問われる官邸の危機管理能力 原発対応の議事概要もお粗末


時代刺激人 Vol. 176

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 東日本を突然、襲った昨年3月の大震災、それに続く大津波、東京電力福島第1原発事故から1年。日本のみならず世界中を震撼させたが、いまだに、この重い現実が続く。さまざまな現場で、苦労を強いられている人たちのことを考えると、どういった形で貢献ができるか思い悩む。

 東日本を突然、襲った昨年3月の大震災、それに続く大津波、東京電力福島第1原発事故から1年。日本のみならず世界中を震撼させたが、いまだに、この重い現実が続く。さまざまな現場で、苦労を強いられている人たちのことを考えると、どういった形で貢献ができるか思い悩む。そんな時こそ、政治リーダーたちの出番なのだろうが、政治の現場では解散・総選挙をからませて復興開発予算、税・社会保障の一体改革などの法案取扱いをめぐり、与野党が政争を繰り広げている。ここにも信じられない現実があるのだ。
そんな矢先、与党民主党政権下にある首相官邸の危機管理能力、とくに東電原発事故対応をめぐる危機対応を問う報告書、さらには事故当時、原子力災害に関する緊急災害対策本部で何が議論され政策対応したかを後で検証するための議事録がほとんどつくられておらず、あわてて関係者のメモなどをもとに、まさに作文のような危機管理報告ともいえる議事概要が世の中の批判に応える形でつくられ、相次いで発表になった。

日本の政治中枢の危機管理能力をどう高めたらいいのか、最大の難題

読んでみると、政治の中枢の機能低下が目を覆わんばかりの状況で、いまだに災害からの復旧でもがいている人たちもいる厳しい現実との落差を、思わず感じてしまう。そこで、今回のコラムでは、現場で見るいくつかの動きを交えながら、日本の政治中枢の危機管理能力をどう高めたらいいのか、考えてみたいと思う。

まず、東電福島原発事故当時の首相官邸の危機管理能力を厳しく問うたのが、民間の専門家でつくる「福島原発事故独立検証委会」(一般財団法人・日本再建イニシアティブ刊)が最近、発表した調査・検証報告書だ。400ページにのぼる分厚い報告書だが、なかなか読みごたえがある。ぜひ、一読をお勧めする。

福島原発事故を調査・検証した民間事故調の報告書は読みごたえある

この委員会は、政府事故調、それに政府から独立して独自調査のために超党派の議員立法でつくられた国会事故調と並ぶもので、俗に民間事故調と呼ばれている。朝日新聞主筆を経て現在、日本再建イニシアティブの理事長を務める船橋洋一さんが北澤宏一前科学技術振興財団理事長らに働きかけて、この民間事故調を立ち上げた。北澤委員長を軸に野中郁次郎一橋大名誉教授ら5氏の委員を交えた6人委員会だ。

問題の首相官邸能力に関しては、野中さんが中心になって調査・検証を行っているので、そのレポート「現実直視を欠いた政府の危機管理」という野中さん自身の問題提起レポートを引用させていただこう。

危機管理分析の野中さん
「情報伝達の階層が多すぎて組織的連携の遅れ」

それによると、閉鎖的なコミュニティがもたらした知の劣化が、福島第1原発事故による人災を引き起こした、という。かつての日本軍を含めた組織の失敗の研究では第1人者の野中さんらしい言い方だが、首相官邸チームにも、東電側にも危機管対応リーダーシップと覚悟が欠如し十分な機能が果たせなかった、という。

菅首相(当時)は現場感覚抜きのバーチャルな分析に終始。しかも現場との接点であった首相官邸地下の危機管理センターと、首相のいる官邸5階との間でリアルな共感の場がなかった。情報伝達の階層が多すぎて、組織的な連携の遅れ、データ隠ぺいや相互不信を生んだ。菅首相は、特定の側近を重視し、衆知を集めて全体を判断する迅速性も発揮できなかった、という。トップリーダーに決定的な指導力、組織力が欠けていたのだ。

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