エネルギー地図変える?シェール革命 LNG大消費国日本は戦略的発想を


時代刺激人 Vol. 218

米国内での急速な資源開発によって商業化のめどがつき、一気に本格生産に入った天然ガスの一種、シェールガスがエネルギー分野で大きな注目を集め、今や「シェール革命」「シェールガス革命」といった形で、文字どおり革命的な評価を受けている。

米国は中東産原油依存減り逆に天然ガス輸出国に、
戦略的に動く可能性大
 地中深いシェール(頁岩)層にガスの巨大な潜在埋蔵量が確認され、米国ですでに本格的な商業生産に入っている。これが、ケタ外れのエネルギー消費国米国の中東産油国などからの輸入依存引き下げにつながり、世界エネルギー需給に変動をもたらす。米国貿易赤字の解消に向かう。その後は液化天然ガス(LNG)を船で、またパイプラインでガスを、さらにシェールオイルの形で輸出となれば、エネルギー輸出国に転じる。米国は輸出を戦略的に使う可能性が大きく、地政学的に米国がパワーを取り戻す事態になる。当然、世界のエネルギー地図を塗り替えることにもなる。これが「革命」と言われる点だ。

最近、出会った日本政策投資銀行産業調査部の調査役、小野健介氏がこのシェールガス問題に精通しておられ、2年間の経済産業省出向中に得た海外の交渉現場体験、調査研究成果などを聞くと、私にとって勉強になり、新たな好奇心や問題意識が生まれてきた。そこで、今回は、シェール革命が世界のエネルギー地図を塗り替えるインパクトのある問題に本当に広がっていくのか、その場合、エネルギー自給率が極度に低いことが戦略的な弱みの日本は、どう対応していけばいいのか、取り上げてみたい。

経常赤字から解放されドル高へ、
米国は基軸通貨信認回復が自信になる可能性も
 まず、このシェール革命が本格進行した時のことを考えた時に、経済ジャーナリストの立場で咄嗟に思ったのは、米国が長年苦しんできた貿易赤字、経常収支赤字の呪縛から解き放たれて、米国経済には活力が戻ってくるのだろうな、ということだった。

もし米国にとって単年度の貿易収支、経常収支の黒字化だけでなく長期的に黒字が定着すれば、間違いなくプラスに働く。財政赤字と並んだ経常収支赤字の慢性化で、米国は「双子の赤字」を抱える問題経済大国と見られ、ドル安要因となって基軸通貨国の存在が問われていたが、一転、慢性的な通貨安からドル高に大きくシフトする可能性が出てくるからだ。貿易決済面で海外の国々からのシェールガスやLNG買いのためのドル資金需要増によってドル高になっていくのは、基軸通貨国にとってはうれしい話だろう。
半面で、米国ドルにリンクしていた新興国通貨にとっては複雑だ。それぞれの国の通貨高をもたらし輸入メリットが出る一方で、為替面での輸出競争力ダウンの現象が起きる。とはいえ、基軸通貨国ドルへの信認が回復することは米国の経済復権となり、経済運営面で自信回復になるのは確実だ。

米国独り勝ちで覇権主義につながるリスク、
EU、日本、中国も歯止めかけられず?
 そこで問題がいくつかある。米国がかつて経済面で独り勝ちとなった時に見せた驕りと同様、今回の局面でも、経済復権が米国の政治指導者や経済界に自信を持たせ、それ高じると経済覇権志向が頭をもたげ、米国主導でルールを決めてしまうリスクが出てくる。
とくに米国が今後、経済安全保障などとからめて、エネルギーを戦略的に使うような動きに出ることは、過去の米国のケースから見てもあり得る。現に、国際エネルギー機関(IEA)2012年版世界エネルギー見通しでも、多くの国々で原油や天然ガスの輸入依存度が高まっている中で、米国がシェールガス革命によってそれらの流れに逆行し、自給率を上げてエネルギー分野で独り勝ちの状況になる可能性がある、と指摘している。

米国がそういった形で行動し世界経済を仕切ることになれば、危うい事態となる。そんな中で、EU(欧州共同体)が慢性的なユーロ不安、財政や金融面でのリスクを抱え存在感を失っているのが辛いところだ。一方で、日本、それに新興アジア、とくに中国が健全なカウンターベイリングパワー(拮抗力)を発揮できる状況に向かうとも思えない。米国に歯止めをかける国が見当たらないとなった場合が大きな問題だ。

オランダ病リスク、資源輸出で得た外貨で
外国工業製品輸入し製造業がダウン
 もう1つは、いま述べたこととは全く違った側面で、米国にふりかかる問題がある。それは、かつてのオランダ病やロシア病現象が米国に出るのかどうかという問題だ。
1970年代のオイルショック時代に、オランダは国内で偶然、産出された天然ガスを資源価格高に便乗して輸出に舵を切り経済再生した。しかし外貨収入やオランダ通貨ギルダー高を活用して自国工業製品と代替する海外産品の積極輸入に切り替えたため、国内製造業が軒並み力を失った。一方、好況に伴う賃上げでコストプッシュインフレを招いた。
産油国ロシアも同じだ。原油価格高騰時に原油輸出を活発化させ、経済は活況になったが、オランダと同様、外貨収入を使って自動車など外国産品輸入に走ったため、自国製造業が全く育たなくなった。今も、ロシアの資源依存の病気体質は変わっていない。

米国では、これらの国々の教訓をもとに、逆に自国内でのシェールガスコストの安さを武器に、化学品メーカーなどの製造業の競争力強化につなげていく製造業復権シナリオが綿密に検討されている、という話を聞いた。このあたりは、今後の米国製造業の動きをウオッチしていくほかはない。

米国はいずれガスでロシアを、
またオイルでサウジを抜き生産量トップの予測も
冒頭に述べた日本政策投資銀のシェールガス問題専門家、小野氏によると、米国のシェールガスの本格生産に伴う供給増で米国内の基準価格ヘンリー・ハブで見た場合、100万BTUあたり4ドル前後で低迷しているが、今後、緩やかに上昇し2030年過ぎまで6ドルあたりで推移する見通し。そして、生産量ベースでは2015年から2020年代末までの間に、米国はロシアを抜いて世界最大の天然ガス生産国になる。

同時に、タイト・オイルというシェール岩盤層から採取生産される中・軽質油の量が2017年から2020年代半ばまでにサウジアラビアを抜いて米国が世界最大の産油国になる可能性があるとの予測が出ている、という。それでいくと、シェール革命が世界のエネルギー地図を塗り替えるのは確実だろう。

日本はまず現行の原油価格連動のLNG長期契約の見直しで
交渉力発揮を
さて、ここで世界最大のLNG輸入大国の日本が、新たな事態に対応して、どういった戦略的な行動をとれるかどうかだ。結論から先に申し上げよう。日本は、まず、全体輸入量の約65%を占める原油価格連動のLNG輸入長期契約について、中東のカタールなど産ガス国との間で、契約更改時はもとよりだが、現時点でも、世界の市場価格動向を何らかの形で契約に反映させるような交渉を積極提案する交渉力が必要だ。

かつては、日本はLNG輸入確保を最優先にする電力会社や都市ガス会社の判断で、量の確保のために長期契約を最優先したが、シェールガスの市場価格に比べて100万BTUあたり10ドル以上も割高なLNG価格をそのままじっと受け入れる必要はない。もちろんシェールガスの液化でコストアップが発生し、LNG価格ベースに置き換えれば価格差が縮まり単純比較は難しい。しかし大事なことはシェール革命を活用することだ。

カタールなど長期契約の産ガス国と
WIN・WINの関係をつくりあげることが必要
 シェール革命が現実のものになるまでは、LNGの世界は売り手市場だったのは間違いない。しかし米国のシェール革命で世界のエネルギー地図が塗り替えられ一転して、買い手市場に変わってきたのだから、交渉を要求し、主張することは主張すべきだろう。

カタールなどの産ガス国としては、立場上、長期契約の基本を崩せないし、なかなか譲ろうとしないだろう。でも、手をこまねいている必要はない。戦略的に動くことが重要だ。とくに、日本は世界最大のLNG輸入国であるという立場を逆に武器にして、契約更改時に、売り手側、買い手側がWIN・WINになるような状況に持ち込めるような布石を打つとか、いろいろな知恵を出せるはずだ。輸入国、消費国連携ももちろん選択肢だ。

FTA締結国最優先の米国から
シェールガス輸入を認めてもらうことも重要
 このLNG長期契約の見直し問題とは別に、日本がとるべき戦略行動は、もっと数多くある。最大のポイントは、言うまでもなく米国のシェールガスを日本に持ち込めるように米国政府との間で輸出許可交渉することだ。
米国の輸出方針によると、米国エネルギー省の許可が必要で、許可に際しては米国らしく公共の利益に適うかをまず判断する、さらに米国と自由貿易協定(FTA)を締結している韓国などに対しては、この原則、公共の利益に一致する、との立場に立ち、輸出申請があれば遅滞なく許可するという。問題は、日本のような非FTA締結国からの輸出申請に関しては個別審査が必要となっている点だ。

オバマ政権は現時点で、非FTA締結国からの申請のうち、コスタリカなどに認める、という方針を打ち出した、との情報もあり、日本側関係者の間では「日米の同盟関係から見ても、早晩、輸出許可が得られるはずだ」と楽観している。しかし日本にとっては、ここが極めて重要なポイントだ。一早く米国からの許可を得ることによって、他の国々との交渉力に活用するためにも米国との関係強化を図ることが何よりも重要だ。

米国、ロシアなどを含めてエネルギー安全保障づくりに
日本が手つける絶好の機会
しかし同時に、日本が戦略的に考えることは、極東アジア市場への進出計画を模索しているロシアはじめ、いろいろな産ガス国などとも連携し、日本のエネルギーの安全保障をどうつくりあげるかを真剣に考えることだ。
この問題で、たまたまIEA前事務局長で、現日本エネルギー経済研究所特別顧問の田中伸男氏が持論にされている日本のエネルギーの安全保障樹立の話を聞いて、私自身も全く同感だと思ったので、ぜひご紹介したい。
田中氏によると、国内にエネルギー資源が乏しい、いわゆるエネルギー自給率の低い国々においては、さまざまなエネルギーの安全保障の枠組みを構築することが重要だという。田中氏は、その具体例として、欧州が中東北アフリカとの間でガスパイプライン網のネットワークを持っていることを挙げたが、その際、北東アジアのガスパイプラインのインフラ構想が出ていること、また2015年に地域経済統合に踏み出す予定の東南アジア諸国連合(ASEAN)でも加盟国間を結ぶガスパイプライン構想が進んでいることを挙げ、 日本がこれらの構想や計画にどうコミットするか、戦略が必要だという。

日本は、世界最大のLNG輸入国だが、民間の電力やガス会社のLNG調達の長期契約が先行し、大きな戦略展開を考える余裕も準備も進んでいなかった。その点で、米国のシェールガス革命をきっかけに、世界のエネルギー地図が塗り替わりつつある現状を踏まえて、LNGや天然ガスに限らず原油や石炭などさまざまなエネルギーの安全保障を考えるいいチャンスが訪れたと思う。いかがだろうか。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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