円・人民元の直接取引はクリーンヒット 日米中での現代版三国志展開を期待


時代刺激人 Vol. 186

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

日本と中国との間での貿易量や貿易額がぐんと伸び、今や日米間のそれを大きく上回る経済取引関係にある。にもかかわらず、その貿易決済に関しては、日中双方の間で、日本円と中国人民元という2つの通貨間での直接取引がないため、すべて間接取引、つまり日本円を金融機関で米国ドルにいったん交換、そのあと米国ドルを人民元に交換して、やっと決済に充てる、という回りくどいやり方だった。

 

日本と中国との間での貿易量や貿易額がぐんと伸び、今や日米間のそれを大きく上回る経済取引関係にある。にもかかわらず、その貿易決済に関しては、日中双方の間で、日本円と中国人民元という2つの通貨間での直接取引がないため、すべて間接取引、つまり日本円を金融機関で米国ドルにいったん交換、そのあと米国ドルを人民元に交換して、やっと決済に充てる、という回りくどいやり方だった。しかも交換手数料というコストが二重にかかっていた。考えようによっては、何ともおかしな話だ。

日中首脳会談での日本主導の提案を中国が受け入れて実現

それが6月1日から一転して、直接取引に変わり、2国間で米国ドルを介在させずに、スムーズに為替取引を行えるようになった。メディアでも報じられたので、ご存じのことと思う。ところが、この直接取引は、2011年12月の日中首脳会談で、日本側提案を中国側が受け入れたことで、一気に具体化し、実現にこぎつけたのだ。単なる2国間の経済取引に関するものであり、目立たない話のように見えるが、時代刺激人ジャーナリスト感覚では、実は、日本が主導して国際経済社会で放った久々のクリーンヒットだと言っていい。今回は、その問題をテーマにしたい。

結論から先に申し上げよう。今回の問題は、私の持論でもある「日本、米国、中国の3か国間で互いにつかず離れずの関係を保ちながら緊張感ある経済戦略外交を展開する現代版三国志」に一歩近づく動きになるのでないか、と期待しているのだ。三国志は、かつての中国の魏、呉、蜀の3か国が権謀術数を繰り広げながら、ある時は魏が呉と、またある時は魏が一転、蜀と連携して、その時々に互いをけん制し合いながら競い合う話だ。

米国に問題あれば日中、中国に問題出れば日米連携の
「三国志」に近づけるか

私は、これを現代に置き換える。端的には、米国に問題が起きれば日本と中国が連携、逆に中国に問題が生じれば日本と米国が連携して中国に対峙する。まさに戦略ゲームだ。ただし、米国と中国が連携して日本に向かってくる事態になれば、日本は踏み潰されるリスクがある。そこで、日本は日ごろからASEAN(東南アアジア諸国連合)との連携強化を行っておき、その戦略軸を力に米国や中国と対峙することが必要だと考える。

こうした形で、日本が日、米、中の3か国間での経済戦略ゲームで主導的な動きを行うことによって、生き残りを図るべきだ、というのが私の考えで、過剰な対米依存、過剰な対中依存から離れ、独自の戦略展開が重要だ、ということを申し上げたいのだ。

米国経済の凋落でドル基軸通貨システム危機にどう対応するかが第1

今回の日本円と中国人民元の直接取引実現につなげた日本の行動が、どうして「現代版三国志」につながるのかと当然、思われよう。互いに、不必要な交換手数料を負担しなくて済む、といったメリット以上に、日中双方がいつも米国ドル安、もっと言えばドル急落の為替変動リスクにさらされていた状況から一転、解放されるメリットの方が大きい。

通貨問題での「現代版三国志」にからむ話は、そこから始まるが、めぐる情勢を述べておこう。まずは米国ドルの問題。米国は戦後の長い間、世界のヘゲモニーを握り経済のみならず政治、軍事などの面で強大国を誇示するための手段の1つとして、ドル基軸通貨のシステムを維持してきた。それがリーマンショックなどを通じての米国経済の凋落をきっかけに、ドル価値が急速に低落し、今や基軸通貨の枠組みに赤信号がつきつつある。

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