求められれば国際的助っ人、スポーツだけなく経済でも、、、 北京五輪で見せたシンクロ・藤木・井村さん、女子バレー・朗平さんの凄さ


時代刺激人 Vol. 4

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

8月の北京オリンピックは、世界中から集まったスポーツ選手によって、さまざまな感動のドラマを生むという素晴らしい結果をもたらした一方で、主催国・中国のナショナリズムを随所で感じさせるものとなり、スポーツが国威発揚の場になると同時に「強国・中国」を世界にアピールする国際政治的な道具になったか、と複雑な思いが残った。
 しかし、「時代刺激人」感覚という点で、とても興味深かったのは、シンクロナイズド・スイミングでスペインに銀メダル、中国に銅メダルをそれぞれもたらした日本の藤木麻祐子コーチ、井村雅代コーチ、また米国の女子バレーボールを銀メダルに導いた中国出身の郎平監督の3人だ。

この人たちは国際的な助っ人として、ライバルともいえる国々へ行って徹底的に選手指導に携わりメダルをもたらした。「スポーツに国境なし」を印象づけたことも凄いが、それ以上に、これらの種目で日本や中国の技術レベルが十分に国際競争力を持つことを証明したことだ。しかもシンクロでメダルを手にしたスペインや中国の対日本評価までが大きく変わってきている。むしろ日本はそれを誇りにすべきだ。

日本のシンクロのすごさを見せることができた
 シンクロの井村さんが日本のメディアで大きくクローズアップされた。残念ながら、小生は現場には行っていないので、メディアの報道を紹介しよう。 「表彰式の後、中国の選手たちから日本語で『ありがとう』と言われ首にメダルをかけてもらった井村監督。『日本のシンクロがすごいということを見せることができた。アジアの一番が世界の一番になるようにしたい』と誇らしげだった」と読売新聞は報じている。 また日経新聞によると「五輪では、新興勢力がすぐにメダルを獲得するのは難しいとされる。わずか1年半でメダル獲得できたのも井村コーチの経験のたまものだ」という。
 井村さんに関する報道とは対照的に、スペインに銀メダルをもたらした藤木さんに関する報道がなぜか少ない。しかし日経新聞は「元日本代表の藤木コーチは、世界覇者のロシア追撃を目標に、妖艶な演技のできる選手をしっかりとまとめてきた。とくに表現力で同調性などの弱みを補ってきた」と報じている。

これに対して、銀メダルを米国女子バレーボールにもたらした中国人の郎平監督に関する中国国内の受け止め方が興味深い。

朗平さんは一時「祖国への裏切り」と中国国内で批判も
 産経新聞によると「中国女子代表のエースとして五輪、世界選手権、W杯の優勝に導いた。中国監督を経て2005年に米国監督に就任した。『祖国への裏切り行為』と批判されたが、『外国に認められることは中国の名誉だ』との擁護論もあり、中国国内では論争を巻き起こした。米国が進撃するにつれ『米国の勝利も中国の勝利だ』とネットでの支持が広がった」と報じている。
 郎平監督の場合、民族意識が際立って強い中国から離れ、ライバルの米国のバレーボールチーム監督を引き受けただけでなく、1次リーグで母国中国チームとあたった際にも、プロに徹して中国を打ち負かすというすごさには敬服する。そのプロ根性が素晴らしい。

しかし中国の中でも、米国バレーボールチームが勝ち進むに従って、郎平さんの活躍を中国国民が誇りにするようになった、というのは、国境を越えてうれしい話だ。中国が大人の対応ができるようになった、ということでもあるからだ。

そこで、われわれが考えるべきことは、スポーツでの国際的な助っ人に限らず、経済でも政治の世界でも国際的に通用する、しかも競争力を持つ人材を作り出すと同時に、チャンスがあれば、そういった人たちをどんどん海外に送り出すこと、また個人のレベルで請われてライバルの国に行く場合でも、われわれはそれを誇りにすることが重要だ。

ベトナムのインフレ対策支援で長期派遣の日限マンもがんばれ
 つい最近、日本銀行が、ベトナム政府からの要請に応えて急激なインフレを抑えるための金融政策支援で幹部を送りだすことになった、という話を聞いて、思わず「がんばれ」と声をかけたくなった。急成長してきたベトナムはいま、その反動でインフレ、通貨安に苦しんでいる。マクロ政策面で十分な政策ノウハウを持ち合わせていない、というのであれば、日銀は「スポーツに国境なし」と同じ発想で、金融政策に関しても国境などない、世界の成長センターのアジアで政策対応に苦しむ国があるならば国際的助っ人で応援する、と送り出せばいい。
 実は、この人材の送り出しで、日本は考えねばならないことがある。すぐれた人材を出すのは当然だが、問題は、ネアカで、フットワークがよく、語学力もそこそこあって、すぐに現地に溶け込んで現地化が可能な人材がポイントだ。

小生がかつてある企業の国際合弁プロジェクトで現地取材に行った際、その現場の日本人の大半は現地化対応ができておらず、しかも幹部は東京本社の方ばかりを向いていた。合弁プロジェクトなのだから、合弁先の国の人たちと、それこそ一心同体になるつもりで連携すべきなのに、コミュニケーション能力も十分でなかった。プロジェクトは戦争に巻き込まれ結果的にご破算になってしまったが、それ以前に、日本の側に、さまざまな課題があるな、という印象だった。

人を動かし組織を動かす面では東芝の西田社長も卓抜した力
 今回の北京オリンピックでの国際的な助っ人の人たちは、たぶん、当初はシンクロやバレーボールの技術面での凄みで、一種のコワモテで対応していたのだろが、そのうち心に通い合うものが出てきて一心同体になったからこそ、修羅場のところで選手と指導者が大きな力を発揮できたのだ、と思う。
 人を動かす、組織を動かす、というのは実に難しい。ましてや外国で、それも異文化の発想をする所で優れてリーダーシップを発揮するのは大変なことだが、それを実践している人たちに出会うと、小生も元気が出る。 その点で最近、チャンスがあってお会いした東芝の西田厚聰社長のお話を聞いていても素晴らしい。東芝のイラン現地法人採用の身でありながら、力を発揮され、東芝本社の社長に上りつめられた西田さんだが、タフなイラン人が多いイランでの経験がベースになって、人動かし組織を動かす術を体得されたのだろう。卓抜した力を持っておられる。

コミュニケーション能力に戦略性が加われば、日本のみならず外国でもどこでも活躍ができる。今回の北京オリンピックでの国際的な助っ人の人たちもまさにそれを実行したのだろう。

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