今こそチャレンジ、日本は温暖化ガス削減で企業、一般家庭が積極取り組みを 「小宮山モデル」はCO2減、燃料費節約の一挙両得、政府は政策でサポート必要


時代刺激人 Vol. 76

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

地球の運命を決める、と言っても過言でなかった国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は、残念ながら昨2009年12月、各国の利害がからみ問題先送りとなったが、早いものでまもなく3カ月となる。しかし日本がアピールした「2020年時点での地球温暖化ガス削減目標を1990年比換算で25%削減」との数値目標は、間違いなくハードルが高いが、チャレンジする価値は十分だ。私は63回のコラムで「日本は環境先進国アピールのチャンス、産業界も時代先取りが必要」と指摘したが、今回は企業の取組みと同時に、一般家庭の二酸化炭素(CO2)排出量の大胆な削減をぜひ訴えたい。「日本は、世界中のどの国もが到達できないゴールをめざしてすご~いことをやる。世界をリードする環境先進国だ」と言われるように、アクションを起こすべきだ。
 そんなことを思っていた矢先、朝日新聞2月15日付の朝刊で「25%削減が経営を強くする」という刺激的な記事が出ていた。そのメッセージ発信人は京都商工会議所会頭でオムロン会長の立石義雄さんだった。長年おつきあいしていながら、京都商工会議所会頭になられて以降、京都でのお仕事が多忙なため、ほとんどお会いするチャンスがなくなったが、記事を読んでいて、立石さんらしい時代先取りの経営者の発想だと思った。

立石オムロン会長「25%削減が経営を強くする」「地球益への貢献が必要」
 なかなか刺激的であると同時に、興味深いので、少しポイントの発言部分を引用させていただこう。「これまでの(企業の)『強み』を定義し直す時期だろう。たとえばパナソニックが今年に入って『環境革新企業』をめざすと宣言されたが、環境を軸にすべての事業やコストを見直す、それが国際競争力になる、と(パナソニックは)考えたのだ、と私はとらえた。『25%削減』に誰よりも早く応えるほうが経営を強くする。何より、こうした『地球益』への貢献は社会の働きがいにもなる」と。さらに「温暖化対策で、生産設備を省エネタイプに変えるなど、大きな投資を求められた。だけど、そのノウハウをコンサルティング事業に生かすことができる。お客さまに提案する前に、社内で実験しているようなもの。そうした事業は早くやれば、その分、(いい意味で会社の)『創業者利益』も大きい」と、立石さんは語っている。
 立石さんは京都議定書が発効してから5年という節目を迎えたいま、京都商工会議所会頭の立場で「京都のモノづくりは、長い歴史の中でまがい物でなく本物をつくるという特質、人のやっていないことをやるという独創性を持っている。(中略)京都議定書誕生の地ということに加え、京都産業界は、そんな特性を持つだけに、日本の首相が発したメッセージを重く受け止めて、改めて『起業家精神』を発揮しよう、温暖化対策はビジネスチャンスになることを信じて経営をしよう、という思いがあった」ので、あえて音頭をとることにした、という。商工会議所会頭というビジネスリーダーとしても重要なメッセージ発信だ。経済ジャーナリストの立場でも、こういった志をしっかりと持つ人は応援したいと思う。

ホンダの1970年排ガス規制克服が日本の自動車ブームの引き金に
 さて、本題の企業の温暖化ガス25%削減問題に対する取組みに関して、もう少し申し上げよう。63回目のコラムでも指摘したが、企業にとっては、難しい課題に対するチャレンジが産業を変えたという意味での先進モデル事例として、ホンダ自動車が排ガス規制クリアするCVCC(シビック)エンジンを必死の努力で誕生させたのを思い起していただきたい。ホンダのたくましいチャレンジ精神で、ゼネラルモーター(GM)やフォードなど米自動車ビッグスリーが絶対に困難と言い続けていた1970年の米マスキー法規制をクリアした話だ。当時、開発チャレンジを渋っていたトヨタ、日産といった主要大手自動車メーカーもホンダの課題克服事例が刺戟になったのか、あわてて追随し見事に規制クリア車を実現、あっという間に日本車ブームをつくりあげた。
 そればかりでない。危機がチャンスという先例をつくったばかりか、日本の産業技術は原油価格高騰時代に省エネ技術に磨きをかけ、「環境先進国」という存在感を生みだした。同時に、それが日本の戦略的な強みもなった。今回の温暖化ガス25%削減問題も、そういった意味で、日本企業にとっては大きな試練だが、危機をビジネスチャンスに切り替えるばかりか、新たな日本の戦略的な強みにすればいいのだ。産業セクター別で温暖化ガスの削減幅の課題が大きい鉄鋼や電力などの企業は「乾いた雑巾をもうこれ以上はしぼり切れない」と異口同音に言うが、石油ショック時のホンダの先進モデル事例を参考に、ぜひ多くの日本企業を勇気づける先進例を示してほしい。

環境省の「25%削減ロードマップ」では一般家庭は最大31%削減案
 冒頭で申し上げたように、今回のコラムでは、エネルギー消費量の多い一般家庭、つまり国民1人1人も同じ課題を背負っており、どうすればいいか、取り上げたい。その手掛かりになるのが、2月17日に環境省公表の温暖化ガス25%削減の目標達成に向けた「中長期ロードマップ(行程表)」案だ。それによると、90年比で一般家庭が最大31%減(05年比49%減)、オフィスなどの企業業務部門で21%減(同じく45%減)、トラックなど運輸で25%減(同37%減)、そしてこれまで述べた工場などの産業企業で24%減(同20%減)となっていて、一般家庭の削減努力が大きな課題になっている。
 結論から先に申し上げれば、一般家庭の削減にはぜひ積極的に取組み、国民の自助努力を求めると同時に、政策誘導するために、政府がエコポイント制度の活用はじめ省エネタイプの器材購入補助、減税といった形で家計をバックアップすると同時に、マクロ経済的な新規の需要創出につながるような政策をとればいいのだ。

石油ショック時は総需要抑制策だったが、今回は需要創出しながらCO2削減案を
 ご記憶があるかどうか定かでないが、かつて石油ショックの時に、政府は総需要抑制という形でガソリン消費を抑えたばかりか、東京銀座など繁華街のネオンサインはじめオフィスビルの照明を抑え、エネルギー消費を省エネ型の政策に切り替えて、何とか事態乗り切りに成功した。当時も、一般家庭のエネルギー消費量は膨大なものがあり、それを抑えることはやむを得なかった。しかし、今回は経済のデフレ化のもとで、総需要抑制の形でのマクロ政策はとりにくい。当然だ。むしろ、いまはマクロ経済的な需要創出につながるような策を講じながら、同時に温暖化ガスの削減につながるようにもするということで行くしかない。
 そこで、ヒントになるのが以前も時代のキーワード「課題先進国」の話で、このコラムで取り上げた前東大学長で現三菱総研理事長の小宮山宏さんの提案だ。新エネルギーセミナーなどで何度かお聞きしている話だが、聞くたびに、これは取組み用によっては、新規需要創出になると同時に、温暖化ガス削減にもつながる一挙両得のアイディアだなと思うようになったので、ぜひご紹介させていただきたい。

小宮山前東大学長は自宅リフォームで実践、電気ガス代が年間6分の1に節約
 小宮山さんが自ら自宅で実践されたことを踏まえて提案されているので、なかなか説得力がある。自宅をリフォームし、まず断熱材を入れると同時に、窓を二重ガラスにする、また電力などエネルギー多消費型の旧式の冷蔵庫やエアコン、テレビなどの電気器具も最新型の省エネタイプのものに切り替える。またガス給湯器も高高率の給湯器に切り替える。さらに極めつけは屋根に太陽光発電ができるように太陽電池などを取り付ける、というものだ。小宮山さんは「リフォームの初期費用はかなりかかったが、エコハウスにしてみて結果は長い目で見てプラスだった」と語る。具体的には、電気やガス代がそれまで年間約30万円かかっていたのが省エネ器材の導入によって、いまは年間6分の1の5万円弱で済んでいる。リフォーム投資は300万円ほどかかったが、10年超でモトがとれる計算だ、という。

政府はエコポイント制度活用、省エネ家具購入補助、減税で対応を
 京都議定書にもとづく主要国の2012年までの暖化ガスの削減目標のうち、日本は90年度比6%削減が義務付けられているが、環境省によると、07年度の排出量が逆に9%増加した。工場など企業のや産業部門では省エネ対策で、それこそ雑巾をしぼりにしぼって2.3%削減したが、一般家庭からの排出量が41%も増えたため、それが全体を押し上げ、9%プラスになったのだ。2012年の目標年次はあとわずか。それどころかポスト京都議定書がらみで冒頭の2020年問題がある。
そうしたことから見ても、一般家庭の削減努力は今や国民的、いや国家的課題なのかもしれない。それからすれば小宮山さんの実績値でもわかるとおり、際立った効果が上がっているのだから、あとは政府がエコポイント制度の活用はじめ省エネタイプの器材購入補助、減税といった形で一般家庭の削減を応援すると同時に、産業や企業にとっての新たなビジネスチャンスにすればいい。いっけ、重そうな課題に見えるが、チャレンジする意義は十分にあるし、それによって、日本は間違いなく課題克服によって「環境先進国」になり得る。

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