのでないか、という感じもする。ジャーナリスト的には、ノーベル賞委員会の選考過程、結論を下した委員会メンバーの判断などを取材してみたい気もする。
 

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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